【マーケティング】『常識はずれの増客術』中村元:マインドマップ的読書感想文

2025年11月02日

【マーケティング】『常識はずれの増客術』中村元

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「Kindle本(電子書籍) 499円セール」から気になったマーケティング本。

ユニークな施策を繰り出す、著者の中村さんのアイデアマンぶりには、結構驚かされました。

アマゾンの内容紹介から。

スペースが狭く、目玉のなかったサンシャイン水族館を、「屋上緑化」「天空のアシカ」などの斬新な展示で大幅観客増。通常の水族館の20分の１の投資で、来館者数を15倍アップさせ、シャッター商店街だった街に40億円以上の経済波及効果をもたらせた北海道・北見市の「山の水族館」など。弱点を逆転のチャンスととらえて、奇想天外な展示とPR戦略でよみがえらせた「集客請負人」の独自のマーケティングと実践を全公開！

絶版で中古が高値のため、このKindle版が900円以上お得な計算です！

【ポイント】

■1.集客力を上げるコツ

弱点をプラスに換える……一見、不利な条件やマイナス要因であると思われることを、そのまま克服しようとするのではなく、新たな強みになるように換えていく
崖っぷちの状況をつくる……もうこれ以上後がないというギリギリのところに立てば、今までだれも気づかなかった新たな道を見つけることができる
常識を疑う……世の中であたりまえとされていることをそのまま受け入れるのではなく、まず疑ってみる。そして、必ず抜け道や裏道があると信じる。〝前例がない〟や〝常識と違う〟を言い訳にしない
お客さんが何を求めているかを探る……お客さんが言っていることは、常にお客さんの本心であるとは限らない。〝本当にお客さんが求めていること、望んでいること〟を、こちらが探り出していくことが大切
プロモーションを考えながら水族館をつくる……キャッチフレーズやネーミングにもこだわり、マスコミが喜びそうなストーリーを展示に仕込んでいく

■2.「屋上緑化」で難局を打開

　私が提案したのは屋上緑化でした。屋上緑化とは、その字の通り、屋上を緑化すること。最近は屋上に植物や野菜を植えたり、庭園をつくるなどして、屋上のスペースを緑で覆うような取り組みがあちこちで見られます。(中略)
　緑化をアピールするために考えたのが、ビアガーデンです。夏といえばお約束のビアガーデンは、一般的に人気があります。屋上に庭園をつくり、夜になったらそこでビアガーデンをやれば、毎年話題になりやすいし、オアシス感をアピールするアイテムにもなります。
　水族館で魚を見た後に、ビアガーデンで一杯。これは仕事帰りの方々にウケそうですし、そうすれば夜にもっと人が来て、年間パスポートを買ってくれる可能性も高くなります。

■3.「空飛ぶアシカ」誕生秘話

　もしも人間の上の位置でアシカを泳がせたら、アシカはきっと下側を見るはずだ……そう思って、私はさらに話を進めました。
「その見上げる水槽をドーナツ型にしたら、アシカが好きなだけぐるぐる泳げるんじゃないでしょうか……」　
　こんなふうに当初は半ば無理矢理面白い内容にしようとして取り上げたアイディアが、現在のサンシャイン水族館を象徴する「天空のアシカ」展示へとつながっていったのです。
　ちょうど、屋上の緑化と水塊をどのように融合させようかと考えていたところだったので、緑化とアシカの水槽がセットになったことで、そこからは構想を練るのがどんどん面白くなっていきました。
　スタッフと話し合ううちに、頭の中で「天空のアシカ」「天空のオアシス」という名前も浮かんできました。これなら、人間にとってのオアシスというだけでなく、動物にとってもオアシスだというイメージを持ってもらえるのではないかと。

■4.話題のストーリーを作る

　話題を〝物語にすること〟を私はとても大切にしています。〝魔法の温泉水〟の効用も同じです。魚たちが大きくなるのが温泉水のどんな効果によるものか、科学的な証明はできないけれど、ケガをしても治りが早いのは確かなことです。
　実際に目の当たりにしたのが、ピラルクのうろこの再生でした。
　ピラルクは暴れてぶつかったりして、うろこがはがれることがよくあります。そういう場合、他の水族館ではなかなか治らないのが普通ですが、山の水族館では、3ヵ月も経つと新しいうろこが再生されるのです。(中略)
　温泉の効能にはさまざまありますが、温泉法や薬事法の問題で、劇的な効果を謳うことはできません。しかし、魚のケガが治ったり、魚が成長するということであれば、法律には触れない。それを〝魔法の温泉水〟として宣伝すれば、地元であるおんねゆ温泉郷の温泉水の効用を全国に発信することができて、温泉街が今よりも注目されるのではないか。そう思って、山の水族館で〝魔法の温泉水〟を謳うことにしたのです。

■5.世界初「順路のない水族館」

　水族館に就職した当初から、私はお客さんの行動を観察するために、しょっちゅうお客さんの後ろをつけて水族館内を歩くようにしていましたが、そこで発見したお客さんの行動パターンの1つが、
「お金を払った直後にある水槽は誰もが一生懸命に見る」
　ということでした。それでいくと、細長い建物の端っこに入り口をつくると、そこがボトルネックになって、あっという間に入りきらなくなってしまう。
　そこで、ルーヴル方式で真ん中に広いエントランス広場をつくり、そこに一番の目玉の水槽を置く。そうすれば、かなりの人数がそこに入っても大丈夫だし、そこから延びる廊下を見れば、いくつのゾーンがあるかがわかる。混雑している展示室は後回しにして、違う展示室に行けばいい。それは、世界で初めての順路のない水族館でした。

