【ノンフィクション指南】『本を書く技術　取材・構成・表現』石井光太:マインドマップ的読書感想文

2025年03月29日

【ノンフィクション指南】『本を書く技術　取材・構成・表現』石井光太

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「文藝春秋文春ウルトラ電読フェア！」の中でも気になっていた文章術本。

ノンフィクションの名手である石井光太さんが、取材から執筆まで丁寧に指導してくださる1冊です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

朝カルの講座でも大人気！　
ノンフィクションの名手が贈る「伝わる」表現のための新バイブル
・メディアが見落とす、テーマの“空白地帯”を見つけよ
・「違和感」「矛盾」「現場ならではの言い回し」こそ記録する
・ ICレコーダーは使わない、“脳を活性化”するノート術
・「構成力」で本は決まる――9つの「型」の力を借りよう
・「見上げて」「驚く」ライティング術の真髄とは？
・五感描写、キャラクター造形法の門外不出テクニック…etc.
プロの取材技術、書籍水準の構成力・表現力……暗黙のノウハウのすべてがここに。

送料を加味した中古よりも、このKindle版が700円以上お買い得です！

【ポイント】

■1.ノンフィクションの基本法則

　そもそもノンフィクションは、文芸作品の1つだと私はとらえている。文芸とは「言語を用いて作られる芸術」の意だ。文章芸術としての作品である以上、本は読者の深い感情や知的好奇心を揺さぶるだけの力を備えていなければならない。
　ノンフィクションが、レポート（報告書）と異なるのは、どのような点だろう。一言で表せば、そこに感情や知的好奇心を刺激する作用を起こす〝ストーリーによる意味の変化〟があるかどうかだ。
　レポートの役割は「○○がありました」という事象や数値的データの報告だ。特定の情報をテキストにして、正確に伝達するだけのものである。
　一方で、ノンフィクションには「○○が△△をして××になりました」と事象の流れと変化を示す内容が含まれていなければならない。これがストーリーによる意味の変化だ。

■2.マスメディアとは別の角度から切り込む

　世の中の常識は、マスメディアが流す大量の情報によってできている。トヨタは世界に先駆けてハイブリッド車をヒットさせて大きな利益を叩き出したとか、大谷翔平選手は周囲の反対を押し切って二刀流を実現したといったことだ。
　このような常識的ニュースそれ自体には、ノンフィクション本としての金銭的な価値はほとんどない。書き手に求められているのは、世の中に広まっている常識そのものを覆すことだ。マスメディアとは別の角度から切り込むことで、想像もしなかった側面があることを示し、事実そのもののイメージを変える。
　ここでは5つほど方法論を挙げたい。
1.事実を世間の視点とは反対の、個の視点から見ていく。
2.常識や制度を打ち壊す人物・出来事にスポットを当てる。
3.大きな出来事の新側面を資料等を紐解いて明らかにする。
4.ニッチな題材や見過ごされていたものに新たな価値をつける。
5.マスコミが扱わない大テーマの中のタブーに踏み込む。
（詳細は本書を）

■3.自由な発言に潜む意外性こそが鉱脈

「世間ではあの事件についてこう考えられて（報じられて）いますよね。正直なところ、あなたは、それについてどうお感じになりますか」
　何気ない聞き方だが、ここには2つのポイントがある。1つが、世間の常識（メディア報道）に対する反論を尋ねている点だ。こういう聞き方をすれば、常識や報道とは対極にある情報が出てくる確率が高まる。
　2つ目が、事実の確認ではなく、相手の感情を聞く質問である点だ。人は「この情報は正しいですか」と聞かれれば、事実に即して「正しいです」としか答えようがないが、こう尋ねられれば、「事実だけ見れば正しいけど、実はこんなこともあった」とか「世間の人の気持ちはわかるけど、私はこう感じる」と枠に捕らわれない回答をするものだ。
　このようにして相手の話の中に意外性という鉱脈を見つけたら、即座にそれを掘り下げていくべきだろう。事前に用意していた質問をすべて脇に置いて、どうしてその意外性のある展開が生まれたのかと一点集中で聞くのだ。

■4.「上から目線」にならないようにする

次の2つのうち、どちらの書き方が読者に受け入れられやすいだろうか。
A「清原選手は法律を破って反社会組織から覚醒剤を購入して常用していた。犯罪に手を染めた者は法によって裁かれるべきである」
B「私の子どもが清原選手の活躍に憧れ、同じようなプロ野球選手になりたいと夢見ていた。事件以降、子どもは落胆して野球をやめてしまった。清原選手が子どもの夢を裏切った代償は大きい」
　Aの方が、上から目線で断罪しているように読めるのではないか。これには理由がある。Aは法律を守れというお上の立場（清原選手より上の立場）から批判しているのに対し、Bはプロ野球選手に憧れていた子ども（清原選手より下の立場）に寄り添いながら批判しているのだ。
　つまり、書き手が上の立場から物を言えば大上段に構えているように受け取られるが、下の立場や被害者に寄り添うようにして苦言を呈すれば比較的受け入れられやすくなるのである。

■5.12歳でも読めるものにする心がけで

　私が出した大人向けの著書もいくつか児童を対象としたシリーズになっているが、それは本を書く時に「12歳の子どもが読める文章」を目指しているからだろう。少なくとも表現に関しては12歳の子が最後まで読めて、理解できて、心を揺さぶられる体験ができるものにするように意識しているのだ。(中略)
　実は、本の対象年齢を下げるのは、読者層を広げるだけでなく、物語をシャープにすることにも役立つ。
　前章でジャンルの型を借りるというところでも話したが、書き手はできるだけストーリーから余分な〝贅肉〟を削ぎ落とし、鋭いものにしなければならない。本の対象年齢を下げれば、書き手は否応なく専門的な用語や小難しい解説を排除しなければならなくなる。これによってストーリーがより磨き上げられるのだ。
　万人が読める作品にするというのは、文章のレベルを幼稚なものにするということではなく、作品を極限まで磨き上げ、読者の心にストレートに届くようにするということなのである。

