【具体と抽象】『なぜ、あの人との会話は嚙み合わないのか』米澤創一:マインドマップ的読書感想文

2025年04月20日

【具体と抽象】『なぜ、あの人との会話は嚙み合わないのか』米澤創一

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて、人気の高かったコミュニケーション本。

帯にも記載されているように「具体」と「抽象」が関わってくる内容です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

読み解くカギは、「具体」と「抽象」。
「頭のいい人」ほど気づけない、
〝嚙み合わなさ〟の正体と解消法！
聞いていることにきちんと答えない。
具体的な策を決めたいときに問題提起ばかり。
主題とは別の感情的な意見が飛んでくる。
そんな「嚙み合わない会話」はどうして起こってしまうのか。そして、どうすれば改善できるのか。
本書では、この原因や対策を詳しく明らかにしていきます。

中古はまだ値下がりしていない一方、Kindle版は若干お求めやすくなりました！

【ポイント】

■1.噛み合わない例「質問にきちんと答えてくれない」

　このように、質問にきちんと答えられない人は意外なくらい多く見られます。「はい」「いいえ」で答えられるはずの質問をしても、「はい」「いいえ」で答えず、その質問の周辺の情報について延々と話すのです。
　延々と話しているうちに、元の質問が何だったかも忘れてしまっていることもたびたびです。その長い話の中に答えはあるのかもしれませんが、質問した人にそれを探させるというのは酷な話です。
　本質的な問題は、質問者の意図、本当に知りたいことを認識しないまま、自分の持っている知識をひたすら披露してしまうことです。
　Cさんのような人は、話題そのものへの興味や知識は豊富で「細部には強い」一方、相手の質問の〝意図〟や〝背景〟といった全体像をいったん俯瞰することが苦手なのだと言えます。
　つまり、「具体的な情報はたくさん語るが、抽象的に〝この質問は何を求めているのか〟を捉える意識が薄い」ために、要所を外してしまうわけです。

■2.どちらかに抽象化能力が欠けていると会話が噛み合わない

　多くの嚙み合わない会話は、会話の主のどちらかに抽象化能力が不足しており、相手の具体的知識の質・量がどの程度かを把握できず、それを意識していないことに原因があります。
　抽象化能力が不足している人は、会話の相手の知識の質・量がどうであっても、自分の話したいことを話す傾向があります。
　コミュニケーションの目的は、言葉を発することではなく、相手に伝わることだという理解ができず、「話したい言葉を発する」という手段にとらわれてしまうのです。
　仮にどちらかに具体的知識が不足していても、抽象化能力が十分にあれば、それを察知し、齟齬が起こらないように配慮することができます。
　とは言え、具体的知識が十分でないと、せっかく高度な抽象化能力があったとしても、適切な抽象度で会話をすることは困難です。
　抽象化は、具体的知識と抽象化能力の両方があって初めて適切に行うことができるのです。

■3.「右も左もわからない人」のトリセツ

　この思考スタイルの人を指導する際に最も重要なのは、正確な認識・把握の基礎を築くことです。本人は自身の認識があいまいだという自覚が薄く、思い込みや誤認をしたまま行動しがちです。そのため、まずは事実と思い込みの区別ができるように支援していく必要があります。
　具体的な指示を出す際は、必ず本人に状況を説明させ、認識の正確さを確認することから始めましょう。「わかりました」という返事をしても、実際には誤解していたり、思い込みをしていたりすることが多いため、具体的な行動レベルで確認を取ることが重要です。
　報告を受ける際も、「なんとなく」「たぶん」といったあいまいな表現が出てきたら、必ず事実確認を行います。「具体的に何を見ましたか？」「実際にどのような状況でしたか？」といった質問を通じて、事実に基づいた報告ができるよう促していきます。

■4.ズームイン・ズームアウトを使い分ける

　全体を見るために最もシンプルな方法は、ズームアウトしてみることです。
　今、観察している場所よりも離れた場所、高い場所から、対象を見てみる。物理的に見えないことに対しては、当事者、担当者の視点ではなく、より上の立場の視点から見てみる、考えてみる。
　視点をより高く持つと、問題の全貌が見えてくることがあります。(中略)
　一方で、部分の詳細を観察したいときは、ズームインしてみます。物理的に見えるもののときはより近い距離で、ときには拡大鏡のような道具を使って観察してみます。目に見えないものの場合は対象について詳細に調べていきます。その道の専門家の意見を聞いてみることもいいでしょう。

