【人を育てる】『活の入れ方』工藤公康,九重龍二,藤平信一:マインドマップ的読書感想文

2024年09月24日

【人を育てる】『活の入れ方』工藤公康,九重龍二,藤平信一

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「電本フェス後夜祭」の中でも人気の1冊。

部下やお子さんとの接し方にお悩みの方には、良いヒントが詰まっていると思います。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

どんな仕事もスポーツも、勝って成果を上げるためには、妥協を許さない厳しさ、貪欲に自分を鍛える必死さが欠かせない。
だが、それをどう教えればいいのか？
ハラスメントを恐れ部下に迎合するリーダーが増えるなか、誠実な指導者ほど葛藤を抱える時代になった。
重要なのは、ぶれないこと、押し付けないこと、腹を割って話すこと、愛ある厳しさで臨むこと
――プロ野球界・相撲界のレジェンドと、国内外の名リーダーが師事する「心身統一合氣道」の継承者が忖度なく語り合った、出色の指導者論にして勝負論。

中古は値崩れ気味ですが、送料を考慮すればこのKindle版に軍配が上がります！

【ポイント】

■1.くどくどした説教より、心に火をつける

「あるとき、師匠は俺に、こんな言葉をかけてくれました。『入門当時、俺は60キロしかなかった。その俺が、大関になって横綱になったんだ。お前は入門したときから120キロもあるじゃないか。そんな恵まれた体を持っているお前なら、もっとできるだろ。俺だってできたんだから、お前ならできるはずだろ。
　俺は田舎で陸上競技しかしていない。でも、お前は柔道も空手もやってきた。俺なんかより、よっぽどすごいんだ。だから、できる。努力を怠るんじゃない』と。
　こんな話を、あの大横綱からされたら、泣いちゃいますよ。そりゃあ、自分を厳しく追い込まなきゃならなくなる。そうだ、俺はここに遊びに来たんじゃない、と改めて思い返しましたね。厳しい世界にいると、初めの志とか熱い想いみたいなのは、薄れるときがあるんです。師匠は、それを見逃さない。ああ、とんでもない世界に来ちゃったなあ、とも思ったんですけど（笑）、でもその厳しさは、俺にとっては励みでしたね」（九重龍二）

■2.「成果」という物差しだけではない

　たとえば、現代社会では「成果」という〝物差し〟がよく使われます。仕事で言えば、「どれだけ成果を上げたか」で、その人の価値が測られる。学校で言えば成績、スポーツで言えば戦績。つまり「勝ち負け」が、その人の価値になっていて、「勝てばよい。負ければダメ」という評価が下されます。(中略)
「勝負」の世界ならそれは仕方ない、という人もいます。しかし、たとえプロの世界であっても、物差しが「成果」の一点だけでは、疲弊して、次第に気力も失せてきます。好調のときはよくても、それがずっと続くことはありません。
　そこで私は、他の「物差し」も持つことを、お勧めしています。それは「自分の持てる力をきちんと出せたかどうか」という物差しです。野球でたとえるならば、バッターが「ボールをバットの芯でとらえられたか（ジャストミートできたか）」です。　ボールをバットの芯でとらえた打球が、たまたま守備の正面に行ったということがあります。結果は、アウトかもしれませんが、それは未来につながるアウトです。次の打席はホームランになるかもしれません。ところが、「成果の物差し」だと、ボテボテのヒットでも「良し」と思ってしまいます。でも、それは未来に続きません。この物差しを持っているうちは、成長を阻害してしまうのです。（藤平信一）

■3.一人の"微差"がチームの"大差"になる

「私が選手に言っていたのは『微差が大差を生む』ということです。
　これは〝妥協〟に関することで、『まあ、いいか』という〝小さな妥協〟が、やがては大きな差となるよ、ということをくり返し言っていましたね。
　野球はチームスポーツですから、一人が妥協したら、周囲の人間も必ず妥協し始めます。『ああ、それでいいのか』と。そしてチーム全体が妥協するようになっていきます。そんなチーム、勝てるわけがありません。
　選手だけじゃなく、コーチや監督の私にも同じことが言えます。
　本当は選手に指摘して修正すべきことがあるのに、『まあ、今日はいいか』と言葉を飲み込んでしまうことがあります。でも、一つ妥協すると、明日も『まあ、いいか』、明後日も『まあ、いいか』と妥協が続いてしまうのです。(中略)
　厳しいことを言うようですが、自分に妥協した途端、その選手は、それ以上、成長もしなくなります。だから、私たち指導者は、鬼だと思われても、常に言うべきことは言うし、やらせるべきことはやらせないといけないのだと思うんです。（工藤公康）

■4.殴られたことを肯定するのは成功者だけ

「俺、いま、偉そうなこと言ってますけど、最初は迷いました。殴られるのが当たり前の世界で育ちましたから。そんな俺が、それを否定するようなこと言っていいのかなって。
　でも、思ったんです。『殴られて、気持ちがいい人っていうのは、成功者だけだ』と。俺もそうですけど、三役や横綱になったような人たちは『師匠に殴られたから、いまの自分があるんです』と言います。だけど、そう言えるのは、成功者だからですよ。
　叩かれて逃げた子は、たぶん、一生、相撲界のことを嫌いますよ。それがトラウマになって、何らかの障壁になっている人もいるかもしれません。
　俺は、親方になるまで、そんなこと一切考えもしませんでした。(中略)
　だけど、いまの子たちは違います。やっぱり、俺のやり方や昔のやり方に合わせるのではなく、いまの子たちに合ったやり方を探さないといけない。もちろん、全部がうまくいくわけではなくて、失敗だらけなんですけど、それでもくじけずにそこから学んでやっていくしかないと思っています」（九重龍二）

