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2022年12月22日

【科学的自己啓発書】『知ってるつもり 無知の科学』スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック


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知ってるつもり 無知の科学 (ハヤカワ文庫NF)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本クリスマスセール」からの科学的自己啓発書。

実はすでに結構お求めいただいているのですが、遅ればせながら私も読んでみました。

アマゾンの内容紹介から。
自転車や水洗トイレの仕組みを説明できると思いこむ。ネットで検索しただけでわかった気になりがち。人はなぜ自らの理解を過大評価してしまうのか? 認知科学者のコンビが行動経済学やAI研究などの知識を結集し、「知ってるつもり」の正体と知性の本質を明かす。

中古は値下がりしていますが、このKindle版の方が400円弱お買い得です!




【ポイント】

■1.「説明深度の錯覚」を検証するテストとは?
1 あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。
2 ファスナーはどのような仕組みで動くのか、できるだけ詳細に説明してください。
 ロゼンブリットとカイルの被験者の多くがそうであったように、あなたもファスナー工場には勤めていないだろうし、そうなると2つ目の質問にはほとんど何も答えられなかったはずだ。ファスナーがどのように開閉するのか、実際にはまるでわかっていないのだ。続いて、こう聞かれる。
3 もう一度、あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。
 今回は多少謙虚になり、最初に聞かれたときより評価を低くするだろう。実際にファスナーの仕組みを説明しようとすると、たいていの人は自分がまるでわかっていないことに気づき、理解度の評価を1、2段階下げる。このような実験によって、人々が錯覚のなかで生きていることが示される。


■2.推論することの難しさ


 上のコインを下のコインの縁に沿うように回転させていく。上のコインが下のコインの真下に来たとき、矢印はどちらを指しているだろう。(中略)
 たいていの人は、矢印は下を指すと考える。だが実際には上を指す。25セント硬貨を2枚用意して、実際に試してみよう。日々の生活のなかでは物体が回転する場面をよく目にするが、曲面上を回転するところを見る機会はきわめてまれである。だからコインがどんな具合に動くかについてはひどく直観的に考えられない。


■3.インターネットの知識を自分のものと勘違いする
 このような変化によって生じた結果の1つは、私たちがテクノロジーを人間のように、つまり知識のコミュニティの完全な構成員として扱うようになってきたことだ。その最たる例がインターネットだ。(中略)
テキサス大学の心理学者、エイドリアン・ワードは、インターネット検索を利用することで、被験者の認知的な自己評価、すなわち情報を記憶し、処理する能力に対する評価は高くなることを明らかにした。しかも知らなかった事実をインターネットで検索した後、その情報をどこで見つけたのかと尋ねたところ、記憶違いをして「もともと知っていた」と回答するケースが多かった。検索したこと自体を完全に忘れてしまう被験者も多かった。グーグルのおかげではなく、自分の実力だと考えたのだ。


■4.強い意見は理解の欠如から生じる
 伝子組み換え食品に表示を付けるべきだと主張しているのが、DNAを含むあらゆる食品に表示を付けるべきだと言うような人々だとしたら、その意見はどれほど傾聴に値するのか。主張の信頼性は薄れるような気がする。大多数の人が特定の意見を支持しているからといって、そうした意見がきちんとした理解に基づいているとは限らないようだ。概して、問題に対する強い意見は、深い理解から生じるわけではない。むしろ理解の欠如から生じていることが多い。偉大な哲学者で政治活動家でもあったバートランド・ラッセルはそれを「情熱的に支持される意見には、きまってまともな根拠は存在しないものである」と表現している。クリント・イーストウッドはもっと直截的だ。「過激主義とは簡単なものだ。自分の意見を決めたら、それで終わり。あまり考える必要がない」


■5.意思決定のための単純なルールを作る
 リバタリアン・パターナリズムの創始者の1人であるリチャード・セイラーは、金融に関する意思決定について深く考察している。そして金融に関する話題を消費者に深く理解させる試みは成功しない可能性が高い、と認める。金融の世界はあまりに複雑で、消費者の能力はあまりに限られている。だから消費者を教育しようとするのではなく、知識がなくても、また手間をかけなくても使うことのできる、有効性の高い単純なルールを作るほうがいいと主張する。たとえば「401kプラン(企業年金制度)の掛け金はできるだけ多くする」「収入の15%は貯蓄にまわす」「50歳以上ならば住宅ローンは期間15年を選ぶ」といったものだ。


【感想】

◆自分自身、読んでいて「耳イタイ」内容の作品でした。

そもそも、本書の表紙には描きかけの自転車の絵があって、そこには「チェーンとペダルが描けますか?」との文字が。

実際にご自分で描かれてみて、初めて「意外と分かってない」ことに気が付かれると思います(私含む)。

そこでこの「人々が実際に持っている知識と、持っていると思っている知識の量を比較するための、優れた科学的方法」なるものが、第1章から抜き出した上記ポイントの1番目。

確かにファスナーなんてシンプルな構造ですし、理解しているツモリでいる人が大半でしょうけど、その説明まで求められたら、まともに答えられる人はほとんどいないでしょう。

