2023年01月08日
【婚活?】『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』高橋勅徳
大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、実は先日の「未読本・気になる本」の記事で一番人気だった婚活本。Kindle版が配信されたタイミングで、サンプルをダウンロードしようとしたもののなぜかできず(結局昨日アマゾンに電話して解決済み)、完全に出遅れてしまいました。
アマゾンの内容紹介から。
有名大学の教授(30代、年収1000万↑、フツメン)が、結婚しようと一念発起してマッチングアプリに参戦し、周囲にズタボロにされながらも「マッチングアプリ、ビジネスにおいての学びが深すぎる…!」と、その学びを面白おかしくまとめて、学べる本になります。
中古価格が定価を上回っていますから、その「14%OFF」のKindle版がお得です!
Will you marry me? / MabyCakes
【ポイント】
■1.婚活と就活は違う「俺は、お前の話は面白いと思うんだけど……、メッセージのやり取りを見る限り、これじゃ続かないだろ」
例によって真田にメッセージの内容を見せて相談した所、苦笑いをしつつ「就活の面接じゃないんだから」と言われた。(中略)
「お前は婚活を就活と思ってやっているかもしれないけどさ、結婚ってこの先一生付き合う相手を選ぶ事務作業じゃないんだからな。メッセージのやり取りは、お互いのデータを交換するためにするんじゃなくて、相手の人となりを知るためにすることなんだ。俺はお前のことは面白い奴だと思っているけど、このメッセージのやり取りだと、その面白さが1%も伝わらないよ……。お前が無駄と切り捨ててきた、どうでもよい雑談と向き合うことから始めなきゃ難しいんじゃないか?」
■2.ご飯の写真はデートのきっかけになる
これまでは「どこでダイビングしているんですか?」「ジムではどのようなトレーニングをされているのですか?」と趣味の内容を深掘りするような質問ばかりであったのに対して「プロフィールの写真の料理、美味しそうですね〜!」というメッセージが目立って増えてきたのだ。
こうなると、アドバイスをしてくれた真田が教えてくれたように、「美味しそうですね→どのお店で食べたのですか?」→「じゃあ、一緒に食べに行きませんか?」とメッセージのやり取りを動かしていけば良い。
あれだけ苦労したのが何だったのかと思うくらい、デートの約束へと進んでいった。また、ナッジ効果で会話の方向性を誘導できるので、同時並行で数人の女性とメッセージをやり取りしていっても、その内容はほぼテンプレートで進めていくことができる。望んでいる結果を、最小のコストとリスクで実現していく、まさにナッジが目指す通りのアプリ婚活が進みつつある。
■3.合理的な基本戦略「ショットガンアプローチ」
アプリ婚活の市場構造を踏まえると、男性にとってもっとも合理的な基本戦略は以下のようなものになる。・流動性が高く、全ての男性会員が競争相手となるため、いつ目当ての女性が退会したり、他の男性とマッチングするかがわからない状況にある。(詳細は本書を)
・そのため、自分が配偶者に求める条件で検索し女性をリスト化した後は、深く考えずに1ヶ月あたりの上限数一杯までマッチングの申込みをする(さしあたって、これをショットガンアプローチとしておく)。
・マッチングをした後、メッセージのやり取りを通じて相手の人柄と相性を判断し、交際にまで進めていくかを考える(駄目なら切り捨て、次のマッチングを目指す)。
■4.恋愛格差と結婚
過去の恋愛経験と結婚の関係に注目した時、男女とも1人でも過去に交際した経験があれば結婚の可能性は3倍に跳ね上がり、男性は5.6人、女性は8.2人をピークに結婚の可能性が高まっていきます。「恋愛は結婚というアトラクションに入るための「優先入場券」と言えるかもしれない」(小林, 2016, 27頁) と指摘しているように、過去の恋愛経験と結婚は直接関係していると言えます。
他方で男性より女性の方が異性との交際人数が多いこと、男女ともに未婚者は過去の交際経験がないことの2点に注目する必要があります。これは、一部の男女が、恋愛関係の機会を多く獲得している=恋愛弱者と恋愛強者が存在することを意味します。小林先生は、このような格差を、人々が成長していく環境や生まれ持った容姿によって獲得できる経験が後々の資本として恋愛格差を生むとして、恋愛資本という概念を提示しています。
■5.残された3つの選択肢
「お前に残された選択肢はこの3つだ」
「1つ目。前向きに自分の弱さに向き合う気があるなら、もっと経験を積んで、残り2人の男性に打ち勝って、Tさんを振り向かせること。少なくとも、お前のことを結婚相手としてはアリだと考えてくれている。だから、諦めることはない。(中略)」
「んで2つ目。Tさんは諦めて、他にもっといい人がいると信じて婚活は続ける。ただし、お前にはアプリはおそらく向いてないから、コミュニケーション能力のなさをフォローしてもらえる結婚相談所への入会とかが良い気がしてる」
そして最後の選択肢を提示した。
「3つ目。なんだかんだ言っても、今お前は研究しているだけで幸せになれるのだから、今すぐの婚活を諦める。この数ヶ月、近くでお前の婚活を見てきたけど、婚活を研究しているお前は楽しそうだったよ。これでフィールドワークは終わりってことにして、研究として論文なり本にしちまえば?」
【感想】
◆私は全然知らなかったものの、本書の著者である高橋さんは、2021年10月にこのような研究書に近い作品を出されています。婚活戦略 - 商品化する男女と市場の力学
