【自己啓発】『人生は心の持ち方で変えられる？～〈自己啓発文化〉の深層を解く～』真鍋厚:マインドマップ的読書感想文

2025年04月11日

【自己啓発】『人生は心の持ち方で変えられる？～〈自己啓発文化〉の深層を解く～』真鍋厚

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「光文社 40％ポイント還元セール！」の中でも、当ブログ的に避けては通れなかった1冊。

古今東西の自己啓発書を追うことで、「自己啓発文化」に光を当てた作品です。

アマゾンの内容紹介から。

頑張らず、上を目指さず、モノも求めない。そんな、自足による主観的幸福を追求する「引き算型」自己啓発が流行している。本書では、努力と成長の積み重ねを旨とする「意識高い系」と同じく長い歴史をもつ「意識低い系」の潮流をその核心とともに分析。時代状況と時代精神に照らしてブームの謎を解くほか、資本主義社会とは切っても切れない自己啓発それ自体の歴史も紐解く。日本人は自己啓発によって何を変えようとしてきたか？

今回は本書をブックガイド的に、要注目な自己啓発書を7冊ピックアップしてみました。

なお中古に送料を足した金額よりも、このKindle版の方がお買い得となっています！

【要注目自己啓発書】

■1.『１％の努力』ひろゆき

　インフルエンサーとしての影響力から見て、「引き算型」の自己啓発の代表選手といえるひろゆきは、堀江の立場から見て完全に真逆である。『１％の努力』（ダイヤモンド社、2020）では、必死の努力でどうにかしようとするのではなく、努力しないで成果が出せる抜け道を見つけることを推奨し、「幸せの総量を増やすことを目標にすればいい」という持論を展開する。社会的な成功に執着して、無駄な努力を積み重ねるのではなく、自分の向き不向きを見極めた上で、幸福を追求することが重要だと述べるのだ。そこで再三強調されるのが自己の適性に見合ったポジショニングである。例えば、特別な才能がなければないなりに、そんなキャラでも重宝される場所を探せばよいとなる。ひろゆきはそれも「１％の努力」だと述べる。

参考記事：【発想法】『1%の努力』ひろゆき（2020年03月11日）

■2.『人生がときめく片づけの魔法』近藤麻理恵

　土井は、まだ起業していなかった無名時代の近藤から100万部を売りたいとの要望を伝えられたものの、Amazonの書籍バイヤーとしての経験から、いわゆる実用書としての「片づけ本」は50万部が限界であることを知っていた。その倍を売り上げるには、本のカテゴリーそれ自体を変えなければならない。そのため、「心そのものを整える、人生をリデザインさえする自己啓発的書」として世に送り出すことにしたのだった。(中略)
　ここで重要なのは、人はモノを捨てるとき「『思い出』や『しがらみ』も同時に捨てているはずだし、そういうところにこそ人は心を動かされる」というものの見方である。成長や成功といった次なるステップに移行する物語には、必ずと言っていいほどブレイクスルーにつながる出来事がある。あるモノを捨てるという行為自体が、過去の自分を清算しつつあることの表れであるからだ。その1連のプロセスが「ドラマ」として人々の心を掴むのだ。それこそが「お片付けによって人生が変わるかもしれない」というリアリティを生み出すのである。こんまりの著作が100万部どころか、いまや全世界で1000万部以上の売り上げを誇ることを踏まえれば、土井が目論んだスピリチュアル×自己啓発という戦略は見事に功を奏したといえる。

参考記事：【強力!?】『人生がときめく片づけの魔法』近藤麻理恵（2011年01月02日）

■3.『夢をかなえるゾウ』水野敬也

　例えば、2007年に発売され、80万部を超えるベストセラー（シリーズ累計460万部）となった作家の水野敬也による『夢をかなえるゾウ』（飛鳥新社）は、関西弁を話すインドの神様・ガネーシャが、主人公のサラリーパーソンの人生を変える寓話的な自己啓発書だが、そこで示される「靴を磨く」「トイレ掃除をする」「がんばった自分を褒める」などの課題（成功するための習慣）は、ヘンリー・フォードや松下幸之助、アンドリュー・カーネギーなどから寄せ集めたものである。これは、第3章で取り上げたベンジャミン・フランクリンの「貧しいリチャードの暦」と同じ手法を採用している。リチャード・ソーンダーズという架空の人物が富を得るための知恵を日訓として人々に語りかけ、それが爆発的にヒットした。架空の人物を登場させる点もそうだが、地味な努力や感謝の心など、人格的な面を重んじているところも共通しており、まさに現代版『貧しいリチャードの暦』といえる。

