2025年05月31日
【コミュニケーション】『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』今井むつみ

「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本(電子書籍) ポイントキャンペーン」の中でも人気の高いコミュニケーション本。ただしあの今井むつみ先生が書かれているだけあって、「認知科学」が大きなテーマになっています。
アマゾンの内容紹介から。
『言語の本質』(中公新書)で「新書大賞2024」大賞を受賞した今井むつみ氏の書き下ろし最新刊!
間違っているのは、「言い方」ではなく「心の読み方」
ビジネスで 学校で 家庭で ……「うまく伝わらない」という悩みの多くは、「言い方を工夫しましょう」「言い換えてみましょう」「わかってもらえるまで何度も繰り返し説明しましょう」では解決しません。
人は、自分の都合がいいように、いかようにも誤解する生き物です。
では、都合よく誤解されないためにどうするか?
自分の考えを“正しく伝える”方法は?
「伝えること」「わかり合うこと」を真面目に考え、実践したい人のための1冊です。
送料を加味した中古よりも、Kindle版が600円弱お買い得です!

【ポイント】
■1.人は単純に「言われたらわかる」わけではない言語は意図のすべてをそのまま表現できるわけではない、つねに受け取り手によって解釈され、解釈されて初めて意味あることとして伝わるのです。言葉を発した人が込めた思いと、相手の解釈が大きく異なってしまうこともあるのです。
しかも厄介なことに、思いと解釈が一致しているかどうかは、話し手にも聞き手にもわかりません。(中略)・言葉を尽くして説明しても、相手に100%理解されるわけではない。こうした前提を忘れてしまうと、コミュニケーションでイライラしたり、伝わらないことが原因でミスやトラブルが増えたり、自信がなくなってしまったりしてしまいます。
・同じものを見たり聞いたりしても、誰もが同じような理解をするわけではない。
・「言われた」ということと「理解した・わかった」というのは根本的に別物で、「言われたけど理解できない」ことも往々にして起こり得る。
逆に言えば、こうした前提に気づくことで、私たちがコミュニケーションで抱えやすい問題を、対症療法的ではなく根本から改善していくことができるのではないかと考えています。
■2.人は「神聖な価値観」で物事を決めている
前述のスティーブン・スローマン教授の『知ってるつもり 無知の科学』では、様々な「認識の罠」が取り上げられています。ここでは認知バイアスに関する部分を取り上げます。
人工妊娠中絶を認めるかどうかは、アメリカの世論を二分する問題です。
しかしスローマン教授は、これらの問題について人々は、それぞれが政策を検討し、その政策がもたらす結果を考えた上で「賛成・反対」を示しているのではないといいます。そうではなく、自分が持つ「神聖な価値観」によって決め、そしてその決定を正当化するために理由を後づけで持ってきていることが多いというのです。(中略)
スローマン教授は、神聖な価値観とは「どのように行動するべきかの価値観」であり、「物事を過度に単純化するためのツール」であると指摘します。
要するに、熟慮して出した結論だと見せかけて、実際は厄介な細々とした因果分析をする手間を省いて自身の価値観から自動的に結論を持ってきただけで、証拠を吟味するなどの思考はほとんどまったくといっていいほどしていない、というわけです。
そして残念なことに、こうした「神聖な価値観」による物事の単純化を、私たちは日常生活の中で、頻繁に、無自覚に行っています。
■3.ビジネスにおいて「相手の立場で考える」ということ
例えば2歳の子どもが、テレビを見ていると想像してみてください。親は、そのテレビ画面が見えない場所にいるとします。
その場合、親は当然、そのテレビにその瞬間に何が映っているかはわかりません。
しかし、幼い子どもは、実はそのことを理解できません。自分に見えているのだから、他の人にも見えていると思い込んでしまう。「他人の視点」を想像することができないのです。
