2023年07月20日
【ヒットの秘密?】『ベストセラーコード』ジョディ・アーチャー,マシュー・ジョッカーズ
ベストセラーコード
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「コンピューター・ITキャンペーン」の中でも、個人的に以前から読みたかった作品。出てからずいぶん経ってしまいましたが、なるほど読んだ甲斐がありました。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
『ダ・ヴィンチ・コード』、『ミレニアム』シリーズ、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』――。ベストセラーが売れるのは偶然なのか? それとも黄金の法則が存在するのか? テキスト・マイニングと計量文献学の最新技術を駆使して読者を魅了する秘密のDNAを明らかにした、文学界騒然の注目作。
絶版で中古が高値となっているため、このKindle版が2600円以上お買い得です!
Book shopping / Ben Pugh
【ポイント】
■1.アルゴリズムが示すヒットの可能性例としていくつか見てみよう。コンピューター・モデルが算出した、ダン・ブラウンの最新作『インフェルノ』がヒットする可能性は 95.7パーセントだった。マイクル・コナリーの『リンカーン弁護士』は 99.2パーセント。いずれも、出版界で名誉ある地位と見られている、ニューヨーク.タイムズ紙ベストセラーリストのハードカバー部門で1位に輝いている。ふたりとも名だたる作家だから当然だ、と思う人もいるかもしれない。しかし、作家の名前や評判はコンピューターにとっては意味がないため、彼らも無名の作家と同じ条件で評価されている。ケイト・ジェイコブスのデビュー作『金曜日の編み物クラブ』は 98.9パーセントだったし、ジェシカ・ノールの話題のデビュー作『Luckiest Girl Alive』も、純粋に原稿だけをもとに分析して、 99.9パーセントという数字が出ている。果たして両作品とも何週にもわたってリスト入りした。『火星の人』は、マット・デイモン主演という話が出るまえに、 93.4パーセントという数字が出ている。
■2.トレードマークのトピックで1/3を占める
読者はお気に入りの作家の本を手に取ったときに、暗黙の契約を作家と結ぶことになるが、そのなかで作家に期待することのひとつが特定のトピックだ。グリシャムもスティールも見事にこれを読者に届けている。しかも同じ割合で。グリシャムは、本全体のおおむね3分の1を、法律に関することで埋めており、同様にスティールは全ページの約3分の1を家庭生活、もっとはっきりと言えば「家のなかで過ごす時間」について書いている。ここに重要なポイントがある。作家にはそれぞれ特有のトピックがあり、読者はそれを求めているということだ。トレードマークのトピックで3分の1を埋めたあとは、残りの3分の2を別のトピックで埋めて変化をつければ、それまでの本とは違う印象となる。この方程式はずっと続けていくことができるし、実際、見事に守られている。大切なのは割合だ。3分の1は同じトピック、3分の2は別のトピック。
■3.感情の曲線を理解する
わたしたちの知り合いのある作家は、最新作をどこにも買ってもらえなくて悩んでいた。(中略)
わたしたちは友人の小説をコンピューターに読ませて感情の曲線を測定し、その結果を見せた。すると彼は即座に理解した。そこに描かれた曲線は、本を売りたい作家に贈られるアドバイスのなかでもっとも大切な原則を無視していることを示していた。ジョン・グリシャムなら絶対に守っているルールである。それは、最初の40ページで読者の心をつかまなければならない、というものだ。(中略)
さきほど述べたE・L・ジェイムズ以外のふたりの作品と同じように、友人が書いた小説にも山と谷はあった。しかし、友人の最初の山は、山というよりこぶといった程度の隆起だった。彼は出だしで読者の心をつかもうとしたが、それはささやき声に近く、鋼の釣り針にはなっていなかった。彼はオープニングを書き直し、感情とドラマを盛りこんだ。登場人物の利害関係をはっきりさせ、衝突を増やした。その結果、カーブは大きくバランスのとれたものになり、最終的には編集者を釣りあげることができた。
■4.ベストセラーの主人公が用いる「動詞」
ベストセラーの主人公は男女問わず、かならず何かを必要として(need)いて、それを表明している。かならず何かをほしがって(want)いて、読者は主人公が求めているものを知る。needとwantは、ベストセラー小説には欠かせない動詞なのだ。あまり売れていない小説の場合、needとwantが使われる回数は明らかに少なくなる。ベストセラー小説の世界では、登場人物は自らの 行為主体性 を自覚し、コントロールし、表現する。使われる動詞は迷いがなく、自信が伴っている。彼らはつかんで(grab)、実行し(do)、考えて(think)、訊いて(ask)、見て(look)、離さない(hold)。そして、愛する(love)。彼らは自分をよくわかっている。自分自身を好きであるとは限らないが、自分をしっかりと持っている。自分の人生を生きて、ことを起こす。
■5.キャラクターが話すときは、むやみに飾り立てない
ベストセラーのキャラクターは正しいことを正しい方法でおこなうだけではなく、正しく話す。会話文の前後に誰が言ったかを示す文のデータを見ると、主人公が女性の場合、読者はたとえばshe shouted(彼女は叫んだ)というような表現を好まないことがわかった。(中略)
