2026年02月24日
【活字文化?】『本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形』稲田豊史

本を読めなくなった人たち-コスパとテキストメディアをめぐる現在形 (中公新書ラクレ 861)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事の中でも、当ブログ的に読まねばならぬと思っていた1冊。実際に読んでみたところ、本の読者&ブログ管理人として、考えさせられることが多かったです。
アマゾンの内容紹介から。
著者による『映画を早送りで観る人たち』の待望の続編!
〈倍速視聴〉から見えたコンテンツ消費における〈コスパ〉〈タイパ〉という欲望は、読書においてはどのように作用しているのか。
本作では、「本を読めない人たち」への徹底取材をはじめ、テキスト受容を取り巻く読者と出版社/ウェブメディアの現状をリポートする。
一体「本を読めなくなった人」は何を考えているのか。
2010年代以降、本が読まれないことが当たり前になるなか、ほとんどフォーカスされてこなかった。
生の声を取材することで、現代社会のメディア状況への考察を深めていく。
中古が若干値下がりしていますが、送料を考えるとKindle版がお買い得です!

【ポイント】
■1.イーロン・マスクが無料ウェブメディアの質を落とした多様性が失われた理由とは何か。多くのウェブ編集者が口を揃えるのが、2022年10月にTwitter(現X)を買収した実業家のイーロン・マスクが策定した方針によって、日本に配置されていた同社のキュレーションチームが消滅したことである。
キュレーションチームの仕事は、「彼らが意義があると判断した記事を人目に触れさせること」だった。(中略)
しかし、防波堤がなくなったことで、Twitter、のちのXは、野放しで品位の欠けた「便所の落書き」のごとき様相を呈しはじめる。
当時をベテランウェブ編集者氏が振り返る。
「キュレーションチームの消滅から数日後には、早くも影響が表れました。いつもならTwitter経由で読まれていたような骨太な記事のPVが、明らかに伸び悩むようになったんです。並行して、品のないワードが頻繁にトレンド入りするようになりました」
ヘイトや誹謗中傷、真偽不明の憶測、フェイクニュースや陰謀論、炎上への加担や便乗といった投稿が、Twitter上で頻繁にバズるようになった。短絡的で刺激的な情報だけを求め、他人の不幸に笑いを浮かべ、成功者が炎上することで溜飲を下げるユーザーが、このような投稿にこぞって「いいね」を押し、リポスト(再投稿) したからである。
■2.マスメディアはタイパが悪い
新聞や雑誌やテレビのニュース番組は断定を避ける。公人に何かの嫌疑がかけられても、決定的な証拠が出ない限り「クロ」とは言い切らない。そのくせ、微細なファクトは各紙、各局が日々大量に報じる。(中略)
対して、ソーシャルメディアでの個人発信は、文字にせよ動画にせよ「タイパがいい」。
発信者は簡潔な言葉で断定することが多い。論理が飛躍していようが、エビデンスが不足していようが、気にせずズバズバ断定する。複雑に絡み合った状況の枝葉を大胆に取り払って構図を単純化し、わかりやすい敵を設定して飲み込みやすく物語化するなどお手の物。「あいつが利益をむさぼっているから、私たちは苦しめられている。だから皆で手を取り合って倒そう!」。昨今の選挙で、YouTube、インスタグラム、TikTokなどの動画投稿を活用した、あるいは第三者によって切り抜き動画が拡散した候補が票を伸ばすケースが多発しているのは、そういうことだ。
■3.無料抜粋記事で満足してしまう人たち
たとえるなら、スーパーに試食コーナーを出したばかりに、そこでの試食で腹が満たされてしまい商品を買わなかった客もいたのではないか──という懸念だ。このような「無料の試食が裏目に出るかもしれない」という不安は、普段書店に行く習慣がないというF子さん(国立大2年) の言葉でより大きくなる。
「まずネットで本の題名を調べるじゃないですか。で、YouTubeに本の内容の解説動画があったら、そっちに流れちゃう。それを見て概要を把握して、わかった気になって、じゃあいいかって思って、買わない」
堀江貴文や前田裕二といった著名実業家の著書を多数企画し、多くのベストセラーを世に送り出している幻冬舎の編集者・箕輪厚介は、2023年11月の時点で、Xにこんなポストをしている。プロモーション戦略を変えなければいけないと感じる。今までは試し読みでも要約でも本の一部の切り抜きを宣伝として無料でバラ撒けば、そこから興味を持ってくれて、本を買ってくれた。しかしコンテンツ過多の時代においてはもはや、切り抜きコンテンツで満足してしまって本編に戻って来なくなっている気がする。〔…〕
■4.活字本の電子版は出合いの場に乏しい
活字の本の電子版も複数の総合電子書籍ストアで多数取り扱われているが、事実上はKindle一強であり、コミックほど数多くのサイトやアプリで「出合う」機会が確保されていない。
そして、活字の本はコミックほどネットに広告を出せない。なぜなら、電子書籍の広告は基本的に刊行元の出版社が金を出すが、電子コミックの場合、電子書店側が出すのが一般的だからだ。(中略)
漫画アプリは競合が多い。それゆえ、各プラットフォームはユーザーを囲い込むため、こぞって広告を出す。有力作品をエサにして、なんとかアプリをインストールしてもらえれば、それ以外の作品にも目が行くからだ。巡回習慣がつけばこっちのもの。ポイント付与や定期的なセールによって、がっちり摑みに行く。
■5.電子コミックは「所有するほどでもない人たち」のニーズを満たす
