2023年11月04日
【池上流】『新聞は考える武器になる 池上流新聞の読み方』池上彰
新聞は考える武器になる 池上流新聞の読み方 (祥伝社黄金文庫)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である祥伝社さんのポイント還元セールの中でも人気の1冊。おなじみ池上彰さんが、新聞各紙を評したり比較したりするという、学びの多い作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
新聞は「誰のためのものか」。事実を正確に伝えているか?
難しい話や専門用語をどのようにやさしく伝えるのか?
デマやネットの情報に惑わされず「知る」「考える」「伝える」力を磨く。
送料を足した中古よりも400円以上お得ですし、単行本の中古とも大差ないですから、その後の2年分の記事が加筆された本書がオススメです!
Мече във влака Дъблин—Лърган / Михал Орела
【ポイント】
■1.メディアの情報を読み解き、フェイクやデマを見抜く新聞によって、同じニュースでも、取り上げ方や伝え方がまったく違う場合があります。
ニュースというのは客観的なものだというイメージがあるかもしれません。実際、新聞は「客観報道」を装っています。しかし、実は新聞によって伝え方は違います。ときには、同じニュースのはずが、正反対のことが書いてある場合さえあります。
子どものころから慣れ親しんでいた新聞からは、気がつかないうちに大きな影響を受けています。1紙を読み続けていると、その新聞が持っているバイアス(偏り) を意識できなくなります。
だからこそ、誤ったニュースにだまされないために、そして、新聞をより楽しむためにも、新聞の読み比べをおすすめしたいのです。
1紙は保守系、1紙はリベラル系といったように、論調の異なる2紙を読むとよいでしょう。新聞の個性やクセを理解し、賢く付き合っていきたいですね。
■2.新聞で興味が広がり「いい質問」ができるように
新聞の魅力は何でしょう?
私は「ノイズ」だと思います。
新聞を広げて読んでいると、自分が読みたい記事とは関係なく、勝手に目に飛び込んでくる記事があります。
「これ何だろう? 初めて見た」
「世の中こんなことになっていたのか!」
などと興味を持ち、ちょっとネットで調べてみようということもあります。
ネットでは、多くの人は基本的には自分の興味のあることを検索し、読みたいと思っている人のツイッターをフォローします。SNSでつながっている人は、感性も趣味も似ているのではないでしょうか。
すると、目に入ってくるのは、特定の分野の似たような情報ばかり。タコツボ化していくばかりで、世界が広がっていきません。
一方、新聞では、いやおうなしに、興味のない記事も目に入ります。そこから興味関心が広がっていきます。思いがけない出合いを楽しみにして、私は毎日、新聞を読んでいるのです。
■3.専門用語、丁寧に解説を
〈大統領の権限を強めた1958年からの「第5共和制」で初めて、2大政党抜きに大統領の座が争われる展開だ〉いまの政治体制になって初めての事態だと言いたいことはわかりますが、フランスの政治に詳しくない読者は「第5共和制」でつまずくでしょう。何のことかわからない人が多いはずだからです。この記事を書いている記者はパリ支局勤務ですから、フランスの歴史にも政治にも詳しく、つい専門用語を使ってしまうのでしょう。これが、専門家の陥りやすい罠です。
こういうときは、原稿を受け取った東京のデスクが、「読者にはわからないぞ」と指摘して、書き直させるか、「第5共和制とは」という用語解説を付加するかすべきだったのではないでしょうか。
第5共和制とは、たとえば「フランスは政治体制が大きく変わるたびに、第2共和制や第3共和制などと呼ぶ。1958年、シャルル・ド・ゴール将軍が第4共和制を大きく変えたので、この名がある」とでも解説をつけておけばよかったのではないでしょうか。
■4.特ダネこそ取材力がものを言う
