2024年10月21日
【マーケティング】『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』丹羽亮介
マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本ストア12周年キャンペーン」でも人気の1冊。これが思ったよりも「直球ど真ん中」なマーケティング本で、ある意味新鮮でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
本書では、古典的な事例から最新の事例まで、96個の企業事例を参考にしながらマーケティングの全体像を押さえていただくようにしています。
ちなみに、本書は動画配信プラットフォームUdemyの「はじめてのマーケティング」という動画講義がもとになっています。
現在、3万6000人を超えるビジネスパーソンがこの講義を受講しています(2024年6月現在)。
本書は、「マーケティング思考を身につけて成果を上げたい」と考えている、すべてのビジネスパーソンの皆さまにおすすめの1冊です。
中古に送料を加えると定価を超えますから、このKindle版が1300円弱お買い得です!
【ポイント】
■1.ニーズとウォンツの違いを意識する身近な例として「掃除機」で考えてみましょう。皆さんは、掃除機のニーズは何だと思いますか?
おそらく、ほとんどの方が「部屋をきれいにすること」と答えるのではないでしょうか。
では、それを踏まえた上で1つ質問をします。
1994年に日本で発売され、6年後の2000年には世帯普及率が45%と爆発的にヒットした、掃除機と同じニーズを満たす商品があります。さて、何でしょうか?
ロボット掃除機の「ルンバ」を思いついた方が多いかもしれません。しかし、ルンバは2002年発売なので不正解です。
答えは「クイックルワイパー」です。立った状態のままで床の雑巾がけができる優れものの掃除道具です。この商品は電機メーカーではなく、日用品メーカーの花王が販売しています。
多くの電機メーカーが掃除機の吸引力向上や騒音抑制といったハードウェアのスペック向上に血道を上げている市場において、顧客ニーズを深堀りした花王が見事に成功した事例といえるでしょう。
■2.ローソンの顧客セグメンテーション
ローソンは既存顧客を来店頻度や購入金額だけではなく、顧客が持つと思われる価値観に応じて9つのセグメントに区分しています。
たとえば、「直感買いワーカー」は20代男性サラリーマン、「脱メタボワーカー」は30〜40代男性サラリーマン、「食欲旺盛ワーカー」はいわゆるガテン系の力仕事をしている方たちをイメージしています。(中略)
ここで重要なことは、この9セグメントそれぞれで顧客ニーズがまったく異なるということです。PONTAカードの顧客データを調べると、ローソン、ローソン100、ナチュラルローソンでは9セグメントの割合がまったく異なるそうなので、顧客構成の違いはそのまま各店舗の商品戦略に反映されるでしょう。
たとえば、ローソン100の客層は食欲旺盛ワーカーが多いので、唐揚げ弁当は大盛りにして、ボリューミーで満腹感のあるものにしたほうが良さそうです。一方、ナチュラルローソンにご褒美女子が多いのであれば、仮に唐揚げ弁当が売れるとしても、量や唐揚げのサイズなどのテイストはかなり変えたほうがよいでしょう。
■3.大戸屋の店舗展開
もともと大戸屋は1958年の創業ですが、1992年火災で全焼した吉祥寺店の建て直しの際に「おしゃれな定食屋」というコンセプトに転換します。
そして当時、定食屋の顧客といえば「独身男性」のイメージが強かったのですが、大戸屋は新たな客層として女性を取り込むことを狙って、女性の気持ちを徹底的に調査しました。
その中のアンケート調査から女性は「1人で外食するのが苦手」という意見が浮かび上がってきました。しかし、女性は本当に「1人での外食」が苦手なのでしょうか? これについて詳しく調べてみると、1人で外食することが苦手なのではなく、「1人で店に入るところを見られたくない」という気持ちのほうが強いことがわかりました。
そこで大戸屋は、路面店ではなく、飲食業界では一般に集客力が 弱い とされるビル地下や2階以上にあえて店舗をかまえ、女性顧客の支持を集めることに成功します。
顧客ニーズを店舗展開に活かすことによって、従来であれば悪立地とされる場所を好立地に転換した事例といえるでしょう。
■4.ポジショニング・マップを書いている時点で負け?
