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2024年08月18日

【科学的自己啓発書】『才能の科学 人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法』マシュー・サイド


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才能の科学 人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本(電子書籍) 夏セール」の中でも人気の科学的自己啓発書。

『失敗の科学』のヒットで知られるマシュー・サイドが、「才能」に取り組んだ意欲作です。

アマゾンの内容紹介から。
ビジネス、スポーツ、芸術、学問……「才能がないから」と諦めている人へ。世界的ベストセラー『失敗の科学』『多様性の科学』著者による、科学的な能力の伸ばし方。『非才!』を改題復刊。

送料を足した中古よりは、このKindle版が800円以上お買い得です!






【ポイント】

■1.現在の限界を超える課題に取り組む
 1990年代に、フィギュアスケートの実体をよく浮かび上がらせる研究がおこなわれた。一流スケート選手と二流以下のスケート選手では、遺伝子にも性格にも家庭環境にも大きな違いは見られなかった。違いがあったのは練習の種類だ。すぐれたスケート選手たちはつねに現在の能力をこえるジャンプを試みるが、ほかのスケート選手たちはそれをやらない。
 注目してほしいのは、一流のスケート選手がより難易度の高いジャンプに取り組んでいるだけではないことだ。すぐれた選手にはどのみちむずかしいジャンプが求められる。肝心なのは、一流スケート選手が 自分のすぐれた技量から見て、 もっと難易度が高いジャンプに挑戦することだ。結論は直感にそぐわないものなのだが、事実を浮き彫りにしてくれる。つまり、一流のスケート選手は練習の中で、人よりも多く転んでいるのだ。


■2.適切なフィードバックループの中に身を置く
 今度一流スポーツマンが尋常でないことをやってのけるのを見かけたら(たとえばタイガー・ウッズが張り出した木々の下からそれを避けて高台へと勢いよくボールを飛ばしたら) 思い出すといいだろう。これぞ混じりっけなしの天才ぶりの発露と思えるかもしれないが、実際には彼は、一般の人が生涯のゴルフゲームすべてから得た練習をしのぐくらい、この種のショットの練習を重ねているし、しかもずっと正確なフィードバックを得てきたのだ。
 こういった背景の中でとらえると、野心的なスポーツマンが一流コーチと組みたがる理由がよくわかる。ただトレーニングの中で専門家のアドバイスを得られるからそうしているのではない。すぐれたコーチは訓練にフィードバックを組みこみ、それが自動的修正につながり、その修正がフィードバックの質を向上させ、さらなる改良をもたらすように、練習を考案できるという点がはるかに重要なのだ。
 こんなフィードバックループの中に身を置ければ、向上の度合いは驚くほど増す。だからこそ人類はほぼあらゆる分野において進歩してきたのだし、これからも進歩は続くだろう。こうして科学は衰えることなく、急速にその力と精度を向上させてきたのだ。


■3.精神的な関連付けで疑念を防ぐ
「疑念はスポーツにおける失敗の根本的原因だ」と、スポーツ心理学のベストセラー『新インナーゴルフ』(日刊スポーツ出版社) の著者ティモシー・ガルウェイは述べている。「疑念はその自己実現的な性質から力を得ている。たとえばあるショートパットを決められるか不安があるとき、たいていは緊張して、余計に失敗する可能性を高めてしまう。失敗すると、自己不信は裏付けられてしまう。(中略) 次の機会には疑念が強まり、実際の能力を妨げる効果がさらに顕著になるのだ」。
 これに対するガルウェイの解決策は、さまざまな精神的テクニックで疑念をとり払うことだ。中でももっとも重要なのが、精神的な関連づけだ。「むずかしそうに思える課題(この場合はゴルフのショット) を、できれば一度も失敗したことのない単純な行為と結びつけたり記憶したりするというテクニックだ。たとえば3メートルのパットを打つときは、ホールからボールを拾い上げるところを思い出せばいい」。さらに、「この簡単な行動とのあざやかな関連づけができれば、心の中ではこれから打つパットと失敗が結びつく余地はなくなる。(後略)」


