2026年04月11日
【執筆術】『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』横田増生

潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで (角川新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「KADOKAWA文芸&実用書フェア 極」の中でも個人的に読んでみたかった1冊。「潜入ルポ」でおなじみの横田増生さんが、その取材・執筆手法について明かした作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
企業に最も恐れられるジャーナリストが、その手法を惜しげもなく明かした!
誰でも出来る、誰でも書ける。
企業に最も恐れられる潜入取材のプロが、そのノウハウを全公開!
読書術に文章力を高める方法はもとより、レポート作成からセクハラ・パワハラ対策まで全方位に活かせる決定版。
潜入取材の技術はブラック企業対策にもなり、現代社会における強力な護身術となる。
ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便からトランプ信者の団体まで。数々の組織に潜入することで、世に知られていない実情を掘り起こしてきたプロが、証拠集めの調査方法から裏取りの仕方、執筆、更には訴訟対策に至るまで全技法を伝授する。
潜入取材は欧米では当たり前、実は王道の手法である。日本では少ないが、それはブルーオーシャンということだ。著者の取材経験を基に、実例ですべてを解説。名誉棄損裁判でユニクロに完勝した経緯も詳細に記す。
中古に送料を足した金額よりも、このKindle版の方が300円以上お得です!

【ポイント】
■1.物書きはペンネームで私が、もし潜入取材を繰り返すことがわかっていれば、ペンネームで書きはじめていた。
潜入取材の難関は、相手企業や組織にこちらの身分が露見することなく潜入する点だ。その入り口が最大の関所となる。(中略)
偽名を使えばいいだろう、もしあなたがそう思ったとしたなら、そうした安直な考えを捨てない限り潜入取材をモノにすることはできない。何かと色眼鏡で見られることの多い潜入取材の過程において、ウソは1つたりとも滑り込ませてはいけないのだ。
顔バレすることはないが、このように、名前を検索されると一発でアウトになる。ところが、もし私がペンネームで書いていれば、本名と潜入取材がつながることなく、自民党陣営に潜り込めていたはずだ。
もしあなたが、これからのジャーナリスト人生において潜入取材を多用したいと考えるなら、ペンネームで書きはじめることを強く勧める。そうすれば、潜入時にあなたの意図に気づかれることなく、取材に邁進できるだろう。
■2.メモには天候や匂い、BGMも書き留める
メモには、5W1Hに沿って記録を残していくといい。いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように行ったか──というように。過剰に書く必要はないが、あとで読み返して、場面が浮かんでくるようなメモを心がける。できれば、天候や匂い、流れていたBGMや話し相手の服装なども書き留めておくといい。
大事なのは、メモはその日のうちに見直す習慣をつけることだ。書き足りない点は赤字で補足。自分の文字ではあるが、時間が限られた中のメモは走り書きとなる。
後で見返すと、何を書いたのかが自分自身でも判読できないことがある。けれども、その日のうちなら、何を書いたかという記憶を頼りに、読解不明の文字や文章を、十分に補うことができる。さらに、その日のうちに見返しておくと、メモの内容が頭に残りやすくなるという利点もある。
■3.取材相手に事前に原稿を見せてはいけない
もし取材相手が、あなたの書いていることが正しいかどうかをチェックするため、原稿を見せてほしい、と言い出したらどうすればいいのか。
あなたの原稿を、より正確にするために手を貸そうと言い出したら、どのように対処すべきか。
ジャーナリストのマイケル・ダントニオが2015年に出版した『熱狂の王 ドナルド・トランプ』を書いているとき、トランプの弁護士から電話が入った。これから出版する本の内容が不正確とならないように「手伝いたい」と言う。
すでに10冊近い著書を出版していたマイケル・ダントニオは、丁重に、しかしきっぱりと断った。(中略)
必要以上に取材相手の言い分を取り入れては、本の趣旨が捻じ曲げられることになる。取材相手の言い分があれば、取材の段階で、それを全部聞いたうえで原稿を書けばいい。しかし、書き終わった原稿を相手に見せてしまえば、書かれた本人の都合のいいように書き換えられることになる。
マイケル・ダントニオのこの判断は正しかった。
■4.スラップ裁判に負けないための用意をしておく
だれだって訴えられたくはない。名誉毀損裁判に巻き込まれればめんどうだ。
しかし、大事なことは、たとえ訴えられても、裁判で勝つことができることを意識しながら、日々の取材を進めることだ。もし、このまま書いて訴えられたら負ける、と思ったら、勝てると思えるまで取材を続けることだ。
それには、書いているものに公共性と公益性があることが前提になるが、それに加え、真実であることを証明できるよう、メールの記録や手書きのノート、写真などの映像、加えて取材音源や、重要な電話の音源もきっちり保存しておくことが、ジャーナリストとしての自分の身を守ることにつながる。
スマホには、電話の会話を録音して残す機能があるが、重要な電話には、必ず簡単なメモをつける。いつ誰と話した内容、というように。
膨大に残る日々の電話の音源から、必要な記録だけを見つけ出そうとすると無駄な時間がかかるからだ。
■5.対象の会社の年表を作る
本を書くうえで、私が大切にしているのは対象企業や業界の年表を作ることだ。大切なのは時系列の流れだ。さまざまな出来事を時間軸に沿って並べてみると、企業の歴史がみえてくる。私が書いた本の多くには年表が載っている。
書き手が、時間軸に沿って事実をしっかりとつかんでおくことは、読みやすい物語が生まれる土台となる。歴史には流れがあって、意味が生まれてくる。(中略)
最初に年表を掲載したのは、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』だった。きっかけとなったのは、アマゾンの雑誌記事を集めて並べてみたときに抱いた違和感だ。(中略)
たかだか4、5年の記事だが、「復活!」から「アメリカンドリーム」、「四面楚歌」までその起伏が激しすぎて理解が追いつかなかった。同じ企業を書いた記事とは思えないほどの落差があった。
そこでこの記事を時系列に並べていくと、最初に株価高で注目されてから、株価が暴落して倒産寸前にまで追い込まれる。その後、業績が回復していくと、アマゾンが再度評価されたことがわかる。
本では、この初期の激変の時代を、株価のチャートとそれに重要な出来事を書き足すことで表した。
【感想】
◆著者の横田さんの作品は、当ブログでは下記2冊をレビューしておりまして。
潜入ルポ アマゾン帝国の闇(小学館新書)
参考記事:【必読!】『潜入ルポ amazon帝国』横田増生(2019年12月20日)