「AといえばB」「アレといえばコレ」など、言葉・イメージと商品・サービスを紐づけることがポジショニングの本来の考え方です。それであれば、そもそもポジショニング・マップのように「軸」を設定すること自体が望ましくないともいえるでしょう。
たとえば、モスバーガーの場合、「ハンバーガーといえばモスバーガー」と、すぐに連想できるほど認知されていないからこそ、わざわざ「健康志向/特にこだわらない」という軸を追加して、顧客に認知してもらっているということになるからです。
つまり、本当に強い商品・サービスであれば、そもそもポジショニング・マップは不要なのです。さらに言えば、軸が多ければ多いほどポジショニングは弱く、軸が少ないほど強いポジショニングができているということになります。
■5.幸楽苑と日高屋の違いとは?
ここで幸楽苑と日高屋という2つのラーメンチェーンについて考えてみましょう。
同じラーメンチェーンであっても、幸楽苑はファミリー向けのラーメンチェーン、日高屋はサラリーマン向けのちょい呑みを狙ったラーメンチェーンなので、4Pには大きな違いが生まれます。
たとえば、販路・流通(Place)であれば、幸楽苑は郊外のロードサイドやショッピングセンター内などに、日高屋は大都市圏の駅前繁華街などにあります。
メニュー(Product)についても、幸楽苑はラーメン、チャーハン、餃子やお子様セットといったファミリー向けの料理がメイン。それに対して日高屋は、料理以外にもアルコールとおつまみの一品メニューが豊富ですし、営業時間も深夜まで、あるいは24時間営業のお店もあり、ビジネスパーソンの取り込みを狙っています。
このように、同じラーメン店であってもターゲット顧客や満たそうとしている顧客ニーズが違えば4Pも異なりますし、それぞれに一貫性も必要だということです。
【感想】
◆冒頭でも触れたように、「直球」といいますか、いかにも王道的なマーケティング本でした。しいて言うなら、大学のマーケティングの授業のテキストとして使われていても、おかしくないくらい(私は選択したことはありませんが)。
なるほど「動画配信プラットフォームUdemyの『はじめてのマーケティング』という動画講義がもと」になっているだけのことはあります。
もちろん、それが悪いことではまったくないのですが、通常出版にまでこぎつけるような作品は、他との違いを打ち出すために「●●マーケティング」のように、ひと癖もふた癖もあるような施策を持ち出してくるもの。
ところが一周回ったのか、昨今の「独学」や「学び直し」の風潮なのか、本書は思いっきり真っ当です。
かといって、本エントリーで、「ニーズとは」ですとか「セグメンテーションとは」みたいな、説明部分を抜き出していたらさすがに面白くないので、本書に96個も収録されている事例絡みのものを多めに選んでみました。
◆まず第1章では、それこそ「マーケティングとは何か?」という「はじめの一歩」がテーマになっています。
ということで、これまた基本である「ニーズとウォンツの違い」について述べているのが、上記ポイントの1番目。
これ、「掃除機と同じニーズを満たす商品」とありますから、掃除機ではないと判断できますが、「掃除用品」とぼやかされたら「ダイソン」と答える人も出てきそうです(年度がもっと違いますが)。
要はそれだけ、「掃除=掃除機」という固定概念があるわけで、「クイックルワイパー」と即答できる人は少ないんじゃないでしょうか。
ちなみに、こうした「顧客視点」を持たなかった例として、ANAの海外ホテル事業が挙げられていましたが、確かに外国行ってまで、日本のホテルに泊まりたいか、と言ったら……。
◆続く第2章ではセグメンテーションとターゲティングがテーマです。
そのセグメンテーションの非常に分かりやすい例が、上記ポイントの2番目のローソン。
ここでは9つあるセグメントのうち3つしか載せませんでしたが、残りは「ご褒美女子」「時短効率ママ」「家庭的手料理ママ」「節約パパ・ママ」「保守堅実シニア」「上質プレシニア」の6つになります。
最近のローソンといえば、増量キャンペーン(「デカ盛り」「盛りすぎチャレンジ」等々)が有名ですが、確かに事務所の近くのローソンではチラホラ見たものの、家の近所のナチュラルローソンでは、ついぞや見かけませんでした。
また、割愛した事例で興味深かったのが、AGFが作った「コーヒーギフト市場」です。