■4.大事なところであがる理由は?
 スポーツ史におけるそのほかの象徴的なあがりを考えてみれば、それらが同じパターンをたどっていることに気づくだろう。1993年のウィンブルドン選手権女子シングルス決勝で、シュテフィ・グラフを4対1でリードし、40−30のマッチポイントに持ちこんだとき、勝負はもう決まったものと思われた。(中略)
 だが初のウィンブルドン選手権優勝がかかってきたところで、ノボトナは失速した。サーブはダブルフォルトになり、いつもと似ても似つかないシロモノだった。トスは低すぎたし、背中は十分に弓なりでなかったし、スイングは確信に欠けた。
 それから数ゲームで、ノボトナの調子はさらに悪化した。動きはすっかり遅くなり、ストロークは硬く、動作はまとまりを欠いた。顕在システムがのっとってしまったのだ。ノボトナは数100にのぼる動作部位を意識的に1つにまとめあげようとしていた。だから(変化を続ける環境に意識が追いつかず) のろのろしたショットや、(少し遅れて再調整したために) ぎくしゃくしたショットになってしまったのだ。


■5.ケニアの選手はなぜマラソンが強いのか?
 ケニア人の青少年は、もちろん遊びで学校に走っているわけではなく、必要にかられてそうしている──公共交通機関はないも同然なのだ──だがその累積的な帰結は劇的なものだ。時速15キロだと、これは1日80分のランニングとなり、週7時間ほど、年250時間、16歳の誕生日までに3000時間近く走ることとなる。
 ピツラディスはこう述べている。「エリート長距離走者たちは子ども時代に、ほかの人より遠くにある学校まで走り、ほとんどは高地だけを走っていたんです。大半の選手の通学距離は驚異的で、多くは1日20キロ以上です。最近、きわめて高地にある地域(南ナンディのペムジャ小学校) の学校へ、通学手段として走っているケニア児童の走り方の経済性を計測しましたが、得られた値は、高度に訓練を受けた長距離走者に見られる水準でした」。


【感想】

◆本書の扱っているテーマは、マルコム・グラッドウェルが提唱した、いわゆる「1万時間の法則」や、その元となった、アンダース・エリクソンの著作の延長線上にあるもの。

実際本書の中では、それぞれの書籍名を挙げて、その内容についても言及しています。

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天才! 成功する人々の法則

参考記事:【勝間さん激賞!】「天才!成功する人々の法則」がいよいよ発売へ!(2009年05月13日)

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超一流になるのは才能か努力か? (文春e-book)

参考記事:【「1万時間の法則」の真実】『超一流になるのは才能か努力か?』アンダース・エリクソン,ロバート・プール(2016年08月05日)

ずいぶん前に話題になったお話だと思われるかもしれませんが、実は本書は、冒頭の内容紹介にもあるように、2010年に出たマシュー・サイドの処女作である『非才!』を「改題復刊」したものだそうで。

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非才!: あなたの子どもを勝者にする成功の科学

こちら、Kindle版がない上に、絶版で中古が3000円以上しますから、今回のセールで本書を買うのが一番お得なワケですね。

また、同時期に出た以下の作品も、本書内で紹介されていたり、巻末の謝辞にてわざわざ触れられています(注釈ではなくて)。

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究極の鍛錬

参考記事:一流職人もびっくり 驚愕の『究極の鍛錬』(2012年06月13日)

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天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる ミエリン増強で脅威の成長率

*注:今回のセールで「50%OFF」になっています

参考記事:【上達の秘訣!?】『天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる ミエリン増強で脅威の成長率』ダニエル・コイル(2019年07月07日)

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マインドセット「やればできる! 」の研究

参考記事:【オススメ!】『マインドセット: 「やればできる!」の研究』キャロル・S. ドゥエック(2016年01月18日)

いずれも当ブログでオススメしているものばかりですから、本書が私にとってツボだったのも当然でしょう。


◆さて、内容的には「才能の科学」と邦題は付いているものの(翻訳の山形さんによると、原題の『BOUNCE』はどこから来たのか謎とのこと)、才能をほぼ全否定。

そもそも「1万時間の法則」自体がそういうお話でしたから、ある意味当然なのですが、「ただ1万時間やればいい」のではない、という点では、エリクソンの説に近いです。

その一例が、上記ポイントの1番目の「限界を超える課題」という指摘。

ここではスケート選手が転んだ話が出てきますが、引用部分の続きに、具体例として荒川静香選手の名前が出てきます。
 作家のジョフ・コルヴァンは、史上最高のスケート選手の1人である日本の荒川静香について、スケート選手を目指していた5歳の頃から、2006年のオリンピックの勝者となるまでに、2万回以上転んだと推定している。「荒川のエピソードはたとえ話としてきわめて貴重だ」と、コルヴァンは書いている。「2万回の尻もちから偉大な演技は生まれた」。
ただし、荒川選手は転倒を失敗と捉えず、上達の手段とみなしていた点が成長の秘訣とのことでした。

