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2023年09月15日

【行動経済学】『イェール大学集中講義 思考の穴──わかっていても間違える全人類のための思考法』アン・ウーキョン


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イェール大学集中講義 思考の穴──わかっていても間違える全人類のための思考法


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて人気の高かった翻訳本。

既に土井英司さんが、発売前にメルマガでプッシュされていましたから、お読みになった方もいらっしゃるかもしれません。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
★イェールで大講堂が毎週、異例の大満員!
★AIとは異なる「人間の脳」ならではの思考の罠とは?
★知的エリートたちが真っ先に頭に叩き込む、「論理的思考力」を伸ばす戦略と「理性の弱点」のすべて
★NYタイムズ・ベストセラーNo.1著者、アダム・グラント、ダニエル・ピンク、グレッチェン・ルービン他、絶賛続々!

中古価格が定価の2倍以上しますから、「10%OFF」のKindle版がお得です!





Why are Conspiracy Theories Appealing / Wesley Fryer


【ポイント】

■1.何度も見ると、なぜか「できる」と思ってしまう
 その研究の実験に協力した参加者は、マイケル・ジャクソンがミュージックビデオでムーンウォークをしているシーンを切り取った6秒の動画を視聴した。そのシーンに映るマイケルは、床から足を離すことなく、滑らかに後ろ向きに歩いている。ちっとも複雑そうな動きではないし、いとも簡単に、つまりは流暢に行っているように見える。
 その実験では、一部の参加者には動画を1回だけ、残りの参加者には20回視聴させた。そのうえで、ムーンウォークをどのくらい上手にできると思うかを全員に自己評価させた。
 すると、動画を20回視聴したグループのほうが、1回しか視聴しなかったグループに比べて強い自信を示した。何度も観たことから、動きを細部まですべて覚え、頭のなかで簡単に再生できるようになったと思い込んだのだ。
 しかし、真実が露わになる瞬間が訪れる。実際にムーンウォークをやってみると、2つのグループに差はまったくなかった。マイケル・ジャクソンのムーンウォークを20回視聴しても、1回しか視聴しなかった人より上手にできるようにはならなかった。


■2.「しなかったこと」より「したこと」のせいにしてしまう
 原因となりうる候補からひとつを選ぶときに、「しなかったこと」よりも、「したこと」のせいにしてしまうという傾向もある。
 典型的な例を紹介しよう。
 アイシャはA社の株式を保有している。それを売却してB社の株式を買おうと考え、彼女はそれを実行に移す。その後、B社の株価が急落し、彼女は1万ドルを失う。
 一方、ビニタもB社の株式(アイシャが購入したのとまったく同じもの) を保有している。ビニタはA社の株式に買い換えようかと考えたが、結局B社の株式をそのまま持ち続けた。
 ビニタも1万ドル失ったが、自らA社の株式からB社の株式に持ち替えたアイシャのほうが、何もしなかったビニタに比べて激しく落ち込むというのは想像に難くない。
 このように、何もしなかったことではなく、何かしたことのほうを責める例は枚挙にいとまがない。結果がまったく同じであってもそうなるのだ。


■3.「取り出しやすい記憶」に影響される
 数字が明らかになったところで、アメリカの通りを歩いているムスリムから無作為に選んだ人がテロリストである確率を計算してみよう。
 ムスリムのテロリストの数である16を、アメリカに暮らす成人ムスリムの総数である220万で割ればいい。そうすると、答えは約0.0000073で、0.00073パーセントとなる。これは、FBIが1万の成人ムスリムを拘束したとしても、そのなかにテロリストがいる可能性は限りなくゼロに近いことを意味する。(中略)
 報告書にあった15年間に、アメリカの地でテロを起こしたテロリストがムスリムだった確率は27パーセント。つまり、テロリストと判明している100人を調べたら、そのなかの27人がムスリムとなる。たしかに多いといえる数だが、この数字はエスニック・プロファイリングでムスリムを拘束するかどうかの判断を下すときに参照するものではない。ここで使われるべきは、先ほど算出した無作為に選んだムスリムがテロリストである確率であり、その数値はほぼゼロだ。
 私たちの脳裏には、ツインタワーが炎上する映像や、ウサマ・ビンラディンの顔が焼きついている。そこに条件付き確率の誤解が組み合わさると、恐ろしく不合理な偏見にとらわれ、無実の人を傷つけてしまうのだ。