ユニクロ潜入一年 (文春e-book)
参考記事:【ユニクロの真実?】『ユニクロ潜入一年』横田増生(2018年01月23日)
特に下のユニクロ本では案の定訴えられて、その裁判でのお話も本書の第5章には詳しいです。
一方で、そもそも潜入自体の障壁となるのが、上記ポイントの1番目にある名前の件。
就職の際、会社には各種書類を提出するでしょうし、住民票等の公的な書類には、本名が書かれていますから、その名前である程度知られていたら、一発でアウトでしょう。
実際、引用内に「自民党陣営に潜り込めていた」とあるのは、横田さんが沖縄県知事選で自民党陣営の選挙ボランティアに潜り込もうとした際には、お名前でバレたのだそうです。
ちなみに横田さんは『ユニクロ潜入一年』のためにユニクロに潜入する際には、奥さんと離婚してすぐ再婚し、奥さんの名字を名乗る、という方法で、名前バレを回避されたとのこと。
そこまでやるくらいでしたら、初めからペンネームにしとけば、一番ラクですよね。
◆では実際に潜り込めたとして、「どのように記録していくか」については第2章に詳しいです。
横田さんがメインにしたのが、上記ポイントの2番目のメモ。
私も知らなかったのですが、ユニクロ内ではメモを取る文化が根付いており、あらゆるシーンでメモを取り放題だったようです。
そしてこれは前述の裁判でも結果的に役に立った模様。
さらには、音声録音についてのアドバイスもあって、とにかく事前に十分な練習をする必要があるそうです。
たとえば服の内側にマイクを仕込むと、相手の声が十分に拾えない恐れもあるのだとか。
もちろん、今ならスマホもアリ。
その場合も、どのポケットに入れれば、どんな録音になるのかを知っておく必要がある。何とかなるさ、と思ってぶっつけ本番では決して臨まないことだ。たしかに正規の取材なら、録音し損なっても後で確認がとれます(かなり恥ずかしいですが)が、潜入取材の隠し録音でそれはできませんからね。
◆一方、第3章から抜き出したのが、上記ポイントの3番目の「原稿を相手に見せない」というTIPS。
裁判沙汰を恐れると、どうしても及び腰になって、原稿をチェックしてもらいたくなりますが、渡したら最後、「相手が共著者になるようなもの」なのだそうです。
……まぁ、確かにトランプ氏は極端でしょうけど、それは自分に都合の悪いところはカットしたくなります罠。
ちなみに、横田さんが『アマゾン・ドット・コムの光と影』という作品を出される直前に、アマゾンジャパンの創業メンバーだった方がこのような本を出されており。