さらには、上記ポイントの2番目にもあるように、フィードバックを加えることによって、成長は加速します。

名選手の陰に、名コーチがいることからも、その重要性は証明されているかと。


◆この辺までは、類書でも知りえたTIPSなのですが、本書には私も今まで知らなかった情報がいくつかありました。

その1つが上記ポイントの3番目の疑念の防止策です。

ゴルフの3メートルのパットなんて、届かないワケないんですから、後はメンタル的な部分が大。

その作業に「一度も失敗したことのない単純な行為と結びつける」なんて、聞いたことありませんでしたよ。

私はゴルフをやらないので、試しようがないのですが、プレイなさる方は一度お試しください。

ここで紹介されている、『インナーゴルフ』は、こちらの新版しかないのですが。

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新 インナーゴルフ


◆もう1つ、目からウロコだったのが、上記ポイントの4番目の「あがる仕組み」です。

これは要は、普段だったら身体が自動的に行う作業を、意識的にやろうとして「相互につながった変数が多すぎて処理しきれない」ことから起こるのだそう。

言われてみたら、「なるほど」なんですが、これも今まで類書でも読んだ記憶がありませんでした。

ちなみに、以前『失敗の科学』を読んだときには知らなかったのですが、著者のマシュー・サイドは、実はイギリスの卓球のオリンピック選手(2度も出場!?)だったのだとか。

シドニーオリンピックでメダルを目指すべく、イギリスのオリンピック委員会が「すべての費用をつぎ込んで」完璧に準備(練習環境や練習相手等)してくれたにもかかわらず、初戦であっけなく惨敗したのも、この「あがり」ゆえ(詳細は本書を)。

そういう経験者の話ですから、それは説得力があります罠。


◆また本書では、プラシーボ効果や宗教の効果にも言及しているのですが、興味深かったのが、人種における優劣のお話。

特に「黒人が運動能力に優れている」という一般論に対して、反論を試みています。

たとえば当時と今とではまた状況が多少違うのでしょうが、マラソンが強いのがケニアの選手。

その理由が上記ポイントの5番目にあるように、「子どもの頃から高地を長時間走っていたから」というのは意外でした。

また、短距離も黒人選手が強いのですが、その理由は……「ネタバレ自重」ということにしておきましょう。

なお、本書が出た後に、新たに分かったこともありますし、実際、遺伝や才能、人種の問題がゼロだとは思えません(巻末の「訳者解説」で山形さんも触れてます)が、大量の注釈を含めて、読み応え満点の1冊でした。


「才能」を言い訳にしないためにも読むべし!

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才能の科学 人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法
第1部 才能という幻想
第1章 成功の隠れた条件
第2章 「奇跡の子」という神話
第3章 傑出への道
第4章 神秘の火花と人生を変えるマインドセット

第2部 パフォーマンスの心理学
第5章 プラシーボ効果
第6章 「あがり」のメカニズムとその回避法
第7章 儀式の効果、そして目標達成後に憂鬱になる理由

第3部 能力にまつわる考察
第8章 知覚の構造はつくり変わる
第9章 ドーピング、遺伝子改良、そして人類の将来
第10章 黒人はすぐれた走者か?


【関連記事】

【「1万時間の法則」の真実】『超一流になるのは才能か努力か?』アンダース・エリクソン,ロバート・プール(2016年08月05日)

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一流職人もびっくり 驚愕の『究極の鍛錬』(2012年06月13日)

【上達の秘訣!?】『天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる ミエリン増強で脅威の成長率』ダニエル・コイル(2019年07月07日)

【オススメ!】『マインドセット: 「やればできる!」の研究』キャロル・S. ドゥエック(2016年01月18日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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