■4.「Aがたくさん」より「オールB」の方が評価される
 同じ高校に、カールとボブという前途有望な二人の高校生がいるとする。カールはAやAプラスの成績の教科がある半面、CやCマイナスの教科もある。このパターンから、カールには強い情熱や熱意を向けている教科があるとわかる。
 一方、ボブの成績はカールより均一的で、すべての教科がB、Bプラス、Bマイナスのいずれかだ。つまり、CはないがAもない。そして、この二人のGPA(成績平均点)が同点だとしよう。
 あなたが彼らの志望する大学の入学審査官で、二人に関する情報はそれぞれの成績証明書だけだとすれば、どちらを好ましいと思う?
 情熱が不可欠な要素であるならば、カールのほうが好ましいはずだ。しかし、人にはポジティブな情報よりネガティブな情報を重視する傾向がある。このネガティビティ・バイアスに決断を支配されるのだとすれば、カールがたとえば化学でAを獲得しても、国語の評価Cがもたらすダメージは相殺されず、審査官はボブのほうを好ましく思うはずだ。


■5.「不確かなこと」があると頭がうまく働かなくなる
 その実験に参加した一部の学生は、「難しい試験を受けて合格したと知った瞬間」を想像するよう指示された。
 その後、1日限定でとても魅力的なハワイ旅行のパッケージツアーが破格の安値で売り出されたと仮定したうえで、彼らに選択肢が提示された。
 それは、「そのパッケージツアーを買う」「そのパッケージツアーを買わない」「返金不可の5ドルを払って破格の安値での販売期間を延長する」の3つだ。
 すると大多数が、パッケージツアーをいますぐ買うことを選んだ。(中略)
 実験に参加した別の学生グループにも同じ選択肢が提示された。ただし、こちらのグループは、「試験に落ちて2か月後に再試験を受けることになったと知った瞬間」を想像するよう指示された。
 とはいえ、やはり大多数の学生がいますぐパッケージツアーを購入したいと答えた。(中略)
 ところが、3つ目の学生グループには「試験を受けて結果待ちをしている状態」を想像させ、そのうえでパッケージツアーの3つの選択肢を提示したところ、大多数の学生が「5ドル払って販売期間を延長する」ことを選び、試験の結果が判明してから買うかどうかを決めたいと答えた。
 つまり、不確かなことがなくなってから決断を下せるようになるためなら、余分な費用を払う意思があるということだ――試験の結果がどちらにせよ、下す決断は変わらないだろうに。


【感想】

◆ジャンル的にはいわゆる行動経済学に属する1冊でした。

この手の作品も大昔からかれこれ結構な量をご紹介してきましたが、ここ数年レビューした中では、もっとも新しい作品だと思います。

その分、初めて知るお話がちらほらあったりして、行動経済学好きの私としては十二分に楽しめました。

また、冒頭で触れたように土井英司さんがメルマガで取り上げており、そこでも触れられているように、思考のクセ(バイアス)に対して、いくつか対処法を挙げているのも本書の特徴と言えるでしょう。

ただし、そもそものバイアスのエピソードや実験結果があって、それを踏まえた上で対処法まで述べると、とてもじゃないですがボリュームが膨大になってしまうので、割愛せざるを得なかったのですが。