アマゾンの秘密──世界最大のネット書店はいかに日本で成功したか
横田さんが読んだところ、秘密らしきものは何もなかったのですが、後日、著者の方と話した際に分かったのが、アマゾンの手入れがあったということ。
「出版後にアマゾンと面倒になることを避けたかった編集者が、事前に本の原稿をアマゾンに全部見せてしまったんです。事実関係を確認するだけということだったんですが、アマゾン側は自分たちが書かれたくないことはすべて削ってきました」こうなってしまうと、本自体の価値もなくなってしまいますよね。
◆そこで「面等になることを避けず」に記事なり本が出て、実際に訴えられたらどうするか、が書かれているのが、本書の第5章。
特にユニクロとの件については、裁判の様子や、対応に奔走する様子まで描かれており、非常に興味深かったです。
上記ポイントの4番目にあるように、諸々の記録をキチンと残して、かつ、整理しておく必要があるのですが、特に社長の柳井さんへの取材申し込みが、意外な効果があった模様。
というのも、横田さんは1回しか取材ができず、その後6回に渡り「事実確認のために取材を申し込んだ」にもかかわらず断られたのが、「書き手が真実であると信じるだけ取材を尽くした」と裁判所が判断した、と考えられるからです。
普通、1,2回体よく断られたら、諦めちゃいそうですが、そこで諦めなかったから、結果的に地裁、高裁、最高裁まで通して勝ち続けられたのだな、と。
◆いずれにせよ、ここまでのポイントは、「潜入取材」という危ない橋を渡る前提で選んでましたが、上記ポイントの5番目は、一般的な執筆でも活かせるTIPSです。
こちらは本書の第6章からのものなのですが、確かに『ユニクロ潜入一年』の巻末を見たら、しっかり年表(略年表)が付いていました(ただし『ユニクロ帝国の光と影』以降)。
実は横田さんの場合、「劇的な場面を冒頭に持っていきたい」ため、本自体は時系列に書いていないのだとか。
となると、本の構成とは別に、時系列で整理された年表はなおさら必須でしょう。
また、この章では他にも、執筆のためのTIPSが紹介されているのですが、なるほど、と思ったのが「耳での校正」です。
これはワードの音声読み上げ機能を使って、原稿を読み上げさせて「耳で校正する」というもの。
実は横田さんは、いわゆるディスレクシア(識字障害)なのだそうで、こうするより自分で校正のしようがないのですが、校正前後で「50点と90点ほどの差」が出るのだそうです。
確かに、「音読して原稿を確認する」というTIPSがあるくらいですから、この校正方法は、覚えておくと良さげかな、と。
ノンフィクションでデビューしたい方なら必読!

潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで (角川新書)
第1章 いかに潜入するか
第2章 いかに記録をとるか
第3章 いかに裏をとるか
第4章 いかに売り込むか
第5章 いかに身を守るか
第6章 いかに文章力をつけるか
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【バイブル!?】『調べる技術・書く技術』野村 進(2011年07月28日)
【取材術】『できる人だけが知っている 「ここだけの話」を聞く技術』井手隊長(2024年05月16日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」でのお買い得品はこちら!
歴史 上 (ちくま学芸文庫)

ルベグ積分入門 (ちくま学芸文庫)

哲学の誕生 ──ソクラテスとは何者か (ちくま学芸文庫)

医療ケアを問いなおす ──患者をトータルにみることの現象学【シリーズ】ケアを考える (ちくま新書)

イラストで学ぶ ロボット工学 (KS情報科学専門書)

工学系のためのレーザー物理入門 (KS物理専門書)

公務員という仕事 (ちくまプリマー新書)

デカルト入門講義 (ちくま学芸文庫)

リスクを考える ――「専門家まかせ」からの脱却 (ちくま新書)

インバスケット演習攻略教本 本物の実力をつけて完全突破を目指す

障害者支援員もやもや日記

あたらしい日常、料理 (料理とお菓子)
これでも結構除いたのですが、今日は技術的な専門書がかなりあったので、むしろ真逆な(?)『障害者支援員もやもや日記』あたりを読んでみたいところです。
【編集後記2】
◆一昨日の「KADOKAWA文芸&実用書フェア 極」の新書カテゴリの記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。
経営教育 人生を変える経営学の道具立て (角川新書)

潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで (角川新書)

財閥と学閥 三菱・三井・住友・安田、エリートの系図 (角川新書)

高倉健の図書係 名優をつくった12冊 (角川新書)
よろしければご参考まで!
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