参考記事：【最強のメンター?】「夢をかなえるゾウ」水野敬也（2007年08月30日）

■4.『脳内革命』春山茂雄

脳内モルヒネの研究でわかったのは、正しく立派な生き方、世の中のためになる生き方をするほど、人間は若々しく健康で病気に無縁でいられるということなのです。
　つまり、ここにおいては、ニューソートの根幹にある「法則性」が、「脳の特性らしきもの」に置き換わっているのだ。加えて、もう一つ同様に着目すべきなのは、前述のように脳はコントロールできるという幻想が「脳内モルヒネ」万能論によって強化されたことにある。「どんなにいやなことがあっても、事態を前向きに肯定的にとらえると、脳内には体によいホルモンが出る。どんなに恵まれていても、怒ったり憎んだり不愉快な気分でいると、体によくない物質が出てくる」――それはあたかも料理のレシピにおける調味料の配合のように、脳のコンディションを随意に〝味変〟できるというもっともらしさであった。現在まで続く脳科学系の自己啓発のひな形になったのである。
　これは別言すれば、自己啓発がスピリチュアルなものから、エビデンスベースのものへと関心が移行する時代の変化を示していた。

■5.『人格改造マニュアル』鶴見済

鶴見は「本書は、自殺もせずになんとか楽に生きていくための実用書」であり、「脳をいじって人格や性格を使い分けたり、まったくの別人格になって一からやり直したりする方法を紹介する」と前置きし、薬物、洗脳、サイコセラピーなどを取り上げた。　同書は、脱力系の自己啓発のエッセンスといえるものであり、「引き算型」の自己啓発へと発展することを予見させるアイデアが随所にちりばめられている。社会的な問題にばかり目を向けていると苛立つだけだとして、「そんな時には自分とその身の回りのことを考えているのが一番だ。性格のこととか、部屋の片づけとか、そういうチマチマしたことを考える時期なのだ」「革命を起こすことよりも、部屋をきれいにすることのほうがよほど重要だ」との主張は、まるで今日の自己啓発市場のトレンドを見越しているかのようである。

■6.『反応しない練習』草薙龍瞬

　30万部超のロングセラーとなっている仏教僧侶、草薙龍瞬の著書『反応しない練習　あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』（KADOKAWA／中経出版、2015）がCBTのアプローチを採用した近刊として好例といえる。草薙は、「実は、私たちの日常は『心の反応』で作られているといっても、過言ではない」と述べ、「その結果として、日頃のイライラや、落ち込みや、先ゆきへの不安やプレッシャー、『失敗してしまった』という苦い後悔などの〝悩み〟が生まれ」るという。その上で、「だとすれば、すべての悩みを根本的に解決できる方法」は「〝ムダな反応をしない〟こと」だと主張する。痩せ我慢ではなく、負の感情を「すばやくリセット・解消する」ことが目指されている。同書は、言うまでもなく「苦しみの原因が執着にある」と説く原始仏教のエッセンスを認知行動療法的なアプローチに落とし込んでいる。

■7.『エッセンシャル思考』グレッグ・マキューン

「時間の引き算」は、まず人生の有限性を強く打ち出した上で、「自分にとって大切なこと、重要なこと以外の時間を潔く切り捨てる」ことを勧め、それを実行することで幸福度が上がり、生産性も上がることを主張している。(中略)
　例えば、マキューンは「エッセンシャル思考の目的は、世間的な成功を手に入れることではない。人生に意味と目的を見いだし、本当に重要なことを成しとげることだ」と述べ、自分がエッセンシャル思考を感じるときをいくつか例示する。「人脈づくりのイベントに行くよりも、子供とトランポリンで遊ぶ」「家族と過ごすために、週1日はソーシャルメディアを一切見ない」等々。ここには先のひろゆきと似た戦略的な〝撤退〟がある。

参考記事：【本質主義】『エッセンシャル思考最少の時間で成果を最大にする』グレッグ・マキューン（2014年11月20日）

【感想】

◆ただ漠然と自己啓発書を読んできた私にとっては、結構「目からウロコ」の作品でした。

上記で列挙した作品でも、ある程度レビューが付いているように（『脳内革命』は読んでいますが、ブログを始めるよりかなり前なのでレビューはナシ）、私もそれなりに自己啓発書は読んでおります。