◆まず第1章から抜き出したのが、上記ポイントの1番目のお話。

これはいわゆる「流暢性効果」と言われるもので、「誰かが難なくやり遂げている姿を見ると、自分も労せずできる」と思い勝ちです。

本書の著者のウーキョン教授は、このマイケル・ジャクソンの研究をもとに、講義中にBTSのダンスを学生に踊らせるのだとか。

この動画の1分18秒から1分24秒の6秒間の部分とのことですが(頭出し済み)。



一応、ダンスが踊れたら賞品がもらえることを伝え、かつ、同じ動画を10回流し、さらにはダンスの指導用に制作されたスローバージョンの動画も流すのだそうです。

確かに普段からダンスをやっている人だったら、「自分にはできる」と思っても不思議ではありません……が、舞台に上がった学生たちは皆、撃沈するらしく。


◆また1つ飛んで第3章から引用したのが、上記ポイントの2番目の「原因」のお話。

「『しなかったこと』より『したこと』のせいにしてしまう」という傾向はよくありますし、私自身もそうです。
 しなかったことよりしたことのほうを責めたくなるのは、ほかに選べた選択肢を考えるときに、 「取れたかもしれないすべての行動」より、「取らなければよかったと思う行動」のほうがはるかに思い浮かべやすいからだ。
なるほど、確かに。

そして、それがゆえに、私自身どうしても普段から投資に積極的になれないんですが、日本人が投資より貯蓄の割合が極端に高いのも、このせいなのではないでしょうか?

もっともこれもよく言われるように、「投資をしていない」のではなくて、「日本円による貯蓄」という「投資」をしている(=円安で資産が目減りする)と考えるべきなのですが……。


◆一方、上記ポイントの3番目のテロリストのお話は、第4章からのもの。

テロリストに占めるムスリムである割合は確かに高いのですが、実際にムスリム全体におけるテロリストの割合はほぼゼロなのですから、ムスリムを見て「テロリスト」と思うことが明らかな間違いであることが分かります。

こうしたエスニック・プロファイリング(人種に基づく選別)が無意味であることを、本書は「ベイズの定理」から解説していますので、数式を含めて詳しくは本書にてご確認ください。

続く第5章からは、上記ポイントの4番目の「ネガティビティ・バイアス」のお話をご紹介しました。

これはいわゆる、人がネガティブな情報や出来事を重視してしまう傾向のことなのですが、まさかこうした選別の面でも効力を発揮しているとは意外でした。

と言いますか、これからの時代、多少の欠点はあっても、「取柄」というか「武器」があった方が、生き延びられる可能性は高いと思うんですけどね。

また、この章では、私たち日本人にはおなじみのこんまりさんの片づけの手法が、この「損失回避」にうまく対処している旨指摘しており、こちらは目からウロコでした(詳細は本書にて)。


◆なお、最後のポイントの5番目の「不確かなこと」の効力のお話は、第8章から引用したもの。

なるほど、人は「自分にとって重要な成果の内容が不確かな状態にあると、意思決定の能力がうまく機能しなくなる」ようですね。

実際、教授も2020年の大統領選挙の日が近づくと、仕事がほとんど手につかなかったのだそうです。

そこでこの研究を思い出し、選挙の結果として起こりうることをひとつずつ検討していたのだとか。
 トランプが当選しても、私はこの執筆作業をしなくてはならないか? しなくてはならない。
 バイデンが当選しても、私はこの執筆作業をしなくてはならないか? しなくてはならない。
 そう考えたら書けるようになり、選挙当日も執筆作業を進められた。
これは本書に収録されているバイアスに対するいくつかの対象法の1つなのですが、やっと最後になってご紹介できました。


バイアスを理解し、対処するための1冊!

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イェール大学集中講義 思考の穴──わかっていても間違える全人類のための思考法
INTRODUCTION わかっていても避けられない?
Chapter 01 「流暢性」の魔力
Chapter 02 「確証バイアス」で思い込む
Chapter 03 「原因」はこれだ!
Chapter 04 危険な「エピソード」
Chapter 05 「損したくない!」で間違える
Chapter 06 脳が勝手に「解釈」する
Chapter 07 「知識」は呪う
Chapter 08 わかっているのに「我慢」できない


【関連記事】

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【行動経済学?】『不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100』スチュアート・ サザーランド(2017年05月28日)

【スゴ本】「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー(2008年12月15日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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【編集後記2】

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全部「Forest2545新書」になってしまいましたが、よろしければご参考まで!


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