2025年08月14日
【思考】『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』今井むつみ

人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学 (日経プレミアシリーズ)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、日頃購読しているfujiponさんのブログ記事を見て、気になった1冊。何気にアマゾンで確認したところ、「44%ポイント還元」になっていたので、思わず買ってしまいました。
アマゾンの内容紹介から。
『言語の本質』『学力喪失』『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』の今井むつみ氏の、慶應大学SFC最終講義!
「人は、わかっていても間違え、偏った視野をもち、誤解するもの。
だからこそ、どう学び、人とつきあい、社会を生き抜いていくかを考えることが大事。
そのために、認知科学からの知恵とエールをみなさんに贈ります。」
認知心理学のものの見方・考え方が、複雑で、正解のない世界と対峙し、判断していくための手がかりとなる。
世界的な認知科学者が28年かけてつくりあげた決定版!
そのポイント還元のおかげで、Kindle版が400円以上お得な計算です!

【ポイント】
■1.『100万回生きたねこ』は、100万回死んでいる『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館編著、講談社文庫)という楽しい本があります。これは福井県立図書館の司書さんたちが、利用者の「書名の覚え違い」を集めた本です。利用者さんは本を探す際に司書さんに、
「『100万回死んだねこ』貸してください。」
と言うわけですね。
ただ、このときに利用者さんの言うタイトルが、よく間違っているのです。『100万回死んだねこ』のほんとうのタイトルは、『100万回生きたねこ』(佐野洋子作・絵、講談社)です。(中略)
この覚え間違いは、ただ楽しいだけではなく、人の記憶について大きな気づきを与えてくれます。
人間はテキスト言語情報を、意味を抜きにした文字列として記憶するということが、極度に苦手なのです。文字列を見るとすぐに意味を解釈してしまいます。そして、いったん意味を解釈すると、解釈した、つまり抽象化された意味しか記憶に残りません。
だから、「100万回生きた」が「100万回死んだ」として記憶されてしまう。「定時で帰る」が「残業しない」になってしまいます。
人間はそういう生き物なのです。そこが、言語を持たない動物やAIとは違うところです。
■2.流暢性バイアス「わかりやすさ」のわな
「確証バイアス」に加え、私が今、とくに怖いと思っているのが「流暢性バイアス」です。
「流暢性バイアス」もまた人がもともと持っているバイアスで、明らかに間違ったことでも、流暢に言われたり、書かれたりすると、納得しやすくなってしまう傾向のことです。(中略)
「流暢性バイアス」に対しては、注意の必要性がますます高まっています。みなさんは、ChatGPTなどの生成AIの答えに、考えもせず納得してしまうことはないでしょうか。これがほんとうに怖い。
人は考えながら話すと、間違えて言い直したり、 訥々 とした話し方になったりしますね。しかし生成AIの返答は流暢です。間違った答えでも、ものすごく流暢なことばで返してくるわけです。立て板に水のような答えはそれだけで、私たちを納得させやすいものです。そのような答えに日頃から触れていると、子どもはとくに、「生成AIの答えは絶対正しい」と思うようになってしまうかもしれません。
■3.システム2でシステム1(直感)を鍛える
望ましいのはシステム1の思考の精度を、究極まで上げること──つまり、システム1で精度の高い決断ができるようにすることです。
そのために何をしなくてはならないかといえば、1つは前半でお話しした「自分の情報処理能力の限界」と「自分の思考バイアス」を意識することです。それは言い換えれば、システム2でシステム1を制御する訓練をするということでもあります。(中略)
システム1の思考の精度を究極まで高めるために、私たちにもできることがあります。それは、振り返りの時間を持ち、訓練をすることです。パイロットであれば、それはさまざまなリスクを想定したシミュレーション訓練のときなどでしょう。その他の職業の人でも、日々の勤務の中で「ヒヤリ」とした瞬間を振り返り、その原因を突き止めることがそれにあたるかもしれません。
