【コミュニケーション】『論破されずに話をうまくまとめる技術』波戸岡光太:マインドマップ的読書感想文

2025年05月09日

【コミュニケーション】『論破されずに話をうまくまとめる技術』波戸岡光太

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて、人気の高かったコミュニケーション本。

上記記事の時点では、Kindle化されていなかったのですが、無事リリースされたので読んでみた次第です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

近年、「論破」というワードをよく耳にするようになりました。会議や交渉、社内折衝、プライベートの人間関係において、論理的かつ上手に相手を言いくるめたいと考える人は少なくありません。
しかし、相手を論破することは、相手との関係性を壊すと同義です。「相手を言い負かす(論破する)」「自分の主張を通す」ことより大事なのは、相手と良い関係を築きながら、建設的な対話や議論を重ね、より良い結論(ゴール)を導き出すこと。
著者は、弁護士×ビジネスコーチ×交渉のプロ。相手の主張を打ち破る方法ではなく、相手に論破されることなく、より良い関係性を築きながら建設的な対話・議論をするための方法、うまく話し合いをまとめ、より良いゴールに導くための方法を一冊にまとめました。

中古が若干値下がりしていますから、「10％弱OFF」のKindle版がオススメです！

【ポイント】

■1.正論は正しいからこそ厄介

　議論の場で正論ばかりを述べる方がいます。もちろん、正論は理屈として正しいため、相手は反論しにくいものです。
　ですが、正しさは、時に武器となって相手を攻撃し、傷つけてしまう可能性があります。「正論を振りかざす」という言葉自体、「武器を振りかざす」のと似た表現。相手を受け入れることをしない「正論」は、その本質で「論破」と同じものになりかねないのです。
　正しいからといって、相手がすんなり納得するとは限りません。
　むしろ、正論は正しいからこそ厄介ともいえます。
　論理的な正しさを突きつけられると、表面的には従わざるを得なくても、心の中では「確かに正論かもしれないけれど、なんだかね……」というすっきりしない思いが残ったり、「お前は正しくないことを言っているんだよ」というメッセージとして受け止められ、反感を抱かれたりすることがあります。

■2.相手の意見を頭ごなしに否定しない

　意見が違う、主張が異なる、反対意見を持っていること自体は否定でも何でもありません。大事なのは「相手の意見を頭ごなしに否定しない」ということ。
　では、どういったことが「否定」になるのか。それは、
◆ 　頭ごなしに「そうじゃなくて」「それは違う」と言う
◆ 　相手の話を遮って、自分の話を始める
◆ 　「わかってないなぁ」という視線を送ったり、面倒そうな仕草をしたりする
　このように、話を最後まで聴かずに、あるいは聴いたとしても一切受け入れるそぶりを示さず、相手の意見にダメ出しをしたり、受け入れないことが「否定」です。
　相手の意見が間違っているかどうかは重要ではありません。相手が自分と異なる意見を言ったとしても、その意見が的外れだったとしても、まずは「相手がそのように考えた」という事実を受け入れることが大切なのです。

■3.「同調」よりも「共感」

　同調とは、相手と同じ意見や態度になることです。
　共感とは、相手の気持ちを理解し、共有することです。
　同調が相手と感情的に同化（シンクロ）するのに対し、共感は相手の気持ちに寄り添うことであり、自分自身の考えをいったん脇に置く姿勢を求められます。
　そして、コミュニケーションでは、「同調」よりも「共感」が重要とされています。
　というのも、「同調」は相手と感情的に一体化するので、一時的には相手の満足感を得られる可能性が高いでしょう。けれども、同調すると、つい相手の視点に引きずられ、自分自身の冷静な判断や意見を失いやすくなります。(中略)
「共感」はこれらのリスクを回避し、相手の本音や背景を引き出すための有効なアプローチです。自分の視点を一時的に保留し、相手の気持ちを受け止めることで、対話をより深めることができるのです。

■4.異なる意見は「Iメッセージ」で伝える

「Iメッセージ」とは、自分の考えを「I（私）」を主語にして表現するコミュニケーション法です。
　例えば、「あなたの意見はおかしいです」といった言い方では、相手は自分自身が評価されたり否定されたように感じ、不快感を覚えることが多いものです。
　一方で、「私はあなたの意見に違和感を覚えます」といった「Iメッセージ」を用いると、相手は自分自身が批判されたわけではなく、あくまで「私がどう感じたか」を共有しただけなんだと、相手も言葉を受け入れやすくなり、建設的な話し合いがしやすくなるのです。
　また、「Iメッセージ」は、相手が自分の意見を見直すきっかけにもなります。
　直接的に否定されるわけではないので、不快になったり防衛的になることはないですし、それでいて、「相手がそう感じるなら変えたほうがいいのかもしれない」と、より冷静に自分の意見や立場を振り返ることができるでしょう。

