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2023年07月24日

【リスキリング?】『リスキリングは経営課題〜日本企業の「学びとキャリア」考〜』小林祐児


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リスキリングは経営課題〜日本企業の「学びとキャリア」考〜 (光文社新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、今月の「Kindle月替わりセール」における人気作。

最近とみに目にすることの多い「リスキリング」について掘り下げた1冊です。

アマゾンの内容紹介から。
「リスキリング」とは、業務上の知識や技術を新しく獲得すること、そしてそれを企業が従業員に促進することである。しかし日本の社会人のほとんどは、学びへの意欲が極めて低い。統計的にも、大人が世界一学ばない国である。これは決して個人の「やる気」不足のせいではなく、日本企業の働き方やキャリアの「仕組み」に起因するのだ。調査データや学術知見を基に、日本企業がリスキリングを通じて生まれ変わる方法を提言する。

中古に送料を足すと定価を超えますから、このKindle版が500円弱お得な計算です!






Studying / mer chau


【ポイント】

■1.「なんとなく」学ばない日本人
 例えば、他の調査においても学ばない理由を聴取した時、多くの意見が集まるのが、「学ぶための時間がない」です。長時間労働の多い日本ではよく聞く理由だと思いますし、読者の中にもそう答える方は多いと思います。
 では、日本人は余暇の時間を増やせば学ぶようになるのでしょうか。いえ、コロナ禍で長時間労働が減り、テレワークで通勤時間がカットされても、「テレワークで余った時間を学習に使う」ような行動がほとんど見られなかったことを多くのデータが示しています。
 こうしたバイアスを考慮してもなお、「あてはまるものはない」が圧倒的に多くなるということは何を意味しているのでしょう。つまりは、世界の中でも圧倒的に学ばない日本人に、「学ばないことへの積極的な理由」や「学ばないことの明確な原因」など存在しないということです。こうした日本人の学びへのそもそもの消極性、「意思のなさ」こそが、この問題の核心です。


■2.「中動態」的キャリアが抱えがちな課題
「中動態」的なキャリアが抱えがちな課題をまとめれば、次のようなことです。
・学びへの意思も、学ばないことへの危機感も醸成されないこと
・主体的に専門性を蓄積する習慣がつかず、半端な専門性も時間の経過とともに陳腐化すること
・処遇が上がることによって、中高年になってからの成果と期待がアンマッチを起こすこと
 筆者が中原教授と共同調査したデータを分析しても、就業者の「学び直し」への意欲へ大きく負の影響を与えているのは、「仕事は運次第」という意識でした。やはり、キャリアにおける具体的な職業選択について、「自分の計画通りにいくことはない」という意識は、様々な属性の影響を取り除いても、学び直しの意欲を大きく下げていました。運や偶然に左右されるという感覚は、主体的な学びの大敵です。このようにして「中動態」的キャリアはリスキリングを考える上での最大のハードル=「学ばなさ」に直結していきます。


■3.日本人の特徴がそのまま「リスキングのための三重苦」に直結する
 さて、私たちがリスキリングの議論において見てきたのは、「ソーシャル・ラーニング」や「ラーニング・ブリッジング」と社会関係資本との関係でした。「学び」や「リスキリング」を考える上では、こうした「社会関係資本の薄さ」と「社会開拓力のなさ」をともに前提とする必要があります。
 日本人の、(1)「地縁、血縁、宗教縁のなさから来る社会関係資本のリソースの弱さ」、(2)「関係性の地図を重視するコミュニケーションの特質」、そしてそれらから導かれる、(3)「他者への信頼のなさから来る〈社会開拓力〉の欠如」。これらの特徴は、リスキリングを支える「基礎工事」の部分がボロボロであり、かつそれを自ら開拓できるような社会開拓力もなく、さらにそのことを問題と思わず生きているという、重層化された課題があることを意味します。「リソースがない、開拓力がない、課題認識がない」という「三重苦」は、そのまま「リスキリングのための三重苦」に直結するのです。


■4.対話型ジョブ・マッチングシステムを構築する
 では、どのような仕組みによって、人の学びへの意思、キャリアへの意思は創発できるのでしょうか。
 結論だけ先に述べれば、これからの人材マネジメントに必要なのは、従業員との「対話」をベースにした社内のジョブ・マッチングの仕組みです。これは言うなれば、社内の人材流動性の「質」を変えていくこと。ポイントだけ先にまとめれば、次のようになります。
・全年代に向けた「キャリアについての対話」機会を拡充し、キャリアへの意思を創発する機会を与えること
・社内公募、社内留職、異動などのマッチング制度を通じ、従業員の意思を社内ポストとマッチングさせていくこと
・人材の流動性について、事業部(現場) の「個別最適」よりも、企業の「全体最適」を優先すること


■5.学ぶことではなく、「学ばないこと」を「選択」にする
 これからのリスキリングを含めた企業の学び支援のスローガンは、「学ばないことを〈選択〉にする」ことです。全員が学び続けることはなくても、「学ばない」ことにすら意思のない状態を変える必要があるでしょう。(中略)
「学ばないのであれば、この組織での昇進・昇格は難しくなる」という感覚を、自らの選択として引き受けること。そうした条件を整えることこそが、自律的なキャリア形成のサポートです。欧米先進国においても、「家庭の時間のほうが大切」だとして、積極的に学ばない人はたくさんいます。(中略)
 しかし、日本の「なんとなく、みんなが学ばない」という状況はこうした「引き受け」がなされていない状態です。しかも、従業員の公平性を担保しようとする平等主義的な人事や経営は、そうした「なんとなく学ばない」層もまとめて幹部層候補として昇進機会を与えます。これからは、学びのネットワークに従業員を巻き込み、「学んでいる人と学んでいない人」が自然に可視化される状況をいかに作っていくかが経営マネジメント側の腕の見せ所です。


