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2023年02月09日

【漫画論】『「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書 感情を揺さぶる表現は、こう描け!』石井徹


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「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書 感情を揺さぶる表現は、こう描け! (幻冬舎単行本)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「幻冬舎電本フェス 本祭」の中でも人気の高い1冊。

講談社入社以来、一貫して「マガジン」グループに在籍していたという石井徹さんが、マンガ制作の裏側を明かしてくれる作品です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
儲かる王道マンガのつくり方、すべて教えます。 「少年マガジン」内で“伝説の私家版" 『漫画編集者のための教科書』をアップ・トゥ・デートした完全版。橘玲氏、推薦「目からウロコの面白さ! 」
2021年、史上最高の売り上げ6759億円を記録した「最後のジャパニーズ・ドリーム」MANGA! マーチャンダイジングや権利ビジネスを含めると、もはや1兆円を優に超えると推定される。この「小さな巨大ビジネス」は、机とパソコン、アイディアさえあれば誰でも始められる。さあ、マンガ制作の世界へ、ようこそ!

中古があまり値下がりしていないため、送料を合わせるとKindle版が1200円以上お買い得となります!







【ポイント】

■1.メディアミックス以上の成功例『鬼滅の刃』
 しかし私が気になったのは別のことだった。特筆すべきはコンビニの中を『鬼滅の刃』だらけにした点です。菓子類から缶コーヒー、さまざまなグッズまで、ドアを開けたらいやでも『鬼滅』キャラクターが一気に目に入った。日本中のコンビニがそうなった。驚くべきことだ。(中略)
 もしこれを宣伝費に換算したら一体、何十億になるかわからない。
 なにが言いたいかというと、これらがすべて単行本の購買に収斂したということです。アニメ、映画そして商品展開と一連の流れは当初から戦略的に行われましたが、それらが短期間に集中的に行われているのです。アニメ、映画までは考えられる。そこから、コンビニまで宣伝媒体として考えたことに驚異を感じる。版権収入を得ながら宣伝している。つまり他社から金を取って宣伝させ、さらに漫画の単行本本体で儲けている。「雑誌が売れなければこういう方法があるよ」と教えてくれた。最終的に単行本や電子書籍を売るという「ジャンプ」の執念を感じたのです。


■2.「友情、努力、勝利」はジャンプだけじゃない
 友情、努力、勝利──。「週刊少年ジャンプ」の漫画には、必ずこの3要素を入れなくてはいけないということに、世間的にはなっていました。私もテレビで「ジャンプ」のAさん(仮です。イニシャルではない) の発言を聞いたことがある。(中略)
 後年、「ジャンプ」の人に訊いたら「そんなこと、あるわけないじゃない」と言われました。現場では毎回毎回の漫画を面白くするのに必死で、3要素になんか固執してはいられない、と。(中略)
 じつは「ジャンプ」の漫画には、「友情、勝利」はあっても努力がほとんどない。登場人物は、なぜか初めから能力がある。努力の過程は、まず描かれない。地道な努力をすっとばして、強くなったり、いつの間にか天才的能力を身につけている。
 となれば、「友情、努力、勝利」を実践しているのは、むしろ「週刊少年マガジン」のほうだったと思います。「マガジン」の遺伝子というべきか、なにかを成し遂げるための努力、また努力、またまた努力を描かないと、漫画っていけないんじゃないか、と思ってしまう。それでいいのでしょう。


■3.企画は口で言え
 先ほど述べたように、私の上司は、会議では企画を口頭で言わせました。「本当に面白い企画だったら口頭で説明しても面白いはずだ」という信念の他に、もう1つ理由がありました。企画を企画書(文書) にすると、文章を書くことで満足して、いちばん大事な「面白いか、面白くないか」の判断が 疎かになるから、です。これも当たっている。(中略)
 だから「面白い企画なら口で言っても面白い」はきわめて合理的です。なにしろ時間の短縮になる。編集部全員が一発で情報を共有する。実際に口で企画を語らせると、必ず誰かから突っ込まれる。「それからどうなるの?」「具体的にどうするの?」と何度も訊かれる。口頭試問です。よって編集会議に出る前に、設定やコンセプトを説明できるようにノートにメモを書きとめておくことになります。


