【思考術】『「自分の意見」ってどうつくるの？哲学講師が教える超ロジカル思考術』平山美希:マインドマップ的読書感想文

2023年04月21日

【思考術】『「自分の意見」ってどうつくるの？哲学講師が教える超ロジカル思考術』平山美希

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事で一番人気だった思考術本。

すでに多くの方にお求めいただいているので、レビューしなくてもいいかな、と思いつつも、そんなに人気なら読まねば、と思い直して読んでみたところ、大当たりでした。

アマゾンの内容紹介から一部引用。

私たちは学校や日常生活で「自分の意見」を述べる機会を持たないまま、社会に出ます。そのため、コメントを求められると何をどう考えればいいいのか、迷ってしまうのでしょう。
でも、考えるときの「手がかり」さえつかめれば、オリジナルの意見を組み立てることが可能です。
本書は、この「手がかり」を５つのステップでマスターできるよう設計しました。
５つのステップとは、フランスの高校生たちが受験する高校卒業認定試験（バカロレア）の哲学科目対策をアレンジしたもの。
これでもう、「あなたはどう思いますか？」を怖がる必要はありません。

中古が定価の2倍以上しますから、「20％OFF」のKindle版がオススメです！

Visual Thinking Techniques / cambodia4kidsorg

【ポイント】

■1.自分で問いを立てて自分で答える

　たとえば、「芸術は美しくなければならないか？」と問われたら、どうでしょう？
「美しくなくてもよい」と答えるだけでは不十分です。
　根拠も理由も足りないからです。この場合は、最初に「そもそも芸術とは何だろう？」と問わなければいけませんよね。芸術が何かもわからないまま、芸術はどうあるべきかという問いには答えられないのですから。
　まず「芸術とは何か？」という問いを立て、言葉の意味を明らかにして、さらに、
「〝美しい〟とはどういうことか？」
「美しくない芸術は存在しないのか？」
「あるとすれば、それらはあるべき芸術の姿ではないのか？」
　などと問いを発展させていく。そして、さまざまな観点から検討した上で、やっと最終的な答えを出すことができるのです。

■2.最初に前提を共有する

　まず、アカデミックな世界や学校教育のなかで論文や論述を書くとき、導入となる部分にその文章のキーワードとなる言葉の定義を記します。
　これは「私はこの○○という言葉をこんな意味で使います」という前置きです。
　文章の始めから終わりまで登場するような重要な言葉であれば、なおさら最初に定義づけをしておく必要があります。そうでないと、読者が「あれ？　自分のイメージしているものと違うぞ」とモヤモヤを抱えながら読み続けることになるからです。
　フランス人で文学の博士号を持っている友人は、以前、このことについて「フランス人以外が書いた論文は読みづらくてしょうがない。反対にフランス人の書いたものは型があって読みやすい」と言っていました。
　このことからも、定義づけがフランス人独自の習慣であることがよくわかります。実際、フランスでは、文章を書くときにまず語の意味を最初に明確に示すことを教わるのです。

■3.「ノー」ということで思考が走り出す

『幸福論』で有名なフランスの哲学者アランは、「考えるということは『ノー』と言うことだ」と言いました。
　アランは誰かの提案や意見に対して「イエス」と言うとき、私たちの思考は「眠っている」状態なのだと言います。
　普段、思考は半分眠っているような状態で、もっともらしい証拠や理由を見せられると、簡単に同意してしまうようになっています。それに屈せずに「ノー」と言うことで思考が起き上がります。なぜなら「ノー」と言ってしまったからには、その理由を説明し、相手に理解させなければいけないからです。
　他人の意見を疑わずに「イエス」と言って楽をしようとするもうひとりの自分と、思考は戦っているのだ。アランはそう言います。(中略)
　実際、「ノー」と言うのはエネルギーが必要でしょう。
　だけど、勇気を出して言わなければ、自分の考えを持つことはできない。
　そんなメッセージが、アランの主張から読み取れます。
「ノー」は、思考を動かすためのモーターなのです。

■4.人の主張は4タイプに分けられる

　フランスのモンペリエ・ポール・ヴァレリー大学の名誉教授で哲学教育の専門家であるミシェル・トッズィ氏は、『Penser par soi-meme : Initiation ala philosophie　（自分自身で考える哲学入門／未邦訳）』という本のなかで、人の主張は主に４つのタイプに分けられると言っています。
　わかりやすく言い換えると、
・道具
・経済
・論理
・良識
　この4つです。
　議論のなかで、相手がどの視点から発言しているのかがわかれば、こちらの意見も組み立てやすくなります。
　逆に、視点の理解にズレがあると、話がかみ合わなかったり、問題の解決に至らなかったりします。そんなときに、この4つのキーワードを覚えておくと、機械の歯車がうまくハマるように実りのある話し合いができるのです。