〈東日本大震災の復興事業を請け負った大手ゼネコンの支店幹部らに提供する目的などで、複数の下請け企業が不正経理による裏金作りを行っていたことがわかった。朝日新聞の取材で確認した税務調査内容などによると、裏金は少なくとも計1億6千万円にのぼる。こうした裏金の原資は、復興増税などを主な財源として投じられた国費だった〉この記事に「朝日新聞の取材で確認した」という文章があります。これが、いわゆる「調査報道」です。当局の発表をそのまま書くのではなく、自社の責任で報じる。これはリスクのある行為です。たとえば警察や役所の発表をそのまま書いていれば、間違った内容が含まれていても、発表した主体の責任です。
しかし、「朝日新聞の取材で」と書く以上、記事の全責任は朝日新聞社が負うのです。
■5.バイデン大統領就任演説に見る各紙の違い
アメリカはキリスト教が盛んな国だと実感するのは、大統領がほぼ必ず聖書の一節を引用するからです。朝日訳です。〈聖書にあるように、嘆き悲しむことが一晩続くかもしれませんが、次の朝になれば喜びが来ます〉ところが、読売訳はこうなっています。〈夕べは涙のうちに過ごしても、朝には喜びの歌がある〉これは聖書協会共同訳『旧約聖書』詩編30章からの引用です。朝日も別稿で紹介していますが、やはり演説の日本語訳に聖書の言葉をそのまま盛り込みたいところ。演説のニュアンスが素直に伝わります。
それにしても、日本の総理の演説との格調の差は、どうにかならないものでしょうか。
【感想】
◆選挙特番で、池上さんはよく「池上無双」などと評されることがありますが、本書も「歯に衣着せぬ」無双ぶりでした。ちなみに本書の元は、朝日新聞での池上さんのコラムを編集したものであり、要は新聞でここまで言っていた、ということに驚かされることしきり。
私は小心者でして、過激な内容を引用(自分の意見ではなく)しただけでも、その考えに反対する人から反感を持たれるのが怖くて、ついつい無難な部分しか抜き出していませんが、本書は上記ポイント5番目の最後の部分の数倍は過激です。
とにかく筋の通らないことをする政権を批判し、その政権に対して忖度する新聞各紙にも辛口批判をビシバシとしていた模様。
挙句の果てには、デリケートな内容(従軍慰安婦報道の検証)についても自身のコラムで正直ベースの原稿を書いたところ、その記事が掲載されない事態に陥ります。
その結果、自ら連載中止を申し出ることに。
池上彰氏、朝日新聞に連載中止申し入れ - 日本経済新聞
◆この辺の話と、その後の騒動については、ご存じの方も多いと思いますが、ライバル紙や週刊誌といった他メディアが、朝日新聞をバッシングしだして、結構な騒動になりました。
ただし、朝日新聞の内部では、自社の方針に反対する記者も多かったらしく、実際、私も自分のTwitterのタイムラインで、朝日新聞の記者たちの自社に批判的なツイートをいくつも散見した記憶が。
そして、どうもこの騒動で愛想を尽かした読者も多かったらしく、朝日の購読者数が大きく減ったのだそうです。
もっともバッシングに終始したライバル紙も、部数を減らしたそうで、池上さんいわく
連日のように朝日を批判する記事を読まされ、動機が不純だと不快に思った他紙の読者もいたのでしょう。とのこと。
その後、朝日新聞も誤りを認めて、二度と誤りを繰り返さない体制づくりを進めたゆえ、池上さんも連載を再開。
結果、それから6年半続いた連載も21年3月で終了することになったのですが、これは朝日側からの要請ではなくて、池上さん自身の仕事量を減らす一環としての決断だそうです。
◆さて、本書の各章のテーマは、下記の目次のとおり。
元々コラム自体が、そのときの旬のテーマに関して、複数の新聞での記事を比較していくものですから、普通に引用したら結構なボリュームになってしまいます。
ゆえに、どの新聞なのか表記できなかったものもあるのですが、たとえば上記ポイントの3番目は、2017年4月25日の朝日新聞からのもの。
また、ここでは朝日しか抜き出していませんが、その後に毎日や読売も同じ内容の部分を引用し、比較検証を行っています。
とにかく新聞でも当然そうですが、分かりやすさを求めると、どんどん長くなりますし、落としどころは難しいでしょう。
その点ブログだと、専門用語が出てきたら、解説されたサイトにリンクを張って逃げられるのが便利なのですがw
◆一方、上記ポイントの4番目では、体裁や表現方法以前の「取材」にフォーカス。
いわゆる「特ダネ」と言われるものは、地道な努力が必要とされます。
こちらは週刊誌のお話ですが、たまたま最近流れてきたものを。