すなわち、2010年代に登場した電子コミックは突然市場ができたわけではない。「所有するほどでもない作品を、買うよりは安く読みたい」「人気作は巻数が多くかさばるので、家に置きたくない」という人たちに向けたサービスは、貸本屋、漫画喫茶、ネットカフェ、コミックレンタル、宅配レンタルといったサービス形態で連綿と続いており、その最新形が電子コミックなのだ。電子コミックは無料で読める作品と有料でしか読めない作品が混在しており、その意味では「買う」と「タダで読む」の中間、つまり「買うよりは安く読みたい」ニーズの受け皿となる。電子ゆえ巻数が多くてもかさばらない利便性は、言うまでもない。
つまり、「出版市場は電子コミックによって息を吹き返した」のではなく、もともと出版の売上に含まれていなかったコミックレンタルの市場が出版にも版図を拡大した、とも言えるのだ。
【感想】
◆当初本書を読む前は、タイトルだけ見て「はいはい、『最近の若い人は、長文が読めなくなった』という話ですよね?」と思っていたワタクシ。それは一部では合っていましたが、実際にはそれを上回る「謎解き」的なお話が多々ありました。
もちろん本書の著者である稲田さんとしては、せっかく「16歳から28歳の男女40名以上にグループインタビューや個別ヒアリング」を行っているのですから、その「生の声」にも注目して欲しかったハズなのですが、本記事では上記ポイント3番目の「F子さん」しか登場していないという(すいません)。
……いや、スペースに余裕があれば、引用してもよかったのですが、当ブログの読者さんのように読書習慣のある人だと、多少なりともショックを受けるかも。
とはいえ私も、基本的にはブログでレビューできる本しか読まない(読む時間がないため)訳ですから、本当の意味での「読書好き」とは言えないかもしれません(2軸4象限での分析アリ)。
いずれにせよ、そういった人それぞれの特性や趣向、能力とは別に、ビジネス絡みの外部要因に気づけたのが本書を読んだ収穫でした。
◆たとえば、上記ポイントの1番目のXのキュレーションチームの件。
私の場合、言われてみたら「そういえばそういう報道もあったかな?」程度の記憶でしたが、ここにあるように無料ウェブメディア界においては、大変なインパクトだったようです。
しかも上記では割愛しましたが、「投稿のインプレッション数(表示回数) に応じて投稿者が収入を得られる仕組みの導入」が、その後押しをした模様。
そもそも、ネットでニュースを読む人の場合、「勝手に流れて来るうち、気になったものを読む」のが多数派である以上、流れて来るのがインプレッション目当ての低品質な記事ばかりになったら、どうなるかは明らかです。
それこそさらに、長文記事や骨太記事へのハードルが高くなって読まれなくなったのではないか、と。
◆また、「情報を動画で得る」という行為が、私には今ひとつ理解できませんでした。
確かに再生速度を2倍、3倍にすればタイパは良くなるでしょうけど、普通に速読(斜め読み、飛ばし読み等を含む)すればもっと速いじゃん、と思っていた次第。
ただ、上記ポイントの2番目にあるように、確かにマスメディアは、普通「ゼロ:ヒャク」で断言はしませんし、さまざまなエビデンス等を踏まえて考える必要もあったりします。
それを「タイパが悪い」と言われたら返す言葉もありませぬ。
ただ、問題はその「タイパが良い」動画の内容(結論)が正しいかどうかなんですけど、インフルエンサーの皆さんはどういう「覚悟」をお持ちでやっているのか……。
特に選挙が絡むと、その人個人の生活だけではなくて、国民全体の問題でもあるので、何らかの対策は練っていただきたいところです。
◆一方、他人事ではないのが、上記ポイントの3番目の「無料抜粋記事」の件。
本書で言及しているのは、うちのようなブログではなくて、キチンとしたウェブメディアのことなのですが、本の一部を引用している点では同じです。
うちも大昔は、引用の数がもっと多かったのですが、スマホ普及に伴い、あまり長いのもどうかな、と思い、現在のスタイルに落ち着いているという。
ちなみに書評系ブロガーの中には、引用を用いない書き方をされてる方もいますが、下手に自分の言葉にしてしまうと、著者さんの意図と異なる可能性があるので、私は「引用」と「自分の感想」を分けております。
ただ、こういうブログ記事の引用で満足してしまって、本の購買につながらないとなると、むしろ著者さんや出版社さんに申し訳ないので、もしかしたら、引用量をもうちょっと減らすかもしれません。
◆また、本書を読んで「なるほど」と思ったのが、活字本の電子版と電子コミックとの比較です。
まず上記ポイントの4番目にある、広告の件。
「電子書籍の広告は基本的に刊行元の出版社が金を出すが、電子コミックの場合、電子書店側が出すのが一般的」というのは、お恥ずかしながら私は知りませんでした。
ちなみにKindleセールは、他の電子書店が行うと、Kindle側が追随するのがお約束(非公式セール)。
つまり、電子コミックの場合、電子書店側でセールをガンガンやるから、Kindleでも圧倒的にコミックのセールが活字本に比べて多いのでは、と考えられます。
……うちのようなブログは商売あがったりなんですが。
◆さらに「目からウロコ」だったのが、上記ポイントの5番目の「電子コミックの市場」のお話でした。
なるほど、「人気作は巻数が多くかさばるので、家に置きたくない」というニーズはごもっとも。
漫画喫茶や宅配レンタルの延長線上に、電子コミックがある、という指摘は鋭いと思いました。
逆に活字本の場合だと「所有するほどでもないけど、買うより安く読みたい」という人は、図書館で借りていたわけで。
いずれにしろ、漫画は電子という新しいメディアによって、今まで紙の単行本を買っていなかったレンタルユーザーを潜在顧客として開拓することに成功したが、活字の本はそのような潜在顧客がもともと存在しなかった。つまり開拓のしようがなかった。どう考えても、活字本の未来は明るくなさげですね(涙目)。
ウェブメディアについての知見が詰まった1冊でした!