■4.なぜ海賊王になりたいのか? 動機不要の「ジャンプ」漫画
「ジャンプ」では皮膚感覚的にわかる動機付けが描かれることがあまりありません。主人公の動機が「マガジン」育ちの者からすると抽象的に見えてしまう。ルフィがなぜ海賊王になりたいのか。(中略)
 父親や兄が有名な海賊で、彼がそれを見て格好いいと思ったなら別です。『ONE PIECE』では、確かに兄や父親が有名な海賊だ、と出てくるが、それはだいぶ巻が進んでからのことで、当初は作中で話題にもならない。(中略)
 前述したように、身近な人間が格好良かったからそうなりたいと思った、というのも1つの動機です。例えば、ルフィの父親が悪辣な海賊に殺され仇討ちしたいから海賊になりたいというのなら腑に落ちる。なぜ『キャプテン翼』の翼君はサッカーが上手いの? それは「ボールと友だちだから」と平気で言ってしまう編集部なので、そんなことは、そもそも考えないのかもしれません。


■5.過去の日本の名作映画こそネタになる
 やたら黒澤明作品を事例としてあげたが、これには理由がある。スピルバーグ他のハリウッドの名監督たちは、昔の日本映画の脚本、演出、撮影方法などを事細かくじつによく研究している。映画に詳しい人が観ればすぐわかる。これらの作品をアメリカの大学では映画の教科書と考えた。昔の日本人監督たちは、金はなかったが、その分、相応の工夫をしていた。
 ある時、ロバート・ゼメキス監督(1952年〜。代表作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ/一期一会』他) にこう言われました。
「日本の映画監督はおかしい。我々が黒澤や小津を研究しているというのに、なぜ彼らはハリウッドの物真似をするのか? 自国にいい先生がいるではないか」
 漫画編集者にも同じことがいえます。「映画を観ろ」と言うと、今、ヒットしているハリウッド映画しか観ない人が多い。日本の昔の映画に、現代の映画の基本ともいうべき姿があることを知らない。だから、今や古典となった黒澤明の名前を出したのです。黒澤明以外でも、1970年ぐらいまでの日本映画を、外国人は研究しまくっている。


【感想】

◆そんなに熱心に漫画を読んでいるわけでもない私でも、本書は十二分に楽しめました。

1つには実際の制作現場で起きた出来事が、匿名とはいえ語られていること。

特に、漫画家側のお話もさることながら、著者の石井さん含めて編集者側のお話がかなり細かく描かれていて、なるほど、漫画の編集者というのは、ここまでやるのだな、と非常に勉強になりました。

その編集者もそれぞれ個性が違ったり、それがゆえに漫画家に対するアドバイスも違いますから、実際にヒットが生まれたケースを読むと、編集者というのもある意味漫画の制作に携わっている、と言えなくもないような。

また、もう1つは第4章において、大ヒットした漫画5つについて、踏み込んだ論評をしていること。

具体的には『ONE PIECE』『はじめの一歩』『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『東京卍リベンジャーズ』でして、それぞれの作品のファンの方だったら、より一層楽しめると思います。


