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2023年12月04日

【仕掛け?】『実践仕掛学―問題解決につながるアイデアのつくり方』松村真宏


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実践仕掛学―問題解決につながるアイデアのつくり方


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本ポイントキャンペーン」における注目作。

そういえば、一昨日の日経新聞の2面広告欄にも掲載されており、すでに増刷が決まったとのことでした。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
世界で読まれて10万部突破のロングセラーシリーズ!
「つい、したくなる」行動のきっかけ=そそる仕掛けの事例を45収録!
仕掛けた人も、仕掛けられた人も同時に幸せになる
あなたの「ちょっと困った」を解決する思考法。
100年後も色褪せないグリモア−ル(魔法の書)、ここに誕生。

中古価格が定価を大幅に上回っており、このKindle版が800円以上お買い得です!





idea / thetaxhaven


【ポイント】

■1.新たな行動の選択肢を追加する
 仕掛けは従来の行動の選択肢を残したまま、新たな行動の選択肢を追加するものである。「大阪環状線総選挙」の例でいうと、エスカレーターという従来の選択肢に、投票できる階段という新たな選択肢を追加したことになる。
 従来の行動の選択肢を残すのは、行動変容を強要しないようにするためである。階段で投票できるからといって、階段を使わないといけないわけではない。興味を持ってくれた人だけが階段を使えるようにすることで、仕掛けを無理なく社会に導入することが可能になる。
 行動変容を強要することは実は簡単である。従来の行動を取れなくすればよい。たとえば、エスカレーターではなく階段を利用してもらいたいのなら、エスカレーターを止めてしまえばよい。(中略)
 しかし、これらはいずれも相手を不快にさせるアプローチであり、避けられるなら避けるべきであろう。したがって、仕掛学では従来の選択肢は残しつつ、それよりも魅力的な選択肢を用意することを考える。
 人には変化を避けたり未知のものを避けたりする「現状維持バイアス」がある。したがって、基本的には従来の行動が選ばれ、新たな行動は選ばれにくい。新たな行動はわざわざ選びたくなるような工夫が必要になる。


■2.仕掛けとナッジの違い
 仕掛けは遊び心を利用するのに対し、ナッジは人間の意思決定の癖(認知バイアス)を利用して行動を促すアプローチである。
 ナッジの最も成功した事例の1つに、臓器提供意思(表示)カードがある。国によって臓器提供の意思表示の方法は異なっており、提供する意思がある人がチェックを入れる形式(オプトイン)と、提供する意思がない人がチェックを入れる形式(オプトアウト)がある。多くの人はわざわざチェックを入れないため、初期設定(デフォルト)がナッジされることになる。その結果、後者のオプトアウトのほうが臓器提供者が多くなる。(中略)
 ナッジは個々の自由を最大限に尊重しようとする思想(リバタリアニズム)に基づいてはいるものの、デフォルトのような認知バイアスを利用して行動を促すアプローチなので、無自覚的であり消極的な行動の選択になる。
 一方、仕掛学もリバタリアニズムの思想に基づいているが、遊び心を利用して行動を促すアプローチなので、自覚的であり積極的な行動の選択になる。


■3.仕掛けとブリコラージュ
「そそる仕掛けの条件」 や「新規性と親近性」のところでも述べたように、過去の経験や体験を利用することによって、すぐに理解される魅力的な仕掛けになる。したがって、仕掛けを考案するのに必要なのは0から1を創り出すクリエイティビティ(創造性)ではなく、バスケットゴールとゴミ箱を組み合わせるブリコラージュ(寄せ集めて組み立て直すこと)的な発想である。
 過去の経験や体験から得られた素材と、仕掛けの対象である素材のブリコラージュで仕掛けができる。マジックハンドとポケットティッシュによるポケットティッシュ配りなど、よく知っているものを使って仕掛けを構成しているからこそ、見た瞬間に仕掛けの意図が伝わる。もし、これまで見たこともない独創的なものを作ってしまうと、それはもはや芸術作品になってしまい、鑑賞するだけで終わってしまう。
 ブリコラージュのいいところは2つある。仕掛けの候補を機械的に列挙できることと、創作のハードルが低いことである。


