2024年12月04日
【世界観】『有と無: 見え方の違いで対立する二つの世界観』細谷功
有と無: 見え方の違いで対立する二つの世界観
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日とりあげた今月の「Kindle月替わりセール」における人気作。おなじみ細谷功さんの現時点での最新作になります。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
私たちの「ものの見方」には、突き詰めれば大きく二つのタイプ、すなわち「ある型」思考と「ない型」思考がある。この両者間の「ギャップや認知の歪み」が世界を動かしている……と著者は説きます。
本書では、「世の中そう簡単に二択で表現できるものではない」という疑問にも丁寧に答えながら、「二つの思考回路」が織りなすギャップや衝突のメカニズムをひも解きます。そこからは、私たちが世の中の事象に対して抱くモヤモヤ感を晴らすヒントが見えてきます。
値引率が「68%OFF」と高いため、このKindle版が1200円弱お買い得です!
【ポイント】
■1.「ある」と「ない」の非対称性「家にあるもの」の問題で考えてもらったように、私たちは、・自分の身の回りにありを中心に考える癖があります。
・具体的に形があるもの
対して、本来ある膨大な「ないもの」の領域は、少し視点を変えて「上空から俯瞰的に」眺めることで初めて見えてくるものだということです。
私たちがいかに自分の五感や経験を中心に考えるかということが、この例題からもわかるでしょう。おそらく圧倒的多数の人たちが、本来「無限に」あるはずの「家にないもの」よりも「家にあるもの」のほうを(少なくとも30秒という短い制限時間内では) 数多く挙げることができたであろうことがそのことを物語っています。
ここに本書のキーメッセージの1つである「ある」と「ない」との非対称性が明確に示されています。
「ある」と「ない」という言葉は通常対立概念として一見同列のように思われますが、実はこれらは同列ではなく、そこに認知の 歪みが生じていて、それが大多数の人の世の中の見方をつかさどっているというのが本書の根底にある仮説です。
■2.「正解」があるかないか
わからないことがあればネットで調べてそれが「正解」だと思う、ネットやテレビで「専門家」が言っていることを「正解」だと信じてしまう、本を買えばそこに「こうすれば成功する」という正解があると思っている、尊敬している人に「どんなことをすれば、あなたのようになれますか?」という質問をするなど、このような言動はすべて「だれにもあてはまる正解がある」という前提で動いているようにしか見えません。
テレビのクイズ番組は圧倒的に「正解がある」問題ばかりです。「正解はないので、あとは皆さんで考えてください」などという番組を放送したら、おそらく視聴者からの非難で大炎上となることでしょう。
つまり、ここでも「実際には正解がない問題のほうが圧倒的に多いのに、大多数の人たちは正解があるという前提で動いている」(あるいは世の中を単純化して正解があると思いたい) という本書の基本的な仮説があてはまっているように見えるのです。
■3.「カイゼン」と「イノベーション」
「カイゼン」と「イノベーション」は、「『変数』があるかないか」でとらえることができます。ここで「変数」といっているのは、例えば工場でいえば「コスト」「不良率」「稼働率」、あるいは「生産リードタイム」といったような数値化された指標のことです。製造業の現場では、往々にしてこのような指標を「解くべき問題」として設定します。例えば「不良率〇〇パーセント以下達成」とか、「生産リードタイム〇日以内」などです。(中略)
このような世界観では、製品やサービスの開発というのは、いまある変数を並べて、いかにそれを最適化して競合より優れたものを作るかという、いわば「比較表」型の製品・サービス開発となります。つまり、カイゼン型の製品・サービス開発では常に比較表的発想で競合より優れているとか劣っているという議論になります。
これに対して、「いまない変数」を新たに創出することを目的とするイノベーションでは、そもそも他社が持っていない変数を生み出してそこで差別化しようとします。
■4.「他人とはちがう」「みな同じ」
頻発している「意識されていない非対称性」は、「自分のことは具体的、他人のことは抽象的に語る」という「具体と抽象」に起因するものです。
他人には無責任に一般論を語るのに、自分にその一般論が向けられるととたんに自分ならではの特殊事情を語りはじめるというやり取りは、日常生活でもよく見られます。
「特殊と一般」という対比は具体と抽象の関係に起因するものであり、自分は特殊でオンリーワンの存在であり「他人とは違う」と思いたがる一方で、他人のことは一般化して「みな同じ」だと考える。それも「自分と他人」の構図に起因するものといえます。
また、序章で示した「安全と危険」の例を思い出してください。「自分」のほうが「ある側の領域」に属する場合もあるし、「ない側の領域」に属する(つまり自分と他人が逆転する) 場合もあります。
例えば、他人の短所はすぐ見つける(ある側)のに、自分の短所は何かと正当化して見ないふりをする(ない側)といったようなことです。これらも「自分と他人の非対称性」に由来するものであるといえます。
■5.「知識」があるかないか
認知心理学の世界で「ダニング゠クルーガー効果」と呼ばれている一種の認知バイアスがあります。簡単に表現すると「わかっていない人ほど、わかっていると誤解している」ということです。
一方でソクラテスの唱えた「無知の知」(「知らない」ということを知る) という言葉はある意味この真逆の状態を表すもので、「本当に賢い人ほど、自分はわかっていないと思っている」ことを端的に表現しています。対して、「わかっていない人ほど、わかっていると誤解している」は「無知の無知」(「知らない」ということを知らない) ということができます。
