【自分の存在理由?】『遺伝子はなぜ不公平なのか？』稲垣栄洋:マインドマップ的読書感想文

2024年11月19日

【自分の存在理由?】『遺伝子はなぜ不公平なのか？』稲垣栄洋

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは先日の「未読本・気になる本」の記事の中でも最もお求めいただいている中の1冊。

著者の稲垣さんは、遺伝子の専門家ではないものの、生物の遺伝子戦略について、多角的に解説されています。

アマゾンの内容紹介から。

遺伝子は、私たちが生きるための武器だ――。
生物の進化の歴史から学ぶ、ダメな自分の存在理由
なんの結果も出せないとき、自分の努力不足や能力のなさを呪ってはいけない。
それはすべて、遺伝子のせいだ。
・平凡な自分にどんな価値があるのか？
・秘めた可能性はどうやったら見つかるのか？
・遺伝子の本当の目的とは何か？
懸命に生きるあなたへ贈る、植物学者からの渾身の努力論。

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【ポイント】

■1.正解がないときに生物はたくさんの個性を用意する

　目の数が2つなのは当たり前ではないか、と思うかもしれないが、実際にはそうではない。
　たとえば、多くの昆虫は2つの複眼の他に、3つの単眼という目がある。つまり、目が5つあるのである。(中略)
　生物は、最適な形に進化をする。
　もし、正解の形があるのであれば、その形に進化すれば良いだけの話だ。
　目の数は2つが正解である。だから、目の数に個性はないのだ。
　首の短いキリンはいない。それは、キリンにとっては首が長いのが正解だからだ。
　足の遅いチーターもいない。それは、チーターにとっては足が速いことが正解だからだ。
　しかし、正解がないときに、生物はたくさんの個性を用意する。
　それが遺伝的な多様性である。
　遺伝的に多様な集団であることで、あらゆる環境に対応し、さまざまな環境の変化に対応しようとしているのである。
　ベストな答えがないとき、生物はさまざまな答えを用意する。そして、「多様であること」を重視するのである。

■2.生物は意味のない個性を持たない

　心配性の人は、物事に慎重だ。
　神経質な人は、几帳面だ。
　飽きっぽい人は、好奇心の幅が広い。
　自分を主張できず周りに流されやすい人は、協調性に富んでいる。
「個性」は生物の戦略である。
　個性は、正解のない中で示された答えの1つである。生物は、不必要な個性は作らない。そう考えれば、すべての個性は必ず強みを持っているはずなのだ。
　生物は必要のない個性は持たない。
　個性があるということは、その個性が人間にとって必要ということなのだ。
　どんなに自分のことが嫌いでも、
　どんなに自分の容姿に自信がなくても、
　どんなに自分の性格が気に入らなくても、
　私がこの世にいるということは、この個性に意味があるということなのである。

■3.自分のパーツは箱を開けてみなければわからない

　たとえば、私たちの人生がレゴのようなブロックで何か作り上げるようなものだとしよう。消防車を作りたいのに、赤いパーツが足りないかもしれない。
　そんなとき、赤いパーツをたくさん持っている人をうらやんでもしょうがない。
　持っているパーツで消防車を作るしかないのだ。
　もしかしたら、他の人よりもたくさんの青いパーツを持っているかもしれない。
　それなら、別に青いパーツで消防車を作ってみるのも悪くはない。
　あるいは、青いパーツをたくさん持っているのであれば、広々とした海の風景や、南の島の楽園を作ることができるかもしれない。
　大切なことは、あなたがどのようなパーツを持っているのか、手持ちのパーツを「明らかにする」ことだ。
　そのためには、たくさんの経験をしなければ、ならない。
　色々なものを作ってみなければ、どんなパーツを持っているか明らかにならないからだ。

■4.この世に生まれてきたことがアタリ

　親ガチャという言葉がある。
「ガチャ」というのは、ソーシャルゲームやカプセルトイの自販機などで、1回まわすと、ランダムに何かが出てくる仕組みのものである。たとえば、カプセルトイなどでは、いくつか種類がある中の1つが出てくるから、自分の欲しいものが出てくるとは限らない。このアタリとハズレがあるドキドキ感が、ガチャの魅力だ。
　もっとも、遊びなら良いけれど、それが親だとたまらない。
「親は自分で選べない」、どの家に生まれるかは運次第。それが親ガチャである。
　しかし、どうだろう。この世に生まれるというのは、そんな簡単なことではない。
　この家に生まれるか、あの家に生まれるかという選択ではない。
　この親だから、あなたは生まれたのだ。もし、別の親の組み合わせだったとしたら、あなたは生まれていない。この世に存在することはないのだ。
　生まれるか、生まれないかが、本当のアタリとハズレなのだ。
　ということは、親が誰であろうと、たとえ自分の家が気にくわなかったとしても、この世に生まれてきたことがアタリなのだ。

