【脳科学】『BRAIN PLASTICITY　自らを変える脳の力』エリコ・ロウ:マインドマップ的読書感想文

2024年04月29日

【脳科学】『BRAIN PLASTICITY　自らを変える脳の力』エリコ・ロウ

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本ゴールデンウィークセール」の中でも、当ブログ向きと言える1冊。

脳ネタ好きの私でも、知らないお話が多々あって、非常に勉強になりました。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

ハーバード、スタンフォード、MIT、オックスフォード……世界最先端の脳神経科学が実証！
頭を良くする脳の使い方、休め方、暮らし方
「BRAIN PLASTICITY（脳の可塑性）＝脳は、さまざまな刺激に応じて自らを変える能力を持っている。欧米の先端脳神経科学やホリスティック医療、マインドフルネスなどを探求しているシアトル在住のジャーナリストが、世界中の最先端の脳の研究論文を読み込んで、脳の可能性を説く。アンチエイジング、病からの快復、高齢になってからの脳の力の可能性、認知力の向上……日々発見されている新たな脳の可能性の最前線を紹介する。

値引率が「72％OFF」と高めなこともあって、このKindle版が900円以上お買い得です！

Bold / Dylan_Payne

【ポイント】

■1.いったん増えたシナプスも刈り込み（減少）がある

　シナプスの刈り込みの分かりやすい例としてよく挙げられるのが、外国語、とくに外国語会話の学習能力です。人間の赤ちゃんはどんな言語の発音も聞き取れ、発音できる神経回路を備えて生まれてきます。ですから幼少時から外国語を聞き慣れて育てば、何ヶ国語でも会話できるようになります。けれど、日常的に接し、使うのが母国語だけだと、不必要な外国語のための神経回路は弱体化し、やがては消えてしまいます。外国語でネイティブ同様に会話できるようになるためには生後12ヶ月くらいから遅くとも13歳くらいまでに、その外国語に親しむ必要があるとされているのはそのためです。英語の読解は問題なくできる日本人の多くも聴覚ではRとLの発音を聞き分けられず、うまく発音もできないのも、シナプスの刈り込みで、必要な神経回路を失っているからです。完全に失ってしまうと、一からそれを構築し直すのは、不可能ではなくとも困難になってしまう、ということなのです。

■2.身に覚えがないトラウマもある

　最近の研究では、生後間もない赤ちゃんの脳もしっかり出来事を記憶していることも分かっています。まだ左脳が未発達な段階なので記憶は主に潜在記憶にあるのみで、3歳以前の体験を思い出せる人はまれですが、潜在記憶としては残っています。そのために、3歳以前にトラウマ体験を持つ人は、後年になって、何の心当たりもないのに、いきなりストレス反応が起こることがあります。自分には身に覚えがないのに、幼い頃トラウマを感じた時に似た状況、音や色、匂いを感知するとそれが引き金となってストレス反応の連鎖が起き、その他の脳の作業効率が落ちるか、極度な場合には突然頭が真っ白になる、といった思考不能なフリーズの状態に陥ってしまったりするのです。
　たとえば、時に突然心臓がドキドキしてきて呼吸困難になったように感じるパニック障害を訴えていた女性の場合には、本人には記憶はありませんでしたが、生まれる時にへその緒が首に絡まり、あやうく窒息死しかけたことがその原因のひとつになっていたようです。

■3.読書で登場人物に対応する脳の領域を活性化する

　ミシガン州立大学准教授で18世紀文学専門の文学者のナタリー・フィリップス博士は大学院生だった2012年にスタンフォード大学の神経科学者と組んで、小説を様々な方法で読み、その最中に脳の働きがどう変わるかをfMRIで観察する実験を行いました。
　この研究では文学部の大学院生にまず、小説『ジェーン・エア』の一節をざっと読み飛ばすように求めました。次に細心の注意を払いながら精読するように求め、脳の活動に何か違いが起こるかを調べました。その結果、学生が小説を精読している最中には、運動や触覚に関係する複数の異なる脳領域が活性化していることを発見しました。つまり、小説をしっかり読み、その物語の世界に没入している人は、小説の登場人物の行動や感情を能動的に疑似体験しており、そのために登場人物が感じている感情や行っている活動に関わる脳の領域が読者の脳でも活性化されるのです。フィリップス博士によれば、精読の仕方を学べば、人は読書により認知力を高め、集中力の調整の仕方や新しい脳の領域の使い方も学べるというわけです。

■4.瞑想で集中力と記憶力を強化する

　瞑想中には頭は休んでいると思われがちですが、実際には瞑想の大きな利点のひとつは、注意力と集中力に関わる脳の機能が向上することだと言われています。
　カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校の2013年の研究報告によれば、大学院受験生に2週間の瞑想を日課にさせた後に、受験の共通テストであるGREを受けさせたところ、読解力のテストの成績や、短期記憶力が向上、また試験中に気が散ることも少なくなっていました。研究者によれば、人類の脳は常に様々な思考や感情の処理で忙しいので、雑念を払うにはしっかりした集中力と注意力が必要です。そのため多くの瞑想では雑念を払うために対象物、アイデアや活動に注意を強く集中させるといったテクニックが利用されていますが、受験生にとっては、それが集中力と記憶力を強化させる脳トレの役割を果たし、認知力の向上に役立ったということです。

