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2025年07月04日

【バイアス】『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭


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認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「夏のブルーバックス大感謝祭」の中でも人気の1冊。

「認知バイアス」ネタは、何冊もご紹介してきたのですが、それらとはひと味違うディープな作品でした。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
認知バイアスという言葉は、一般的にも時々使われるようになってきて、なんだかよくわからないけど間違ってしまった、おかしなことをしてしまった、というときに認知バイアスという言葉で片付けようとする安易な解決も見られがちですが、著者は、「知」を身体、社会、感情、環境なども取り込んでトータルな人間の理解を深めようとする認知科学に基づき、理論的に分析しています。また、なぜ誤るのか、そして誤ることには意義があるのか、それは何なのかを解き明かします。
認知メカニズムは、ある状況では賢い判断をするように働き、ある状況では愚かな判断を生み出す。つまり人間は賢いようで愚かで、愚かなようで賢いものであるということがわかる1冊。

中古が値崩れしていますが、送料を足せばこのKindle版に軍配が上がります!






【ポイント】

■1.問題を含む目撃者証言
 さらに不思議なものもある。それはオーストラリアで起きたレイプ事件である。この事件では被害者の証言により、ある心理学者が逮捕された。しかし彼はすぐに釈放されることになった( 忖度 のせいではない)。というのも、その時間に彼はテレビの生放送に出ていたからである。ではどうして被害者は虚偽の証言をしたのだろうか。実は彼女はその事件の直前まで、その心理学者が出演していた番組を見ていたからなのである。
 そんなバカなことがあるのかと思われるかもしれない。しかし私たちは何を見たかは覚えているが、それをどこで見たかは意外に覚えていないものだ。誰でも「確かにあの人を見たけど、どこでだっけ」という経験はあると思う。私も大学で顔を知っている学生に会うが、その学生がどの講義に出ていたのか、それはいつなのかはほとんどの場合思い出せない。これはソースモニタリングの失敗と呼ばれている。つまり記憶のソース(源泉)がどこにあるのかがわからなくなってしまうのだ。


■2.行動の本当の原因は自覚できない
 今から40年以上も前に報告されたとても有名な実験がある。この実験では参加者は、目の前に左右に並べられた4足の女性のストッキングから、もっとも良いと思うものを一つ選ぶことが求められる。実は、この4足はまるで同じものである。同じなのだから、どれが選ばれるかは等確率のはずだが、そうはならない。左から順に12、17、31、40パーセントとなる。この結果は、参加者が左から順にチェックしていくとすると、最初の方のものは選ばれにくく、後の方が選ばれやすいことを示している。つまり人の選好判断は順序の影響を受けるのだ。そして、「最初は選びません」とか、「私は後ろの方を選ぶクセがあります」という人はいないので、これは無意識の働きによって選択がなされたことを示す。つまり私たちは行動の本当の原因を自覚できないのだ。面白いのはここからだ。選んだ人にその理由を尋ねると「1番目のものはなんか肌触りがよくないです」とか、「4番目のものの光沢が若干良いです」などと答えるのである。


■3.言語は記憶を阻害する
 それでは言語のもたらす影の部分に進んでみたい。直前に述べた記憶から始めることにしよう。これについてジョナサン・スクーラーたちが行った実験がある。この実験では、ある犯罪が行われた時のビデオを参加者たちに視聴させる。なお犯人の顔ははっきりと映っている。その後に、一方のグループの参加者には、ビデオに登場する人の顔を詳細に5分間言語的に記述するように求めた。もう一方のグループにはそうしたことをさせずにまったく別のことをさせた。その後に犯人の顔写真を含んだ何人もの顔写真を見せ、その中のどれがビデオに登場した人物かを尋ねた。
 さてどう考えても一所懸命犯人の姿を思い出しながら文章で記述していたグループの成績の方がよいと思うだろう。片方のグループは、5分間その男の特徴を一所懸命思い出し、文章化までしているのに対して、もう一方のグループは何もしていないわけだから、その差は歴然、と考えるだろう。しかし結果は逆になる。言語的に記述したグループの成績はもう一方のグループの成績よりも悪くなったのである。こうした現象は言語隠蔽効果と呼ばれている。


■4.共感というバイアス
 さてブルームがとりわけ問題視するのは情動的共感の方である。なぜだろう、なぜ理屈抜きに人と同じ気持ちになることがいけないのだろうか。それは情動的共感が近視眼的であることに由来する。自分のいとこが貧困ゆえに餓死した場合と、まったく知らない人が同様の理由で亡くなった場合では、明らかに共感の度合いは異なるだろう。つまり身内びいきのようなことがこのタイプの共感には付きまとうのだ。またこの共感は特定の個人に対しては強く働くが、集団に対しては働きにくい、あるいは働かない。シリア内戦で故郷を追われた500万人の子供に対して共感はうまく働かない。一方、この難民キャンプに暮らす5歳のジョーハラちゃん(架空)の窮状を聞くと、共感が湧いてくる確率が高い。ユニセフなどの募金協力依頼でも、全体の状況だけでなく、特定の子供を登場させるのは、これが理由である。


