2024年02月07日
【化学】『化学で世界はすべて読み解ける 人類史、生命、暮らしのしくみ』左巻健男
化学で世界はすべて読み解ける 人類史、生命、暮らしのしくみ (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「SBクリエイティブ 科学・数学本フェア」の中でも一番人気の新書。著者の左巻健男さんは、「ニセ科学の危険性に警鐘を鳴らしてきた第一人者」として、私もお名前は存じておりましたが、今回の作品はいたって王道の「化学ネタ」本でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
人類の発展やそれにひもづく世界史と切り離せない「科学」。
その中でも「化学」は、この世界を構成する物質や、わたしたちの衣食住、人類による技術革新に大きく影響を及ぼしている存在です。
本書では、わたしたちの生活に根づいている素材・物質を取り上げます。誰もが見聞きしたことのある原始的なものから、初耳のものまで、生活の延長線上にある身近な疑問を切り口に、化学のプロがやさしく丁寧に解説する1冊です。
さあ、奥深き化学の世界を、いっしょに冒険しましょう!
中古がそこまで値下がりしていないため、このKindle版の方が300円以上お買い得です!
【ポイント】
■1.水蒸気でマッチに火がつけられる!?沸騰している水から出る水蒸気は100℃ですが、その水蒸気をさらに熱すると、温度の高い水蒸気になります。
水蒸気は100℃どころではなく200℃、300℃を超えるような高い温度にもなります。水蒸気は最高で100℃ではなく、300℃を超える場合もあるのです。
これを「過熱水蒸気」といいます。熱くて乾いた感じの水蒸気です。
過熱水蒸気を当てるとマッチに火がつき、紙も焦げ出します。水蒸気でぬれるのでなく、水蒸気で焦げるのです。
私たちは、普段の生活の中で、100℃を超える水蒸気に接する場面はないでしょう。だから「水はぬれやすい」とか「水蒸気はせいぜい100℃までにしかならない」という考えを持っている人が多いのかもしれません。
■2.陶器と磁器の違いって?
陶器は「土物」といわれ、粘土(陶土) を原料とし、比較的低温(800〜1300℃)で焼き上げたものです。磁器と比べると、密度が低く割れやすいため、厚く仕上げます。表面にうわぐすりをかけて焼くことが多いです。うわぐすりがかかった部分はガラスのようにツルッとしています。素朴で土の質感が残るものが多く、磁器より熱伝導率が低いので、中に入れたものが冷めにくいのが特徴です。叩くとややにぶい、にごった音がします。
わが国の陶器では、 益子焼、 萩焼、 薩摩焼などが有名です。
磁器は「石物」といわれ、主に石の粉末を練ったものを原料とし、高温(1200〜1400℃)で焼き上げたものです。高温で焼くため素地が硬く、強く焼き締まるので、陶器より薄くつくることができます。素地が白く表面がなめらかなため、鮮やかで細かい絵つけが映えるのも特徴です。叩くと澄んだ音がします。
わが国の磁器では、 伊万里焼、 有田焼、 九谷焼などが有名です。
■3.見えない、臭わない! 恐怖の一酸化炭素とは?
一酸化炭素は、無色・無味・無臭でその存在を感じることがとても難しい気体ですが、毒性は大変強力です。そのため、一酸化炭素中毒事故は、締め切った部屋など、閉じられた空間内での練炭やガス・灯油の燃焼器具、あるいはガソリンエンジンの使用などで、よく起こっています。
一酸化炭素の空気中の濃度は1〜10ppm(ppmは濃度の単位で100万分の1、0.0001〜0.001%)程度です。締め切った部屋で燃焼器具を使用していると、室内の酸素濃度が減っていきます。そして酸素濃度が18%を下回ると突然、器具の燃焼性能が悪くなり、不完全燃焼により排出される一酸化炭素の量が急増します。
風通しが良くない場所で物を燃やしているときに、頭痛や吐き気がしたら要注意です。もし、一酸化炭素中毒になりかけた場合は、被災者を新鮮な空気のある場所に移し、速やかに医師の診察を受けさせます。呼吸困難や呼吸停止状態のときは、直ちに人工呼吸を行う必要があります。
■4.ストッキングの糸は、細いのになぜ強いのか?