■4.仕掛け「自動紙飛行機折り機」
 よくショッピングモールにブースを設置してアンケートへの協力を呼びかけている人を見かけるが、アンケートに回答している人はめったに見かけない。面倒だし楽しくもないので、御礼の粗品程度では人が集まらないのももっともである。
 そこで、アンケートに答えたくなる仕掛けとして、レゴブロックでできた自動紙飛行機折り機を用意した。アンケート回答用紙をセットすると自動的に折りたたまれて紙飛行機になり、それが発射されてアンケート回収箱に飛び込む。レゴブロックは多くの人に親しまれているが、メカメカしい外見と多数の歯車などの部品が動く様子が目をひくものになっている。(中略)
 初号機を使った実験は2018年5月19日(土)にららぽーとEXPOCITYの巨大な吹き抜け空間「光の広場」にて行なった。回収できたアンケート回答用紙は、初号機を使ったときは32枚、声掛けのみのときは7枚だった。
 弐号機を使った実験は、約1年後の2019年6月1日(土)に同じ場所で行なった。弐号機を使ったときは高速化されたおかげで89枚ものアンケート回答用紙を回収できたのに対し、声掛けのみのときは2枚だった。


■5.仕掛け「真実の口」
 病院の来訪者が院内に病原体を持ち込むのを防ぐために、病院玄関には手指消毒器が設置されている。2020年に新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行が起こり、今では手指消毒は人々の新しい習慣としてすっかり定着したが、それ以前はほとんどなされていなかった。大阪大学医学部附属病院(阪大病院)も例外ではなく、来院者の手指消毒率はわずか0.64%だった。
 そこで、2018年10月18日(木)から12月28日(金)にかけて、阪大病院の1階ロビーの入ってすぐのところに、阪大病院医師の森井大一氏と真実の口を模した手指消毒器を設置した。これも「勇気の口」(仕掛け3)と同じく真実の口の誘引性を利用して手指消毒を促す仕掛けである。
 最終的には、手指消毒率は10.3%(真実の口の利用率は8.6%、従来の手指消毒器の利用率は1.7%)となり、大幅に増加した。


【感想】

◆冒頭の内容紹介にもありますように、本書は「10万部突破」シリーズの最新作(続編)であり、その発端となったのは、前作でもあるこちらです。

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仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方

……7年ほど前に出た作品なのに、未だ中古が1000円超するのは、人気が高い証拠かな、と(今回の「Kindle本ポイントキャンペーン」の対象でもありますが)。

そしてそちらの作品を読んでないにもかかわらず、今回続編である本書を紹介してしまったのですが、そもそも何で前作を取り上げていなかったのか謎なくらい、この「仕掛け」というテーマは、個人的には大好物なネタだったりします。

たとえば、この「駅の階段をピアノの鍵盤にする」という工夫(階段を使わせるため)は、かなり有名だと思うのですが。



要はこういう仕掛けの「実践例」が豊富に収録されているのが本書というワケです。


◆たとえば1章から抜き出した上記ポイントの1番目に登場する「大阪環状線総選挙」とは、こちら。

駅の人の流れを変える「大阪環状線総選挙」 JR西日本と「シカケラボ」 | 販促会議デジタル版

上記の音が出る階段よりも、はるかにローコストで、実績を挙げたようです。

結局、それはひとえに「投票できる階段という新たな選択肢」を与えたからにほかなりません。

実は本書の5章で「仕掛け」例が45個登場するのですが、その中には他にも「投票」という仕掛けによって、行動を促しているものがありました。

具体的には本書で確認いただくとして、ご自身の身の回りでも、「投票」というアクションは活用できるかもしれませんね。


◆また2章から引用した仕掛けとナッジの違いのお話は、私自身、腑に落ちるものでした。

要は「ナッジ」は「認知バイアス」を利用するものであるのに対して、「仕掛け」は人の「何かをしたい」という欲求に働きかける、とでも言いますか。

また、「ナッジ」については、以下のような記述も。
 また、ナッジは人々の選択に介入して福祉を改善しようとする思想(パターナリズム)に基づいているので、すべての人々の行動を変えることが社会的に望ましいと考えている。したがって、ナッジは行政が国民や市民に対して行なう施策と相性がよい。
確かに上記ポイントでの「臓器提供意思(表示)カード」は、まさにそうでした。