日本共産党の野坂参三の密告を暴いたルポライター2人は、一人は原稿料貰うときに「好きなことをしてオカネをもらうなんて、いいんですか?」といい、もう一人は実家が山林王で山売って暮らしてるという、2人とも特殊な人だったそうな。調査報道やるのは昔から厳しいhttps://t.co/tO76cZipbQ
— dragoner@2日目東イ14b (@dragoner_JP) November 2, 2023
ぶっちゃけ、最近は新聞でも経費節減のアオリを受けて、調査報道まではなかなか手が回らないのだと思います。
さらには「教養」まで求めているのが、上記ポイントの5番目。
もっとも聖書から引用されても、私たち日本人は普通分かりませんよね。
ただ、確かに大統領の演説に限らず、あちらの知識層のスピーチ等では、有名な文芸作品からの一節を盛り込んだりする、という話はよく聞きますが、それは聞く方の側にも教養が必要ということに他なりません。
◆なお、順番が逆になりましたが、上記ポイントの1番目と2番目は、第1章の「池上流読み方、活用術」からのもの。
複数の新聞を読むことの重要性は多くの書籍でも言及されていますし、池上さんは毎日12紙(!?)に目を通しているのだそうです。
そして気になった記事は、破ってクリアファイルに入れて保存。
数週間寝かせた上で、改めて要不要を判断し、今度はジャンルごとのクリアファイルに保存するのだとか。
このやり方をそのまま 真似 するのは一般の人には現実的ではありません。また、個人的には上記ポイントの2番目の「ノイズ」という視点も参考になりました。
まずは新聞を1紙購読することから始めましょう。
そして、1日5分でもいいので、毎日、新聞に目を通す習慣をつける。ここからスタートするとよいでしょう。
セレンディピティじゃないですが、「検索」では巡り会えない、偶然の遭遇も特にアイデアの面では重要だと思います。
改めて「新聞」と向き合いたい方に!
新聞は考える武器になる 池上流新聞の読み方 (祥伝社黄金文庫)
第1章 子供の頃から新聞好き。池上流読み方、活用術
第2章 世の中を知るためにどう読んだらいいのか?
第3章 難しい話や専門用語をどのようにやさしく伝えるのか?
第4章 新聞は「誰のためのものか」。報道は歴史になる
第5章 新聞は事実を正確に伝えているか?
第6章 どれも同じじゃない。読み比べて見えてくること
第7章 新聞は読み方次第で考える武器になる
第8章 埋もれた事実を掘り起こす
第9章 同じニュースでも新聞社で違いがある
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【統計リテラシー】『ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方』カイザー・ファング(2015年08月24日)
【日経】『日経新聞を「早読み」する技術』に学ぶ7つのTIPS(2011年07月06日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。物理数学の直観的方法 〈普及版〉 理工系で学ぶ数学 「難所突破」の特効薬 (ブルーバックス)
私には手に負えなさそうですが、こちらのブルーバックスの数学本は、Kindle版が400円弱お得。
ChatGPT快速仕事術(できるビジネス) できるビジネスシリーズ
7月に出たばかりで今回が初セール価格のChatGPT本は、Kindle版が1100円弱お買い得。
下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル
ドラマの原作になったノンフィクションは、中古が定価を上回っているため、Kindle版が1100円以上お得な計算です!
【編集後記2】
◆一昨日の「祥伝社 小説・ビジネス・実用書 ポイント還元セール」の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。齋藤孝のざっくり!美術史――5つの基準で選んだ世界の巨匠50人 (祥伝社黄金文庫)
新聞は考える武器になる 池上流新聞の読み方 (祥伝社黄金文庫)
新富裕層の研究――日本経済を変える新たな仕組み (祥伝社新書)
池上彰の日本現代史集中講義
よろしければご参考まで!
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