【読書】『シンプルで脳科学的に正しい読書法』茂木健一郎:マインドマップ的読書感想文

2024年03月07日

【読書】『シンプルで脳科学的に正しい読書法』茂木健一郎

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも大人気だった読書本。

茂木健一郎さんと「読書」というテーマが今ひとつ結びつかなかったのですが、タイトルにもあるように「脳科学」的な視点が新鮮でした。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

ＡＩが台頭し、インターネットが広く普及する世の中において、本を読む意義とは何でしょうか。それは「教養」を深めることにあると思います。「教養」とは単に情報や知識の量を増やすことではありません。それではＡＩと変わらなくなってしまいます。
人間にとっての「教養」とは、それを身につけることによって、脳がアップデートされ、人生をより良いものに変えていってくれるもの。言い換えるならば「あなたを今よりも素敵な場所に連れていってくれるもの」です。
そして「教養」は、読書によって磨かれます。読書は一生を通じてあなたの世界を広げてくれ、あなたを助け、導いてくれるのです。
たとえば、500冊読んだら、500冊分の高さだけ自分の足元に土台ができあがり、その高さの分、遠くまで世界を見ることができます。50冊なら50冊分、100冊なら100冊分の高さだけ、視界は開けていくのです。
読書とは「過去に読んだ本の数だけ、生きる上での英知を手にすることができ、本を読むか読まないかで人生に圧倒的な差がつく」といえるのではないでしょうか。
本書では、本を読むことで脳が成長することを明らかにします。

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Reading / roxeteer

【ポイント】

■1.読書はいい影響だけを脳に残す

　1つ目の調査は、「動物への虐待」について書かれた本を読んだ集団と、動物について何も書かれていない内容の本を読んだ集団を比較したものです。読書後、前者は動物愛護に高い関心を示すようになり、後者の動物愛護に対する関心は読書前と変わらないという結果が出ました。これは読者が、「動物への虐待」について読み、結果として「動物愛護」への関心が高まったといえるでしょう。
　2つ目の調査では、「暴力的な内容」の文学を読んだ集団と、そうでない集団で攻撃的な思考に影響が表れるかを調べました。結果は、それぞれの集団に明らかな差はありませんでした。
　読者の想像力を搔き立てる本の場合は、読書後に読み手に影響を及ぼしたのに対して、ネガティブな内容の本の場合は、そうした影響は表れませんでした。
　これは読書が、ポジティブな内容のみを記憶に残しやすい傾向があることを示しているといえます。

■2.「集中力」は読書で養える

　脳の前頭葉の前側にDLPFC（背外側前頭前野）という部位があります。ここは集中力を発揮するときに使われる回路で、いわば脳の司令塔でありIQ（知能指数）とも関係が深いといわれています。
　実は読書に集中している状態の脳は、DLPFCが活動している状態だといえます。この部位を鍛えるには、ちょっとややこしいことに集中することがポイントになります。
　つまり、ただ読書をすればDLPFCが活動して集中力が発揮されるのではなく、その人にとって少し難しい本を我慢して読むと集中力が高まるわけです。読書中に、スマホが鳴っても気がつかないくらい集中できるようになれば、脳の集中力はかなり高まったといえるでしょう。
　さらに、普段からある程度の雑音があるところで集中できるようにしておくと、DLPFCがさらに鍛えられます。たとえば職場で仕事をする場合、オフィスの中は意外とざわざわしているものですが、普段から雑音がある環境に身を置いていれば、職場でも集中力を途切らせることなく仕事に集中できるようになるでしょう。

■3.紙の本の方が出来事の順番や時系列が頭に入りやすい

　ノルウェーのスタヴァンゲル大学の研究者、アン・マンゲン氏らの研究では、50人の被験者に28ページの短編小説を読んでもらうという実験をしています。25人にはペーパーバックで、残り25人には電子書籍で読ませた後、物語に登場する人物や物、設定などいくつかの点についてテストを実施しました。
　登場人物や設定や内容の理解度を思い出すことに関しては、どちらのグループも同程度の成績でした。ところが、ストーリー内の14の場面を時系列に並べるテストを行ったところ、電子書籍で読んだ人は、ペーパーバックで読んだ人よりも著しく悪い成績になりました。
　この結果に対して、マンゲン氏は「電子書籍には紙の本が読み手に与えるようなストーリーの再現を助ける力がない」と指摘し、「物語の進行に合わせて紙をめくっていくという作業が、一種の感覚的な補助となる。つまり、触覚が、視覚をサポートしてくれる。おそらくこのことが、読書の進捗度合いと、物語の進行度合いを、よりはっきりと印象付けるのでしょう」と語っています。

■4.難易度を無視した読書をする

　翻って今の読者は、「自分にはこれは難しいから」といって、最初から難易度の高い本には手を出さない人が多いようですが、それは非常にもったいないことだと思います。
　読書とは、本格的なものに触れることが大事であって、100％意味がわかる必要はありません。意味がわからなくても読めてしまうのが、「言葉」というものの特質なのです。
　つまり、言語はあるレベルに達しないとその意味が伝わらないというものではありません。
　それは、子どもが言葉を覚える際に、「この子はまだ5歳だから、私たちの会話は3000ワードだけで済ませよう」などということを周りが考慮してしゃべっていないのと同様です。子どもは、わからない単語はわからないなりに推察できますし、ニュアンスや表情から多くの情報を理解するものです。(中略)
　これが数学の場合は、読書のようにはいきません。数学は積み上げの学習であるため、基礎のステップを踏まずに、いきなり複素関数論を理解しようとしても不可能です。
　ところが、言語の場合はたとえ記号や暗号みたいに感じていても、脳はそれなりにちゃんと刺激を受けて回路がつながっていきます。だからこそ、言語の学習は無理筋の学習ができるし、またやるべきなのです。