【感想】

◆新書とは思えぬ濃厚さで、思わずハイライトを引きまくった作品でした。

ただし、読後に爽快感があるかというと、むしろ問題が多すぎて先が思いやられるといいますか……。

そもそもリスキリングをするしない以前に、第2章にあった「日本人が国際的に見ても圧倒的に学ばない」という事実が衝撃的でした。

なにせ、社会人の学習行動の調査で「何もやっていない」人の割合が世界平均で18.0%のところ、日本は52.6%と圧倒的にトップという。



しかも他のデータによると、年齢を重ねるごとに学習行動の時間自体も徐々に減っていくのだそうです。

ただし学ばない理由についてアンケートをとっても、「コレ」と言った理由は見つかりません。
日本人は、学ぶ意欲があるのに何かの障害があるわけでもなく、「学ばないぞ」と主体的に選んでいるわけでもなく、「なんとなく」学んでいない。 息をするように、当たり前に学ばない日本人に対して、いくら「時代が変わるから」「リスキリングが必要だから」とお説教しても効果が薄くて当然でしょう。
これは思ったより根深そうな。


◆それでも、その日本人の「学ばなさ」の原因にフォーカスしていくと、浮かび上がったのが上記ポイントの2番目の小見出しにもある「中動態」という状態でした。

これは簡単にいうと「自分が主語ではないが、かといって完全に受け身でもない」とう状態のこと。

たとえば、社内での配置は企業が主導しますが、そこでの業績は個人の働き具合に委ねられます。

また、正社員として採用されれば、一律に昇進レースに押し込まれ、基本的に逃れられません。

このような状態を著者の小林さんはコマに例えて
コマが回る「動力」は、「自分自身ではない」企業が与える力によって生み出されます。しかし机の上で回っているコマの1つ1つは、移動しつつバランスをとりながら、速度を調整し、よりうまく、より長く回ろう=働こうとする、「能動的な主体」そのものです。
と表現しており、なるほどそうだな、と。

そして、小林さんは「日本人のキャリアの特徴とは、まさにこの『中動態』的なあり方にあると考えている」わけです。


◆さらに1つ飛んだ第4章では、リスキリングを支える「3つの学び」である「アンラーニング」「ソーシャル・ラーニング」「ラーニング・ブリッジング」にフォーカス。

それぞれの具体的な内容やその実態等については、長くなるので本書にてご確認ください。

……ググってヒットしたサイトをご紹介してもいいのですが、私企業のサイトだとどうしても宣伝になりかねないので割愛します。

しかも、最終的には上記ポイントの3番目で指摘しているように、いずれも日本人の特徴とマッチしていない、という結論に到達する次第。

正直、この辺まで読んで、結構「救いがないな」、と痛感したのですが、後半からはその打開策について。


◆まず第6章では、これまで個人ベースで考えられていた「リスキリング」の主体を企業に移すことを提言。

確かに日本企業の中にも「企業内大学」のようなものは、いくつかあるのも事実です。

ただしこの辺りのお話は、経営層でもないと手が出せないのでカット。

そこでもうちょっと手の届くレベルである、第7章の「人々の学びへの「意思」を創る」方策を見ていきます。

さっそく上がってきたのが、上記ポイントの4番目にある「対話型ジョブ・マッチングシステム」。

ここに「結論だけ先に述べれば」とあるように、続く部分で詳しい説明がありますので、詳細を知りたい方は、そちらをご覧ください。


◆なお、上記ポイントの5番目は、終章に収録された「これからの学びの3つのスローガン」からのもの。

上記ポイントの2番目にあるように、現状が「中動態」であるがゆえ、「学ばない」ことも「なんとなく」行われていることに対して、将来的には「明確に選択させる」ようにします。

ただし、「学ぶ」方を選択した場合でも、必ずしも昇進・昇格できるわけではないので、難しいところかと。

いずれにせよ、「スキルアップ」系の作品が人気の当ブログにおいて、「リスキリング」というテーマの本書は、その延長線上でご紹介するつもりでいましたが、一筋縄ではいかないようです。

実際、入社から中堅までは、企業側が「能動的」に人事管理を行っていたのが、40代や50代になってから「あなたのやりたいことは何か」と、急に個の主体性を求める、今の日本の企業の仕組みはいかがなものかと……。


リスキリングについて学びたい方は一読の価値アリ!

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リスキリングは経営課題〜日本企業の「学びとキャリア」考〜 (光文社新書)
第1章 「リスキリング」の流行とその課題
【補論】「スキル明確化」という幻想──氾濫する「うまくやる力」はどこへいくのか
第2章 「学ばなさ」の根本を探る──「中動態的」キャリア論
第3章 「変わらなさ」の根本を探る──変化を抑制するメカニズム
第4章 リスキリングを支える「三つの学び」
第5章 「工場」から「創発」へ──日本はリスキリングをどう進めるべきか
第6章 「学びの共同体」の仕組み──企業を「キャリアの学校」にする
第7章 「学ぶ意思の発芽」の仕組み
終 章 これからの企業における「学び」の方向性


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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【編集後記2】

◆先日ご紹介した「インプレスグループ 夏キャンペーン」の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。

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参考記事:【情報収集】『情報を活用して、思考と行動を進化させる』田中志(2022年07月10日)

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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