2024年08月04日
【地政学】『世界最強の地政学』奥山真司
世界最強の地政学 (文春新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle電子書籍 ポイントキャンペーン」でも人気の高い1冊。最近話題になることが多い、地政学について学べる作品です。
アマゾンの内容紹介から。
リーダーたちの頭の中の地図を読む!
戦略を考える人たちが頭の中に持っている世界地図。それを読み解くのが地政学だ。六つのキーワードで戦略的発想を分かりやすく解説。
中古に送料を加算すると定価を超えてしまう人気ぶりですから、Kindle版の方が500円お得となります!
【ポイント】
■1.地政学が地理に基礎を置く理由では、なぜ地政学は「地理」に注目するのか? それは国家にとって地理が最も不変的な条件だからです。
教科書に書かれている「国家」の条件は3つあります。「一定の領土」「国民」「政府」です。
このうち、国民は移動できますし、政府は選挙やクーデターなどで、極端に言えば一夜のうちに変えることができます。しかし領土=地理的条件はなかなか変わりません。日本が海に囲まれた島国であることは、万葉集、記紀の昔から、日本人に与えられた基本的条件なのです。
国際的な状況は時々刻々、さまざまに変化します。よく「国家百年の計」といいますが、次々に起きてくる「現象」を追いかけるだけでは、100年はおろか数十年単位でも、国民の安全を確保し国家が生き残るための「戦略」を描くことはできません。
そこで、国家が置かれている環境の中でも、変化の少ない「地理」が、戦略を考えるうえでの出発点とされてきたのです。
■2.北極海ルートが世界を変える?
その意味で、これから注目されるのが先にも触れたロシアの北極海ルートでしょう。これまで「北極海は通行不能」というのが世界の常識でした。ところが温暖化の影響でしょうか、近年、北極海の氷が解け通行可能になり、2000年頃、開通しました。
このルートを使うと、極東からヨーロッパまで従来が約2万キロだったのが約1.4万キロと、航行距離が3割も短縮されます。またこれまでは複数の国の領海を通るため、治安が不安定になると海賊などへの対処が必要になりましたが、北極海ルートではロシア一国の下で通行可能になり、(いまのところは) 海賊の心配もありません。
その一方、高価な耐氷船でないと航行できない、補給基地が十分ではない、といったデメリットもあります。加えて現段階では、ロシアと国際社会の関係が安定しないというリスクも抱えており、2022年のウクライナへの軍事侵攻以来、航行計画は頓挫したままです。
しかし、このルートが確立し、安定的に利用できるようになれば、地政学的環境を大きく変える可能性を秘めています。たとえば、日本国内に限っても、北海道の重要性が高まるでしょう。その一方で、 戦略的重要性が増す北方領土の返還はますます難しくなりそうです。
■3.ジョージ・ケナンが手掛けた「日本復興」
ダグラス・マッカーサー(1880−1964)率いる占領軍の最大の目標は、日本の非軍事化でした。その目的を達するためのいくつかのプランのなかには、日本にはもう重工業をやらせず、農業国あるいは軽工業国に留めておく、というものもありました。重工業が発展していたから、戦艦大和やゼロ戦をつくり、資源や市場を求めてアジア諸国に進出したのだから、農業国にして無害化すべきだ、というわけです。
国務省の使節団の一人として日本を訪れたケナンは、リアリズムの観点から、ソ連に対抗するためには、日本の工業力が必要になる、と考えました。そして、日本の軍備を丸裸にして財閥解体に没頭するマッカーサーたちを激しく批判し(東京裁判についても、その法的根拠が乏しいとしています)、政策の軸を経済復興に転換させたのです。(中略)
つまりアメリカは「封じ込め」、すなわちソ連の拡大を押さえ込むというグランド・ストラテジーにしたがって、第二次世界大戦の敵国であったドイツ、日本を抱き込んで、強国化させるという「同盟の組み換え」を行ったことになります。
■4.つねに2位の国を抑える