■5.集団の再認ヒューリスティックで株式を選ぶ
 ギーゲレンツァーは独創的な研究者であり、面白い発想でいくつものすばらしい研究を行ってきた人だが、実践もやっている。彼と友人はある投資情報誌のコンテストに応募した。このコンテストは、その投資情報誌が選んだ50銘柄を適当な組み合わせで購入し、6週間の間で誰がもっとも利益を出すかというものであった。実はギーゲレンツァーと友人は株のことを何も知らない。そこでベルリンの街角を歩き、100人に50銘柄を知っているかどうかを尋ね、多くの人が知っている10銘柄を選んだのである。これは集団の再認ヒューリスティックで株式を選ぶという、あり得ない方法だ。馬鹿げていると多くの人が感じるだろうし、私もそう思う。
 さて蓋を開けてみると、この愚かな(?)方法で2.5パーセントの利益をあげたという。ほらみろ、それっぽっちじゃないか、と思うかもしれないが、これは1万人の応募者の上位1/10に入る成績だったのである。


【感想】

◆冒頭でも触れたように、類書と比べてディープな内容でした。

上記ポイントではそこまでピンと来ないかもしれませんが、それは私ごときが解説する自信がなく、スルーしたものが多々あったから(スイマセン)。

同じ「認知バイアス」でも、ビジネス書や実用書で扱う場合と、本書のようなブルーバックスで扱うと場合では、ネタもアプローチも違っていてしかるべきでした。

そんな中、ある程度分かりやすい上記ポイントの1番目は、まさに似たようなお話がこの本にも載っていましたっけ。

4167901765
錯覚の科学 (文春文庫 S 14-1)

参考記事:『錯覚の科学』が想像以上に凄い件について(2014年08月19日)

ちなみにこうした「注意をしていても見えない」例として、この動画が紹介されていました。



こちら画像の一部がゆっくり変わっているのですが、ほとんど方が気がつかないと思います。

分からなかったら、いったん見終えた状態から、動画を最初の時点に持ってくれば、すぐ分かるハズ(私も気がつかず、分かってたまげました)。


◆また上記ポイントの2番目のお話も、認知バイアスではおなじみの「気づけない」ネタ。

私たちが、「自分の行動に影響を与えている情報に気づけないこと」「自分の行ったこと自体に気づけないこと」「情報と自分の行動との関係に気づけないこと」の例の1つとして紹介されていたものです。

こういうのも自信満々に語ったりしているのが、私も当事者だったら騙されるでしょうから他人事ではないのですが、いかに私たちが無自覚かということが良く分かる事例でした。

……いかに自分自身が信用できないことか。


◆一方、上記ポイントの3番目の言語の問題点のお話は、目からウロコ。

よく、「言語化することが大事」などと言われますが、こんな作用も起こしうるんですね。

さらに興味深かったのが、自閉症で絵が天才的に上手かったとある子どもが、訓練して徐々にコミュニケーションが取れるようになると、それに反比例して絵の質が落ちていった、と言うお話。

実際、クロマニヨン人たちの描いた壁画が躍動的なのは、彼らが複雑な言語を操っていなかったため、写真的記憶に頼っていたのでは、という可能性があるそうです(詳細は本書を)。


◆また、上記ポイントの4番目では「情動的共感の方」という言い方がされていて、「そうでないのもあるのかYO!」となってしまいますが、実際にあります。
 実は共感というものには2種類ある。1つは情動的共感と呼ばれ、苦難にあっている人を見て、自分も同じような苦しみ、悲しみを感じるような場合の心の働きを指す。もう1つは認知的共感といって、人がある時点でどのようなことを感じ、考えているかを推測するような場合の心の働きを指す。
そしてアメリカを代表する認知心理学者であるポール・ブルームは、引用部分にあるように「情動的共感」を問題視。

確かに寄付を募るDMが、私のところにもよく来るのですが、このような「情動的共感」に訴えるものばかりなんですよね……。


◆加えて、上記ポイントの5番目の株式選択のお話は、非常に痛快でした。

よく「投資のプロがサルに負ける」などと言いますが、それに近いかと。

ちなみにこのお話には落ちがあって、この投資情報誌の編集長(むろん専門家)は18.5%の損失を出したのだそうです。

逆にこのギーゲレンツァー氏は、この方法で5万ドルも投資して、6ヵ月でなんと40%以上の利益を出したとのこと!

著者の鈴木さんが、「彼と同じ方法でトライしようかと思い始めている」というのもまんざらではありませんw


人間の脳の賢さと愚かさが学べる1冊です!

B08LD8MJFW
認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)
第1章 注意と記憶のバイアス:チェンジ・ブラインドネスと虚偽の記憶
第2章 リスク認知に潜むバイアス:利用可能性ヒューリスティック
第3章 概念に潜むバイアス:代表性ヒューリスティック
第4章 思考に潜むバイアス:確証バイアス
第5章 自己決定というバイアス
第6章 言語がもたらすバイアス
第7章 創造(について)のバイアス
第8章 共同についてのバイアス
第9章「認知バイアス」というバイアス


【関連記事】

『錯覚の科学』が想像以上に凄い件について(2014年08月19日)

【思い込み?】『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロンランド(2019年01月02日)

【バイアス】『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』西剛志(2024年01月01日)

【バイアス?】『情報を正しく選択するための認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編』情報文化研究所(著),高橋昌一郎(監修)(2023年07月05日)

【バイアス?】『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』情報文化研究所(著),高橋昌一郎(監修)(2021年07月24日)

【ナッジ】『心のゾウを動かす方法』竹林正樹(2024年04月12日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

B072LV5CTG
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科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス)

確かに普通に考えると「違和感アリアリ」なテーマの作品は、Kindle版が400円弱お買い得。

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