2024年04月12日
【ナッジ】『心のゾウを動かす方法』竹林正樹

心のゾウを動かす方法
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本 社会・歴史・哲学・政治書セール」の中でも、当ブログ向きの1冊。タイトルからは分かりにくいものの、行動経済学でもおなじみの「ナッジ」を掘り下げて、かつ、活用のアドバイスまでしてくれるというお買い得の作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
「人の直感は大きくパワフルだが面倒くさがり屋な面があり、制御が難しい」ということを知っていると、コミュニケーションのありようが変わります。行動経済学は、人の直感をゾウに見立て、どう付き合っていけばいいのかを教える学問です。例えば、ゾウ(直感)は、時間帯によって話の受け止め方が変わり、話の最初と最後の印象を強く持つことがわかっています。こういった習性をうまく制御したり刺激したりして、望ましい行動へと促すのが【ナッジ】です。ゾウの習性は知れば知るほど、人との接し方が見えてきます。本書は、ナッジの第一人者である著者による、明日から誰でも使える【ナッジ】を優しく説いた一冊です。
中古がほとんど値下がりしていないため、このKindle版が900円以上お得な計算です!

speech / grizzlygroundswell
【ポイント】
■1.アンケートの回答は、設定次第で大きく変わることがあるアンケートの回答は、設問や選択肢の設定の仕方で大きく変わることがあります。「あなたは幸せですか?」「あなたは最近デートしていますか?」という順番に比べ、「あなたは最近デートしていますか?」「あなたは幸せですか?」と順番を入れ替えて聞いた時のほうが幸福度が下がる回答をします。
これは「最近デートをしていないなぁ」と考えると、無意識のうちに幸福度を低く見積もってしまうからです。このような誘導を避けるため、研究者は予備調査を行い、客観的で再現性のある回答を得られるような設計にします。
■2.面倒な手続きを排除する
図1のチラシでは、申し込み方法は電話のみでした。これだと、象は「窓口が開いている時間に合わせて電話するのは面倒」と感じます。
このチラシでは電話番号に市外局番が記載されていないため、わざわざ調べなければいけないという面倒くささも発生します。さらに1回電話をかけた時に話し中なら、再度かけ直すのはますます面倒です。
地図が記載されていないのも、あまり好ましくないです。地図の掲載と行動に関する有名な研究を紹介します。研究● 大学生を2つのグループに分け、予防接種の説明をしました。Aグループには接種会場の名称を伝えたところ、大半が受診意欲を持っていたにもかかわらず、実際に受けた人は3%だけでした。Bグループは、接種会場を示した地図を渡し、日時や会場までの交通手段を決めるように促したところ、受診率が28%に向上しました。
■3.心が開いたタイミングで働きかける
象はストレスがたまった時には自暴自棄な判断をし、心が開いたタイミングで言われると自然に受け入れやすくなるものです。例えば、NHKの番組『ガッテン!』でがん検診をテーマにした放送の直後に、自治体ががん検診案内を送ったところ、受診率が向上しました。
これは番組視聴者が検診に関心が高まったタイミングを狙った連携プレーです。メディアとのタイアップが難しい場合でも、正月や引越で「新しいことを始めてみてもいいかな」という気持ちになったタイミングや、有名人のがんのニュースが報道され、がんに関心が高まったタイミングを狙うのならできそうです。トピック● 定期健診とがん検診の申し込み方法を別々にすることは、簡素化ナッジだけでなく、タイムリーナッジの面でも問題があります。定期健診の申し込みが完了した後にがん検診の申し込み案内が来ても、「せっかくだからがん検診も一緒に受けておこう」という絶好のタイミングが過ぎてしまっているおそれがあるのです。自治体や健保組合においては、定期健診とがん検診の申し込みを一緒にできるようにすることをお勧めします。
■4.最もやってはいけない広報とは?
ケース● 米国の国立公園では、来園者の3%が化石の無断持ち出しをしていたので、「一人が化石をわずかにとっていくと、年間14トンにもなります」という看板を設置したところ、持ち出しが3倍近くに増えました。これは、少しでも持ち出しに興味がある人に対し、「皆が持ち出ししているのだから、自分1人くらいいいだろう」という、逆方向の同調効果が発動したと考えられます。象にとって、他者と同じ行動をするのは、ホッとするものです(同調バイアス)。看板を立てるのなら「ほとんどのお客様は持ち出しをしていません」といったメッセージにしたほうがよかったのです。
私たちは「まだ行っていないこと」を強調したくなりますが、そのような表現をやめるだけでも、象は望ましい行動へと動きやすくなります。
■5.五感に訴える
五感に訴えるナッジは、他にも交通安全で使われています。センターラインをはみ出して、対向車と正面衝突する事故が見られます。うっかり者の象はセンターラインを越えたことを見逃してしまう可能性が大いにあるのです。ナッジ● 車道のセンターラインに凸凹をつけることによって、はみ出した車には「ガガガ」と振動が伝わり、危険がすぐにわかるようになりました。この凸凹は、センターラインを越えた時に、すぐに気づかせてくれるシグナルになります(フィードバックナッジ)。
「運転者が常に細心の注意をしていれば、事故は防げる」――私もそう思いたいですが、象は注意を払い続けるのがあまり得意ではないのです。運転中、路肩で煙が上がっている車の脇に警察官がいる光景を見かけたら、象はそちらが気になってしまいます。車の運転という命に関わるタスクを象に任せているのは、実に危ういものです。
【感想】
◆いきなり上記ポイントで「象」を連発していて、何の事やら、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。一応、冒頭の内容紹介で、「ゾウ(直感)」という表現があったので、大丈夫かな、とは思いつつも、いきなりポイントだけ読んだら意味不明ですよね。
本書は第1章の比較的前の方で、この言葉の定義について触れており、「直感」を「象」、「認知バイアス」を「(象の)習性」、さらに「理性」を「象使い」と呼ぶ旨、アナウンスしています。
上記ポイントでは「象」以外出てきていませんが、「象使い」については、「象」の対義語的に使われていることもあって、Kindle版内で検索かけたら、49回も登場している模様。
そういえば、言い出しっぺかどうかは分からないのですが、以前読んだこの本でも「感情」と「理性」について、「象」と「象使い」という表現が使われていましたっけ(Kindle版は何かのセール中らしく)。