本を読めなくなった人たち-コスパとテキストメディアをめぐる現在形 (中公新書ラクレ 861)
第1章 ニュースを無料で読む人たち――無料ウェブメディアの行き詰まり
第2章 本を読まない人たち――〈わかりみ〉と〈おもしろみ〉
第3章 本と出合えない人たち――無料抜粋記事と電子書籍の限界
第4章 本屋に行かない人たち――聖域としての書店
終 章 紙の本に集う人たち――読者と消費者
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【読解力】『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』中島克治(2017年01月18日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から、お買い得本をご紹介。
音声DL BOOK NHK英会話フィーリングリッシュ ネイティブの会話がわかる! ビッグデータで選んだ超頻出フレーズ100

武器としての行動経済学――「売れる」のウラ教えます

マンガとイラストでわかる はじめての非認知能力

たぶん世界一わかりやすい日本史 下巻

べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜 後編 NHK大河ドラマ・ガイド

キャラクターの描き方マスターガイド 人体デッサンからキャラクターデザインまで

表現を仕事にするということ (幻冬舎単行本)

教養としての「税法」入門

誤読と暴走の日本思想〜西周、福沢諭吉から東浩紀、落合陽一まで〜 (光文社新書)

ひとりマーケターの教科書 マーケティング偏差値を高めて売上アップにつなげる

中古マンション これからの買い方・売り方 絶対に損したくない人のための最強バイブル

マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑 山の危険

タミヤ公式ガイドブック ミニ四駆 超速ガイド 2025-2026 (ワン・パブリッシングムック)

よくつまずく 転ぶ・ふらつく 自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全

集中メシ! アタマの良い人は何を食べているのか?
今日は久々に、コミックやラノベ、Unlimited作品が少なかったのですが、『武器としての行動経済学』『表現を仕事にするということ』『ひとりマーケターの教科書』『集中メシ! アタマの良い人は何を食べているのか?』辺りは、当ブログでレビューしてもおかしくない作品だと思います!
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