2023年05月10日
【発想術】『デザイン思考2.0 〜人生と仕事を変える「発想術」〜』松本勝

デザイン思考2.0 〜人生と仕事を変える「発想術」〜(小学館新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「小学館ポイント還元キャンペーン」の中でも当ブログ向きの1冊。東大⇒ゴールドマンサックスというエリート街道を歩まれて起業家となった松本勝さんが、日本向けにアレンジしたデザイン思考を指南する作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
Facebook、スマートフォン、Wii、Uber、Airbnb、吉野家など、ヒット商品・ヒットサービスを分析することで、より具体的に、デザイン思考が現実の課題の解決にどう役だったか、応用できたのかが、よりリアルに理解できるはず。
本書を手にとった今日から、あなたもジョブズのような自由自在の「アイデア力」「創造力」という武器を手に入れることだろう――
今年2月に出た作品で、中古に送料を足すと定価を超えますから、このKindle版が500円弱お買い得です!

Pencil design / patchtok
【ポイント】
■1.「AI共存時代」に「課題発見力」が必要な理由皆さんは、AIが得意なことと、苦手なことが何かご存知でしょうか。
AIは解くべき課題を与えられた時に、その解決策を見つけるのは非常に得意としています。過去に起こった事象のありとあらゆるパターンを分析し、今の状況に照らし合わせて最も良いと推測される解決策を提示します。この計算では人間がもはや勝てる余地はありません。(中略)
しかし、AIがとても苦手なことがあります。それは、「キングを詰めたり、王将を取ったら勝ちというゲームが面白い」ということに気づけないということです。「解くべき課題」を設定する力、すなわち「課題発見力」をもっていないのです。その理由は、AIには人の感情を理解できないからです。さらに言うと「共感力」をもっていないからです。このAIの「課題発見力」という弱点が、AI共存時代における人間の最後の強みとなります。だからこそ、これからの時代は「共感」をもとに「課題を見つける力」が重要となるのです。
■2.ペルソナやシーンの前に「修飾語」を付ける
ここで、共感度を高めるためのテクニックを1つご紹介します。それは、ペルソナやシーンの前に「修飾語」を付けるという方法です。例えば、「若者が電車で立っている時のニーズは何か」と聞かれても、すぐにはイメージできないのではないでしょうか。しかし、ここに修飾語を付けて、「潔癖症の若者が満員電車で揺られながら立っている時のニーズは何か」と聞かれれば、「潔癖症なので、満員電車で揺れた時に周りの人に触れたくない(触れられたくない)」というニーズはすぐにイメージできるはずです。このように、ペルソナやシーンの前に修飾語を付けることでユーザーへの共感度を一気に高め、潜在ニーズの「仮説」を立てることが可能となります。
■3.ニーズを統合する
馬車や蒸気機関車のケースを例にとると、「目的地に移動したい」「疲れたくない」「時間を無駄にしたくない」という願望が同時に発生しており、「目的地に移動したい」「疲れたくない」という2つの願望を同時に満たすサービスとして「馬車」、「目的地に移動したい」「疲れたくない」「時間を無駄にしたくない」という3つの願望を同時に満たすサービスとして「蒸気機関車」が生まれたと言えます。人間は、あるシーンにおいて、より多くの願望を同時に満たしてくれるサービスを選ぶ生き物です。歴史を振り返っても、馬車が登場した時には人々は徒歩での移動よりも馬車での移動を求めましたが、蒸気機関車が出てくれば馬車での移動ニーズは減少しました。
そうであれば、1つのサービスで複数の願望やニーズを同時に満たしてくれるサービスを設計すれば、これまでの人々の行動を変容させることができるだろう、と考えるのが自然です。これを「ニーズの統合」と言い、デザイン思考においてアイデアをブラッシュアップするのに不可欠な「統合思考」のプロセスです。
■4.「あれもこれも」はNG
このような問題はサービスリリース後にも発生します。サービスをリリースして顧客を獲得すると、様々な改善要望が顧客から届くようになります。この要望やフィードバック自体はサービス改善にとって非常に重要な情報である反面、「顧客の声を聞け」に忠実に従って顧客からの要望をすべて機能実装していくと、機能過多の複雑なUI/UXとなってしまい、かえって顧客の体験が悪くなってしまいます。
このような問題に実際に直面した例としては『Evernote』が有名です。Evernoteは、オンライン上で使用できるノートアプリで、2012年時点で10億ドルの企業評価額がついた急成長の企業でしたが、その後、顧客ニーズに合わせて機能を増やし続けた結果、業績不振に陥ってしまいました。
■5.CanではなくWillで考える
デザイン思考はよく「CanではなくWillで考える思考」とも言われます。これは、Can(できること)で物事を考えるのではなく、Will(どうありたいか)という理想の状態からのバックキャスト(逆算思考)で物事を考えるデザイン思考の特徴を表した言葉です。
キャリアを選択する際、自分の経験やスキルをもとに「何ができるか」という視点だけで自分の進路や就職先を選択すると、短期的には新天地での活躍の可能性は高まるかもしれませんが、中長期的には「本当に自分のなりたい姿」から離れていくかもしれません。もちろん、できることをやっているうちに、それがやりたいことに変化することはあります。
本来は今の自分にできることの制約条件に囚われずに「自分が将来どうありたいか」という理想の状態をイメージし、そこから逆算をして「今何をすべきか」を考えた方が自分の描く理想に近づく可能性は圧倒的に高いはずです。そのうえで自分に欠けている経験やスキルがあるのであれば、それを習得すれば良いのです。
