2024年01月29日
【コミュニケーション】『日本のコミュニケーションを診る〜遠慮・建前・気疲れ社会〜』パントー・フランチェスコ
日本のコミュニケーションを診る〜遠慮・建前・気疲れ社会〜 (光文社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「光文社 ポイント還元セール」の中でも人気のコミュニケーション本。カタカナ名なのに別途、翻訳者名がないので、著者のパントー・フランチェスコ氏は、ひょっとして日本人なのかと思いましたが、下記内容紹介にもあるようにしっかり外国の方でした。
アマゾンの内容紹介から。
「本音と建前の使い分け」「迷惑をかけることを極度に恐れる風潮」「モテ/非モテの区分」「『○○キャラ』という表層的なやりとり」……。日本社会の人間関係は他国と比較して独特な要素が強く、それがメンタルを“病む”一因になることもある。私たちは人付き合いのあり方をどのように変えていけばよいのか。『アニメ療法』著者のイタリア人精神科医が自身の経験と学術的知見をもとに語る、コミュニケーションの処方箋。
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【ポイント】
■1.己の独立した感じ方による価値観を持つ例えば「私は医者だから価値がある」と考える人は、自らが医者ではなくなった時点で自尊心が剥奪されてしまう。しかし「私は人に優しくて寛容だから価値がある」と捉えるのであれば、そうはなりづらい。このような、人間としての尊厳を自己の特徴として捉えた方が良いだろう。
そして、それは何より倫理的な問いでもある。人間としての価値は、存在するだけで与えられる。何か特別な能力を持たなければ価値がないわけではない。自己の尊厳のあり方が「状況特性的」ではなく「標準的」なものであれば、いくら失敗体験を重ねても、私たちの価値は損なわれない。周囲の環境、他者の判断基準や社会的役割に左右するようなものとして尊厳を捉えてしまうと、ステータス次第で私たちの価値は失われてしまいかねない。
■2.援助要請行動を阻害する「迷惑ノイローゼ」
先ほど、「他者に迷惑をかけることは絶対に避けるべき」という日本社会の規範を「迷惑ノイローゼ」と呼んだ。このような規範が社会を支配すれば、誰かに助けを求めたいときでも、無理やり一人で悩みを抱え込んでしまう可能性が高い。感情の表出を 永遠に 延期してしまうのだ。こうした遠慮文化に参画している人間は知らず知らずのうちに、誰かの表現の可能性を削っている。一人で解決できない悩みがあるとき、他者の存在は貴重なものだ。感情に委ねて相手の助けを求めることは、大げさでなく生存のために必至のことでもある。
「迷惑ノイローゼ」は日本社会の社会的期待の表れではないかと思う。他人に迷惑がかかることをおそれる人は、自己感情を過度に抑制する。私たちの周りにいる、困っていたり悩んだりしている人の多くは、助けを求めることができず、静かな叫びをあげている。助けを求める行為を心理学の用語で「援助要請行動」と呼ぶが、「迷惑ノイローゼ」はこの援助要請行動を阻害する可能性がある。
■3.本音と建前の矛盾を受け容れる日本社会
『菊と刀』で有名な人類学者のルース・ベネディクトは、日本社会の道徳的相対主義は同じ価値判断の対象(本来であれば同じ価値をつけるはずのもの) であっても、領域が変わると道徳判断も変わると指摘した。例えばAさんが生意気な友人に対して「正直かなりムカつく」、でも「礼儀正しく振る舞いたいから反論はやめておこう」と感じたとする。このとき、Aさんは友人に対して本音と建前の領域で異なる評価をしているにもかかわらず、自分の中に矛盾を感じていない。
本音と建前を抱くこと自体はよくあることだと思う。注目したいのは、Aさんがそこに論理的な矛盾を感じないことである。なぜなら、西洋で支配的である絶対的道徳の見方からすると、こうした矛盾による道徳の両価性(正反対の概念が同時に存在すること) は不愉快で、避けたい気持ちが生じるからだ。日本社会では、こうした両価性は避けるのではなく、むしろ大事にされている。
■4.否定されることへの恐怖は「通過儀礼」
建前に依存して本心を言わないでいると、素直な意見を述べる習慣が身につかない。その生き方が続くと、「自分の意見を述べたら否定されるのではないか」という恐怖が増すと思う。たしかに自分の意見を言わずに建前で対応していれば、コンフリクト(衝突) は避けられる。自分の意見の正当性を問われることもなければ、自分の意見を否定される可能性も皆無だ。安全地帯にいられる。ただ、そのような人は肯定されることもない。自分の素直な意見が相手に知られることもなければ、認めてもらえる可能性もない。
否定されることへの恐怖心は人がみな持っているものだ。ただ、生まれてから一度も否定されない人なんて絶対にいない。人は否定されることで成長するといってもいい。一度でも素直な意見を堂々と述べることができたら、その後は否定されるダメージなんて小さくなっていくだけだ。この「通過儀礼」を経験しないと、否定に対する恐怖感だけがどんどん膨らんでしまうだろう。
■5.自分の意見や「NO」を言う