すると急に自己評価が下がるわけで、これこそが「錯覚」というもの。

でもこんなもの、身の回りにいくらでもありますよね。


◆また、分かってるつもりが、まったく分からなかったのが、第4章で紹介されていた、上記ポイントの2番目のコイン(本書では25セント硬貨の絵が掲載されていますが、ないので100円玉で)のケース。

私も普通に考え抜いた末に、矢印は下向きになると思いましたが、正解はここに書かれているように上向き。

どうしてなのか分からなくて、思わずYouTubeの解説動画を探したところ、「ぐるっと1周したら何回転するか」という問題の解説動画ならいくつかありました。

やたら煽ったりするのはいかがなものかと思ったので、比較的まともなこちらを。



コインが同じサイズではないので、頭の中で換算する必要はあるものの、個人的には一番腑に落ちました。


◆加えて私たちが、「知ってるつもり」になる大きな要因の1つがテクノロジーです。

第7章ではこうした「テクノロジー」とのかかわりが触れられており、上記ポイントの3番目のインターネットのお話もここからのもの。

実際、他の部分でも触れられているのですが、「他者の頭の中に知識があり、それを利用できるとき」には、私たちは「自らの理解度を過大評価する傾向がある」のだそうです。

これは医療の現場でも影響が出ており、医師と看護師を対象としたアンケートでも、診察を受ける前に、WebMDなどの医療専門サイトで病名を検索してくる患者は、事前にネット検索をしなかった患者と比べて「明らかに豊富な知識を持っているわけではないにもかかわらず、自分の医療知識にかなり自信を持っている傾向がある」のだとか。
 問題は、ほんの数分(場合によっては数時間)WebMDを読んでも、信頼できる医学的診断を下すのに必要な専門知識を得るために何年もかけて勉強する代わりにはならないということだ。また金融サイトを数分間眺めても、投資の勘どころをつかむことはできない。だがすぐ手に入るところに世界中の知識があると思うと、まるでその多くが自分の頭の中にあるような気になってしまう。
……うちのムスコを見ていると、確かにそう感じますねー。


◆さらにここに、自分の属するコミュニティがかかわってくると、もっと難しくなってきます。

その大きな要素の1つが政治であり、第9章ではこの点について言及。

特にアメリカでは大きな対立を生んだ「医療費負担適正化法(通称「オバマケア」)」について取り上げています。
最高裁判所が同法の主要な条項を支持する判断を下した直後に行われた国民へのアンケートでは、36%が賛成、40%が反対、24%が意見を表明しなかった。しかし同じアンケートで最高裁の判決がどのようなものであったかを尋ねたところ、正解したのは全回答者の55%にすぎなかった。つまり最高裁判決の内容を正しく理解しないままに、賛否を表明した人が相当数いたということだ。
まぁ私たち日本でも、あまり大差はないかもしれませんが。

ただ問題は、上記ポイントの4番目にあるように、「問題に対する強い意見は、深い理解から生じるわけではなく、むしろ理解の欠如から生じていることが多い」ということ。

確かに声の大きい人の方が、必ずしも物事を理解しているとは限りませんし、これは注意しておきたいところです。


◆そして第12章から抜き出した上記ポイントの5番目は、より良い判断ができるよう、環境を整えるための「4つの教訓」の中の1つ。

私自身、金融商品についての知識には自信がありませんから、単純なルールがあればそれに従っちゃいそうです。

また、他の教訓もうなずけるものばかりでしたから、本書にてご確認を。

なお、後で論争(?)になるのが懸念されるので上記では割愛しましたが、本書ではいわゆる「ワクチン反対派」のお話も登場します。

この件などは、まさに上記ポイントの3番目や4番目と密接に関係していますし、まさに「コミュニティ」の問題ですから、どちらの派の方も、お目通しいただければ、と。

いずれにせよ、私たちは自分が思っているほど「分かっちゃいない」可能性が高いのですから……。


「自分が知らない」と知るために読むべし!

B09DRT8X8H
知ってるつもり 無知の科学 (ハヤカワ文庫NF)
序 章 個人の無知と知識のコミュニティ
第1章 「知ってる」のウソ
第2章 なぜ思考するのか
第3章 どう思考するのか
第4章 なぜ間違った考えを抱くのか
第5章 体と世界を使って考える
第6章 他者を使って考える
第7章 テクノロジーを使って考える
第8章 科学について考える
第9章 政治について考える
第10章 賢さの定義が変わる
第11章 賢い人を育てる
第12章 賢い判断をする
結 び 無知と錯覚を評価する


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お前らもっと『かぜの科学』の凄さを知るべき(2015年01月21日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

B09YR2MY61
レオ・ブルース短編全集 (扶桑社BOOKSミステリー)

年末年始に良さげな短編集は、Kindle版が800円弱お得。

B07JYDCR4T
お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!

本業にも関係する(?)税金本は、なぜか「200ポイント還元」が付いたおかげで、Kindle版が700円以上お得な計算です!


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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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