「振り返る」だけでは行動につながりません。瞬時に無意識に行動できるまで、訓練を続け身体に落とし込むこと。それが、システム1の直観を磨きます。
■4.AIが達人になれないワケ
また、AIは意味を考えないということもあります。
達人の逸脱、あるいは独創性というものは、意味を生みます。意味を考えないAIに、達人の真似はできません。
先ほどの文章校正の例でいえば、「ルールブック通りの文章」は書けても、「ルールを逸脱しているが、意味のある、読ませる文章」は書けないということです。この逸脱が、AIにはない独自の「味」をつくり出すのです。
また、AIには感情がありません。「好き」という感情がない。
そのため、効率のよい学習はできても、突き詰めることができません。「突き詰める」というのは、曖昧な表現であるかもしれませんが、大事なことです。
そして突き詰めるにつながる「好き」という気持ちが、超一流の達人になるために何よりも必要であることは、間違いありません。AIがする学習は、その意味においても、超一流の達人の学習とは違うのです。
■5.「得手に帆を揚げる」という生き方
尾身先生「これまで75年も生きてきて、たくさんの知人友人先輩後輩と出会ってきた中で、ぜひみなさんに伝えたいことは、『得手に帆を揚げろ』ということ。
ヨットに乗って航海しているとする。そのとき、どっちの方向に行くか迷うことがある。そのとき、人間は考えるんです。風向きがどうとか、雨が降りそうだとか。
すぐ結論が出ればいいけれども、迷ってすぐに結論が出ないこともある。合理的に考えて結論が出ればそれでいいけど、そういうときだけではない。(中略)
そういうとき、迷ったときは、それぞれ自分の得意技や好きなことに目を向けることです。『自分の好きな方向に行け』ということ。それぞれ自分の得意技、好きなことです。自分の好きな方向に行けということ。
それはなぜかというと、好きなことをやっても苦労が必ずあるから。苦労のない人生を送ろうというのは絶対に無理。順風満帆な人でも、苦労がなくスーッと何でもいくなんていう人は見たことがない。(後略)」
【感想】
◆冒頭の内容紹介にもあるように、本書は著者である今井むつみ先生の慶應大学SFCにおける最終講義を書籍化したもの。厳密にはライブ版というわけではなく、あくまで最後の講義をベースに、認知心理学に初めて触れる読者向けに解説を補足しているとのことです。
ただし今井先生の著作や、一般的な認知心理学の本、さらにはいわゆる「バイアス」のお話を扱った書籍をお読みの方なら、登場する事例に見覚えがあるものが少なくないかもしれません。
たとえば上記ポイントの2番目では、類書でも登場する「流暢性バイアス」について言及。
このバイアス、今までは「ふんふん、そうかもね」程度に思っていたのですが、昨今の生成AIの誤回答を見るにつけ、「なるほど、確かに!」という思いを強くしました。
実際、生成AI登場以前は、あれほど滑らかに間違った回答をされたことがないので、これは怖い、と何度か感じたことがあるんですよね……。
◆また順番が逆になりましたが、上記ポイントの1番目の『100万回生きたねこ』を通じた、覚え間違いの件も興味深いところ。
書籍名に限らず、覚え間違いはよく接することがありますが、発生するロジックを考えたことはありませんでした。
特にこの
人間はテキスト言語情報を、意味を抜きにした文字列として記憶するということが、極度に苦手なのです。文字列を見るとすぐに意味を解釈してしまいます。そして、いったん意味を解釈すると、解釈した、つまり抽象化された意味しか記憶に残りません。という指摘は目からウロコ。
そういえば、当ブログでもたまに記事を書いている藤井風氏のヒット曲に『死ぬのがいいわ』というタイトルがあるのですが、まとめ記事を書く関係で、Xをパブサしていると、間違ったタイトルによく出くわします。
ところが間違ったタイトルでも、意味が変わっているもの(例『死んだらあかん』等)は極端に少なくて、大抵、意味は大筋で同じ(『死ねばいいのに』等)なんですよね。
それも、このロジックを知ると、ある意味当然と思える次第です。
◆また、上記ポイントの3番目では、唐突に「システム1」「システム2」のお話が登場しましたが、これはもちろん、あの名著『ファスト&スロー』でおなじみのもの。