◆ちなみに、上記ポイントの1番目でさっそく『鬼滅の刃』が登場していますが、こちらは第4章ではなく、序章の「漫画はいま、どうなっているか?」から抜き出したもの。

読んでお分かりのように、作品の中身ではなくて、その売り方について触れている部分です。

確かに鬼滅のヒットぶりは記憶にも新しく、我が家でもムスコがお小遣いで「一番くじ」を買いあさり、今でも当たったフィギュアをいくつか部屋に飾っているくらい。

そしてここで挙げられている商品タイアップは、従来、同業者1社、または同品種1品だったのを、同業他社、同品種多数の商品に版権が利用された結果です。

なるほど、そのことによって、膨大な版権使用料が入りますが、それ以上に、本来雑誌(ジャンプ)で行う「宣伝」を、お金をもらってやらせていた点が秀逸なのだな、と。


◆また、上記ポイントの2番目は、第1章の「漫画づくりの思考法」から引用しました。

言われてみたら、ジャンプのヒット漫画だと、「努力」は少なめかもしれません。

と言いますか、実際には努力しているとしても、その過程が細かく描かれたりはしていないかと(『北斗の拳』等)。

一方で、マガジンは「努力」を描いている、ということで、具体例として第4章では『はじめの一歩』が挙げられています。

ただ、個人的な印象として、マガジンはスポーツ漫画が昔から多くて、その分「努力」(というか練習)を描きやすいような気がするのですが。

また1つ飛んだ第3章の「打ち合わせの方法論」からは、上記ポイントの3番目の企画のお話をセレクト。

なるほど、口頭で言えるアイデアなら、面白いハズ、という視点は一理あると思います。

むしろ、紙に書かれると、大して面白くなくてもそれなりに見えちゃうんでしょうね。


◆そして、本書のある意味キモとも言えるのが、何度も言及している第4章です。

お恥ずかしながら上記で挙げた5つの作品のうち、最初から最後(連載中は最新まで)まで読んでいるのは、『はじめの一歩』と『鬼滅の刃』の2つだけで、『東京卍リベンジャーズ』も、最終章に入ってから読み始めた程度なワタクシ。

それでも上記ポイントの4番目の指摘には、なるほど、と大きくうなづいてしまいました(特に『キャプテン翼』のたとえ)。

本書で石井さんは、ジャンプが読者対象層を小学生にしている、と考えており、確かに小学生相手だったら、細かい動機付けはかえって邪魔なのかもしれません。

また『はじめの一歩』については、第1話から第3話までをしっかり解説。

とにかく話の流れもさることながら、キャラクターの設定の見事さが光っているようです。

さらに『進撃の巨人』は、私が読んでない(設定くらいは知ってます)のでアレなのですが、超大物漫画家(本書でも名前は伏せられています)と話をしていたら、その方が『進撃の巨人』について「よくわからない」と真剣な顔で言ったとのこと。

石井さん自身も「全巻読まないとわからない」「かなり変わった少年漫画」と言われているので、かえって気になるのですが……。


◆なお、上記ポイントの5番目は、第5章の「現代漫画編集者論」からのもの。

漫画編集者たるもの、映画は観ておかねばならぬ、ということで、特に過去の日本の名作映画がオススメのようです。
黒澤作品を観て、漫画でいいとこ取りをしても今の読者は気づかない。むしろ新しいと感じる可能性さえある。日本映画はネタの宝庫かもしれない。ハリウッドは30年以上前からそれをやっているのです。
日本の映画ではないですが、『チェンソーマン』の藤本タツキさんは、絵面でよく映画ネタを使っていますよね。

もちろん私たちのほとんどが、今からなれる可能性はほぼないのですが、漫画編集者が現在の漫画シーンを担う、重要な役割を務めていることがよく分かる1冊でした。

……ちなみに極めて個人的なお話ですが、私の大学時代の知人がマガジンの編集部にいたことがあるので、本書に登場する編集者の誰かかも、と思いながら読んだんですけどねw


漫画好きならば、一読の価値がある1冊!

B0B3M5LJW4
「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書 感情を揺さぶる表現は、こう描け! (幻冬舎単行本)
序 章 漫画はいま、どうなっているか?
第1章 漫画づくりの思考法
第2章 泣ける漫画の作り方
第3章 打ち合わせの方法論
第4章 大ヒット漫画について具体的に考えたこと
第5章 現代漫画編集者論


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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