スポンサーリンク

       

2023年12月28日

【ジブリ】『誰も知らないジブリアニメの世界』岡田斗司夫


B0BXDG1V9G
誰も知らないジブリアニメの世界 (SB新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本 年末年始セール」にて、個人的に読んでおきたかった1冊。

おなじみ岡田斗司夫さんが、ジブリ映画について語りまくる作品です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
通称オタキング、評論家・岡田斗司夫はジブリアニメに何を読むのか?宮崎駿をどう見るのか?
豊富な資料と知識から迫るジブリアニメ大解剖。
すべてのアニメファン、ジブリファン必見必読の1冊です。
稀代の天才アニメーターは、いかにして国民的作家になったのか。
ジブリでの長編監督作全10作品を時系列で読み解くことで、宮崎駿が語ってきたこと、愛したもの、またその変化と成長を分析。
各作品ともにテーマを設けて岡田斗司夫が徹底解説します。

中古は値崩れしていますが、送料を考えればKindle版に軍配が上がります!





Totoro with Kindle / alf.melin


【ポイント】

■1.宇宙船の残骸で技術の断絶を表現
 あまりに技術が進んでしまうと、同時代に生きている人ですら理解できない。別の時代、別の文明に生きる人々には、もはやまったく理解できません。
『ナウシカ』では文明の遺物として宇宙船の残骸が登場しますが、風の谷の人々はそれを直すでもなく、調べるでもなく、ただ避難場所として使うのみ。この宇宙船の登場のさせ方だけでいかに技術が断絶されたかを表現する、宮崎駿の演出力には唸るしかありません。(中略)
「宇宙船なんて最初から出てたっけ?」という方。ぜひ『ナウシカ』を見返してみてください。冒頭、ナウシカが着地するシーンの後ろにさりげなく映っているのが、映画後半で風の谷の住人が避難する宇宙船の残骸です。ちなみに『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にも、主人公レイが暮らす砂漠の惑星ジャクーに、旧帝国軍の宇宙船が半ば埋まっているシーンがあり、『ナウシカ』と比べるのもおもしろいです。

B00K72FKBU
風の谷のナウシカ [DVD]


■2.テレビで人気に火がついた『トトロ』
 さて、ジブリが怒濤の仕事量でなんとか作り、今度こそSFアニメ全盛時代を相手にまわした『となりのトトロ』『火垂るの墓』の2本立てですが、配給収入は5億8800万円。『ラピュタ』にはかろうじて勝ちましたが、2本立てでこの数字はさすがに期待外れだったのではないでしょうか。興行としては失敗と見ていいと思います。
 ところが意外なことに、公開翌年にテレビで放送されると、21%の視聴率を獲得したのです。公開から遅れての反響について、『天才の思考』で鈴木敏夫はこう語ります。
テレビで放映したらすごい視聴率をとり、映画公開の2年後ぐらいに世の中に出したトトロのぬいぐるみが大人気になった(中略)。出版物、グッズやテレビ放映、ビデオなど、『トトロ』がもたらす莫大な利益によって、ずいぶんとジブリは助かっているんです。
 最初はテレビ用として企画しただけあって、『トトロ』はテレビで人気に火がついたのです。常々「子どものためにアニメを作る」と公言している宮崎駿。多くの子どもをターゲットにするのであれば、気軽に見られるテレビのほうが合っていたのかもしれません。

B00K72Q1VI
となりのトトロ [DVD]


■3.『ナウシカ』に酷似する『もののけ姫』
 自然とわかりあえる少女としてのサンとナウシカ。物語の途中で片腕を失うことになるエボシ御前は、片腕が義手のクシャナ。どちらも外から来た勇者であるアシタカとユパ。人間を襲う自然の象徴としての、タタリ神と王蟲。巨大な怪物、ディダラボッチと巨神兵。『ナウシカ』の登場キャラの多くはそのまま『もののけ姫』のキャラに当てはめることができます。
 ストーリー展開も同じです。自然と人間が緊張関係にある世界。自然と共存する人もいるなか、ついに自然を倒そうとする集団があらわれる。反撃とばかりに、自然からも人間の手に負えない怪物が繰り出される。もうダメかというところで主人公が祈りを捧げると、自然が許してくれる。クシャナやエボシ御前のように自然と対立していたはずのリーダーも話の通じるヤツになって、おしまい。ほぼ完全に一致しているのです。

B00K731JQ4
もののけ姫 [DVD]