これは誰もが通る道で、「他人の視点」がわかるようになるのはだいたい4歳くらい以降だといわれています。つまり、他者の視点や心の動きを推論するというのは、認知的な思考の中でも最も難しく高度なことだといえるのです。
この高度な認知的な思考を、目の前にいない人──例えば取引先や顧客にまで働かせること。これが、ビジネスにおいて「相手の立場で考える」ということです。
つまり、相手の立場で考えるのが苦手、という人は、この認知的な思考が苦手なためなのかもしれません。
■4.OJTで具体と抽象の間を埋める
言葉での伝達がどうしても抽象的であることを考えると、なぜビジネスシーンにおいては、座学だけよりも「OJT(On the Job Training)」と組み合わせたほうが効果的に身につけやすくなるのかがわかります。
一緒に仕事をしながら学ぶほうが身につきやすいのは、机の前に座っての学びの抽象的な部分を、実際の業務という具体で埋めることができるからです。
人間の学びという点でも、OJTは大変有効です。先輩と一緒に仕事をすることで、座学と実践が結びつき、新たな視点を得たり、自分の思い込みに気づいたりすることができるでしょう。
また、先輩にとっても、新人が何に驚き、どんな疑問を持ち、何につまずくのかを知ることで、自己の新しい学びにもつながります。新人とよりよいやり方を検討することで、今までの業務プロセスが改善されることもあるでしょう。
■5.プラスのフィードバックで、不測の事態を防ぐ
「どんなときにも話を聞く」といっても、上司も人間である以上、自分に都合の悪い話を聞く際に「イヤだな」と思ってしまうのは、ある程度、仕方のないことかもしれません。(中略)
この一瞬が、相手に与える影響は多大です。「先生に注意された」という事実が、「先生は声を荒らげて怒鳴りつけた」という記憶に変わってしまうように、そこにネガティヴな感情があると、相手の些細な行動もネガティヴに脚色されてしまいます。そしてその脚色を含んだ記憶が、現実に起きたことのように記憶されてしまう恐れがあるのです。
部下が失敗の報告をするときには、すでにそこに「ネガティヴな感情」があります。ですから上司は、自分の態度にいつも以上に注意深くあらねばなりません。
無意識の表情の変化すら、相手に影響を与えてしまうのですから、上司としては、「イやな報告を受けたときこそ、相手を褒める・感謝する」くらいの心づもりが必要です。
【感想】
◆なるほど、従来のコミュニケーション本とは、ひと味違う作品でした。もちろん、その大本となるのが、「認知科学」の存在です。
当ブログでも過去、「認知のズレ」や「バイアス」をテーマにした作品を数多くご紹介してきましたが、それらの中でコミュニケーションについて触れていた記憶はありませんでした。
しかし本書はその冒頭の「はじめに」にて、
私たちが日頃ひとまとめに「コミュニケーション」と呼んでいるものが、実は様々な認知の力(言語を理解する力、文脈を把握する力、記憶する力、思い出す力、想像する力など) に支えられていると看破。
ゆえに本書では、従来のコミュニケーション本にあったような
「言い方を工夫しましょう」「言い換えてみましょう」「わかってもらえるまで、何度も繰り返し説明しましょう」といった解決策は出てきません。
要は、そうした方法の前提となる「認知」のお話が、中心となっているわけです。
◆それを踏まえて第1章から抜き出したのが、上記ポイントの1番目のお話。
「言われたら単純にわかる」わけではないのは、引用内で引用されている3つの前提からも明らかです。
また、この章で割愛した中で留意したいのが「記憶」という論点でした。
意識しないでも「記憶のすり替え」が起こってしまうのは、もっとも間近でレイプ犯を「見た」ハズの被害者ですら、間違った人物を犯人だと言い張ってしまうほどです。
実際に起きたこの事件は、こちらの本でも登場していましたね。

錯覚の科学 (文春文庫)
参考記事:『錯覚の科学』が想像以上に凄い件について(2014年08月19日)
この本も今回のセール対象ということで、私は紙版でレビューを書いていましたが、新たにこのKindle版も購入しました。
ただ「自分の記憶の改ざん」という意味では、上記レビューでも挙げたクリントン女史の戦場体験のお話は、にわかには信じがたかったです(この件は『錯覚の科学』のみ)。
◆続く第2章では、「話が伝わらない」要因についての言及が。