■5.まずは「具体的知識」を着実に高める

　たとえば、ある分野について具体的知識のレベルが1、抽象化能力のレベルも1という初期段階の人を考えてみましょう。この場合、いきなり抽象化能力を引き上げようとしても、土台となる具体的な情報が乏しく、分析やパターン認識をする材料がありません。
　従って、最初の一歩としては具体的知識のレベルを2に上げることをオススメします。
・解像度を上げる：目の前の事柄をより細かく観察し、事実と解釈を混同しないように記録する。たとえば業務なら、実際にどんな手順があり、どのようなトラブルが起きやすいかを詳細に把握する。
・視野を広げる：時間軸を意識したり、他部署や他分野の人の視点を取り入れたりして、対象を多角的に理解する。周辺の背景・文脈までを知ることで、より正確な全体像が見える。
　こうして「解像度×視野」を高めていくと、得られる情報の質が向上し、それを基に考える際の精度も上がります。

【感想】

◆なかなかユニークな視点の作品でした。

まず、書影にもあるように「会話が嚙み合わない」原因を、当事者同士の思考における「具体」と「抽象」に求めていること。

上記ポイントの1番目の例ですと、「具体」に問題がなくとも、「抽象」に難あり、といったところでしょうか。

ちなみに通常は「具体」と「抽象」は、「対立」ないしはレイヤーの上下関係に位置するハズ（「抽象」が上）。

しかし本書では、両者を対立的な関係ととらえず、相互補完的な関係として扱っているのが特徴です。

なお、本書内での用語を正確に記すと、「具体的知識」と「抽象化能力」であり、「抽象化能力」を縦軸、「具体的知識」を横軸として、それぞれの能力に応じてプロットすることで、各人をマッピングしている次第。

◆この考え方を、細かく展開しているのが本書の第2章になります。

ここでは、「具体的知識」と「抽象化能力」をそれぞれを「0～4」までの5段階で評価。

たとえば上記ポイントの3番目の「右も左もわからない人」というのは、「具体的知識レベル0」×「抽象化能力レベル1」というパターンに属することになります。

全部細かく分けたら、5×5の25通りありますけど、本書ではある程度特徴的なパターンとして、15ほど選び、その特徴や口ぐせ、受け答えの例を列挙。

さらには長文解説のトリセツまでも収録しています。

ある意味「至れり尽くせり」なんですけど、自分や相手がどこに属するかがちょっと分かりにくいかもしれませんね。

◆一方、第3章では「具体的知識」と「抽象化能力」のそれぞれの鍛え方を伝授。

たとえば上記ポイントの4番目は、「具体的知識」を構成する「解像度×視野」のうち、視野を拡大するための4つのアプローチのうちの1つになります。

残りの3つについては、本書にてご確認を。

また、もう一方の解像度を上げる施策についても、同様にアドバイス（「解像度向上のための3つのアプローチ」）をご覧ください。

もっとも、当ブログでは、モロにそのタイトルの作品をレビューしておりましたが。

解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の４視点と行動法

参考記事：【オススメ】『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の４視点と行動法』馬田隆明（2023年04月26日）

◆なお、上記ポイントの5番目は、「具体的知識」と「抽象化能力」の両者をどうバランスよく向上させるかについての実践的なアプローチからのもの。

具体的には4段階あるうちの、最初の1つになります。

もちろん、人によっては抽象化能力を学ぶ方がラクというというケースがあるものの、具体的知識は最低でもレベル2までは、早めに習得しておくと良いのだそう。

そこまでくれば、理論や法則を理解するときに無用な混乱を減らせるからです。具体的知識の充実は、抽象度の高い思考を支える土台でもあると言えます。

実際、上記ポイントの2番目の最後にもあるように、「具体的知識が十分でないと、せっかく高度な抽象化能力があったとしても、適切な抽象度で会話をすることは困難」ですしね。

なるほど、思考能力を高めることによって、コミュニケーション能力も高まるということがよくわかりました。

あらためて「具体」と「抽象」を身につけるために読むべし！