スポンサーリンク

       

2025年12月18日

【行動経済学】『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』今泉 拓


B0DBHBHTDJ
行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本 クリスマスセール」でも人気の高い1冊。

行動経済学のセオリーをスポーツに当てはめるという興味深い作品です。

アマゾンの内容紹介から一部引用、
「どうしていま、○○のプレーを選択したんだろう?」
「あの場面で、○○の戦略をとっていたら勝てたかもしれないのに!」
スポーツ観戦をしているとき、または自分が選手としてプレーをしているときに、このような気持ちになったことはありませんか?
じつは、厳しい練習を日々重ねている世界的アスリートでさえ、人間の不合理によって“勝つためのセオリー”通りにプレーできないことがあります。
行動経済学がわかれば、スポーツ観戦が楽しくなり、自分がプレーをしている人は、行動経済学の視点で「勝つための」戦略が立てられるようになります。

送料を加味した中古よりも、このKindle版が500円弱お買い得です!






【ポイント】

■1.PKの損失回避バイアス
 実際、上段を狙った場合に枠外に飛ぶ確率は17%、つまり6回に1回は外してしまいます。ゴール上段に蹴るためには勢いよくキックする必要があり、一流選手でも確実に枠内に入れることは難しいのでしょう。
 一方、下段に蹴る場合、枠外に飛ぶ確率は5%です。若干勢いを殺してコントロールしたシュートであれば確実に枠内を狙うことができます。
 人間は少しでも損をしない可能性を選ぶ傾向があるので、失敗が確定する枠外に蹴らない(=損をしない)選択肢が魅力的に映ります。その結果、3分の2の選手が、外すリスクの小さい下段に蹴るという状況になると考えられるのです。
 PKの成功率そのものが下段より上段のほうが高くても、外すリスクを恐れて実際は下段を狙う選手が多い。このような状況こそが、損失回避バイアスによって生まれる、(数理統計的に)非合理的な意思決定です。一流のスポーツ選手であっても、認知バイアスという悪魔からなかなか逃れられないことがわかります。


■2.アメフトの4thダウンギャンブルと損失回避バイアス
 パントをせずに4thダウンを狙うことは、“ギャンブル”と呼ばれるほど、アメフトの4thダウンは、リスクを伴います。
 1-1のPKの例、1-2のゴルフの例でも明らかになったように、人は損を嫌う生き物です。そのため、勢いよくPKを蹴ったり、ゴルフで難しいバーディーを狙ったりするほうが統計的に優れた意思決定であっても、PKを外すことやゴルフでボギーを叩くことを避けてプレーしがちでした。
 アメフトの4thダウンギャンブルでも同じことがいえます。パントはピンチを遠ざけるものの、自らの攻撃権を捨ててしまいます。一方、ギャンブルに挑んだ場合は、自らのピンチになってしまう可能性はあるものの、攻撃を1回目から継続できる可能性があるのです。
 ギャンブルを失敗したときのピンチ(損)を恐れるあまり、数理的に不適当な意思決定をしている場合が考えられるのではないでしょうか。
 実際、アメフトでは1回の攻撃で平均6ヤードほど進めることが知られており、先ほどの例のように残り3ヤードだったらギャンブルに成功する確率のほうが高いのです。


■3.観客動員数と見逃し三振アドバンテージ
 ホーム・ビジターによる判定のアドバンテージは、観客の数によって変化するのでしょうか。声が球審に影響を与えるのであれば、たくさん観客がいるほうがその効果が大きくなることが考えられます。
 今回は、2015年から2018年までのプロ野球を対象に、ホームとビジターで打者の見逃し三振数を比較しました。同じチームのなかでホームとビジターを比較することで、チームごとの打者の実力差や育成の方針の違いが結果に影響しないようにしています。
 たとえば、この時期の読売ジャイアンツは、ホーム(東京ドーム)での打者の見逃し三振が1試合あたり1.83個でした。一方、ビジターでの見逃し三振は1.90個。ホームに比べてビジターでは見逃し三振の数が104%と、4%見逃し三振が多いことがわかりました。この4%分、ホームアドバンテージで得していると解釈することができます。(中略)
 これは、自軍のファンが多いホームにおいて、打者の見逃し三振が少なくなる可能性を示しています。声援によって審判が影響を受け、2ストライクからの際どい投球が、ストライクと判定されづらくなると推測されます。