前の章でも述べたように、冷戦時代、アメリカは圧倒的な強国となります。そこでライバルとなったのは、社会主義陣営の雄、ソ連です。このアメリカとソ連の対立には、仲介役(バランサー) は存在しません。そこでアメリカは、かつての敵国である日本やドイツを支援し、1位−3位連合を強化していきます。さらには社会主義陣営の中国とも国交を結び、ソ連側の弱体化を進めたのも、前章で述べた通りです。
興味深いことに、ソ連の弱体化が露わになってくると、アメリカは新たな「2位のライバル国」に対して警戒を強めます。それが1980年代に起きた「ジャパン・バッシング」でした。日本がGDPで世界2位になり、それまで世界最強を誇ってきた自動車産業やエレクトロニクスの分野でもトップを占めて、巨額の対米黒字を積み上げるようになると、アメリカは、日本に対し輸出の自主規制や「非関税障壁」の撤廃などを次々に要求するようになり、その一方で、市場経済への参入を決めた中国との関係を深めました。
そして、中国が世界2位の経済大国に育つと、今度は、アメリカの優位を脅かす「戦略的競争相手」として、警戒を強めています。
■5.戦争に勝つとは?
では、戦闘で勝利(victory)し続ければ、「戦争に勝てる」のでしょうか? ナポレオンは生涯で約40戦して、自身が参加した戦闘ではほとんど負けたことのない軍事の大天才でした。彼が負けたのはたった3回でしたが、その最後の敗北、ワーテルローの戦いですべてを失ったのです。
もっと分かりやすいのが、日中戦争です。中国に進出した日本軍は個々の戦闘ではほとんど負けを経験しませんでしたが、広大な中国大陸を支配することができず、後退戦を続ける中国軍の戦意を挫くことができませんでした。ベトナム戦争と同様、「戦闘で勝ち続けても、戦争に負けた」典型的なケースといえます。
では、「戦争に勝つ」とはどういうことなのか? ワイリーの出した画期的な答えとは、「次の局面をコントロールできるかどうか」というものでした。戦闘が一段落したあとの状況をコントロールできること、言い換えれば、自国が有利な状況で、平和=新たな秩序を構築・維持できることが、「戦争に勝つ」ことだと考えたのです。
【感想】
◆世界史も世界地理もまともにやっていない私にとっては、学ぶところが多い作品でした。と言いますか、たとえ受験で勉強していた方にとっても、知らないお話が結構あるのではないか、と。
そもそも「地政学」とはなんぞや、というお話から、本書はスタートしています。
しかも著者の奥山さんいわく、「学」といいつつも、「学問ではない」とのこと。
地政学を私なりに簡単に定義しますと、なるほど、思ったよりも実践的な感じ。
「地理をベースとした国際政治、外交政策についてのものの見方、考え方」
ということになります。ここで重要なのは、あくまでも「考え方」であって、アカデミックで体系的な「学問」ではない、ということです。もっといえば、「学問」として整理される以前の、より実践的な知の積み重ね、ということになります。
◆そこで、その「地政学」の特徴を挙げるとすると、上記ポイントの1番目にあるように、「地理に基礎を置いている」こと。
確かにここでも強調されているように、地理条件だけは、ちょっとやそっとでは変わりません。
そして特に重要な概念となるのが、 シーパワー(海岸での活動に重点を置いている)か、ランドパワー(陸に重きを置くか)の2つです。
日本はもちろんシーパワーであり、ヨーロッパの国々はランドパワーに該当(イギリスを除く)。
中国はランドパワーなので、かつては隣国との争いごとが絶えなかったものの、現在は長い歴史の中でも珍しく、陸での主な紛争が解決しているのだそうです。
……とはいえ「ならば台湾へ!」、というほどの単純な話でもないのは、本書にてご確認を。
◆他にも地政学の概念は色々あって、その1つが上記ポイントの2番目でも出てくる「ルート」です。
これは文字通り、「道」とか「経路」のことであり、どのルートを使うかで、航行距離が全く変わってくるのは当然でしょう。
特に「極東〜ヨーロッパ」は、現在ぐるっとスエズ運河経由で回ってきているのが、北極海ルートが使えるとなると、ひと目で見ても近くなるのが分かります。
……本書ではこの件の他にも、地図が豊富に収録されているのですが、ブログだと使えないのがツライところ。