スイッチ!
参考記事:【オススメ】『スイッチ! 「変われない」を変える方法』チップ・ハース, ダン・ハース(2010年08月11日)
実際、本書内でもこの『スイッチ!』は参考文献として挙げられており、 「ナッジ」を駆使して「象」を手なずけて、意図する行動をさせるかが論じられている次第です。
◆ところで、ナッジと似たものに「仕掛学」なるものがあるのですが、本書内では、1か所だけそれについて言及されていました。
事例は手指消毒器の利用率を高めることを目的とした、こちらの「真実の口のレプリカ」。
そしてこれはまさに、こちらの本でも取り上げられていたものでした(レビュー内ポイントの5番目)。

実践仕掛学―問題解決につながるアイデアのつくり方
参考記事:【仕掛け?】『実践仕掛学―問題解決につながるアイデアのつくり方』松村真宏(2023年12月04日)
なお、こちらの本では「仕掛学とナッジの違い」についても触れられており、「仕掛けは遊び心を利用するのに対し、ナッジは人間の意思決定の癖(認知バイアス)を利用して行動を促すアプローチ」なのだそう。
確かに、上記ポイントの1番目のアンケートの問い方は、工夫したとしても、「遊び心」とは違いますよね。
◆また、上記ポイントの2番目のチラシのお話は、人間の習性を考えたものではありますが、もはや、マーケティングに近い気が。
本書の場合、「健康診断を受診させる」や「事故を防ぐ」「ミスを防止する」といった、社会的なテーマを扱っているものの、これを「物の販売」や「契約」に置き換えたら、そのままマーケティングテクニックだと思います。
同じく上記ポイントの3番目もテーマは「がん検診」ですけど、まさにテレビショッピング的と言えるでしょう。
と言いますか、放送直後の郵送よりも、放送の後半でそのままセールスかけたら、効果も増大!
……え? 心が汚れてます??
ただ、トピックで触れられている「定期健診とがん検診」のお話は、まさに私にも起きたことで、定期健診は申し込めたのですが、がん検診は同じ会場ではできず、さらに時期も数ヶ月遅くなると分かった時点で、諦めてしまいました。
とはいえ、こればっかりは「ナッジ」の問題というより、施設のキャパの問題なので、如何ともしがたいのでしょうが。
◆一方、上記ポイントの4番目のお話は、「ネガティブな同調効果」と呼ばれるもの。
「まだ行っていないこと」を強調すると、かえって逆効果になるワケです。
この辺のお話は、こちらの本に数多く事例が収録されていましたっけ。

影響力の武器 実践編[第二版]「イエス!」を引き出す60の秘訣
参考記事:【スゴ本】「影響力の武器 実践編」がやっぱりスゴかった件(2009年06月10日)
本家の『影響力の武器』は、テーマである「6つの法則」の解説にページを割いていますが、こちらの作品は「実践編」と言うだけあって、実際にビジネスシーン等で試した結果が紹介されているのがありがたいです。
そして、最後のポイントの5番目は、まさに「ナッジ」らしい事例かと。
特に「人為的なミスを減らす」工夫は、人命にもかかわりかねませんから、広く普及して欲しいものです。
もちろん、私たちにとっても、身近なところでは「食器を小さくするだけでダイエットに効果がある」なんてのは有名ですよね。
象を思いどおりに動かすために読むべし!

心のゾウを動かす方法
第1章 なぜ正しい行動ができない?
第2章 象を動かすには?
第3章 ナッジで問題解決
【関連記事】
【スゴ本】「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー(2008年12月15日)【オススメ】『スイッチ! 「変われない」を変える方法』チップ・ハース, ダン・ハース(2010年08月11日)
【『ヤバ経』再び!】『0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる』スティーヴン・レヴィット,スティーヴン・ダブナー(2015年02月15日)
【スゴ本】「影響力の武器 実践編」がやっぱりスゴかった件(2009年06月10日)
【仕掛け?】『実践仕掛学―問題解決につながるアイデアのつくり方』松村真宏(2023年12月04日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
現代思想入門 (講談社現代新書)
人気哲学者、千葉雅也さんの新書は、Kindle版が500円弱お得。

新NISA対応版 いちばんカンタンつみたて投資の教科書
今一番手堅い(?)新NISAでのつみたて投資の本は、Kindle版が1000円ほどお買い得。

ナチュラル・リーダーシップの教科書――「理論」ではなく「感覚」だった
山口周さんご推薦のリーダーシップ本は、Kindle版が900円以上お得な計算です!
【編集後記2】
◆一昨日のの記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。
株メンタル―トップ3%投資家の最強ソリューション

静寂の技法―最良の人生を導く「静けさ」の力

タイパ コスパがいっきに高まる決算書の読み方―外資系金融の「分析力」と「瞬発力」が身につく19の方法

なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること
参考記事:【勉強法】『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』チームドラゴン桜(2023年11月21日)
よろしければご参考まで!
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