【経営】『運ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』安田隆夫:マインドマップ的読書感想文

2024年06月21日

【経営】『運ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』安田隆夫

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、昨日発売されたばかりの、ドン・キホーテ創業者である安田隆夫さんの最新作。

同じ文春新書から出された『安売り王一代』から、8年半ぶりとなる作品です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

三十四期連続で増収増益を成し遂げ、売上二兆円のドン・キホーテ。
無一文から日本を代表する創業経営者へ――安田氏の大成功の裏には「運」の存在があった。
私は「運任せ」という言葉が嫌いだ。自らの運をコントロールし、人生を切り拓け。
生涯をかけて学んだ、人生とビジネスにおける「勝利の法則」を惜しみなく伝授する！

中古がまったく値下がりしていない一方、ほんのちょっとだけ、Kindle版がお求めやすくなっています！

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【ポイント】

■1.「幸運の最大化」こそが、運をコントロールする第一歩

　もう少し分かりやすく説明しよう。幸運が巡ってきた時に、運をとことん使い切って、目一杯の果実を収穫しておく。それを不運が巡ってきた際の蓄えとしてキープし、頑丈なセーフティネットを築いておく。そうすれば、向かい風が吹いてきても十分耐え忍べるため、気持ちに余裕をもって不運の最小化ができるというわけだ。
　ドン・キホーテも運が巡ってきている時は、人気店を量産するなど、エンジンを目一杯にふかして、せっせと「幸運の最大化」に励んでいた。そうして体力を養ったからこそ、コストがかかる環境問題の対応にもきちんと取り組め、不運を最小化することが出来たわけである。
　長い人生でも、大きなチャンス（幸運）には、そう何度も遭遇するものではない。繰り返しになるが、目の前にチャンスが転がってきた時は、がむしゃらに一点突破する気持ちで、行けるところまでとことん突き進むべきである。そうして幸運の最大化を図れば、それがまた次の幸運を引き寄せることにも繫がるのだ。

■2.成功ではなく失敗のシナリオを描け

　話を戻そう。意欲的でチャレンジフルな人生を送る人ほど、当然ながらトライ（挑戦）が多くなる。トライの数に比例するように、エラー（失敗）の数も多くなるが、それはさほど大きな問題ではない。肝心なのは、失敗した時にいかに手仕舞うかだ。
　撤退の判断を下すためには、「どこまでいったら失敗と見なすのか」、失敗の定義をあらかじめ決めておくべきである。つまり、「何億円以上の赤字が出たら、潔くこの事業から撤退する」「ここまではやってみて、結果が出なければ諦める」という「ロスカットルール」の明確化だ。自分の中でこのルールがきちんと定まっていれば、失敗など全く恐れるに足らず。臆せずに次の挑戦に向かっていけばいい。
　よく「成功のシナリオを描くことが重要」と言われるが、成功は結果論なのだから、そのシナリオを描いても全く意味がない。見切りの判断基準となる「失敗のシナリオ」を描くことこそが、成功へと繫がる必勝法なのだ。

■3.守り優先のサラリーマン社長が日本の企業をダメにした

　では、日本と中韓台の経営では、どのような違いがあったのか。端的に言えば、トップに立つのが守り最優先のサラリーマン社長なのか、攻め重視の創業経営者なのかということだ。
　現代の日本の大企業では、前者のタイプのサラリーマン社長が大半ではないだろうか。彼らは組織の中で業務をそつなくこなし、大きなミスをすることもなく、順調に出世の階段をのぼってきた。そうして社長の座についた時、彼らが真っ先に考えるのは、自らの任期中は余計なことをせず、平穏無事に乗り切ろうということではないだろうか。すなわち「守る」経営だ。
　一方の中韓台の会社には、一代でのし上がった創業経営者がいまだ健在である。そうした会社では、経営にオーナーシップが生きているので、中長期的視点から逆照射し、今やるべきことを考える。会社の未来を思えばこそ、現状維持には留まらず、果敢に「攻める」経営を行うのだ。

■4.企業原理を「顧客最優先主義」にした理由

　これまで何度か触れた『源流』にも明記されているが、PPIHグループの企業原理は「顧客最優先主義」だ。当社ではこの「顧客最優先主義」を、「仮に自分がお客様だったら、一体どうして欲しいかを具現化すること」と定義している。その根底に、「主語の転換」の思想があるのは言うまでもない。
　もちろん商人なら誰でも、「売りたい」「利益を上げたい」と常に思っている。一方、「売上に貢献して儲けさせてやろう」と思って店に来られるお客様は、ただの一人もいないはずだ。この売り手と買い手の構図は、未来永劫不変だろう。
　ならばいっそのこと、顧客の側に立って、「この店に来て面白かった、得をした」と思っていただこう、というのが当社の基本姿勢である。つまり主語を転換して、徹底して買う側に立った発想をするということだ。

■5.仕事を「ゲーム」に変えるための四大条件

　ちなみに『源流』の社員心得・行動規範第八条にも、「仕事を『ワーク』でなく『ゲーム』として楽しめ」と明記されている。なおかつ、仕事を「ゲーム」に変えるための四大条件を次のように定めている。
① 明確な勝敗（勝ち負けがはっきりしないゲームはゲームではない）
② タイムリミット（一定の時間内に終わらなければゲームにはならない）
③ 最小限のルール（ルールが多くて複雑なゲームは分かりにくくて面白くない）
④ 大幅な自由裁量権（周りから口を出されるゲームほど、やる気が失せるものはない）
　こうしたルールを明確にしておかなければ、「仕事はワークでなくゲーム」と言っても、単なる掛け声やスローガンに終わってしまう。何の決め事もなく、精神論的に「ゲームを楽しむようにして働け」と押しつけるだけでは、どこかのブラック企業と変わらない。