カロザースは、綿や絹などの天然繊維の代わりになる繊維を合成でつくりたいと考えていました。
そこで、最初は綿、つまりコットンのような植物の繊維に似たものをもとにして繊維をつくって糸にしようとしましたが、それはうまくいきませんでした。繊維は強かったものの耐熱性や耐水性が弱く、実用化できなかったのです。
そこで彼は、思い切って植物のまねをやめて、蚕が吐き出す絹に注目しました。そして絹に似た繊維をつくろうと決心し、何百という組み合わせを試していきました。
手をどうやってつなぐかという話になりますが、その方法で何百という組み合わせを確かめていくわけです。
自分の下にいる二十数人の研究員がみんな、それに取り組んでいきました。もう新発見というより、組み合わせをそれぞれ1つ1つ確かめていくという、ある意味ローラー作戦でやっているので、地味な作業です。
そして1934年、ついに、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の2つの薬品を重合したものを熱で 融かした粘液を引き伸ばすと、糸として絹にまさる性質を持っていることを見いだしたのです。
1935年、ナイロンの特許を取得しました。
■5.「温室効果ガスは悪玉だ」と思ってませんか?
基本的に温室効果ガスは悪玉ではありません。温室効果ガスのおかげで地球の平均気温は14℃に保たれています。
地球は太陽光線によって温められています。地球は温められると、赤外線を放つこと(赤外線を放射すること)によって、宇宙に熱を逃がしています。赤外線を放つと、地球は冷めることになります。地球の温度は、太陽からの日射のエネルギーと、地表や大気によって放射される赤外線のエネルギーのバランスによって決まります。
放射された赤外線は、すべて宇宙空間に放出されるわけではなく、一部は温室効果ガスによって吸収され、再び地表に向かって放出されます。温室効果ガスによって、地表、そして地表付近の大気が温められます。
もし大気中に温室効果ガスがなかったら、地球の平均気温はマイナス19℃とされています。実際は14℃ですから、差し引き33℃分は温室効果ガスのおかげなのです。
【感想】
◆当ブログでも、今まで「科学」とか「科学的」という言葉を使ったことはありましたが、「化学」に関しては、ほぼ初めて(セールの書名等を除く)。実際、私自身「『化学』とは何ぞや?」と問われると、即答できませんでした。
そこで本書の冒頭の「はじめに 読者のみなさんへ」には、こんな一節が。
化学とは、どのような学問なのでしょうか?なるほど、納得。
一言で言うと、化学は物質を研究する学問です。
例えばコップには、ガラス製のもの、紙製のもの、金属製のものなどがありますが、コップという物体をつくっている材料に注目した場合、その材料を「物質」といいます。
つまり、「物質とは物の材料」ということができます。
化学は、物が「何からできているか(どんな物質からできているか)」という材料に注目した見方をするのです。
そして本書では、さまざまな「物質」が、発見の経緯や生成のエピソードとともに、紹介されています。
◆また、既によく知っている物質でも、知らなかった特徴がある、と知らされた中の1つが、上記ポイントの1番目の「過熱水蒸気」。
水は沸騰しても100℃が限界ですから、200℃や300℃(以上)になるとは、考えもしませんでした。
しかし実は身近にも「過熱水蒸気」を使った電化製品があるとのこと。
それがいわゆるウォーターオーブンと言われる調理器具です。
シャープ 過熱水蒸気 オーブンレンジ 31L コンベクション 2段調理 ホワイト RE-SS10-XW
製品自体の存在は知っていましたが、てっきり蒸気で蒸す感じなのかと思いきや、むしろ逆のよう。
食品に水蒸気を当てれば結露してぬれますが、過熱水蒸気では食品がぬれた状態になるどころかパリッとカリッと焼けます。ウォーターオーブンの高熱で、食品内部の脂が融け出し、ポタポタと落ちます。うーん、一度できあがったものを食べてみたいところ。
◆一方、上記ポイントの陶器と磁器の違いは、何となくイメージでは分かっていましたが、このようにロジカルに解説されると腑に落ちます。
さらに実物で見ると、違いはありありと。
益子焼 「 Nisai 」 プレート 皿 157 糠青二彩TN-22
皿 おしゃれ : 古伊万里金彩 八角取皿/有田焼 Japanese Plate Porcelain/Size(cm) Φ14x2.9/No:395898
なお、この節の中に、有名な陶器メーカーであるウェッジウッドの成り立ちのお話があるのですが、創業者のジョサイア・ウェッジウッドは、必然的に大金持ちになり、亡くなった際、財産の大部分は娘のスザンナ・ウェッジウッドに残したのだとか。
そして彼女の息子が、進化論でおなじみのチャールズ・ダーウィンであり、おかげでダーウィンは経済的な心配をしないで、研究に打ち込めたのだそうです。
