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2023年01月30日

【思考術】『絶対悲観主義』楠木建


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絶対悲観主義 (講談社+α新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「講談社 新書・文庫・専門書 ポイント還元キャンペーン」の中でも人気の1冊。

当ブログとしては久しぶりとなる楠木 建さんの新書なのですが、タイトルは作品全体のテーマではない点にご留意いただきたいところです。

アマゾンの内容紹介から。
みなさん、がんばりすぎていませんか?
そんなに心配することはありません。なぜなら、そもそも仕事で自分の思い通りになることは、ほとんどないから。
この元も子もない「真実」を直視して、成功の呪縛からもっと自由になろう。
そうすれば目の前の仕事に対し、もっと気楽に、淡々と取り組むことができる。
絶対主義者の著者が実践してきた「普通の人のための」思考のストレッチ。

中古が値下がり気味とはいえ、送料を考えるとこのKindle版が300円弱お得です!





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【ポイント】

■1.若者にこそ絶対悲観主義を
 能力に自信がある人ほどプライドが高い。そういう人は失敗したときに大いにへこみます。プライドは仕事の邪魔でしかありません。(中略)
 もちろん仕事には矜持を持たなければいけませんし、その意味でのプライドは大切です。ただし、プライドはなるべく後回しにしたほうがイイ。ある程度の成果を出して実績を積んでからでも、遅くはありません。若者の最大の特権は、時間があることでも、未来の可能性があることでも、体力があることでも、頭が柔軟なことでもありません。「まだ何者でもない」ということです。若いときほど失敗で被るサンクコスト(埋没費用) は小さい。どうせうまくいかないのだから……という絶対悲観主義は究極の楽観主義でもあります。若い人にこそ絶対悲観主義をおすすめします。


■2.組織力からチーム力へ
 まず確認しておきたいのは、組織とチームの違いです。組織とは、ある構造を持って安定的に存在する人間の集団であり、ある種のシステムを意味しています。一方のチームは組織の部分集合です。組織という器の中で、チームという単位が実際に日々の仕事を動かしている。チームは「現場」です。現場ごとにチームがあります。(中略)
 組織は長く続いていくものですが、チームには終わりがあります。目的を達成するとあっさりと解散する。脱走なり判決の合意を果たすまでがチームの仕事で、後はそれぞれお好きなように、という世界です。目的が達成できた時点で、ミッション・コンプリート。それぞれが自由意思で次に向かっていく。それぞれの中に、「あのときはよくやったな」とか、「あいつは頼りになったな」といった記憶は残る。でも、引きずらない。記憶が残ればそれで十分。スカッとした「終わり」があるというのがいいチームだというのが僕の考えです。


■3.友達の定義とは
 詩人の高橋睦郎の名著に『友達の作り方』(マガジンハウス) があります。この本の中に友達の本質を鋭く抉る定義がありました。友達というのは偶然性、反利害性、超経済性という条件を備えた人間関係である──まったくその通りだと深く共感しました。『友達の作り方』というタイトルなのに、友達の本質からして、友達の作り方なんてものはない──スカッとした結論が素敵です。
 小学校のクラスとか大学のゼミは、偶然そこに集まった人で構成されます。経済的利害はない。友達の条件を自然に満たしています。考えてみると、そういう場は学校や地域のコミュニティぐらいしかありません。世の中に出ると、仕事が忙しかったりして偶然性の条件を満たす出会いの機会は格段に減ります。知り合う人の多くは仕事を通じて会うことになります。利害性や経済性が多少なりとも絡んできます。


■4.婚活システムの問題点
 問題は婚活者の人格にではなく、婚活システムの設計にあります。マッチングアプリやマッチングパーティーのように人工的に設計されたシステムには、極端なメリットとデメリットがあります。メリットは、偶然の出会いと比べて、知り合う相手が飛躍的に増えるということです。しかも、相手についての情報量も多い。インターネット上でのマッチングは文明の利器であり、こういうシステムを使うのは合理的な行動ではあります。
 一方のデメリットは、目の前にあまりにも多くの選択肢が広がってしまうがために、比較の次元が年収とか容姿に固定されてしまうということです。結婚という意思決定では、本来は相手の総合的な人格とか全体的なありようが問題になるはず。ところが、婚活システムはその人の総体を要素に分解してしまいます。相互に比較可能な特定少数の次元で優劣をつけて、評価したくなるようなシステム設計になっている。これが非常に現実的と言えば現実的、頓珍漢と言えば頓珍漢な人間悲喜劇が生まれる背景だと思います。


■5.リアルなコミュニケーション能力の価値が高まる
PCとネットが誰にでも使え、コピー&ペーストし放題ということになると、人間の本性からして文章を「サクッと」書くようになります。すぐにクリックして別のページに行けるので、読者にしてもじっくり文章を読む機会は減る一方です。スマートフォンの限られた面積のモニターで隙間時間に読む(というより見る)文章です。書き手は文章を練り上げようとはしないし、読むほうもそれを求めていない。この悪循環で、どんどん文章の質が下がっていくという現象が起きています。
 これと同じように、リモートワークが進んでいくほど、生身の人間を相手にしたコミュニケーション能力は劣化していくのではないか。だとすれば、リアルなコミュニケーションが得意な人の価値は、これからどんどん上がっていくかもしれません。ここいちばんというときにはオフラインで上質なコミュニケーションがとれる。これはスキルというよりもセンスの問題です。スキルのデフレとセンスのインフレは中長期的に続くメガトレンドだと思います。


【感想】

◆冒頭でも触れたように、本書は「絶対悲観主義」というタイトルではありますが(「新書あるある」的に)、そのお話だけではありません。

一応本書の巻頭の「はじめに」では、「絶対悲観主義」について述べつつ、その最後の方では「絶対悲観主義者の僕が仕事や生活の断片について書いたものを集めたのが本書です」と注釈(?)がありました。