【感想】

◆正直な話、タイトルでちょっと身構えてしまったのですが、何のことはない、前作同様ハイライトを引きまくりました。

……って、前作のレビューを見たら、当時はまだKindleで読んでおらず、新書に付箋を貼りまくっている画像が懐かしかったのですが。

安売り王一代私の「ドン・キホーテ」人生 (文春新書 1052)

参考記事：【夜の行動経済学?】『安売り王一代私の「ドン・キホーテ」人生』安田隆夫（2015年12月10日）

もちろん、この前作と事件や印象的なエピソード等は、一部かぶらざるを得ないのですが、前作が著者である創業者の安田さんの半生記だったのに対して、本書はもうちょっと企業理念的なことにまで言及されていました。

そして、その企業理念の集大成が、上記ポイントの4番目と5番目でもちょこっと触れられていた、PPIH（旧ドン・キホーテHD）グループの企業理念集「源流」です。

なお、本書の巻末には、この「源流」の内容が一部抜粋されていますので、興味のある方はこちらでご確認を。

「社員心得・行動規範十箇条」「マネジメントの鉄則九箇条」なんて、小見出しの時点で面白そうですよね？

◆一方で、タイトルにもある「運」について、安田さんは長期的な「運」と、短期間な「ツキ」を明確に分けて考えています。

結論から言えば、勝負事などの短期のツキをコントロールすることは、実質的に不可能である。ここで「なんだ」とガッカリしないでほしい。人生とビジネスにおける中長期的な運であれば、十分にコントロール可能であるからだ。

この流れで言うと、上記ポイントの1番目にあるように「幸運の最大化」を目指すことが、正解であるということ。

「幸運が巡ってきた時に、運をとことん使い切って、目一杯の果実を収穫しておく」という考え方や、上記の「ツキ」と「運」のお話が、麻雀チックだな、と思っていたら、本書の第1章で、かつて安田さんが大学卒業後、プロ雀士として活躍されていたと知り、ビックリしました。

実際、ドンキの前身となる「泥棒市場」の開店資金（約800万円）も、麻雀で稼いだものだったそうです。

◆確かに麻雀は上がれるときに上がっておかないと、後でしっぺ返しをくらいますから、「ほどほどにしておく」という考え方は普通しません。

かといって、毎回イケイケドンドンで攻め続けるのは、経営も麻雀も無理があります。

そこで上記ポイントの2番目にもあるように、「ロスカットルール」を定めるべし。

実は安田さんも、かつてコンビニ新業態である「情熱空間」を展開から2年ほどで撤収しています。

パワーコンビニ情熱空間 - Wikipedia

これもあらかじめ定められたロスカットルールによるものらしく。

◆また、指摘されて「なるほど確かに」と思ったのが、上記ポイントの3番目のサラリーマン社長の件。

逆に、今でも日本で勢いがある企業というのは、創業経営者であることが多いです。

柳井さんのユニクロ、孫さんのソフトバンク、稲盛さんの京セラ等々。

もちろん、二代目、三代目でも、躍進している企業はありますけど、典型的なサラリーマン社長をトップに据えた企業は、大胆な策が取りにくそうな。

かつての日本のお家芸だった、家電関係も軒並み衰退してしまいましたしね。

さらに、従来やってきたことをそのまま続ければいい時代ではなく、今やVUCAの時代と言われていますから、各自自分の所属する企業が今後どうなるかは、考えておいた方が良いかもしれません。

◆そして、前述の「源流」が登場するのが、上記ポイントの4番目。

ドンキ名物の「圧縮陳列」や「POP洪水」というのは、元はと言えば前身の「泥棒市場」が狭い店内だったり、箱の状態で中身が分からないのでPOPを貼りまくったことから始まったのですが、いまやなくてはならないものになっています。

それも結局は、お客様のウケが良かったから続けたわけですし。

また、このPOPに関連して、ドンキ内で行われているのが「ディスプレイの鉄人（通称、D鉄）」コンテストです。

これは営業支社単位でチームを作り、ディスプレイのレベルを競うというもの。

外部に会場を借り切って行い、毎回大いに盛り上がるのだそうで、まさに上記ポイントの5番目にある「仕事のゲーム化」そのものだな、と。

それは普段からドンキのPOPが遊び心満載なのも、ある意味当然でした。

ドンキ好きなら読まざるを得ない1冊！

運ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」 (文春新書)

はじめにドン・キホーテが起こした奇跡の源泉
第1章運という未開の大陸に分け入る
第2章幸運の最大化と不運の最小化
第3章運の三大条件――「攻め」と「挑戦」と「楽観主義」
第4章何が運を落とすのか
第5章最大のキーワードは「主語の転換」
第6章「集団運」という弾み車
第7章自燃・自走の「集団運組織」をどう作るか
第8章圧勝の美学を語ろう
エピローグ人間讃歌こそが私の生き様