【小説指南?】『これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。』中村航:マインドマップ的読書感想文

2025年03月13日

【小説指南?】『これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。』中村航

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、昨日の「祥伝社新書セール」の前日ランキングで上位に入っていた、小説の書き方の指南本。

何せセール期間が今日までなので、投稿も早めにしましたが、お求めになる場合は今日中でお願いします。

アマゾンの内容紹介から。

小説家が教える、小説の書き方
どうすれば小説を書けるのか、しかも新人賞を受賞するような小説を。
「本書があればもっと早くデビューできた」と語る著者は理系出身で（工学部卒）、まったく準備のない状態で小説を書き始めたため、試行錯誤を繰り返した。そのなかで、うまくいったことだけ、役に立ったことだけをまとめたのが本書である。
最初にすることは「ペルソナ」を作ること。あとは、目次通りに実践してみよう。
小説の終わらせ方まで、丁寧に指導してくれる。
著者が主宰した小説講座からは新人賞の受賞者が相次ぎ、今も第一線で活躍している作家がいる。次はあなたの番です。

中古に送料を足すと、ほぼ定価並みのお値段となりますから、このKindle版が400円弱お買い得です！

【ポイント】

■1.オリジナリティは組み合わせで作る

　オリジナリティを、神聖なものと考える必要はないです。逆に、高度に情報化されたこの世の中にはもう、オリジナルなんてものはないんだ、と開き直る考え方も、クリエイターにとっては無意味です。
　たとえばみなさんのなかに、生花店でアルバイトをしている、あるいはしていた人はいるでしょうか？　それって普通のことのように思えますけど、充分オリジナリティの種になるんじゃないでしょうか？
　オリジナリティは〝組み合わせ〟に宿ります。
　ぱっと思いつくテーマは、およそ誰かがすでに取り上げていますから、組み合わせを考えてみましょう。たとえばバンドものの小説、というだけでは新規性はありませんが、バンド×生花店の小説、となると、とたんに新しくなりますよね。ダム×バンドでも良いし、生花店×料理でも良い。
　目の前には無限のオリジナリティがあるのに、ありがちなテーマや流行のモチーフをなぞるのはもったいないと思います。

■2.未来へ向かうプロットと過去に向かうプロットの交点がクライマックス

　拙著『トリガール！』（角川文庫）では、坂場が過去を乗り越えた瞬間、人力飛行機アルバトロスが空に飛び立ちます。同じく拙著『デビクロくんの恋と魔法』（小学館文庫）では、デビクロ通信第一号の謎が解けた時、主人公はヒロインへの告白へと走り出します。
　どうでしょうか？　さきほどご説明したように、読者がページをめくる理由は、①未来が気になる、あるいは②過去が気になる、です。この両方がクライマックスに向けて展開していく。シンプルな考え方です。そんな小説なら、自分にも書ける気がしませんか？
　要はメインプロットに対するサブプロットを考えるのと、2つの交点を考えるだけで良いんです。純文学であれエンターテインメントであれ、おもしろい小説の構造はこうなっていることが多いです。

■3.日常から非日常に行って戻ってきた時成長している

　主人公は、日常から非日常に行って戻ってきます。そして戻ってきた時、主人公は成長（変化）しています。
『桃太郎』もこの一例です。主人公の桃太郎は鬼ヶ島という異国へ旅をし、鬼を倒して名声と金銀財宝を得て戻ってきます。まさに日常から非日常への冒険をし、主人公が成長している物語です。
　イギリスの児童文学『不思議の国のアリス』（ルイス・キャロル）も同じ構造です。服を着た白うさぎを追いかけて穴に落ち、夢のような冒険をして（実際は夢だったのですが）現実に戻ってくるという話です。結果、主人公の成長や変化があります。
『浦島太郎』（作者不詳）、『銀河鉄道の夜』（宮沢賢治）、『坊っちゃん』（夏目漱石）、『オズの魔法使い』（ライマン・フランク・ボーム）、『指輪物語』（ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン）なども、この構造になっています。

■4.主格を統一する

　昨日、街を歩いていたら、危険な目に遭った。怪しい販売員が私に声をかけてきて、すぐ近くのビルの2階に案内され、突然、スマホ契約の話が切り出されたのだ。
　この文章、言いたいことは伝わるのでスルーしてしまうかもしれませんが、1つの段落のなかで、主格が何度か入れ替わり、非常に読みにくいです。
　昨日、街を歩いていたら、危険な目に遭った。→主格は「私」
　怪しい販売員が私に声をかけてきて、→主格は「怪しい販売員」
　すぐ近くのビルの2階に案内され、→主格は「私」
　突然、スマホ契約の話が切り出されたのだ。→主格は「スマホ契約の話」
　読み手は、「○○は」という主格が書いてあったら、その立場で考え、その立場に共感しながら文章を読み進めます。なので、せめて1つの段落のなかでは、1つの主格で表現したほうが良いです。途中で主格が入れ替わるのがダメだとは言いませんが、あまり頻繁に主格が入れ替わると、共感対象が定まらず、目がチラチラします。

■5.比喩は必殺技

　そもそも、言語とは比喩である、と言っても良いと思います。たとえば、「海」という言葉は、あの巨大な水たまりを「海」という言葉で定義しているわけですが、定義している、と、喩えている、は同じことです。
　だから何かを説明しなければならない時も、それを比喩でできないか、と考えてみてください。心情を説明する時、手順を説明する時、動作を説明する時、関係性を説明する時、比喩を使えば鮮やかでわかりやすく説明できます。
　このように物事をわかりやすく説明することができて、また人の目を引くことのできる比喩ですが、〝転じる〟と一緒で、ちゃんと意識していないと書けません。やっぱりそれを考えるのは、負荷がかかるからです。だからチャンスがあったら比喩を使おう、という意識を常に持っておくことが大事です。