ただ、それらをグループ化してみたり、流れを追ってみたり、ということはせず、1冊1冊読んでは紹介するだけだったわけでして。

特に冒頭の内容紹介で登場する「引き算型」という概念は、あまり意識したことがありませんでした。

なお、これらの自己啓発書は、別名「意識低い系」と呼ばれるらしく、具体的には「がんばらない」「競争しない」「モノを持たない」といった特徴があります。

◆そしてその「引き算型」の代表格として、第1章で大々的に扱われるのが、西村博之（ひろゆき）氏。

上記の1冊目では、ヒット作である『１％の努力』が挙げられていますが、本書の著者である真鍋さんは、『１％の努力』の編集者である種岡健さんにインタビューを試みています。

ちなみにこの本、47万部を売り上げて、2021年の年間ベストセラーランキングの第4位に入ったのだとか。

また、第2章ではおなじみこんまりさんの『人生がときめく片づけの魔法』を大々的にピックアップ！

その仕掛人である、土井英司さんの裏話は、私は今回初めて読みました。

なるほど、当初からただの「片づけ本」ではなくて、自己啓発書を狙っていたのだとは。

実際、その狙いは見事に当たってますよね。

◆一方第3章では、スマイルズの『自助論』をはじめとした、海外の過去の作品が言及の中心に。

続く第4章では、日本の過去の自己啓発書として、中村天風氏や松下幸之助氏、稲森和夫氏の作品が登場します。

ただ、そういった著者陣の要素をブレンドして大ヒットとなったのが、上記3冊目の『夢をかなえるゾウ』でした。

さすが水野敬也さん、色々と研究されていたのでしょうね。

また、自己啓発書に「脳科学」を加味したのが、第7章に収録されている上記4冊目の『脳内革命』です。

今では「トンデモ本」扱いをされるこの作品ですが、私も出た当時に読んで、結構影響を受けた記憶が。

なお、真鍋さんいわく、本書が現在まで続く、脳科学系の自己啓発のひな形になったとのことです。

◆さらには上記5冊目の『人格改造マニュアル』は、私はまったく知りませんでした。

確かに上記の引用部分を読んでも、現在でも「科学的自己啓発書」として通用しそうなコンテンツを、1996年に出しているのはスゴイです。

なお、ミニマリストの第一人者である佐々木典士さんや、日本一有名なニートことphaさんは、この鶴見済さんからの影響を公言しているのだとか。

また、宗教からの影響を考えた場合に外せないのが、上記6冊目の『反応しない練習』でしょう。

私はお恥ずかしながらこの本を読んでいないのですが、この本のヒット以降、お坊さん系の自己啓発書の著者が増えた印象があります。

それにしてもこの本、CBT（認知行動療法）的なアプローチをとっているとは知りませんでした。

◆なお、第8章では、「引き算型」の自己啓発書にも2通りあることが述べられています。

1つが「時間の引き算」で、上記7冊目の『エッセンシャル思考』がその代表作。

同じ著者の『エフォートレス思考』も同様のようです。

エフォートレス思考努力を最小化して成果を最大化する

参考記事：【思考術】『エフォートレス思考努力を最小化して成果を最大化する』グレッグ・マキューン（2021年12月08日）

もう1つが「思考の引き算」で、前述の『反応しない練習』が代表作とのこと。

こちらの『Ｃｈａｔｔｅｒ（チャッター）』も「重要な視点を提供している」と、推奨されていましたので、ご参考まで。

Ｃｈａｔｔｅｒ（チャッター）―「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための２６の方法

参考記事：【脱内省?】『Ｃｈａｔｔｅｒ（チャッター）―「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための２６の方法』イーサン・クロス（2023年07月18日）

自己啓発書好きなら、読むべき1冊！

人生は心の持ち方で変えられる？～〈自己啓発文化〉の深層を解く～ (光文社新書)

【Ⅰ】引き算型自己啓発現在
第1章なぜひろゆきブームなのか
第2章お部屋から革命を起こす

【Ⅱ】足し算型自己啓発過去
第3章それはアメリカ建国の父から始まった
第4章中村天風から松下幸之助へ

【Ⅲ】終わりなき自己啓発未来
第6章『自助論』――150年の誤読
第7章終わりなき「自分磨き」へようこそ
第8章幸福度競争社会