■4.タレント率とチーム成績の関係性
 まずは、スターが増えすぎるとかえってチームの成績が落ちる「タレント過剰効果」を示したスワーブらの研究を紹介します。
 スワーブは、野球、サッカー、バスケについて、チーム内のタレント(スター選手)の割合とチーム成績の関係性について調査しました。(中略)
 分析の結果、野球のみ異なる傾向になりました。
 野球のグラフをみると、タレント率とチーム成績が正比例になっています。タレントが増えれば増えるほどチーム成績もよくなると示されました。
 一方、サッカーやバスケでは逆U字型のグラフになりました。つまり、ある程度まではタレントが増えると成績が高まりますが、タレントが増えすぎるとチーム成績が低くなってしまうことがわかりました。先述のレアル・マドリーのように、タレントがいすぎると停滞につながる可能性が示されました。
 この原因について、スワーブたちは追加分析を行ないました。その結果、サッカーやバスケではタレントが過剰になると選手間のコンビネーション(連携)が弱くなり、その結果チーム成績が悪くなるということがわかりました。一方、野球ではサッカーやバスケほどコンビネーションが求められないので、タレントの割合とチームの成績が比例関係になると考察されています。


■5.金メダリストでも演技が最初なら予選落ち
 ロットフは体操競技を題材に、全体順序バイアスの大きさを分析しました。
 体操には、演技の難易度を採点するD得点(Difficulty Score, 10点満点)と演技の美しさを採点するE得点(Execution Score, 10点満点)があります。
 全体順序バイアスは、E得点で観測されたものの、D得点では観測されませんでした。つまり、美しさのような主観的な評価において、バイアスがみられました。
 そして、演技順が1つ後ろになるごとに0.008点ずつ点数が増える傾向が示されました。
 0.008点というと一見小さく感じるかもしれません。しかし、体操競技は大会によっては100人ほどが演技することがあります(たとえば2021年の東京オリンピックでは80人ほどでした)。100人が演技すると、最初の選手と最後の選手で、0.8点ほどの違いが生まれます。
 東京オリンピックでは、予選トップ選手と予選を最下位で通過した選手の差が、0.5点〜1.0点ほどでした。つまり理論的には、予選をトップで通過する実力がある選手でも、演技順が最初であれば予選落ちしてしまう可能性もあるわけです。


【感想】

◆スポーツとデータの関係に触れた作品は、当ブログでもわずかですがご紹介していました。

まずは本書内でも言及のあったこちら。

B0BGRGS8SK
サッカーマティクス〜数学が解明する強豪チーム「勝利の方程式」〜 (光文社未来ライブラリー)

参考記事:【サッカー×数学?】『サッカーマティクス〜数学が解明する強豪チーム「勝利の方程式」〜』デイヴィッド・サンプター(2017年07月21日)

上記ポイントの3番目でも登場するホームアドバンテージや、今回は割愛したサッカーの勝ち点のお話(以前は勝利での勝ち点が「2」だったのを「3」に変更したことによる変化)も収録されており、サッカー好きの私にとっては非常に面白かったです。

もう1冊は、野球におけるビッグデータの活用を論じたこちら。

4041041023
ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法

参考記事:【野球】『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』トラヴィス・ソーチック(2016年04月07日)

この本はもう「勝つためのデータ活用」ということで、名著『マネー・ボール』の流れを受け継いだ作品です。

上記の私の記事でも紹介していますが、HONZさんのこちらのレビューが非常に秀逸。

『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを蘇らせた数学の魔法』MLBは新しい時代に突入した! - HONZ

ただ、どちらの作品でも「行動経済学」という切り口ではアプローチしていませんでしたから、そこに言及した点が、今回の作品のユニークなところでしょう。


◆たとえば第1章のテーマは、「損失回避バイアス」。

上記ポイントの1番目のペナルティキック(PK)など、その最たるものかもしれません。

上記では割愛していますが、実はPKの成功率は、ゴール下段よりゴール上段の方が8%ほど高いのだそう。

つまり合理的に考えると、ゴールの上段を狙うべきなのですが、上段を狙うと枠を外す確率が高くなるため「損失回避バイアス」によって、下段を狙う人が多いとのことです。

本書では具体例として、カタールワールドカップにおける、日本対クロアチアのPK戦を分析。

確かに日本代表は浅野のみが上段に蹴ったのに対して、失敗した3人は全員が下段にシュートして、キーパーにセーブされています。



恐らく日本代表も次の大会では、PKの練習を積んで臨んでくれると思いますが……。


◆続くポイントの2番目もやはり第1章からのもの。

アメフトにおける4thダウン時には、普通に考えたら「パント」だと私も思っていましたが、たとえば「残り3ヤード」程度なら、数字上は「ギャンブル」(普通に4回目の攻撃をする)方が、正解になるのだとか。

もちろん、自陣深いところの4thダウンでギャンブルをやるのは、かなりリスキーだと思いますが、損失回避バイアスのおかげで、必要以上にギャンブルが避けられているようです。