もう1つ押さえておきたいのが、「チョークポイント」なるもので、ポイントは「点」で分かるのですが、チョークが何かと思ったら、「窒息させる、息の根を止める」という意味の「choke」でした。
つまり、そこを押さえられたら、人もモノも通れなくなる、という関所みたいなものであり、スエズ運河やホルムズ海峡などはまさにそれに該当します。
それがゆえに、このチョークポイントを軍事的に何とかしようとするケースも多々あるわけでして(軍事紛争等は本書をご参照のこと)。
◆一方、こういった局所的なお話とは別に、国としての「大戦略」(グランド・ストラテジー)なるものもあります。
これは目先の争いごとの勝利を目指す(軍事的な戦略)のではなくて、もっと上の概念として、国をどう維持・運営するか、のようなもの。
上記ポイントの3番目では、ジョージ・ケナンによって、日本の復興が図られた件が触れられていましたが、お恥ずかしながら私は全く知りませんでした。
もっとも、その後の日本が、思ったよりも発展してしまったがゆえ、上記ポイントの4番目にあるように、バッシングを食らってしまったのですが。
つまり歴史を追うと、日本は、当初は対ソ連のためにアメリカと協力し、その後バッシングはされましたが、現在は2位の中国を意識したアメリカと、再度協力体制をとっているとのこと。
一方で、本書では触れられていませんでしたが、ロシアが中国に接近したり、もしトランプ氏が再選されるとロシアに接近しそうだしと、今後もどうなるか予断を許さない気がします。
◆さらには「戦争において最終的に何を目指すべきか」というお話が、上記ポイントの5番目。
そもそもベトナム戦争でも、アメリカはいくら国土を焼き払ってもベトナムに勝ったとは言えず、日本も日中戦争で同様でした。
この「次の局面をコントロールできるかどうか」という考え方から言うと、第2次世界大戦後、アメリカはソ連を押さえるために、日独を復興させ「コントロールに成功」しています。
逆に2003年のイラク戦争では、サダム・フセイン大統領の処刑に成功しましたが、戦後処理には失敗しており、これは「コントロールできなかった」ということ。
おもしろかったのが、わが国の安土桃山〜江戸時代において、織田信長や豊臣秀吉がなしえなかった支配の永続を、徳川家康は成功している、という指摘です。
なるほど、参勤交代や鎖国政策等々も含め、徳川幕府の政策が優秀だったことは確かなんでしょうね。
ここではローカルな昔話にも触れましたが、本書は基本的には世界(さらには宇宙も!?)における、「地政学」の考え方を、豊富な実例とともに解説してくれる、お役立ち本でした。
地政学を基礎から学びたい方にオススメ!
世界最強の地政学 (文春新書)
0「地政学」とは何か 指導者の頭の中の地図を読み解く
1 世界観 地政学の巨人たちの思考法
2 シーパワーとランドパワー 超大国の「性格」が分かる
3 ルートとチョークポイント 世界を支配できる点と線
4 グランド・ストラテジー 生き残るための大戦略
5 バランス・オブ・パワー 同盟と離間で他国を操る
6 コントロール 戦争の目的は「勝利」ではない⁉
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【編集後記】
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【編集後記2】
◆一昨日の「Kindle電子書籍 ポイントキャンペーン」のPHP研究所分の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。THE21 2024年2月号
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参考記事:【話し型?】『説明がうまい人はやっている「数学的」話し方トレーニング 説得力が飛躍的にアップする28問』深沢真太郎(2022年12月27日)
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よろしければご参考まで!
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