【感想】

◆私自身は久しく「小説」ないしは、それに類する文芸系の作品を読んでいないのですが、皆様ご存知のように、ビジネス書の中には物語形式を用いるものもあります。

ただ、それらはあくまで、ビジネス的なエッセンスといいますか、「情報」なり「知識」なりが前提としてあって、それを「物語」として体裁を整えた感じ。

つまり、純粋な小説に比べると、どうしても話としての面白さは二の次にならざるを得ません。

実際、読んでいる私たちビジネスパーソンにしてみたら、多少ストーリー展開に無理があろうが、その本から得られるビジネス的な要素が秀逸ならば、問題ナシ、となるのではないでしょうか。

そもそも、こうした本の場合、学習的な効果を目的とすることが大半でしょうから、メンター的な人物が、主人公にレクチャーする、という形式がお約束ですし。

◆もちろん、そうした制約がある中でも、物語として完成度の高い作品を目指すのであれば、本書の内容は非常に役に立つでしょうし、ビジネス書関係なく純粋に小説を書きたい方なら、なおさら読んでおくべきでしょう。

たとえば、第1章から引用した、上記ポイントの1番目のお話は、私にとってはパーソナルブランディングでもおなじみの手法。

1つの経験やネタだけなら弱くとも、別の何かと組み合わせたら、立派なオリジナリティです。

ちなみに、本書に収録されたエピソードによると、著者の中村さんは、親友の友人が、小説（恋愛要素のある学園もの）を書いているものの、二次選考より先に進めなかっただそう。

アドバイスを求められた中村さんは、その親友と友人が、休日にカートのレースをしていると知り、そのことを恋愛要素のある学園ものの小説と組み合わせるよう勧めます。

するとそれから1年くらい後に、彼は実際にその小説で賞を取ってデビューしたのだとか。

◆また、個人的に「なるほど」と思ったのが、第2章から抜き出した、上記ポイントの2番目のお話。

私は残念ながら、ここで挙げられている2つの作品を読んだことがありませんが、代わりに本書にあった簡単な例をご紹介しておきます。

　メインプロットのほうで、主人公とヒロインの恋が進みます。だけどなかなかうまくはいきません。同時にサブプロットが進行します。ヒロインのつらい過去がだんだん明らかになっていきます。だけど主人公の助けもあって、ヒロインはそのトラウマを乗り越えることになります。その瞬間こそが、図の交点です。それによってメインプロットにおける二人の恋の障害がなくなり、2人の恋は劇的に前進することになるわけです。

……何となく思い当たるフシのあるパターンではないでしょうか？

というか、「過去回想シーン」がある物語の場合、そこにおける問題が解決すると、一気に「現在のシーン」が動き出している気がします（特にマンガ等）。

◆さらに指摘されて「あるある」となったのが、第3章からの上記ポイントの3番目。

古今東西、多くの名作が「主人公の成長譚」であることは、異論がないでしょう。

なお、ここにおける「非日常」には、過去の回想も含みます。

たとえば映画『タイタニック』がこの構造とのこと。

現代のタイタニック号の調査のシーンがあって、そのあとおばあさん（ヒロイン）の回想（本編）が始まります。最後はまた、現代に戻ってきます。
　つまりこれは、現在という日常から、回想という非日常の旅をして、現在という日常に戻ってきているわけです。観客からすると、回想を終えたおばあさんは冒頭のシーンとは違って見えます。その違いが成長（変化）ということになろうかと思います。

なるほど、納得！

◆一方、第5章では文章術がテーマなのですが、さすがにここは小説的な要素が満載でした。

特に、割愛しましたが段落の構成のお話で、「説明・プレゼン型」と「説得・共感・感動型」を比較しているのですが、基本的に私たちビジネスパーソンは、前者ばかり目にしているんですよねー。

必要に応じて使い分けてはいるものの、「読み応え」という点では後者に軍配が上がるのも仕方がないところ。

この辺は、本書にて具体例の比較で確認してください。

なお、上記ポイントの4番目で挙げた「主格」のお話は、私は引用された具体例を読んでも、問題点に気がつきませんでした。

ということは、自分が書く際に、同じ過ちをしている可能性が高いので、今後は注意しなくては……。

◆また、上記ポイントの5番目は、第7章の「小説の書き進め方」から抜き出したもの。

小説における比喩は、一般的には表現の美しさや巧妙さを目指すことが多い（中村さんいわく「言語表現の圧倒的な花形」）のですが、もう1つの役割が、ここに挙げたように理解を促すこと。

と言いますか、私たちが読むビジネス書で比喩と言ったら、ほぼすべてこちらですよね。

こうした比喩表現は、別に小説や物語形式のビジネス書を「書く」「書かない」にかかわらず、他人に説明をするのに重宝しますが、普段から使おうと心がけていないと使えない模様。

確かにいざ説明するときに、急に良い比喩が天から降ってくるワケがないですから、日頃の意識が大事なんですね（反省）。

小説家にならなくとも一読の価値アリ！

これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。 (祥伝社新書)

はじめに――小説の書き方って学べるの？
序章そもそも小説って何だろう
第1章アイデアの出し方
第2章こうすれば、おもしろくなる
第3章物語の構造を活かそう
第4章小説の設計――タイトル、プロット、キャラクター、ストーリー
第5章ここだけは押さえる文章術
第6章小説の書き出し
第7章小説の書き進め方
第8章小説の終わらせ方
おわりに――創造におけるミラクル