「叫んだ」り、「要求した」りする女性の小説が売れないのは、それが現代の女性を反映しているとかいないとか、そういう問題ではないだろう。単にshe said(彼女は言った)と言えばすむところを、ほかの言いまわしで表現しようとするのは、作家にとって地獄への第一歩ということだ。ただし、she asked(彼女は訊いた)は、疑問文であることを示しているので例外である。ベストセラー作家を目指している人で、ライティングの教科書を手にしたことがある人や、中学校以上で英語を学んだ人、あるいは有名作家の本を読んで勉強した人なら、延々と副詞や形容詞を書き連ねるのは、クラシックジャガーをごてごてと飾りたてるようなものだということが理解できるだろう。
【感想】
◆本書は出た当時、土井英司さんがさっそくメルマガで紹介されていました。そこで土井さんいわく「出版業界の方、ベストセラーを狙う方は、必読」「商品開発に携わる方にとっても、示唆に富む内容だと思います」とのこと。
確かに土井さんのビジネスモデルから言っても、本書の内容をそのまま実践できれば、成果も飛躍的に上がること必至でしょう。
何せ、上記ポイントの1番目にあるように、「その作品がヒットするであろうことを的確に予測」しているのですから、そのロジックはかなり信憑性があります。
もっとも、「低い可能性だった作品で、実際にはヒットしたものはなかったのか」ですとか、逆に「高い可能性でも、コケた作品がなかったのか」は気になるところですが。
なお、具体的なアルゴリズムの分析方法については、下記目次にあるように「追記」の「手法について」に詳しいのですが、「テキストマイニング」と「機械学習」の詳細について触れられているので、ぶっちゃけ素人の私には、何やってるのか分かりませんでした。
◆そこで仕組みは棚に上げておいて、出てきた結果だけに注目すると、たとえば上記ポイントの2番目の「トピックの割合」ですとか。
ここでいきなり注釈もなく「グリシャムもスティールも」なんてフレーズが出てきて面食らったかもしれませんが、この2人は「過去30年で、適切なトピックを適切な割合で織りこむことを最も理解している作家」として分析モデルが挙げてきた人物なのだそうです。
Amazon.co.jp : ジョン・グリシャム
Amazon.co.jp : ダニエル・スティール
……すいません、2人とも名前はもちろん、作品も知りませんでしたが、このお話がでてきた本書の第2章を読むと、この2人がめちゃくちゃ売れっ子で、全作品がベストセラーのよう。
そしてこの2人を含む、ベストセラー作家に言えることは「もっとも大切な30パーセントにひとつかふたつのトピックしか入れていない」のに対して、売れない作家はたくさんの項目を詰めこむ傾向があるのだそうです。
ちなみにトピックにも、うまくいかない(いきにくい)トピックがあり、意外なことに売れている作品にありそうな「セックス、ドラッグ、ロックンロール」もNGなトピックとのこと。
◆ところが全米で大ヒットしたこちらの作品は、性愛を前面に出しているのに何故なのか、と著者たちも思ったのだそうです。
フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ〔上〕
ただ、機械が判定したところによると、本書のトピックは性的なものより、むしろ「親密な関係」にあるのだとか。
さらにもう1つ挙げなければならないのが、第3章から抜き出した上記ポイントの3番目の「感情の曲線」のお話です。
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の魅力は、物語の息遣いが生々しく感じられるところにあり、それが「感情の曲線」として現れるそうで、同じビートを持つ作品は、やはり大ヒットしたこの作品だけとのこと。
ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)
なるほど、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』も売れるべくして売れたのかもしれませんね。
◆一方、上記ポイント4番目と5番目は、第5章からのもの。
こちらはやや細かいことというか、表現に関するお話になります。
確かに同じ話の内容でも、使う単語によって売れ行きが変わるのであれば、気を付けるべきかと。
とはいえ、これらはあくまで英語の本でのことなので、どこまで私たち日本人が受け入れていいのか微妙なところでしょう。
ただし、その点に関しては巻末の解説で、『統計学が最強の学問である』でおなじみの西内 啓さんが、見事に補足していますので、ぜひご覧ください。
しかも本書の著者たちがやったことについて、「日本国内でも実際に行い、ビジネスにつなげたいがどうやっていいかわからないという方がいらっしゃれば是非ご相談いただけると幸いである」なんて言われてるんですが(ガチですね)。
いずれにせよ、土井さんが言われたように、著者さんや出版関係者の方なら、一読の価値があることは間違いないかと。
売れる本の秘密がここに!
ベストセラーコード
第1章 ベストセラーメーター
第2章 代父母
第3章 センセーション
第4章 デビュー
第5章 ノワール
第6章 1冊を選ぶ
エピローグ 機械が小説を書く
追記 手法について
解説
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【ヒットの秘密?】『メガヒットはたった7つのキーワードで生まれる』新井庸志(2015年05月05日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。機械学習スタートアップシリーズ Pythonで学ぶ強化学習 [改訂第2版] 入門から実践まで (KS情報科学専門書)
機械学習スタートアップシリーズ ベイズ推論による機械学習入門
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