■5.アルツハイマー病や認知症を導く8つの危険因子は防げる

　アルツハイマー病や認知症の発症につながる最も危険な因子は中年期の肥満で、症例の17.7％でした。次が運動不足で11.8％、低学歴が11.7％、中年期の高血圧が8.8％、うつ病が8.8％、糖尿病が7.3％、現在の喫煙が6％、難聴が2.3％という順でした。
　この研究ではアルツハイマー病と認知症の発症を招く危険因子は人種や民族、性別によっても異なることも発見されました。黒人、ネイティブ.アメリカンおよびアラスカ先住民、白人は中年期の肥満が、ヒスパニック系では低学歴、アジア系では運動不足が最も大きな危険因子となっていたのです。
　また性別による違いもあり、女性よりも男性の方がアルツハイマー病や認知症になるリスクが高く、うつ病に関連してアルツハイマー病や認知症になるリスクは、男性よりも女性の方が高いことがわかりました。

【感想】

◆冒頭で触れたように、結構脳ネタ本をレビューしてきた私でも、「知らなんだ」と思うお話がかなりありました。

まず、第1章の「あなたの脳は、毎日変わり続けている」から引用したのが、上記ポイントの1番目。

よく「英語脳は子どものうちに」などといったフレーズを見かけますが、端的に言うなら「使われないことによって、シナプスが減る前に」ということだったんですね。

LとRの聞き分けや発音も、その後の努力で何とかなるのかと思ってましたが、なかなか難しそうです。

詳細はこれだけだとよく分からないものの、「遅くとも13歳くらいまで」だと、中学入ってからだとほぼ間に合いませんし。

「完全に失ってしまうと、一からそれを構築し直すのは、不可能ではなくとも困難になってしまう」と言われてしまうと、中学受験に関係ないため「不要」と決めつけていた英語も、考え直さねば……。

◆また、1つ飛んだ第3章の「脳を変える力は悪い方にも働く」からは、上記ポイントの2番目の「トラウマ体験」のお話を引用しました。

身に覚えがあればまだしも、身に覚えがないと、対処（治療）も大変そう。

症状でご自分に何か思い当たるふしがあれば、ご両親が健在なうちに確認しておくとよいと思います。

……私の場合、母が認知症で昔話でも話半分で聞かないと騙されます（確認しようがないので）から、もはや手遅れなのですが。

ちなみに、3歳以降（小学校4年頃？）なのでハッキリ覚えてますが、目の前で子どもが車にはねられたのを見てしまったせいか、車は怖くて運転できません。

◆再度1つ飛んだ第5章の「子どもの頭を良くする7つの法則」からは、上記ポイントの3番目の読書のお話をセレクト。

特に小説のお話として、精読すると「登場人物の行動や感情を能動的に疑似体験」して、「感情や行っている活動に関わる脳の領域が読者の脳でも活性化される」というのは、理屈として納得できます。

これ、もし実験していたら結果を知りたいのですが、その小説をマンガにしたものと、さらにアニメにしたものを調べてみたらどうなのかな、と。

別にマンガやアニメを否定するわけではないのですが、登場人物の「感情や行っている活動」が同じであっても、同じ脳の領域が活性化されるとは考えにくいです。

ただ、アニメやマンガでも、「その物語の世界に没入している人」ならば、同じように活性化されるんでしょうかね……？

いずれにせよ、子どもの読書習慣というのは、非常に大事なのだと、改めて思った次第です。

◆一方、上記ポイントの4番目の瞑想のお話は、第6章の「瞑想、マインドフルネスは優れた脳トレ」から抜き出しました。

昨今、マインドフルネス本も数多く出版されていますが、漠然とした効果ではなく、「注意力と集中力に関わる脳の機能が向上する」ことにエビデンスがあるのですから、これはもう積極的に取り入れるべきでしょう。

特に受験生が「読解力のテストの成績や、短期記憶力が向上、また試験中に気が散ることも少なくなった」のであれば、受験生専用の指導塾があってもおかしくありません。

ここにある大学院受験生のみならず、小、中、高、大学受験生を対象にした塾が、近い将来できているかも!?

少なくとも、ピアノを習うよりよほど……と思ったら、本書ではピアノ・レッスンの脳における好影響のお話も登場しますので、よかったらそちらもご覧ください。

◆そして第8章の「脳のアンチエイジングの最前線」からは、私自身も気になる「アルツハイマー病や認知症を導く8つの危険因子」のお話を引用。

上記でも触れたように、認知症の母親の姿を見ていると、できればこうはなりたくないものです。

私はアジア系なので、昔から逃げ回っている「運動不足」に注意しなくては。

これでもたまに高負荷の運動（階段駆け登り等）をすると、頭がガンガンするくらいですから、血流は頭を巡っているようです（当たり前）。

ちなみに本書は、参考文献がしっかり巻末にまとまっているのですが、出典を読ませる気がないのか画像なのがやや惜しまれます。

それでも広範囲に渡って、現時点における最新の「脳」の知識を得られる、というのはかなりポイント高いかと。

脳ネタ好きなら、一読の価値がある作品です！

BRAIN PLASTICITY　自らを変える脳の力

第1章あなたの脳は、毎日変わり続けている
第2章脳には自分で治す力がある
第3章脳を変える力は悪い方にも働く
第4章脳の健康を守るライフスタイル
第5章子どもの頭を良くする7つの法則
第6章瞑想、マインドフルネスは優れた脳トレ
第7章頭の働きを最適化する賢い頭の使い方
第8章脳のアンチエイジングの最前線