■5.ゆるみは言葉に表れる

「たとえば、選手がキャンプで投げます。最初は〝ここに投げる〟って思って投げているのに、そこにボールが行かない。すると『まあ、3球に2球行ってるからいいよな』なんて言ってる。そういう発言を聞くと『ん？ちょっと待てよ』と思っちゃいますね（笑）。
　おそらく、その選手の頭の中では、ちょっとした変化でしかありません。『去年頑張ったし、今年はまだ調子が上がってないだけだ。開幕までにはなんとかなるだろう』なんて思ってるんです。だから、本当にそうなのか、私は観察するんです。その選手のピッチングだけじゃなく、ランニングとか、守備練習とかも見に行きます。で、真剣にやってる姿が見えればOKなんですけど、そこにもゆるみが見えるなら危険信号ですね。そんなときは、すぐに伝えるようにします。
　ちょっとしたゆるみや変化って、本当に自分では気づかないんです。だからこそ、私たちのような指導者が必要なんだと思います。外から観察しなきゃ微差はわかりませんから」（工藤公康）

【感想】

◆著者名にお三方が並んでいますが、工藤さんと九重さんは、野球や相撲という日本の国民的スポーツで名を馳せた方々ですから、ご存知の方も多いと思います。

一方、最後の藤平さんは、冒頭の内容紹介にもあるように、「国内外の名リーダーが師事する『心身統一合氣道』の継承者」ということで、つい先日も当ブログでは、こちらの作品をご紹介したばかりでした。

心と体が自在に使える「気の呼吸」

参考記事：【気の力】『心と体が自在に使える「気の呼吸」』藤平信一（2024年08月14日）

上記の本をお読みの方はご記憶にあるかもしれませんが、藤平さんがかつてロサンゼルス・ドジャースに「気」の指導に赴いたのは、野球評論家の広岡達朗さんの依頼に応えたもの。

そして、若い頃やんちゃ坊主だった工藤さんを指導したのが、その広岡さんということで、実は本書では、お三方のお話以外にも、広岡さんのエピソードがちょくちょく出てきます。

一方で九重さんの現役時代の師匠は、かつて"ウルフ"と呼ばれた先代九重親方であり、そちらのお話も豊富に。

たとえば第1章から引用した、上記ポイントの1番目で「師匠」とあるのは、その先代九重親方です。

実際、このように「心に火をつける」親方も、九重さんが入門時に初めて先代に会った瞬間、「あ、この人には殺される」と思ったのだとか。

……まさに第1章のタイトルにある「鍛錬とハラスメント」を地で行きますね。

◆続く第2章は「体づくり」のお話なので割愛して、続く第3章は「素質」がテーマ。

残酷なことに、九重さん曰く「力士の強さは7割が素質」なのだそうです。

そもそも格闘技ですし、クラス分けもないですからしょうがない部分はあるものの、その素質には「素直な性格」も含まれるのだとか。

また、工藤さんのお話では、指導者にも選手を見極める力が求められる、という指摘もありました。

その上で、藤平さんが言われていたのが、上記ポイントの2番目の「成果」のお話。

いわゆる「過程」と「結果」で二分する話とはちょっと違って、「自分の持てる力をきちんと出せたかどうか」という「物差し」は大事ですし、藤平さんもご自身の心身統一合氣道会では、その物差しに沿って指導されているそうです。

私も子育てにおいて、この視点は大事だと思いました。

◆一方、第4章は「個」と「集団」がテーマであり、そこから抜き出したのが、上記ポイントの3番目。

まさに「個」が妥協すると、「集団」に悪影響を与えてしまうわけです。

それは全体への影響を考えたら、「鬼」にならざるを得ず……。

とはいえ、かつての体罰的な指導を否定しているのが、上記ポイントの4番目です。

ここの前の部分では、九重さんが「自分が親なら、自分の子を九重部屋に入れたいか」と自問して、部屋を変えていった旨述べられていました。

実際、先代の頃は張り詰めた空気だったのが、今は笑顔がある「真剣に楽しくやる雰囲気」なのだそうです。

他にも階段の高さからシャワーの位置まで、皆で話し合って決めたとのこと（詳細は本書を）。

◆なお、最後の5番目のポイントは、本書の第5章から抜き出したもの。

ここだけの話、この章で一番面白かったのは、工藤さんが現役の頃、ハムストリングスの肉離れをきっかけに、「科学的だけどキツイ」トレーニングを指導されて、37歳にして筋力のピークが来たエピソードなのですが、興味のある方は本書にて。

……47歳まで現役で活動できた秘密が、ここにあったとは。

そういえば、上記で九重さんが部屋を改革した件に触れましたが、工藤さんも広岡さんの指導法とはかなり変えていて、選手に寄り添っている印象を受けました。

まさか共通の話題を求めて、選手のオススメしたネトフリの作品を観たりしているとは!?

ただし、上記ポイントの5番目にもあるように、そこは選手をしっかり観察していますから、ご安心を。

マネジメント本として、一読の価値アリです！