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ文庫 NF 410)
自動的で速度の速い「システム1」と意識手で速度の遅い「システム2」の関係については、類書でもよく登場しますから、ここでは詳細は割愛します。
ただ、ここで述べられているように、「システム2でシステム1を鍛える」という主張は珍しい気が。
確かに「システム1」の失敗をそのままにしていたら、いつまで経っても精度は向上しません。
逆にそのフィードバックを確実に行っているのが、世界的に著名なサッカー選手等なのではないかと。
◆さらに本書では、上記ポイントの4番目にあるようにAIについても結構ページを割いています。
一見、秀逸に見えるAIですが、本書曰く「一般人の平均値」とのこと。
……まぁ、ネットにある情報を拾って来たら、そうなりますよね。
そして上記ポイントの5番目の冒頭で登場する「尾身先生」とは、新型コロナウイルス感染症対策分科会長を務められた尾身茂氏のこと。
今井さんは、尾身先生を慶應大学SFCにお呼びして、特別講義をしてもらったのだそうです。
この「得手に帆を揚げる」という生き方は、それに続いて記された今井さんの現在までの道のりを読むと、より一層腑に落ちますので、ぜひご一読を。
これからの世界を生きていくために読むべし!

人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学 (日経プレミアシリーズ)
開講 AI時代を幸せに生きるには
そもそも私たちは、「客観的」に世界を見ることができるのか?
「記憶」はあまりにも脆弱(ぜいじゃく)
人は基本的に「論理的な思考」が苦手である
「確率」よりも「感情」で考えてミスをする
「思考バイアスに流されている状態」は、思考しているとはいえない
スキーマがあって初めて、高度な思考が成り立つ
情報処理能力や記憶の制約が生み出した人間独自の思考スタイルとは?
アブダクションによって人は、知識を拡張し、因果関係を解明し、新たな知識を創造している
一般人と一流の違いは、アブダクションの精度にある
AIは記号接地しない=新しい知識・生きた知識を生み出さない
A I が生み出すのは、「一般人の平均値」。唯一無二のパフォーマンスを生み出せるのは、人間である「あなた」
「得手(えて)に帆(ほ)を揚(あ)げる」という生き方
【関連記事】
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【バイアス?】『遅考術 じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』植原 亮(2022年09月02日)
【バイアス?】『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』情報文化研究所(著),高橋昌一郎(監修)(2021年07月24日)
【バイアス】『MBA 心理戦術101 なぜ「できる人」の言うことを聞いてしまうのか』グロービス(2020年02月11日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
A34 地球の歩き方 クロアチア スロヴェニア 2024〜2025
「地球の歩き方」シリーズの東欧2か国編は、Kindle版が1600円以上お得。

B13 地球の歩き方 アメリカの国立公園 2024〜2025
同じく「地球の歩き方」シリーズからの「アメリカの国立公園」編というマニアックな1冊は、Kindle版が2000円以上お買い得となります!
【編集後記2】
◆一昨日の「Kindle本(電子書籍)サマーセール 第2弾」のSBクリエイティブ分の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。
パソコン仕事が10倍速くなる80+αの方法 たった1秒の最強スキル

最高においしいコーヒーの淹れ方 バリスタチャンピオンがホームバリスタに教える秘訣と楽しみ

マンガ ネコでもできる! 認知行動療法 ニャンだかツラい…がニャンだかタノシい?! に変わる本

198Xのファミコン狂騒曲
よろしければご参考まで!
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