【文章術】『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』斉藤友彦:マインドマップ的読書感想文

2025年04月09日

【文章術】『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』斉藤友彦

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、2月の未読本記事にて取り上げていた文章術本。

先日、「琥珀色の戯言」さんのレビューがバズっていたのを見かけて、気になって読んでみました（★5つの高評価ですし）。

アマゾンの内容紹介から。

共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPVを数々叩き出してきた著者が、アナログの紙面とはまったく異なるデジタル時代の文章術を指南する。
これは報道記者だけではなく、オンラインで文章を発表するあらゆる書き手にとって有用なノウハウであり、記事事例をふんだんに使って解説する。
また、これまでの試行錯誤と結果を出していくプロセスを伝えながら、ネット時代における新聞をはじめとしたジャーナリズムの生き残り方までを考察していく一冊。

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【ポイント】

■1.新聞の基本の形「逆三角形」

　さて、最初に言いたいのは、「新聞記事の書き方には、1つのパターンがある」ということだ。
「はじめに」でも述べたが、このパターンは、私が勤める共同通信社内では「逆三角形」と呼ばれている。一言で言えば、読者に伝えるべき最も大切なニュースの内容を、記事のできるだけ前に持ってくるというもの。段落単位で考えると、前にあればあるほど重要な内容で、段落が後ろにいくほど重要度が下がるということになる。当然、最も重要な要素は第1段落に置かれる。この第1段落は、新聞では「リード」と呼ばれている。
　リードには、記事が伝えるニュースの結論が書かれている、と言い換えることもできる。新聞記事は一般に、1行が11字～12字詰めになっており、リードは平均10行～20行ぐらいという感覚。
　つまりリードは100字程度、長くても200字程度ということになり、この中にニュースのエッセンスを詰め込むことになる。

■2.カギカッコが文頭に来るとストレス

　たとえば、こんな一文。読みにくいと感じますか？
【例】「危険運転事故についての東京地裁の判決は～という点で問題がある」と○○弁護士は語り、憤りを隠さなかった。
　この文の何が問題なのか、と私は思っていた。新聞ではよく出てくるスタイルだから。指摘された問題点は、カギカッコの位置だ。最初にカギカッコ、つまり発言内容が来て、その後に発言者とその気持ちが書かれている。複数のモニターがこの文体に読みにくさを感じていた。その理由をもう少しかみくだいてほしいと頼むと、1人がこんなふうに説明してくれた。
「カギカッコの中が短ければまだいいけれど、カギカッコ内の発言が長いと、誰が何を言いたいのか分からないまま読まないといけないから、途中で読みたくなくなる。カギカッコを読み終わって、その後ろに発言者とか発言した意図とかが出てきて、そこでやっと『ああそういうことか』と分かるのはストレス。誰が何を言いたいのかを、カギカッコの後じゃなくて、前に置いてほしい」

■3.接続詞と指示語を多用する

　次のポイントは、接続詞と指示語を多用することだ。読者がストレスを感じているのは、段落が変わるたびに、「次は何を読まされるのか」が分からないこと。第2章で紹介した、モニターになってもらった人たちから指摘された点の1つだ。読者は少しずつストレスをためながら読み進めている、という感覚を書き手は気にする必要がある。
　このストレスを避けるには、段落の冒頭に接続詞を置いて、前の段落との関係を明確にすることが有効だ。「次はこんな話が展開されるのだな」と読者が予測しやすくしたほうがいい。接続詞でなくとも「この点は」「その問題は」などの指示語を使うことで、前の段落との関係が明確になる。(中略)
　指示語や接続詞の多用は、新聞業界で生きてきた私からすれば「やりすぎかな」と思うことが多い。飾りすぎ、ゴテゴテしているようにも感じる。〝ソリッド〟な文章に慣れた記者たちの美学にも反するかもしれない。ただ、気軽にスマホを眺める読者の視点に立てば、こちらのほうが圧倒的に読みやすいようだ。

■4.説明文ではなくストーリー

　読んでもらうためにまずすべきことは、繰り返し述べているように、文章を徹底的に分かりやすくすること。
　その好例として私がいつも思い浮かべるのが、司馬遼太郎の小説だ。私自身も中学、高校生の頃は、読書が苦手だった。「面白いよ」と友人らから勧められた文庫本を手に取っても、読んでいる途中で投げ出したくなる。そんな私でも、なぜか司馬遼太郎の歴史小説だけは読み通すことができた。
　大人になって記者になり、読書が習慣化した後で読み返した時、改めてその圧倒的な読みやすさに驚いた。「まるでマンガ」とすら思った。だからこそ中学生の自分でも読めたのだと納得した。デジタル記事で私が実現しようとしたのも、この圧倒的な分かりやすさと、テンポの良さだ。
　それをどう具体化するか、どうすれば途中で飽きられないかを考えた挙げ句、たどり着いたのが、まずは文章をストーリーに変えることだった。
　翻って、新聞記事が離脱されてしまいがちなのは、簡単に言い切ってしまえば文章が「説明文」になっているからではないかと思う。