要は高橋さんは研究・分析等がお得意なわけで、本書もタイトルに反して(?)「面白おかしい」本ではないということ。
実際、巻末の「おわりに」によると、版元の編集者氏からは
「マッチング・アプリを題材に、ビジネス教養が学べるような本を出したい」というリクエストがあったそうですから、本書の軸足はマーケティングや経営学、行動経済学にあるわけです。
なるほど、下記目次を見てもそのような章題になっていますし。
いずれにせよ本書は、まず「ビジネス教養」があるわけで、必ずしも「婚活を成功させるためのテクニック」が優先されているのではない点にはご留意ください。
◆それを踏まえて、本書の物語の主人公であるYamaguchi氏(なぜかアルファベット表記)のスペックを。
年齢:35歳この時点で「は? 高スぺ男性やん!」と思われる方も多いと思います。
身長:178cm
体型:がっしり
職種:大学准教授
年収:800万〜1000万
年齢は女性の年齢次第の部分もありますが、「婚活」をする女性相手ならほぼ問題ないハズ。
身長も平均よりも高いですし、何よりも年収的には文句のつけられようもないでしょう(「年収2000万以上の男性を求む」でもない限り)。
ところがこのスペックであっても、婚活アプリでデートにすら持ち込めない、ということで、Yamaguchi氏は高校時代からの友人で、広告代理店に勤める真田氏に相談します。
そこで指摘されたのが、上記ポイントの1番目の内容。
確かに就活のような面白みのないやりとりをしていたら、デートを望む女性も少ないのでしょう。
◆一方で、真田氏に見せてもらった婚活アプリでのやりとりは、グルメ等の「女性の趣味や興味に合わせた雑談」が中心。
なるほど、と理解したYamaguchi氏は、いきなり、焼き肉、寿司、フレンチの食べログ上位の有名店に向い、写真を撮影します。
それをプロフィールに加えると、上記ポイントの2番目のように、デートの約束までは取り付けられるようになったのでした。
ところがそれで「めでたしめでたし」とはならず、どうも恋愛経験が乏しいこともあってか、話があまり弾まないことが多く、その後もほぼ3回目でデートが断られたり、マッチングが解消されてしまうことに!?
挙句の果てには、脈ありと思っていた女性に「飯トモだったらいいけど、交際相手としては決め手にかけるかも」「いろんな人の中でYamaguchiさんは3番目くらい」と言われてしまいます。
◆本来ならここで、何らかのコミュニケーション理論的なてこ入れが導入されるべきなんでしょうけど、本書はそっち方面には向かいません。
そもそも「スペック」と「グルメ」できっかけを作ったんですから、1つ1つの出会いを大切にすればいいのに、と庶民の私は思うのですが、Yamaguchiさんが取ったのは、上記ポイントの3番目の「ショットガンアプローチ」。
これはいわゆる「数打ちゃ当たる」的に多人数をターゲットにするやり方で、どちらかというとセールスの考え方に近いと思います(本書ではビジネス教養として「セールス」も出てこないのですが)。
実際にはこの「ショットガンアプローチ」にも、いくつかの種類が登場するのですが、詳しくは本書にて。
いずれにせよ、デートの回数は増えても、結局はコミュニケーション能力が足りず、結婚以前の恋愛関係にまで到達できないYamaguchi氏が描かれる本文内で、コラム的に挿入されているのが、上記ポイントの4番目のお話です。
これは2022年4月、内閣府の「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」において発表された報告資料からのものらしく。
「『壁ドン』教育」という提言自体は論議を呼んだものの、ポイントの4番目に書かれている「男性より女性の方が異性との交際人数が多い」というのは、昔バズったこの説が結果的に正しいのでしょう。
ヤリチン分裂現象
ここまでの計算を見た読者には、この原因は明らかであろう。一人のヤリチンが多数の女性と関係を持つ結果、交際相手として何度も重複カウントされ、統計上は「ヤリチンが分裂」しているのだ。
◆そんな中、意中の人となった「Tさん」との仲も、とある出来事や、ライバルの男性がいることを知って微妙なものに。
悩んだYamaguchi氏は、真田氏に相談し、真田氏が出した答えが上記ポイントの5番目です。
個人的には本書を読み始めてからすぐに、2番目の「結婚相談所」がベストなのでは、と私は思っていましたが、それだと版元からのリクエストにまったく沿えないので、論外なのでしょうね。
……と言いつつ、続編として「結婚相談所編」が出るかもしれませんがw
なお、本書はマーケティング理論や行動経済学、経営学理論に結構なページを割いているにもかかわらず、本記事ではそれらを丸ごと割愛してしております。
そういう意味では、著者の高橋さんや版元には申し訳ないのですが、こうしてモテ本・恋愛本を350冊以上レビューしてきた自分からすると、こういうアプローチをとらざるをえなかったワケでして。
モテ・恋愛:マインドマップ的読書感想文
悩めるYamaguchi氏に幸多からんことを!
大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。
プロローグ 結婚≒幸せ?
第1章 私のスペック需要ある? マーケティング編
第2章 予想通りに不合理な婚活 行動経済学編
第3章 挑むべきは女性ではなく男性 経営戦略編
第4章 婚活という沼 社会学編
エピローグ マッチングアプリ、学びが深すぎるだろ!
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【編集後記】
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