■5.誰にでも居場所はある

　自閉スペクトラム症の人は対人関係が苦手だが、その代わり、天候を観察したり、まわりの動物の動きを察知する。
　私たちの祖先がまだ弱い存在だったときに、自閉スペクトラム症の人がいる集団は、自然災害や外敵の襲来などの危険をいち早く察知して、身内どうしの交流ばかりに気を配っている集団よりも、生き残る可能性が高かったのかもしれない。
　あるいは、ADHD（注意欠如・多動症）と呼ばれる人たちもいる。集中力がなく、注意力が散漫で、落ち着きがないという人たちだ。(中略)
　注意力が散漫だから、あらゆるものに好奇心がある。他の人たちが何かに集中しているときに、群れに迫る危険を察知したり、他の人が気づかなかったりする道具やエサ場を見つけ出すことができたかもしれない。
　私たちの祖先がまだ弱い存在だったときに、ADHDの人がいる集団は、有利に生き残ることができたのだろう。
　私たちの集団の中に、一般的に「障害者」と呼ばれる人たちが、一定の割合で出現することには、きっと意味があるはずなのである。

【感想】

◆思いのほか、ボリューミーな引用になってしまいました。

ただ、字数的には普段とあまり変わらず、単に改行が多用されているだけのこと。

私は本書の著者である稲垣さんの作品を、今まで読んだことがなかったのですが、上記ポイントでもお分かりいただけるように、内容に反して（？）結構エッセイチックな軽めの口調で語られています。

まず、冒頭のプロローグで明らかにされているのが、運動音痴の稲垣さんのご家族のこと。

何でもお父さんはスポーツ万能で、また、お母さん方のお祖父さんは柔道家で、当時のオリンピックの選手よりも高段位だったのだそうです。

ただし、そのお祖父さんの娘である、稲垣さんのお母さんは運動音痴で、その血を引いた稲垣さんも足の遅い遺伝子を持って生まれた次第。

◆そこで稲垣さんは問いかけます。

「足の遅い遺伝子にどんな意味があるのか？」

それを受けて本書の第1章では、個性の意義について掘り下げます。

たとえば上記ポイントの1番目にあるように、生物は最適な形に進化し、逆に正解がなければ、多様性を発揮するとのこと。

ただし、第2章から引用した上記ポイントの2番目にあるように、個性に意味がない、ということはないのだそうです。

実際、植物でも種子が早く落ちたり、遅く落ちたりして、種としての全滅を避けたりするケースもあるのだとか。

……そう考えると、なるほど足が遅いことにも、何らかの意義がありそうな気がしますね。

◆もっとも、自分の遺伝子がどういう性質を持つかは、自分自身がわかってないケースも多そうな。

それがゆえ、自分のことを明らかにせよ、と説いているのが、第3章から抜き出した上記ポイントの3番目。

とにかく色々なことにチャレンジしないと、分からないことも多いです。

稲垣さんいわく

「何でも作ることができる」というわけではないけれど、きっと「何かを作ることができる」。それも、他の人にはできない「あなただけの何か」を作ることができるのだ

ちなみに稲垣さんは「努力せずに読書感想文を書ける」遺伝子をお持ちなのだそう。

◆一方、2つ飛んだ第6章から引用したのが、上記ポイントの4番目。

大体において、「親ガチャ」の前提としてあるのが、自分がまず生まれることになっていて、その生まれ先がどこか、という論点かと。

でも、実際には「2～3億個の精子」の中から、たった1つ受精に至ったのが「自分」なのですから、宝くじ以上の倍率です。

まさに「この世に生まれてきたことがアタリ」というのも当然なのですが、なかなかそうは思えない人が多いのも分からないでもなく……。

そして最後の5番目のポイントは、本書の第7章の「欠点には意味がある」からのもの。

ここで触れられているように、自閉スペクトラム症の人や、ADHDの人がいてこそ、私たちの社会も存続しえたと言えるのではないでしょうか。

きっと本書を読んで、励まされる方もいらっしゃると思いますし、そういう方に本書が届くことを願ってやみません。

自分の存在理由を確認するために読むべし！