（詳細は本書を）

■5.「結論を出す」とは、「ある立場を選ぶ」こと

　バンクシーの作品はどれも無許可で描かれています。この行為は許されるのだろうかという問いについて、一度日本の高校生たちと考えたことがありました。
　そのとき、ある生徒が「感じ方は人それぞれなので、描かれた壁の所有者がイヤだと思ったら許されないし、バンクシーに描かれてうれしいと思えば許される」と発言しました。確かに一理あるように思えますね。
　しかし、この主張は自分で結論を出していると言えるでしょうか？
　あるいは「ある立場を選んだ」と言えるでしょうか？
　答えは「ノー」です。
　この生徒本人の立場、つまり、バンクシーの行為は許されるべきか、それとも処罰されるべきかが明らかになっていません。

【感想】

◆表紙のイラストに反して、かなり骨太な内容でした。

逆に言うと、そこに騙されず（？）、既にお求めになっている方はお見事と言うべきかと。

とはいえ、上記のポイントでは、前提となる部分をかなり割愛して、ハイライトを引いたTIPSを優先しています。

従ってこちらで、ある程度補足をすることにしますが、まず冒頭の内容紹介にもある、「フランスの高校生たちが受験する高校卒業認定試験（バカロレア）の哲学科目対策をアレンジした」5つのステップとは、下記の目次の第2章から第6章までの章題が該当。

たとえば第2章から抜き出したのが、上記ポイントの1番目の「自分で問いを立てて自分で答える」になります。

本書ではさらに、「問いを立てるための10の質問リスト」なるものも収録されているのですが、こちらはボリューム的に多すぎて割愛せざるをえず。

また、「間違った問い」の5つのパターンも、ぜひ本書にてご確認いただきたいところです。

◆続く第3章の「言葉を定義する」からは、上記ポイントの2番目を引用。

私たち日本人は、一般的にあまり「定義」に固執しないと思うのですが、論理的な思考術では避けては通れません。

たとえば本書の例を紹介すると、「消費税は『全員が平等に払う税金だ』」という意見について、確かに「お金持ちも庶民も買い物した分だけ税金を払う」という点では、平等と言えるでしょう。

しかし「収入に占める割合を考えると、庶民の負担の方が多くなる」とも言えます。

一方、同じ税でも所得税は、課税対象となる金額が大きくなればなるほど税率が高くなっていく課税方式です（累進課税制度）。
　課税対象額が大きいということは収入がそれだけ多いということですから、お金持ちと庶民との間で税の負担率が極端に変わるということはありません。

確かに、そういう観点からすると「消費税より所得税の方が平等」だと言えそうです。

つまり、「機会」の平等か「結果」の平等かという議論なのですが、この点が食い違っていると、当然話がうまくかみ合いません。

　この場合も「あなたの平等は何に対しての平等？」と問い返して、「平等」の意味を確認すべきでしょう。

なるほど確かに。

◆また、第4章の「物事を疑う」を読んで驚いたのが、フランス人は「話を（適当に）合わせる」ということをしないのだそう。

私たちは普通、「○○だよね」と言われたら、よほど違ってない限り「そうだよね」等で返すのが普通です。

　逆にフランスでは、「うんうん、わかる」と話し手と聞き手が同意し合っている様子を一度も見たことがありません。

それはまた、民族性が違い過ぎると言いますか……。

しかし上記ポイントの3番目でアランが指摘しているように、「イエス」と言うのは思考が停止していることに他なりません。

そこで本書では、相手の発言と、自分の意見のそれぞれに対して「疑い方」を指南（詳細は本書を）！

特に後者は、弁論学をベースにしているそうで、確かに「説得術本」を数多く読んできた私には、見慣れたものが多かったです。

◆また、上記ポイントの4番目の「主張の4タイプ」は、第5章の「考えを深める」からのもの。

ここではタイプの名前だけ列挙しましたが、それぞれ簡単に説明しておくと、まず「道具」は「役に立つ」「便利」といった「効率性や利便性を重視」する考え方です。

「経済」はその名のとおり、「儲かる」とか「経済的」という観点によるもの。

一方「論理」は「論理の一貫性」にこだわっており、「個人の感情や個々人の差異のような、目に見えず比較できない部分は切り捨てられる傾向」にあるとのこと。

最後の「良識」は、「善悪の意識（倫理）を強く持っているタイプ」になります。

なお、これらは「どれが正解でどれが間違い」という話ではなく、単に人が何かを主張するときに、このどれかに立脚しやすい、ということらしく。

ただ、相手の主張のタイプが分かると、同じ切り口で返したり、あえて切り口を変えたり、という対応が取れるという利点があるわけですね。

◆そして最後の第6章では、いよいよ「自分の答えを出す」がテーマ。

上記ポイントの5番目の生徒さんのケースは、私たちもやりがちですけど、これは結論を出したことにならないのだそうです。

逆に「今の法律では許容されないので許されない」という否定的な意見も、「バンクシーが自分の家の壁に絵を描いたとしたら、自分は許せる」という肯定的な意見も、それぞれ「自分のポジション」に立っているからOK！

ただし、こうした結論を出す際に、文末に「～と思います」と書いてはダメなのだそうです。