【感想】
◆今まで「デザイン思考」をテーマにした作品を多々ご紹介してきましたが、多分新書は初めてのハズ。それなのに本書は、内容が充実していて読み応えがありました。
一応事例は、類書や他のビジネスモデル本等で読んだことがあるものが多かったですが、翻訳本には載りようのない、日本のケースもちらほらと。
なるほど、さすが開発された「AIの特許技術で創造力を数値化する『デザイン思考テスト』」が、「2021年にHRアワードで優秀賞、『Digital HR Competition』でグランプリを受賞」されただけのことはあります。
デザイン思考テスト
◆実際、ハイライトも引きまくったので、どこを選ぶか迷ったりもしたのですが、いつもどおり各章ごとにばらけてセレクト。
まず第1章から抜き出した、上記ポイントの1番目の「課題発見力」のお話は、これからの時代において、特に重要な考え方となるはずです。
とりわけ日本においては、ご存じのように「課題が与えられた時に解決策を考えさせる『課題解決力』を高める教育」ばかりが行われてきました。
そもそも仕事なりオペレーションは、既に存在しており、それを滞りなく運営するのが今までの「主たる仕事」でしたし、それこそ必要なのは何かあった場合の「課題解決力」という。
ただし、2022年度から高校の授業で、「総合的な探求の時間」なる科目がスタートするようです。
総合的な学習(探究)の時間:文部科学省
日本も歩むべき道に進もうとしているのかと。
◆続く第2章では、「顧客ニーズ」の発見について掘り下げています。
そのために必要なのが、本書の表紙にデカデカと書かれている「共感」。
具体的なアクションとして、ユーザーの行動観察やインタビューは有効な手段ですが、それらができない場合は、いわゆる「ペルソナ(典型的なユーザー像)」を設定して、どのような欲求を持っていて、置かれた状況でどのように感じるかをイメージしていきます。
その際のテクニックとして挙げられていたのが、上記ポイントの2番目の「『修飾語』を付ける」というもの。
なるほど、付ける修飾語によっては、明らかにイメージしやすいことが分かります。
逆に微妙な修飾語(「地味な」等)を付けると、逆効果なのでご注意を。
ポイントとしては、「本源的欲求に関するワードにする」のがミソなのだそうです(詳細は本書を)。
◆引き続き第3章も「ニーズ」に関するお話で、上記ポイントの3番目では「統合」というテクニックが紹介されています。
元はと言えば、「目的地に移動したい」を叶えるだけの「徒歩」しかなかったわけで、より多くのニーズを満たすのであれば、そちらがえらばれるのは当然のこと。
本書では日本の例として、牛丼チェーン(「うまい、安い、早い」)が挙げられていましたが、確かにどれか1つでも欠けていたら、と想像したら、今のような成功はなかったでしょうね。
ただし、第4章から抜き出した、上記ポイントの4番目のように「何でも詰め込めばいい」というわけではありませんのでご注意を。
といいますか、私がユーザーではなかったせいか、Evernoteが業績不振だなんて知りませんでしたよ。
……あ、でも先日値上げにともなって、他に移る、と宣言したエントリーがはてブホッテントリに上がってましたっけ。
Evernoteからの卒業とその受け皿について | Hacks for Creative Life!
◆一方、最後の第5章は、ここまでのビジネス活用から一転して、非ビジネス以外の領域での活用について。
上記ポイントの5番目では、自分のキャリアデザインにおいて、デザイン思考ではおなじみの「CanではなくWillで考える思考」を用いるよう勧めています。
特に就職活動を行う大学生の場合、それまで勉強をしてきた期間よりも社会人になってから学べる期間の方が圧倒的に長いという点を考えれば、就職活動時点で「できること」だけで自分の選択肢を狭めることはナンセンスだと気づくはずです。確かに自分が何かできるものがあると、それで進路を選ぶ、というのも分からなくもないですが、それではアカンと。
また、章の後半では、「日常から取り組めるデザイン思考トレーニング」と題して、日々の生活でどのような意識を持つべきかが明らかにされています。
そもそも「他者の心の動き」を理解する前に、その前段階として「自分自身の心の動きを理解せよ」とのこと。
「そんなの分かってるよ!」と思われたとしても、多くの方が日常のシーンでは、無意識のうちに行動していることがほとんどです。
そこで、たとえばお気に入りのレストランがあったとして、その店がなぜお気に入りなのか、料理やサービス、コミュニケーション等々細かく分析してみる(サービスの要素を言語化する)というトレーニングを行ってみる等々。
なるほど、これは効果がありそうですね。
デザイン思考を身につけたい方なら要チェック!

デザイン思考2.0 〜人生と仕事を変える「発想術」〜(小学館新書)
第1章 誰でもできる「イノベーション」
第2章 始まりは「ニーズ」に
第3章 目指すは究極の「いいとこ取り」
第4章 「新たな価値」を創造する
第5章 人生に活きる「デザイン思考」
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
道徳感情論 (講談社学術文庫)
『国富論』と並ぶアダム・スミスの二大著作のうちの1冊は、Kindle版が1300円以上お得。

完全版 鏡の法則
ミリオンセラーの「完全版」は、Kindle版が400円弱お買い得。

エンタメ小説家の失敗学〜「売れなければ終わり」の修羅の道〜 (光文社新書)
個人的には興味津々である、コンテンツマーケティング系の作品は、Kindle版が400円以上お求めやすくなっています!
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