具体的には「言っても伝わらないを生み出すもの」と題して、6つの要因が挙げられています。
そしてその中の1つが、上記ポイントの2番目の「神聖な価値観」。
ここでは「人工妊娠中絶を認めるかどうか」に触れられていますが、私たちの日常生活のあらゆるところに潜んでいる、と今井先生は言います。
「この町」という主体が「都会」になるときもあれば、「我が社」や「日本人」になるときもあります。そう考えると「話せばわかる」 とは程遠いことはご理解いただけるかと。
昨今の国際紛争も、こうした「神聖な価値観」がひとつの原因といえるのではないでしょうか。例えばロシアは、ウクライナの併合を正当な主張だと捉えています。あるいは「1つの中国」という中国の「神聖な価値観」が、台湾問題につながっているとはいえないでしょうか。
◆そこで第3章では、こうした現状を何とかすべく考慮されています。
上記ポイントの3番目の「相手の立場で考える」のもその1つ。
確かにこうした思考が、幼い子どもには難しいことは明らかですが、「認知的な思考の中でも最も難しく高度なこと」だとは思いませんでした。
しかし、その延長線上に取引先や顧客の立場で考えることがあるのだとしたら、得意でない方は本書で触れられている「メール」や「報連相」のコツ等を参考にして改善を図ってください。
また、同じく第3章から抜き出したのが、上記ポイントの4番目のOJTのお話。
実はこの部分に至るまで、小見出しにもある「具体と抽象」という、当ブログでは鉄板のお話が続いていたのですが、鉄板過ぎて割愛しました(詳細は本書を)。
なるほど「座学と実践」という意味でも、OJTというのはよくできた仕組みなんですね。
◆なお、最後の第4章は今井先生が取材した「コミュニケーションの達人」たちから学んだ「立ち振る舞い」が中心とのこと。
「『コミュニケーションの達人』の特徴」と題して、4つ挙げられています。
上記ポイントの5番目もそこからであり、「『聞く耳』をいつも持つ」なるタイトルが付されていました。
それにしても、「『イやな報告を受けたときこそ、相手を褒める・感謝する』くらいの心づもりが必要」とはいえ、
「リスクを早く報告してくれたから、早めに手を打てて助かった」等々言ってたら、リスクや失敗を舐めないか心配……と思う私はまだまだですね。
「君の報告のおかげで、何とか取り戻せたよ。ありがとう」
コミュニケーションスキルを高めるために読むべし!

「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
はじめに 認知科学者が教えるコミュニケーションの本質と解決策
第1章 「話せばわかる」はもしかしたら「幻想」かもしれない
第2章「話してもわからない」「言っても伝わらない」とき、いったい何が起きているのか?
第3章「言えば→伝わる」「言われれば→理解できる」を実現するには?
第4章 「伝わらない」「わかり合えない」を越えるコミュニケーションのとり方
終 章 コミュニケーションを通してビジネスの熟達者になるために
【関連記事】
【科学的自己啓発書】『知ってるつもり 無知の科学』スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック(2022年12月22日)『錯覚の科学』が想像以上に凄い件について(2014年08月19日)
【速報!】『影響力の武器』の[第三版]を[第二版]と比較してみました(2014年07月14日)
【「1万時間の法則」の真実】『超一流になるのは才能か努力か?』アンダース・エリクソン,ロバート・プール(2016年08月05日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
失敗の科学
下記のように当ブログでもレビュー済みである「失敗本」は、Kindle版が1100円弱お買い得。
それもですけど、上記関連記事にある『錯覚の科学』も前述のようにセール対象ですから、あわせてお読みください!
参考記事:【失敗?】『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド(2016年12月28日)
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