【感想】

◆本書もハイライト引きまくりました。

ノンフィクションの本を出す気のない私ですらこうなんですから、逆に作家になる夢を持つ方だったら、本書はバイブルと言ってもよいのではないかと。

何せ、本書の冒頭の「はじめに」には、こんな一節があります。

本書は、WEBで多少の文章は書いているという人たちが、1冊の商業出版に堪えうる本の原稿をどう生み出したらよいのか ── そのギャップを埋めることに主眼を置いている。

つまり、ブログなりSNSなりnoteなりに、文章を綴っている方が、ノンフィクションを出すためのTIPSが詰め込まれている次第。

一方、当ブログでも、「作家」「著者」を目指す方のための作品を、何冊かご紹介してきましたが、どちらかというと、「文芸」や「ビジネス書」が中心で、ノンフィクション作家を目指す作品は、こちらぐらいでした。

調べる技術・書く技術 (講談社現代新書)

参考記事：【バイブル!?】『調べる技術・書く技術』野村進（2011年07月28日）

上記の本も「名著」と言われていましたが、本書も決して負けていないと思います。

◆ちなみに当ブログでは、書籍ではなく、レポートを書くための作品ならそれなりにご紹介してきましたが、こうしたレポートとノンフィクションの違いは何なのか？

それについて述べられているのが、その「はじめに」から抜き出した上記ポイントの1番目です。

ただ「意味の変化」と言っても、ちょっと分かりにくいかもしれないので、上記で割愛した事例をご紹介。

たとえば公園を舞台に文章を書くとして、そこに空き缶が転がっていたとします。

ここで「公園に1本の空き缶がありました」と書いただけでは、ただのレポートにしかなりません。

ただし、そこに難病の小学生の兄と健康な弟が来て、「入院前に少しだけ遊ぼう」と缶蹴りをしたのならば、後に残された空き缶は、美しい思い出となります。

　最初はゴミに過ぎなかった空き缶が、兄弟の行動によって、かけがえのない思い出を生んだ遊具となる。このように意味の変化が生じることで、初めて空き缶を文章化したことの作品上の意義が生まれるのだ。

これはエッセイでも1冊の本でも共通なのだそう。

◆また、第1章ではキモとなる作品のテーマを考えます。

ここで気をつけなければならないのが、マスメディアが取り扱うような王道テーマだと、勝ち目がないということ。

つまりマスメディアがやらないような「切り込み」が必要なわけで、それに関して方法論を5つ挙げたのが、上記ポイントの2番目になります。

本書ではこの5つに関して、それぞれ詳しく解説してくれているのですが、その際、具体例として、実際のノンフィクションの作品を列挙。

1番目からそれぞれ順番に挙げておきますが。

甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実―（新潮文庫）

こんな夜更けにバナナかよ筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち

死刑の基準「永山裁判」が遺したもの (講談社文庫ほ 41-3)

ネットと愛国 (講談社＋α文庫)

聖なるズー (集英社文庫)

ちなみに本書の他の個所でも、このようにノンフィクション作品が多数具体例として紹介されているため、ブックガイド的にそれらが読みたくなるのも、本書の優れたところだと思います。

◆また、上記ポイントの3番目は、第3章から抜き出したもの。

こういう気の利いたインタビューテクニックは、類書ではあまり見かけた記憶がありません。

特に「相手の感情を聞く」というのは、なるほど意外性のある回答が得られそうです。

ただし書き手が「意外」だと感じても、他の人にとってはそうではない可能性もあるため、それが万人にとっての意外性なのかを判断するには、次の2つを条件にすると良いとのこと。

〈世間の常識を覆しているか〉
〈誰も知らない事実か〉

このどちらかの条件を満たしていれば、「ノンフィクション作品として堪えうる新事実である」といえるのだとか。

◆……と、ここまでライティング的な話が出てこなかったので、あわてて第6章の「ライティング術」から抜き出したのが、上記ポイントの4番目。

私たちは、ついつい意見や感想を「上から」言ってしまいがちですが、ここにあるように「下から」寄り添うのが正解です。

要は「ジャッジ」をしないこと！

　文芸としてのノンフィクションは、ストーリーを通して読者に自由に何かを感じさせたり、考えさせたりするものである。そこが学術論文や批評とは決定的に異なるところだ。書き手はドラマの製作者であって、裁判官ではない。この認識が弱いと、書き手は無自覚のうちに登場人物や出来事に審判を下してしまう。

同じように、ライティングというほどでもないですが、意識しておきたいのが、上記ポイントの5番目です。

こちらは第7章から引用したのですが、まさかそこまで年齢層を下げるとは、私も正直意外でした。

ただし、「物語をシャープにすることにも役立つ」と言われると、返す言葉もなく……。

実際に著者の石井さんの作品のいくつかが、児童向けになっていることからも、おっしゃっていることは正しいのだと思います。

なお、巻末には本書で登場した参考文献が収録されており、そのまま「お勧めノンフィクションリスト」として銘打たれているのもポイント高し！

ノンフィクションを読むにも書くにも、まずはこの1冊から！