■4.ハクの正体は、千尋の兄?
 そもそもなぜ自分の名前も思い出せないハクが、千尋を小さい時から知っているのか。それは、ハクが千尋の死んだお兄さんだからです。
 そして、あの日の川で、千尋は川で靴を流したのではなく、川に落ちてしまっていた。そんな千尋を助けようとして、お兄さんのハクが川へ手を伸ばした。しかし、悲しいことに、助けた代わりにお兄さんが川に流されて死んでしまった。これがハクが死んでしまった真相です。そして彼は、他人のために命を捧げたからこそ、コハク川の神様になれたというわけです。
 ハクの正体を「死んだ千尋のお兄さん」と考えると、そのほかの謎も多くが解決します。
 たとえば、両親の謎。千尋のお母さんって、千尋に対してなぜか冷たいですよね。(中略)
 これはなぜか。千尋の犠牲となって死んでしまった長男の存在があるからです。もちろん、お母さんも長男であるハクが死んだのは、千尋のせいではないとわかっています。でも、無意識的に千尋に対して冷たく当たってしまう……。

B00K73479A
千と千尋の神隠し [DVD]


■5.初めて父を描いた『風立ちぬ』
 それまでの作品と『風立ちぬ』の違いは、ファンタジーではなく実在の人物を主人公にしたことも大きいです。ですがさらに大きな違いとして、宮崎駿が初めて父を描いた、という点があります。
 宮崎駿が映画のなかでいつも憧れてきたのは、女性であり、もっと言えば母親です。ナウシカ、ドーラ、サツキとメイのお母さん、ジーナ、湯婆婆、ソフィー、リサ、グランマンマーレ……。その誰もが、宮崎駿が考える母性の象徴です。
 一方、父性を強く感じさせるキャラクターは見当たりません。宮崎アニメに出てくる父は、物語や主人公を導く存在ではありません。世界を動かすのは、女性であり母親です。(中略)
 しかしついに『風立ちぬ』で、父を描き出します。しかも批判的に描くのではなく、飛行機という夢を追う純粋な人間として。父への赦しがうかがえます。作品を通じて再会を果たした宮崎駿は、父と和解をしたのではないでしょうか。

B00J2NUMVS
風立ちぬ [DVD]


【感想】

◆なかなか濃厚な映画分析でした。

さすがオタキングといったところでしょうか。

実は以前、私は岡田さんのメルマガを購読していたことがあったのですが、4年弱前にいきなり配信終了になってしまいまして。

……かなりの長文のことが多くて、試しに最終号の文字数をカウントしたら、17000文字もあったんですがw

そしてこのメルマガで中心となっていたのが、本書のような映画解説(分析)。

私も一応ジブリ映画は、ヨメの付き合いで映画館に行ったり(『千と千尋の神隠し』)、子どもたちが幼い頃DVDで観たり(『となりのトトロ』等)、他にもテレビの流し見等で、それなりに観てきてはいました。

ただ、そのメルマガや、そこでの論点等をベースにした本書と私を比べると、大人と子ども以上の考察の差がある、と感じます。


◆そもそも「アニメ」というフィールドでは、宮崎駿監督は、岡田さんにとっては同業者。

ちなみに、エヴァの庵野監督を取り合った仲(?)でもあります。

メルマガでの岡田さんの批評対象となった映画はジブリだけではないのですが、個人的にはジブリ映画のときの方が、分析が鋭い、と感じるのは、そうした付き合いの長さゆえかもしれません。

ただ、メルマガの方で読んで覚えていた、いくつかの印象的な分析が割愛されていたのは、本書のテーマに沿わないからなのか……。

たとえば『もののけ姫』において、山犬のモロと、ヒロインのサンは、親子関係(育ての親)という設定になっていますが、実はサンは、エボシ御前の実の娘ではないか、という説ですとか。



正直、私はまったく考えたこともなかったんですが、気がつく人は細かいところまで観ているもんだな、と。


◆気がつく、といえば、上記ポイントの1番目の宇宙船の残骸だなんて、皆さん見過ごしてるんじゃないでしょうか?

しかもそれが、「技術が断絶されたかの表現」だなんて、思いもよらず。

さらには、こんな指摘もされています。
 技術の失われたこの世界では、自然に手に入るセラミックや王蟲の殻を使った道具ばかりで、そこに高度な加工技術は見られません。もっと言うと、金属の精製と加工の技術がないのです。一見金具に見える部品も設定から考えればセラミックの切り出しと思われますし、無骨な形をした道具が多いのも、形状を扱いやすい金属がないからだと考えられます。
……ボーっと観ている自分、ハズカシスw

また、上記ポイントの2番目の『トトロ』は、それこそ初めから大ヒットしているのかと思ってましたが、確かに数字を見ると、劇場では今ひとつだった模様。

それこそ『トトロ』も、さまざまな考察(有名どころでは「メイが溺れて死んでいる」というのがありますが、正式に広報部より否定されています)がある一方で、本書ではその「生い立ち」にフォーカス。