■5.「ストローマン論法」への対処法

　このような論法に惑わされないためには、どのように対処すればいいでしょうか。
「あれ、そういう話だっけ？」と違和感を覚えたら、「本来の論点は何だったか」「そもそも話したかったことは何か」に立ち戻ることが大切です。
　相手の言葉を遮ったり否定したりする必要はなく、その代わりに、「そもそもここで話し合いたいことは」と原点に立ち返ってみるのです。
　先ほどの例1でいうと、
Aさん：「子どもが道路で遊ぶのは危ないよね」
Bさん：「子どもが外で遊ぶのはいいことだと思うけど」
Aさん：「確かに外で遊ぶのはいいことだと思うけど、道路は危ないよね？　私が言っているのは、外は外でも「道路」で遊ぶと危ないと言っているんだけど」
　このように、論点がずれていきそうなときは、「私が言いたかったのは○○のことです」と、相手を責めることなく冷静に論点の軌道修正をしていけばよいのです。

【感想】

◆本題に入る前に、ちょっと気になったことが。

この本、アマゾンの単行本の方のタイトルを見ると、『論破されずに話をうまくまとめる技術』になっています（冒頭の書影のとおりです）。

ところがKindle版の方で見ると、『どんな難しい相手とでも論破されずに話をうまくまとめる技術』と、タイトルの最初に「どんな難しい相手とでも」がついているという。

よく、サブタイトルの順番が逆になったり、略されたりされなかったり、というのはあるのですが、サブタイトルにもないフレーズが加わる（しかも初っ端に）というケースは記憶にありません。

一応、「どんな難しい相手とでも」というフレーズ自体は、書影で言うと下半分の帯部分の

「どんな難しい相手とでも」「たどり着ける」「最高の結論」

というフレーズ群にはあるのですが、なぜにここから拾って来たのか。

ちなみに私はKindle版を買ったのですが、WebアプリでもKindle端末でも、画面上部のタイトルには「どんな難しい相手とでも」が入っています（謎）。

◆それはさておき、残りの本題部分にある「論破されずに」というフレーズも、やや曲者。

ここもパッと見ると、「論破する気満々」の相手に対して、どう議論（話し合い）を行うのか、という風にも読めます。

もちろん、それに該当する部分もあるのですが、それは最終章である第6章のみ。

そこから抜き出した上記ポイントの5番目では、詭弁のテクニックの1つである「ストローマン論法」を相手が使ってきた際の、対象法が述べられています。

ストローマン - Wikipedia

この引用例ではBさんの発言が「ストローマン論法」ですね。

なお、この章では他にも詭弁とその対象法が列挙されてはいるのですが、その話をメインで知りたい方は、「詭弁」関係の作品の方が良いかもしれません。

◆一方、冒頭に立ち返って、本書の第1章では「論破は愚者のすることである」と題して、昨今の論破をもてはやす風潮に、しっかり釘を指しています。

そもそも論破が問題なのは、「人間関係を破壊するリスク」をはらんでいるから、という指摘にはもちろん同意。

ディベートのような第三者の判定に従うような場合でもない限り、論破は必要ないわけです。

ただし、見落としがちなのが、上記ポイントの1番目の「正論」。

これも、表面上は論破とは違いますが、反感を買う可能性が非常に高いかと。

さらには、あの「ロジカルシンキング」も、相手を追い詰めたり、嫌がらせに用いると、「ロジハラ（ロジカルハラスメント）」と言われてしまうのだそうです。

当ブログでもロジカルシンキング本は人気なので、一応ご注意ください。

◆続く第2章は「話がまとまる思考法」という、本書の中心となるようなテーマです。

「相手の『論理』と『感情』を理解する」「『議論』と『対話』を区別する」といった節でもハイライトは引いたのですが、やはり上記ポイントの2番目の「相手の意見を頭ごなしに否定しない」というTIPSは、大前提ではないでしょうか。

ただ、相手の意見が的外れに思えたり、自分と相容れなかったりすると、自然と態度に出てしまうモノ。

　一笑に付したり、嫌そうな顔をしたりして、「で、何が言いたいんですか？」とか「それ、本気で言っているんですか？」なんて言うのはNG。間違っても「あなたの感想でしょ？」などと言ってはいけません。

こういうマウンティング取りたがる人、結構多いんですよね。

その結果、まとまる話もまとまらなくワケで。

◆さらには、第3章の「話がまとまる『聴く』スキル」では、正しい聴き方を指南。

この辺は、傾聴をテーマにした本でも詳しいのですが、本書でも「話を遮らないで聴く技術」「相手の話にうまく割って入る技術」といったテクニカルなお話が展開されています。

他にも「言葉にならない『感情情報』をキャッチする」という、相手の「非言語情報」をチェックするのも大事かと（詳細は本書を）。

なお、上記ポイントの3番目はこの第3章から抜き出したものになります。

一般的には「そーだそーだ！」と「同調」するケースが多い気がしますが、「共感」を心がけるようにしなければ。

◆そして上記ポイントの4番目の「Iメッセージ」は、1つ飛んだ第5章からの引用です。

実はこの章では、いわゆる「交渉術」のTIPSが数多く紹介されており、おなじみの「ZOPA」や「BATNA」も登場。

ZOPA（ゾーパ）｜グロービス経営大学院創造と変革のMBA

BATNA（バトナ）｜グロービス経営大学院創造と変革のMBA

もちろん、これらも「話をうまくまとめる」には大事なのですが、やや交渉術専門のテクニックな気がして、「Iメッセージ」の方を選んでおります。

確かに「論理面」を突くには、「ZOPA」や「BATNA」が必要ですけど、「感情面」を考えたら「Iメッセージ」がより重要な可能性もありますしね。

多方面から「話をうまくまとめる」ために読むべし！