日常生活やSNSでよく見られる現象です。・事情をよく知らない人ほど「自分が正しい」と思って断言的な主張をする(「ある型」の思考)。こうした「ある型」と「ない型」の二者がやり取りをすれば、「実はわかっていない人が、本当はわかっている人を相手に論破して勝ち誇る」という現象が後を絶たないことになります。
・一方で、「自分が知らないことがあるかもしれない」と疑ってかかる人は、安易に自分の正しさを主張せずに「自分は間違っているかもしれない」という姿勢を崩さない(「ない型」の思考)。
【感想】
◆久しぶりに「細谷節」を堪能できました。本書はシリーズ第4作目ということで、シリーズ名が付けられてはいないものの、装丁の雰囲気からして、こちらの作品群に続くものであることは明らかです(各作品の内容紹介でシリーズ作品であることには触れられていますし)。
具体と抽象
参考記事:【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)
「無理」の構造 この世の理不尽さを可視化する
参考記事:【非対称性?】『「無理」の構造 この世の理不尽さを可視化する』細谷功(2021年02月28日)
自己矛盾劇場 ―「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する
参考記事:【自己矛盾?】『自己矛盾劇場: 「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する』細谷 功(2021年06月19日)
そして、過去3作同様、本書も細谷さんらしい視点と考え方に則ったもの。
細谷さんのファンの方なら、いつもどおり楽しんでいただけることは間違いないでしょう。
◆さて、今回のメインテーマは、上記ポイントの1番目にある「ある」と「ない」の対比。
「ものの見方」における「ある型」思考と「ない型」思考の、比較や双方の位置づけについて、全19章(序章と終章を含む)で語られています。
ちなみにここにある「『家にあるもの』の問題」とは、序章の冒頭に掲載された次の2つの問いのこと。
[問1]家にあるものをリストアップしてください(30秒間)確かに「30秒」と区切られると、あるものの方が簡単に挙げることができます。
[問2]家にないものをリストアップしてください(30秒間)
ただしよく考えていただきたいのですが、実はないものの方が「天文学的」に数が多いのは明らか。
この辺、「具体と抽象」問題を含めて、「認知の歪み」があるわけですね。
◆続く上記ポイントの2番目の「正解」も、細谷さんの著作では何度か触れられていたもの。
ただしこちらも、上記ポイントの1番目のように認知の歪みがあると、「世の中のほとんどの問題に正解がある」と考えてしまいます。
さすがにVUCAの時代にもなって、それではアカンのですが、「コスパ」「タイパ」を意識してしまうと、最低労力&最短時間で「正解」を求めてしまう次第。
これはたとえば上記ポイントの3番目でいうところの、「正解」がある「カイゼン」ならできるようなものです。
日本人は「イノベーション」が苦手ということはよく言われますが、「カイゼン」と対にすると、なるほど苦手なのも無理はありません。
これはいわゆる「問題発見」と「問題解決」の関係に近いような。
◆一方、上記ポイントの4番目の「人は自分を特別にしがち」というのも、どちらかのコンサルタントさんが書いた本にありました。
たとえば何らかの業務改善案を出しても、「ウチは特別だから無理」と言われた話ですとか。
同様に自分が成功したら「実力」で、他人の成功は「運」と思うみたいな話もよく聞きます。
それがさらに極端になると、上記ポイントの5番目の「ダニング゠クルーガー効果」に至ると思われ。
ダニング=クルーガー効果 - Wikipedia
相変わらずネットでは「実はわかっていない人が、本当はわかっている人を相手に論破して勝ち誇る」ケースをいくらでも目にしますが、問題は「わかってない人」に「あなたはわかってないんですよ」と言っても聞く耳をもたないこと。
そういう方には、ぜひとも本書を読んでいただきたいて、ご自分を客観視してもらえたらな、と。
お得なセール期間にぜひともお読みください!
有と無: 見え方の違いで対立する二つの世界観
序 章 歪みとギャップが世の中を動かしている
第1章 「答えがある」と「答えがない」
第2章 問題解決と問題発見
第3章 カイゼンとイノベーション
第4章 レッドオーシャンとブルーオーシャン
第5章 具体と抽象
第6章 魚と釣り方
第7章 自分と他人
第8章 「同じ」と「違う」
第9章 安定と変化
第10章 守りと攻め
第11章 受動と能動
第12章 ツッコミとボケ
第13章 常識と非常識
第14章 内と外
第15章 閉と開
第16章 部分と全体
第17章 既知と未知
終 章 「無の境地」とは何か
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【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)
【問題発見】『問題発見力を鍛える』細谷 功(2020年08月21日)
【具体⇔抽象】『「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』細谷 功(2020年03月26日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。地球の歩き方 B22 アルゼンチン チリ パラグアイ ウルグアイ 2020-2021
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