実際、このような研究もあるそうで。
 ローマーは、著名な経済学者で、趣味のアメフト観戦が高じて4thダウンギャンブルの有効性を分析しました。アメフトチームを1つの企業組織として捉え、数理的に合理的な決断をしているかを検討するために、アメフトの4thダウンを題材として扱いました。
 ローマーは700試合以上のNFLの公式戦で、4thダウンギャンブルが有効だと考えられる場面を1068件見つけました。しかし、実際に4thダウンギャンブルが行なわれたのは、たったの109件で90%近くの場面で誤った選択をしていることが示されました。
 90%近くが間違っているというのは驚きで、損失回避バイアスの強さを思い知らされます。
もっとも本人(監督)がバイアスをクリアできても、周りはそうはいきません。

この「4thダウンギャンブル」を多用して知将と呼ばれていたある監督も、大事な試合でギャンブルして失敗し、それが原因で負けたため、ファンやメディアに総出で叩かれた話を読むと、なかなか難しそうな。


◆一方、少しとんだ第4章のテーマは「同調効果」。

ここからは上記ポイントの3番目の「見逃し三振」のお話を選んでみました。

なお、上記で登場するのは巨人軍の数値だけなのですが、本書では全12球団のデータも収録されています。

そして、ロッテとオリックス以外の10球団が、巨人と同様にホームでは見逃し三振になりにくくなっているのだそう。

ちなみに興味深いのが、このロッテとオリックスは観客動員数が全12球団中、12位と11位であり、要は観客が少ないため「同調効果」が起きにくくなっている可能性が大。

結局「同調効果」の影響を、逆説的に証明している感じです。


◆また、上記ポイントの4番目は、分かりにくいんですが第5章の「サンクコスト」から抜き出しました。

要は、お金をかけて獲得したスター選手は、「たとえ連携が取れなくともできるだけ使いたい」という、インセンティブがあるようです。

ここで面白いのが、野球だけはスター選手を集めることが「正解」になっていることで、それはドジャースにいい選手が集まれば、強くなりますわな。

さらに第7章からは、初めて聞く「全体順序バイアス」のお話を上記ポイントの5番目で引用しました。

「全体順序バイアス」についてググってもドンピシャなサイトがヒットしないのですが、簡単に言うと「採点競技は『演技が後であればあるほど有利』」というもの。

実はこれ、スポーツだけでなく、たとえば2023年のM1グランプリで優勝した令和ロマンは、ネタ順がトップで優勝しましたが、なんとトップバッターが最終審査に残ったのも20年ぶりだったそう。

思ったよりも不利がハッキリしているので、順番を変えられるものなら変えるのが、正解なんでしょうね。


スポーツ観戦がより面白くなる1冊!

B0DBHBHTDJ
行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択
第1章 損失回避バイアス
第2章 フレーミング効果
第3章 概数効果
第4章 同調効果
第5章 サンクコスト
第6章 スポーツ版ナッジ
第7章 その他の重要なバイアス


【関連記事】

【サッカー×数学?】『サッカーマティクス〜数学が解明する強豪チーム「勝利の方程式」〜』デイヴィッド・サンプター(2017年07月21日)

【野球】『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』トラヴィス・ソーチック(2016年04月07日)

【オススメ!】『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』トビアス・J・モスコウィッツ,L・ジョン・ワーサイム(2012年07月03日)

【オススメ】『競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法』ジェフリー・マー(2012年05月04日)

すぐに使える『ヤバい統計学』テクニック7選(2011年03月05日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」の中から、お買い得本をご紹介。

B01NBOPALL
世界大恐慌 1929年に何がおこったか (講談社学術文庫)

B071YD8Q9D
タロットの秘密 (講談社現代新書)

B07869LCVH
興亡の世界史 大英帝国という経験 (講談社学術文庫)

B07HQ41FSN
習慣が10割

B082XZC4R6
ぼくらの中の「トラウマ」 ──いたみを癒すということ (ちくまプリマー新書)

B095CG25CG
ひきこもりグルメ紀行 (ちくま文庫)

B0BVL7WDD5
マンガでわかる!「わたし、発達障害かも?」生きるのがラクになる「話し方」あります

B0CTM65L5W
基本がわかる 心理学の教科書 高校生からめざそう心理学検定2級

B0CWKY2322
こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方

B0FDKB1152
05 地球の歩き方 aruco インド 2026〜2027

B0FGD9GXXV
部下の発達特性を活かすマネジメント

B0FM73L46Z
旅系YouTuber しおねるの鉄道探訪記

気になる作品がありましたら、ご検討ください!


【編集後記2】

◆一昨日の「Kindle本 クリスマスセール」の「趣味・実用」カテゴリーの記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。

B0F8Q6B92K
やさしいがつづかない

B0D4SS7KWS
なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する「伝え方」教室 (講談社+α新書)

B0DR9P7NLD
感謝脳

B0CMQGSP7N
あなたが独りで倒れて困ること30

よろしければご参考まで!


この記事のカテゴリー:「スポーツ」へ

この記事のカテゴリー:「ビジネススキル」へ

「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
Posted by smoothfoxxx at 08:00
スポーツこのエントリーを含むはてなブックマーク

スポンサーリンク