気疲れへの対策にはまず、健全な自己愛を育てる必要がある。コミュニケーションの観点からいうと、相手からの反応が否定的な可能性があっても、自分の意見を言う練習が大切になる。まずは簡単なことでもいいから、自分の意見を言ってみよう。
もう1つのアドバイスは「NO」を言うことである。自分の意見として「NO」の意思を提示して、それで関係が良くなっても悪くなっても仕方のないことである。ある程度相手に合わせる努力はしても構わないが、精神的な健康を犠牲にしてはならない。他者に傷つけられているのに、その間違いを許してしまうことも良くない。現代社会では他者に対して寛容であることが「能力」であるかのように重視されているが、自分の尊厳が踏みにじられるのなら話は別だ。自分で伝えない限り、相手がそのことに気づくかはわからない。
【感想】
◆新書でありながら、かなりの量のハイライトを引きまくりました。実際には今回ご紹介できなかった中にも、非常に有益なお話も多々あったのですが、そのいくつかは、ボリュームの関係でカットせざるを得ず。
と言いますか、専門用語や著者作用語(「外傷コミュニカビリティ」「反動形成」等)の定義に触れないと、その後の文章の意味が分かりにくいパターンが意外と多かったため、それらは泣く泣く割愛。
ひょっとしたら、とあるアマゾンレビューの中に「難解な文章」とあったのは、そういう部分なのかな、と。
……確かに、表紙がFGOのイラストレーター(先崎真琴)さんですから、もっとライトなイメージを持っても不思議ではありませぬ。
翻訳本にたまにある、原文に寄せた結果、意味が分かりにくくなることもなく、むしろ「外」から見た鋭い視点に、個人的には何度も「なるほど!」と思った次第です。
◆たとえば、上記ポイントの1番目の価値観のお話なんて、まさに私たちにとって「あるある」ではないでしょうか。
そういう「ステータス」を、己の拠り所にしている人なんて、有名校や有名企業にはいくらでもいるはずです。
そして、その拠り所を失うと、精神的に大きなダメージを負ったり、最悪の場合、自暴自棄になって、犯罪を犯したケースもあるような。
また、上記ポイントの2番目では「迷惑ノイローゼ」という聞きなれない言葉が出てきましたが、こちらは初っ端で定義が述べられていたので、抜き出すことができました。
私自身も他人に迷惑をかけることは、極力避けたい方なので、この件は耳イタイ限り。
確かに他人に頼ることも下手ですけど、日本人には私に限らず、こういう方が多いと思います。
◆一方、上記ポイントの3番目の「本音と建前」については、ここで指摘されているように、確かにそう振舞うことが自然だと思っていました。
むしろそれが、西洋では「不愉快で、避けたい気持ちが生じる」とはビックリの巻。
これは日本の場合には、「反論」することで、相手との衝突が起きるため、それを避けたい、という気持ちが強いのだと思います。
そしてそれはそのまま、上記ポイントの4番目にもつながるもの。
本音と建前を使い分けている分には、「安全地帯」にいることができます。
ただしそれだと、必要な「通過儀礼」を受けていないため、「否定に対する恐怖感だけがどんどん膨らんでしまう」という指摘も、うなずくことしきり。
……実は私は、意見がぶつかってもサバサバできるのですが、その後相手が私をどう思っているのかは不明です(ダメじゃんw)。
◆ということで、上記ポイントの5番目にあるように、衝突を恐れず、自分の意見や「NO」を言うべし!
ちなみに、私が本業(税理士)において、顧問先の調査等で、そのまま税務署の言いなりになっていたら仕事になりませんから、そこに限って言うなら当たり前なのですが。
そうでない普通のビジネスパーソンの方にとっては、職場や家庭、近所づきあいでどうなのか。
ひたすら我慢し続けて、最後に爆発するか、自分が疲弊しきってしまう前に、言うべきことは言うようにしてください。
参考までに、本書の巻末にあった「より良いコミュニケーションのための5つのモットー」なるものをご紹介しておきます。
(1)他者に嫌われてもいいそれぞれ本書では解説も付されていますので、ご確認のほどを。
(2)人に落ち込んでいる姿を見せてもいい
(3)自分の意見を言ってみよう
(4)目上の相手でも断っていい
(5)自分のユニークさに自信を持って、自分を苦しませない行動をとってみよう
まさに「コミュニケーションの処方箋」でした!
日本のコミュニケーションを診る〜遠慮・建前・気疲れ社会〜 (光文社新書)
第1部 「心の痛み」の伝わり方
第2部 日本社会の精神を解剖する
第3部 コミュニケーションのかたちと中身を診る
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【編集後記】
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【編集後記2】
◆一昨日のの記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい (幻冬舎新書)
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よろしければご参考まで!
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