一方、「仕掛け」の方は、「食いつく人だけ食いついてくれればいい」的な緩さも感じます。
 以上の特徴から、ナッジはよく「つつく」と表現されるのに対し、仕掛けは「そそる」と表現できる。「つつく」はそっと促すのに対し、「そそる」にはしたいという欲求が含まれているところが大きな違いである。
なるほど、これは言いえて妙ですな。


◆そして1つ飛んだ4章から抜き出したのが、上記ポイントの3番目の「ブリコラージュ」。

この2つのモノ(アイデア)を組み合わせる、というのは、アイデア発想の基本でもありますが、確かに本書に登場する「仕掛け」の多くが、これに該当することが分かります。

上記ポイントの1番目の「大阪環状線総選挙」もそうですし、ここに挙がっている「マジックハンドとポケットティッシュによるポケットティッシュ配り」もそう。

ちなみに、このマジックハンドを使う、というのは、今だと「奇をてらっている」と思われるかもしれませんが、実験したのはコロナ禍が始まった頃(2020年6月)であり、対人距離を取るのがむしろ当然な時期でした。

そのおかげか、普通の手配りだと1時間で14名受け取ったのに対して、マジックハンド配りは1時間で69名が受け取ったのだとか(スゲーw)。


◆さらにこの「ブリコラージュ」的な発想による仕掛けの例が、上記ポイントの4番目と5番目。

これらは前述の5章における「45個の仕掛け」の中からセレクトしたものですが、いずれも遊び心に溢れていると思います。

私はこちらの「自動紙飛行機折り機」の動画は、何かで見た記憶がありましたが……。



まさか、これをアンケートと組み合わせるとは(紙飛行機が飛んだ先に「アンケート回収箱」がある仕様です)!?

また、「真実の口」も、思わず手を入れてみたくなることウケアイですね。



ちなみにこれを応用した、「阪神タイガース版『真実の口』」なるものもあるそうで。

阪神甲子園|トラッキーの口に手を入れて手指消毒ができる!阪神タイガーズ版「真実の口」 - 西宮さんぽ ご近所情報

ご丁寧に「本当の阪神ファンならアルコールがでます」と書かれているのだとかw


アイデア好きの方なら必読の1冊!

B0CLKPFXGL
実践仕掛学―問題解決につながるアイデアのつくり方
序文 仕掛けのレシピ
1章 仕掛学のおさらい
2章 そそる仕掛け
3章 正論のジレンマ
4章 仕掛けのコツ
5章 仕掛けカタログ


【関連記事】

【科学的自己啓発書】『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』ケイティ・ミルクマン(2022年10月08日)

【7つのコツ】『未来を発明するためにいまできること スタンフォード大学 集中講義II』ティナ・シーリグ(2012年05月31日)

【端的?】『〔エッセンシャル版〕行動経済学』ミシェル・バデリー(2019年11月28日)

【アイデア】『アイデアの育て方』小沼敏郎(2022年11月04日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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A20 地球の歩き方 スペイン 2024〜2025

「地球の歩き方」シリーズからのスペイン編は中古が値崩れしていますが、送料を考えるとKindle版が1900円弱お得。

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ことば、身体、学び 「できるようになる」とはどういうことか (扶桑社BOOKS新書)

おなじみ為末大さんが、最近言語本で話題の今井むつみさんと書かれた作品は、Kindle版が600円以上お買い得。

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一瞬で気持ちを切り替える脳内ひとりごと――「イライラ」「クヨクヨ」「モヤモヤ」このワンフレーズが効く! (王様文庫)

私が読んだ類書でも推奨されていた「脳内ひとりごと」をテーマにした作品は、Kindle版が500円弱お得な計算です!


【編集後記2】

◆一昨日の「Kindle本ポイントキャンペーン」の文藝春秋さんの記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。

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ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか デジタル時代の総力戦 (文春新書)

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人口で語る世界史 (文春文庫)

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ナナメの夕暮れ (文春文庫)

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本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式 (文春文庫)

よろしければご参考まで!


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