岡田さんは大胆にも「24時間テレビ用の企画だったのでは」という仮説を立てられています(詳細は本書を)。

ただ、確かにそういうお茶の間を意識したベースがあってこその、テレビ人気だったというのは、あり得るかもしれませんね。


◆そして上記ポイントの3番目で触れた『もののけ姫』については、なるほど『ナウシカ』とよく似た構成です。

他にもここで割愛した類似点として、「冒頭のテロップの内容やその見せ方」や、「ラストで暴走するモンスター」等々もありました。

岡田さんいわく、「偶然似てしまったというより、同じことを反復しようという明確な狙いがあったのでは」とのこと。

ただし、この2つの映画の大きな違いは、『もののけ姫』が、ヒロインではなくヒーローが主人公であることでした。

実際、タイトルも当初は『アシタカせっ記』(「せっ記」とは宮崎監督の造語で「伝説」といった意味合いだそう)だったらしく。

ただ、どっちかというと、ネットでも話題になっている、アシタカがカヤからもらった小刀を、サンにあげてしまっているのがヒドイ、というお話の真相を、本書でも載せて欲しかったかも……。

本当は子供に見せられない『もののけ姫』。無防備なサンとアシタカに何があったのか問われた宮崎駿「わざわざ描かなくてもわかりきってる!」 | ニコニコニュース オリジナル


◆また、上記ポイントの4番目の『千と千尋』の「ハクが千尋の兄」説については、反論も上がっています。

ただし岡田さんは、「ハクがコハク川の神様」という設定についても、「神様は基本的に夜しかあらわれず、人間には見えない」存在ゆえ、「神様になりかけ=以前は神様ではなかった」と推理。

そこで上記のように「千尋の兄」説を主張しています。

そして最後のポイントの5番目では、私が観ていない(すいません)『風立ちぬ』について分析。

とはいえ、これまでの映画が「女性キャラクターが中心」というのは、誰もが理解しているかと。

それが『風立ちぬ』では、宮崎監督だけでなく、そのお父さんも主人公である堀越二郎に投影されているのだそうです。
『風立ちぬ』を監督自身の罪と罰を内省した私小説的作品とだけ見るのは、浅い見方です。もちろん、監督本人を慰めるセラピー的な映画ではあるのですが、宮崎駿が内省したかったのは、自分の姿だけでなく、父への思いだったのです。
いくつかのインタビューを読む限り、宮崎監督はお父さんを嫌っていたようなのですが、なるほど「和解」できたのですね。


ジブリ好きなら必読の1冊!

B0BXDG1V9G
誰も知らないジブリアニメの世界 (SB新書)
第1章 宮崎駿の鋭すぎる技術論――『風の谷のナウシカ』
第2章 SFアニメはどうあるべきか?――『天空の城ラピュタ』
第3章 手塚治虫の光と影――『となりのトトロ』
第4章 「才能」とはどういうものか?――『魔女の宅急便』
第5章 飛行機オタクの大暴走――『紅の豚』
第6章 始まりは、1954年――『もののけ姫』
第7章 スタジオジブリと銀河鉄道――『千と千尋の神隠し』
第8章 戦争は続くよどこまでも――『ハウルの動く城』
第9章 グランマンマーレの正体――『崖の上のポニョ』
第10章 「堀越二郎=宮崎駿」は本当か?――『風立ちぬ』
終 章 進化する宮崎駿


【関連記事】

今こそ『カリスマ論』の闇の部分について語ろう(2015年11月11日)

【オススメ】『評価と贈与の経済学』内田 樹,岡田斗司夫 FREEex(2013年02月28日)

【いい人?】『超情報化社会におけるサバイバル術 「いいひと」戦略』岡田斗司夫(2012年12月21日)

【映画】『この1本! 〜超人気映画シリーズ、ひとつだけ見るならコレ〜』ホイチョイ・プロダクションズ 馬場康夫(2023年05月06日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

B0CJBSKJL4
「もう歩けない」からが始まり――自衛隊が教えてくれた「しんどい日常」を生きぬくコツ (扶桑社BOOKS)

元陸上自衛官・ぱやぱやくんによる自己啓発書は、Kindle版が600円以上お得。

B0CC4SYDX7
働いたら負けだべや! 1億総ボンビー時代をサバイブする「お金と幸せのコスパ」

「意識低い人向け」のお金本(?)は、Kindle版が1000円弱お買い得。

B0CCNB6D1J
息切れ 動悸・胸痛 自力で克服! 名医陣が教える最新1分体操大全

中高年なら読んでおきたい健康本は、Kindle版が1100円以上お得な計算です。


【編集後記2】

◆今日までなので繰り上げてご報告しますと、昨日の「Kindle本クリスマスセール」の残り分の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。

B0091P5I2A
「金利」がわかると経済の動きが読めてくる!

B088YXYM7C
No.1ホストが教える心をつかむ気づかい

B00LFDJBJM
トップグローバル企業のリーダーが選ぶ 世界で勝てる人

B0105ORR60
しっかり! まとまった! 文章を書く

よろしければご参考まで!


この記事のカテゴリー:「レジャー」へ

「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
Posted by smoothfoxxx at 08:00
レジャーこのエントリーを含むはてなブックマーク

スポンサーリンク