■5.オーディオブックの方が深く考えられる？

　目で読む読書の場合は、まず「視覚から入った文字情報を音に変換し」「その音を聴覚から言語野で理解する」というプロセスを経ます。
　オーディオブックの場合は、「視覚から入った文字情報を音に変換する」プロセスが省かれるため、脳は聴くのと同時に考えることができるのではないでしょうか。つまり、人が話すのを聴いていると、脳は同時に考えて読むことができるということなのです。すると、本の内容に対してより深い理解を得ることができます。
　セミナーや講演会に参加したときも同じことが起こります。聴講者がセミナー終了後に、講師に質問しにいくというのは、セミナー中に講師の話を聴きながら自分の考えを巡らせている証拠です。
　このように考えていくと、オーディオブックで耳読するというのは、私たちが考えている以上のメリットを秘めているのかもしれません。

【感想】

◆冒頭で、「茂木さんと『読書』が結びつかない」などと申してしまいましたが、実は他の方の作品で、茂木さんの読書について紹介されていたのをすっかり忘れていました。

こちらの本なのですが。

「名著」の読み方

参考記事：【読書術】『「名著」の読み方』秋満吉彦（2022年08月08日）

上記レビューの初っ端のポイントで、茂木さんが『赤毛のアン』にハマった話が出てきますが、本書でも当然のように『赤毛のアン』は登場。

Kindle内を検索したところ、合計18回も本書で名前が挙げられていますが、「大変な衝撃を受けた」のは、あくまで「茂木さんにとっては」のお話なので、とりあえずポイントとしては割愛しました。

ただ、本書でも結構なページを割かれてプッシュされていますし、未読の方なら読んでみたい、お子さんがいたら読ませてみたい、と思われるのも必至かと。

◆他にも本書では、茂木さんオススメの作品が何冊も掲載されているのですが、それらを差し置いてでも取り上げたかったのが、やはり冒頭でも触れた「脳科学」的なお話でした。

たとえば上記ポイントの1番目の読書の影響のお話は、私は本書で初めて知った次第。

上記引用部分では、どこの誰が調べたか載っていませんが、巻末の参考文献先によると、エモリー大学での研究らしいです。

参考記事：読書は脳に「永続的な影響」を与える。フィクションかどうかで違いも - ナゾロジー

いずれにせよ、このポイントを読む限りでは、内容の良し悪しを問わず、読書自体にプラスの効果しかないように思えますね。

ちなみにこれは、第1章の中の「読書には実生活で実感できる7つのメリットがある」からのもので、上記ポイントの2番目の「集中力」のお話も同様です。

今まで何冊も集中力をテーマにした作品をレビューしてきましたが、「DLPFC」なんて用語は当ブログでは初めて出てきましたし、さすが「脳科学者」といったところかと。

実際、以前読んだ某勉強本の著者さんは、「家族揃って、本を読んでいる時に声をかけられても気がつかない」ほど、集中力に長けている、という記述がありました。

……できる人はできるんですね。

◆また、上記ポイントの3番目の紙の本のメリットのお話は、第2章からのもの。

よく、紙の本と電子書籍を比較したり、それぞれのメリット・デメリットを挙げる人がいますが、今回の「時系列」という指摘は初めて見ました。

ただ、紙をめくる触覚というより、手に持った時の厚みとかは、私自身、Kindleに移行して失われてしまった感覚だな、と思います。

「まだこのくらいか」とか「もうこんなに読んだ」という感覚は、意識しなくても手から伝わりますしね。

そしてそれがストーリーと結びつく、という仕組みは、あまり物語を読まない私でも腑に落ちました。

◆一方、かなり飛んだ第6章から引用したのが、上記ポイントの4番目の難易度のお話。

私もどちらかというと、難しめの本は避けがちなので、非常に耳イタかったです。

ただ、単に読むだけではなくて、それをブログでレビューする、という作業は、難易度の高い本だとかなりの無理ゲーでして。

逆に、いちいち記事を書く必要のない方や、お子さん方の場合、自分が理解できるか否かは、考えない方が良い、ということみたいです。

そういう意味では、ラノベよりは普通の物語の方がいいんでしょうね。

◆そしてもう1つ初耳だったのが、やはり第6章から抜き出した、上記ポイントの5番目のオーディオブックのお話。

そもそも私は、大人になってから音読をほぼしたことがないのですが、黙読でも「視覚から入った文字情報を音に変換し」「その音を聴覚から言語野で理解する」というプロセスを踏んでいるとは知りませんでした。

ただ、オーディオブックだと「理解が深まる」というより、プロセスを1つ省いているので「速く理解できる」という気がしないでもなく。

むしろ私は、同音異義語による勘違いが起こりえない分、目で読む読書の方が安心なんですけどね……。

もっとも、茂木さんもこの部分については、「ないでしょうか」「かもしれません」といった表現を取られているので確定ではないでしょうし、今後の研究等を待ちたいと思います。

脳科学的に正しい読書をするために読むべし！