【感想】

◆久しぶりに面白いマーケティング系の作品を読みました。

こういう集客のアイデアは個人的にも大好きで、以前はよく読んだものですが、その後レビューもスキルアップ系が中心になったり、最近ではセールネタが多かったりして、ご無沙汰していた次第です。

もちろん、業種や業態が異なればそのまま使えたりはしないものの、抽象化したりエッセンスを取り入れれば、問題解決の糸口になったりするもの。

さっそく第1章から各水族館ごとの具体例が登場するのですが、その前に本書の序章では、著者である中村さんの集客のコツが明かされています。

そしてそれをまとめたのが、上記ポイントの1番目。

初っ端にこれを読んでもピンと来ませんでしたが、第1章以降のエピソードを読むと、「なるほど！」と思わせられるようになっています。

◆まず第1章に登場するのが、都民にはおなじみの「サンシャイン水族館」。

私はリニューアル前に、家族で行ったことがあるのですが、正直あまりパッとしない印象でした。

というのも本書を読んで知ったのですが、ビルのてっぺんにある関係上、荷重制限が厳しく設定されており、水槽に使う水の量をなるべく抑えないと建物が重さに耐えられないのだそうです。

つまり巨大な水槽は、初めから使えないということ。

中村さんは、そのための水槽の工夫（真ん中の部分を盛り上げて空洞にする等）をしつつ、屋根が作れない屋上だからこそ色々な提案をしていきます。

その中の1つが、上記ポイントの2番目の「屋上緑化」と「ビアガーデン」。

確かにビアガーデンこそ、屋外にあってナンボのイメージがありますよね。

ググったらこんなプレスリリースも。

緑あふれる自然空間で、生き物たちを眺めながらの涼しげ水族館ビアガーデン「サンシャイン水族館天空酒場2018」 | 株式会社サンシャインシティのプレスリリース

◆続く第2章では、「サンシャイン水族館」のスタッフの方たちとの議論から生まれた工夫がいくつか登場。

上記ポイントの3番目では、ここの目玉とも言える「天空のアシカ」のお話を抜き出しました。

なるほど、水族館の画像を見ると、空を飛んでいるように見えますね。

芸達者なアシカが仕切りのないオープンステージに！| 水族館の生き物たち | 池袋・サンシャイン水族館

また、割愛した中で興味深かったのが、ミズクラゲの展示パートである「ふわりうむ」。

なんでも物理的にスペースがない中で、「クラゲのトンネル水槽を作りたい」というスタッフの希望を実現化したものなのだそうです。

ただし、クラゲは遊泳能力が低いため、水槽内の水を動かす必要がありました。

それを指摘されたスタッフ氏いわく

「8の字型の水流を2つ重ねるようにすれば、クラゲは上に行ったり下に行ったりできます」

なんかスゴイことやってそうなんですけど、サイトで画像を見てもよく分からず……。

【サンシャイン水族館】クラゲと漂う夜。「ふわりうむ」の魅力に迫る | aumo[アウモ]

◆一方、第3章に登場するのが、池袋とは真逆の（？）北海道は大雪山のふもとにある「山の水族館」。

こちらは淡水魚ばかりを集めた小さな水族館です。

いるのは普通の魚ばかりで、スターになりそうな魚はほぼなし。

しいて目玉を挙げるなら、体長が1メートル超のイトウが20尾以上いることでした。

その水族館から、最低限に近い費用でリニューアルの依頼を受けた中村さんの苦闘ぶりは涙ものですので、ぜひ本書でご確認いただきたく。

上記ポイントの4番目の「魔法の温泉水」もその1つなのですが、「魚のケガが治ったり、魚が成長する」ことを謳っても、「温泉法や薬事法にひっかからない」というのは笑いました。

◆そして最後の第4章では、中村さんの原点とも言える「鳥羽水族館」が登場し、若かりし頃の中村さんの歩みが記されています。

大学でマーケティングを学んだ中村さんが、鳥羽水族館に就職した際、飼育係を希望して配属されたのですが、周りは皆、水産大学や大学の海洋学部出身だったのだとか（ある意味当たり前）。

そこで「魚に詳しくない」なりに色々と工夫を重ねたり、アシカショーでは通常とは異なり「ドジなトレーナーと立派なアシカ」を演じたりします。

また、飼育係の次に配属された営業部では、動物の映像を撮影して、テレビ局や出版社に送っては「追っかけ取材」を経験。

当時はまだ個人でビデオカメラを持っている人がわずかだったそうで、完全に時代を先取りしていたワケです。

一方で、水族館の混雑をなくすために導入したのが、上記ポイントの5番目の「順路のない水族館」でした。

実はラッコ人気があった頃は、週末のたびに「時間がなくて全部見られなかった」というクレームがあったのが、このリニューアルでなくなったのだとか。

ちなみに導入前には水族館スタッフのほぼ全員から反対されていたそうで、よくぞ押し切ったものです。

「目からウロコ」のアイデアを目の当たりにすべし！

常識はずれの増客術 (講談社＋α新書)

序章集客力を上げるにはコツがいる
第1章大人向けにリニューアルして大成功！常識を覆した「サンシャイン水族館」
第2章「闘うワークショップ」で、スタッフの力を150％引き出す！
第3章田舎の弱点を強みにして集客数を15倍に上げた「北の大地の水族館」
第4章「業界初」の仕掛け。宣伝力で知名度をアップさせた「鳥羽水族館」