とはいえ、ここをよくよく見ると「僕」は確かに「絶対悲観主義者」という属性を持ちつつも、あくまで「書いたもの」は「仕事や生活の断片について」であって、「絶対悲観主義」だけとは限らなかったんですよね。

ただ、それに続く第1章の章題が「絶対悲観主義」であり、この章は思いっきりそのテーマで掘り下げている以上、最初の方だけリアル書店で立ち読みしたら、普通に「絶対悲観主義」を論じた本だと考えても不思議ではないと思います。

もっとも私自身としては、それ以外のお話の方が面白かっただけに、本書をご紹介することにしたのですが(楠木さん、スイマセン)。


◆その肝心の「絶対悲観主義」については、第1章にてこのように言われています。
 仕事である以上、絶対に自分の思い通りにはならないと僕は割り切っています。「世の中は甘くない」「物事は自分に都合のいいようにはならない」、もっと言えば「うまくいくことなんてひとつもない」──これが絶対悲観主義です。
この定義に続いて、「効能」が6つほど列挙されているのですが、その中の1つである「リスク耐性が高い」という部分から抜き出したのが、上記ポイントの1番目。

ここにあるように「どうせうまくいかないのだから」と、はじめから割り切ってスタートできたら、リスクも取りやすくなるわけです。

さらには、実際にうまくいかなかったときにも、「失敗は常に想定内」ですから挫折とも無縁という。

ただし、私がちょっとだけ心配しているのが、セルフハンディキャッピングをしたくなりそうなことでしょうか。

セルフハンディキャッピングに打ち勝つには? 概要や種類も解説 | マイナビニュース

上記リンク先の「獲得的セルフハンディキャッピング」的な行為(「試験前日にゲームなどをして遊んで、あらかじめできない原因を自分に課してしまう状態」等)をしなければよいのだとは思いますが。


◆また、上記ポイントの2番目は、第6章の「チーム力」から抜き出したもの。

自分自身、長らく1人で仕事をしているせいか、組織とチームの違いを意識した事がなかったのですが、なるほど、チームとはフレキシブルなものだったのですね。

ここで唐突に「脱走」や「判決」というフレーズが出てくるのは、その前段で楠木さんが理想のチームとして、下記の2つの映画に出てくるチームを挙げているから。

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GREAT ESCAPE

B09FXYGY4D
十二人の怒れる男 [Blu-ray]

もちろん、どちらも観たことがなくとも、楠木さんが解説されていますのでご安心ください。

ただ、前者のように明らかに皆で協力するのではなく、議論しあっている後者が「チーム」というのは、個人的には目からウロコでした。


◆続く第7章の「友達」からは、上記ポイントの3番目をセレクト。

ここで挙げられている友達の定義は、こちらの作品からということですが、絶版で中古が高いため、実際に読むのは難しそうです(Kindle版はありません)。

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友達の作り方―高橋睦郎のFriends Index

自分としては、独身時代のクラブ仲間や、リアルでなくともよければ、現在でもネットでの趣味友達は結構いると思うのですが、楠木さんのお考えではリアル限定の模様。

また、第9章から抜き出した上記ポイントの4番目では、婚活話が出てきたのには驚きました(楠木さんはご結婚されています)。

しかも、結構のなボリュームで、こちらの作品の内容を紹介していたという。

B093L6BDZ1
57歳で婚活したらすごかった(新潮新書)

参考記事:【モテ】『57歳で婚活したらすごかった』石神賢介(2021年05月31日)

ただ、ここでも言及されているように、あまりに選択肢が多いと、かえって分かりやすいスペック(年収や年齢)に依存しがちなのだな、と。


◆なお、上記ポイントの5番目は、第10章の「リモートワーク」から引用したのですが、実際に楠木さんはコロナ禍以前から、一部のエグゼクティブMBAの講義でZOOMを使っていたのだそうです(アジア諸国のビジネスマンもいるため)。

それだけに、その後のコロナ禍による全面リモートから、リアルに戻ってきた経験を踏まえて、リモートワークのメリットやデメリットも良く理解されており、結論から言うと「効率と効果のトレードオフ」とのこと。

もちろん、仕事の中身にもよるのでしょうけど、「久しぶりに一橋講堂でフルにお客さまを入れて講演をしたときは絶好調で、リアルだとこんなに話しやすいものなのか、と自分でも驚きました」と言われていました。

そう言う意味でも、「リアルなコミュニケーション能力」は高めておくのにこしたことはないようです。

また、第12章では「痺れる名言」という章題どおり、名言が多数収録されていたのも、名言好きの自分としてはポイント高し!


楠木さん流の思考術を垣間見れる1冊でした!

B0B3XFSKJ2
絶対悲観主義 (講談社+α新書)
第1章 絶対悲観主義
第2章 幸福の条件
第3章 健康と平和
第4章 お金と時間
第5章 自己認識
第6章 チーム力
第7章 友達
第8章 オーラの正体
第9章 「なり」と「ふり」
第10章 リモートワーク
第11章 失敗
第12章 痺れる名言
第13章 発表
第14章 初老の老後


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【これは使える!?】『婚活したらすごかった』石神賢介(2011年08月18日)

【自己肯定】『ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則』森川陽太郎(2013年01月30日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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なぜ、あなたの話はつまらないのか?

当ブログでもレビュー済みの話し方本。

中古が値崩れしているものの、送料を足せばKindle版がお得となります。

参考記事:【話術】『なぜ、あなたの話はつまらないのか?』美濃部達宏(2019年04月01日)


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