……期せずして「ダーウィンの実家は太かった」という知見を得た次第。
◆ところで、上記ポイントの3番目の「一酸化炭素」に関しては、火傷に次いで、火災事故等の死因に挙げられることが多いです。
日本法医学会課題調査報告(PDF)
しかし目で見ても分かりやすい火災と違って、「無色・無味・無臭」なのが一酸化炭素の怖いところ。
私たちの体内で全身の細胞に酸素を運んでいるのは、赤血球中に含まれているヘモグロビンです。肺で受け取られた酸素は、ヘモグロビンに結合して細胞まで運ばれます。ここにもあるように、「風通しが良くない場所で物を燃やしているときに、頭痛や吐き気がしたら要注意」ですね。
ところが、一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結合する力が酸素より約200倍も強いため、一酸化炭素があると酸素とヘモグロビンの結合が阻害されてしまいます。
◆また、よく何らかの「発見」「発明」というと、偶然見つけたり、思いついたり、というエピソードが記憶に残りやすいですが、上記ポイントの4番目のナイロンは、その逆。
全部で何通り試したかはわからないものの(何百という表現はありますが)、物理的な「チカラ技」で見つけ出したことが分かります。
そういえばエジソンがフィラメントに「竹」を見出した際にも、何百、何千と素材を試したのでしたっけ。
なお、最後のポイントの「温室効果ガス」のお話も、私は全然知りませんでした。
また、そもそも温室効果ガスで、最も温室効果に寄与しているのは、二酸化炭素ではなく水蒸気で、しかも水蒸気に占める人間活動の比率は、大気、海洋等の中を循環する水の量に対して、微々たるものでしかないのだとか。
ただし、二酸化炭素の増加は人間活動によるものが大半で、結局「二酸化炭素量の増大→地球の温度上昇→水蒸気量の増大→地球の温度上昇」という負のループを生み出す以上、対策をとる必要があるわけですね。
化学を教養としても押さえておくために読むべし!
化学で世界はすべて読み解ける 人類史、生命、暮らしのしくみ (SB新書)
1章 水 「氷は0℃」と思っていませんか?
2章 水と衛生 古代ローマ人のお風呂愛はお湯より熱かった!?
3章 火 「大気」と「空気」はどう違う?
4章 金属 小魚にはカルシウムは含まれていな!?
5章 セラミックス 粘土を焼くと、なぜ硬い土器になるの?
6章 ガラス クレオパトラもガラスビーズを眺めていた?
7章 ダイナマイト 家庭用コンロのガスが臭いのはなぜ?
8章 染料 アイシャドーと口紅、化粧品はどこで生まれた?
9章 医薬品 使いすぎるとどの抗生物質も効かなくなるって、ホント?
10章 農薬 世界80億人の命を、化学肥料が支えている?
11章 合成繊維 ストッキングの糸は、細いのになぜ強いのか?
12章 プラスチック 紙おむつの吸収力がすごいのはどうして?
13章 石油 石油、ガソリン、灯油、軽油、重油……違いは何?
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【STEAM?】『AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である』成毛 眞(2017年01月08日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」は、3冊とも「121ポイント還元」されてるのですが、それを踏まえて。自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法
私自身ノーマークだった自己啓発書は、Kindle版が700円強お得。
A06 地球の歩き方 フランス 2024〜2025
「地球の歩き方」シリーズのフランス版は、Kindle版が2000円弱お買い得。
恋愛結婚の終焉 (光文社新書)
昨年9月に出たこちらの新書は、まだ中古があまり値下がりしてませんから、Kindle版が600円以上お得な計算です。
【編集後記2】
◆一昨日の「SBクリエイティブ 科学・数学本フェア」の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。化学で世界はすべて読み解ける 人類史、生命、暮らしのしくみ (SB新書)
日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)
参考記事:【行動遺伝学】『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康(2018年02月10日)
SUPERサイエンス 睡眠という摩訶不思議な世界の謎を解く
難しい数式はまったくわかりませんが、確率・統計を教えてください!
よろしければご参考まで!
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