テレビCMの「♪コーヒーギフトは〜」でおなじみですけど、言われてみたら、自分の飲むコーヒーとギフト用のコーヒーにどんな違いがあるか、考えたこともありませんでした。
……それなのにワタクシ、お中元で毎年AGFのコーヒー贈ってるんですよねw
◆一方第3章から引用した、上記ポイントの3番目の大戸屋のお話は、大昔にこちらの本で読んだことがありました。
ビジネス界に脈々と伝わる先人の知恵 業界のセオリー
参考記事:【ネタ満載!】「業界のセオリー」鹿島 宏(2010年07月21日)
……知らぬ間に画像が持ち込みみたいになっていますし、Kindle版もないしで、時代を感じるんですがw
それはさておき、この話を初めて知ったときは、かなり目からウロコで、実際、その頃通勤途中にあった中目黒の店舗は2階ですし、今でもたまに通う銀座の店舗は地下、と腑に落ちまくりました。
さらには、第4章から抜き出した、上記ポイントの4番目のポジショニングマップのお話は、それ言われたら、身も蓋もないですよね。
ただ、気をつけなければいけないのは、せっかくポジショニングをしても、大手の模倣戦略に飲まれてしまうこと。
たとえば、昨今のようにマクドナルドが健康志向にシフトすると、モスバーガーがポジショニングの軸にしている「健康志向/特にこだわらない」という分け方そのものに意味がなくなり、モスバーガーのポジショニングは消滅してしまいます。これは怖い……。
◆そして上記ポイントの5番目のラーメンチェーンのお話は、第5章からのもの。
ここ、本来は「4P」の解説の流れからの事例なのですが、上記でも触れたように、いちいち4つのPが何か、みたいなお話は、割愛させてもらいました。
もっとも、本書ではそれぞれの「P」について、かなりページを割いており、私も知らなかったのが「商品(Product)」のパートで述べられていた「サービス・ドミナント・ロジック」 と呼ばれる考え方です。
たとえば、自動車の場合、メーカーは「売ったら終わり」かもしれませんが、顧客にとっては「買ってからが始まり」です。つまり、顧客が購入して初めて「自動車に乗る」という、顧客価値の提供が始まるのです。顧客が欲しいのは自動車(商品) そのものではなく、自動車から得られる便益(サービス) であって、企業は「売ったら終わり」という発想では支持を失っていくでしょう。そういえば、テスラの車とかは、ソフトをアップデートしてますしね。
なるほど、大昔にマーケティング本を読みまくっていた頃とは、また時代が違ってきているのだな、と。
マーケティングを基礎から学べる良書です!
マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ
第1章 マーケティングとは何か?
第2章 顧客ニーズを発見する
第3章 より深い顧客ニーズを洞察する
第4章 「アレといえばコレ」
第5章 顧客ニーズの具体化伝達
第6章 ブランド戦略
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【マーケティング】『「戦略力」が身につく方法』永井孝尚(2013年09月29日)
【名著!】「売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則」アル・ライ, ジャック・トラウト(2008年04月08日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。プログラミングコンテスト攻略のためのアルゴリズムとデータ構造
読む人をメチャクチャ選ぶ作品。
中古は値崩れしていますが、定価が高いこともありKindle版が1200円以上お買い得です!
【編集後記2】
◆一昨日の「文藝春秋 読書の森フェア2024」の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想 (文春新書)
クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術 (文春e-book)
老けない最強食 (文春新書)
独裁の中国現代史 毛沢東から習近平まで (文春新書)
よろしればご参考まで!
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