■5.新聞衰退の本当の原因

　新聞がこれほどの勢いで発行部数を減らし続けている原因は、何から来ているのだろうか。各種の調査によると、その要因はスマートフォンやSNSの普及とされているが、本当にそれだけだろうか。私が業界の中に居続けて感じている点は、少し違う。
　簡単に言うと、新聞を制作する私たちが、読者の変化についていけていなかったことなのではないかと思っている。この章で述べてきた通り、1つ1つの記事がどう読まれているか、読者の立場に立って十分に考えてきたとは思えない。表現が分かりにくい形式になっているかどうかを探らず、「自分たちが分かるから読者も分かるはず」と決め付けてきたのではないか。
　新聞社には、記事に対する読者からの感想が恒常的に寄せられている、と反論されるかもしれない。しかし、そうした感想の多くは新聞を読み慣れた上で記事の内容についてコメントしているものであって、文章のスタイルが読みにくいといった感想はあったとしても少数だろう。読みながらストレスを感じ、よく理解できないと思った読者は、わざわざ感想を寄せず、単に購読をやめて新聞と縁を切ると考えるほうが自然だ。読者のストレスに新聞社側があまりに無頓着だった点も、部数減少の一因なのではないだろうか。

【感想】

◆本書の著者である斉藤さんは、共同通信にお勤めの「デジタル事業部担当部長」というお方（余談ですが、「47NEWS」が共同通信のWEB媒体だとは知りませんでした）。

表紙の帯部分に大きく書かれた「新聞記者って文章が『下手』ですよね？」というフレーズは、その斉藤さんが15年ほど前に、ある出版社の編集者から言われたものです。

当時からずっとその言葉がモヤモヤした疑問となっていた斉藤さんは、その後デジタル向けに記事を出す新設部署の「デジタルコンテンツ部」に配属されることに。

そして実際にネットで記事を配信するようになって、初めてその言葉の真意を知るようになります。

そのもっとも大きな理由は、上記ポイントの1番目に挙げた新聞記事の基本フォーマットである「逆三角形」。

記事の要点が最初の方に凝縮されているため、普通の読者なら窮屈ですぐに離脱してしまいます。

◆実際に芸能記事等に比べて、極端にPVが低い現実に直面した斉藤さんは、読者にモニターを依頼。

幅広い年齢層の人に聞いた中で出てきたものの1つが、第2章から引用した上記ポイントの2番目のカギカッコの使い方です。

ぶっちゃけ私も、例文を読んで何の違和感も感じなかったクチなのですが、この程度の長さで「ストレス」と言われるのは目からウロコでした。

さらには

「～」と話した。

のように「カギカッコの後ろに述語が来るのも嫌」という指摘には、斉藤さんのみならず私もビックリの巻。

　これも驚きだった。新聞では当たり前のように使われているこの形がそんなに読みにくいのだろうかと不思議に思い、週刊誌を開いてみて、さらに驚いた。
　確かに、週刊誌ではカギカッコの次に述語が来る形は極端に少ない。その時は喫茶店で話を聞いていて、試しに店にあった「週刊文春」を開いてみたことを覚えているが、ほぼ皆無だった。

私もまったく気がつきませんでしたよ……。

◆一方第3章では「デジタル記事の書き方」と題して、逆にどのように書くのが良いかを指南。

その1つが、上記ポイントの3番目にある「接続詞と指示語の多用」です。

この辺は新聞のみならず、一般的な文章術本でも真逆のことを言われていますが、ネットではこちらが正解とのこと。

ちなみに斉藤さんいわく、接続詞と指示語の多用によって、「Yahoo!ニュースで読者が「わかりやすい」をつける数が、以前より格段に増えている」のだそうです。

こういうフィードバックが得られるのが、ネットの利点だと強く思う次第。

ちなみに接続詞については、私自身本で指摘されるたびに反省しつつも、まったく削らなかったのですが、どうもそれで良かったようです。

◆続く第4章の章題は「説明文からストーリーへ」。

まさにその内容を反映しているのが、上記ポイントの4番目です。

なお、こうした「ストーリー重視」に伴い、場面の描写をより具体的にする必要があり、結果、関係者からもより詳細に話を聞くようになったのだとか。

また、この章で割愛した中で興味深かったのが、47webのポッドキャストの次の指摘です。

デジタル記事を読んだ後、記事に付いているURLを頼りにポッドキャストを聴きに来る人は一定数いる一方で、音声番組を聴いた後、番組の概要欄に付けたURLから記事に来る人はごく少数、というよりほとんどいなかったことだ。

つまり「テキスト→音はあっても、音→テキストがないという一方通行」ということ。

私は同じコンテンツだったら聞くより読む方がはるかに速いので、「聞かないで読む」（ポッドキャストの意味なし）と思いますが、この「一方通行」の理由は知りたいところです。

◆そして上記ポイントの5番目は、第5章から抜き出したもの。

上記でフィードバックの話に触れましたが、結局、こういう「ちょっとした文章表現の違和感」を発行側が知りようがないことが、新聞離れにつながっているのでしょう。

私は子どものころから新聞を読み、未だに毎日新聞を読んでいますが、それは私が古い世代だからかもしれません。

もちろん、コストの問題もあるでしょうけど、タダで読める我が家の子どもは、2人とも新聞を読んでいませんから、コストだけではなさげ。

いずれにせよ本書は、ネットで文章を発表する方にとっては一読の価値があると思います。

ボリュームの関係で割愛してしまったのですが、冒頭の内容紹介にもあるように「記事事例をふんだんに使って解説」されているのもポイント高し！

多くの人に読まれる文章を書くために！