2022年10月29日
【読書術】『忘れる読書』落合陽一
忘れる読書 (PHP新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて一番人気だった1冊。今まで様々なガイドブックや読書術本を読んできましたが、あまり類を見ないユニークな作品でした。
アマゾンの内容紹介から。
メディアアーティスト、筑波大学准教授、ベンチャー企業の代表など多彩に活躍する著者。時代の先端を行く著者の思考の源は、実は読書で培われたという。それは、読んだ内容を血肉にするための「忘れる読書」だ。デジタル時代に「持続可能な教養」を身につけるために必要なのは読書だと、著者は断言する。
本書では、古典から哲学、経済書、理工書、文学に至るまで、著者の思考を形作った書籍を多数紹介し、その内容や読み解き方を詳説。著者独自の読書法はもちろん、本の読み解きを通して現代社会を生き抜く思考法までが学べる、知的興奮に溢れる一冊。
中古が値崩れしていない一方、Kindle版は当初より値下がりして、「22%OFF」と大変お買い得となっています!
Dawn Treader Book Shop / aechempati
【ポイント】
■1.「3つの点」に着目すると、深い読み解きができる本というものを、コンテンツという「材料」、著者の「主張」、それを伝える「方法」という3つに分けて見てみると、その本の構造や著者の思考回路がよくわかるはずです。
例えば、私が書いた『日本再興戦略』(幻冬舎)は、その3つが明確です。これは、タイトル通り、現代日本の国家ビジョンをもう一度見直して刷新するためのストラテジーをまとめた本です。アップデートのための「材料」に、テクノロジーを挙げています。しかし、より深いところにある私の「主張」は、テクノロジー礼賛ではなく、近代の超克にあります。
本書がユニークなのは「方法」です。ひと言で言えば、プロパガンダ。「こっちの世の中の方がいいから、こっちに行こうぜ」とナビゲートする書き方をしています。明治時代のプロパガンダの形はとても上手だったため、私も明治方式で「政治も産業も教育も、この際一切合切刷新してしまいましょう」と提唱しています。
日本再興戦略 (NewsPicks Book)
■2.『枕草子』はズラす視点が得られるザッピング集
『枕草子』は平安時代の「ザッピング集」だと思っています。私の頭の中では、清少納言がこんな風に語りかけているように感じられるから面白いのです。
私が季節の中で好きなもの、私が「エモい」と思うもののアレコレ教えてあげる。こんな調子で延々と続いていくイメージです。ザッピング集だからこそ、思考のチャンネルをカチャカチャ切り替えてものの見方をズラすことに適しています。視覚的な描写が多いから、今の時代に清少納言がいたら実はエッセイストではなくインスタグラマーとして活躍していたんじゃないかとも思います。
可愛らしいもの。瓜に描きたるちごの顔。あのエモさはたまらないよね……
枕草子 (岩波文庫)
■3.問題解決のセンスを磨くのに最適な1冊
問題解決のセンスを磨くために最適な一冊が、『いかにして問題をとくか』(G・ポリア著)です。(中略)
この本は、未知の分野について問題を調べて解く上でのアプローチについて説いた古典ともいえる参考書です。私はこの本を読んで「問題解決のセンス」が身についたと思っています。内容は一見難しそうですが、平易な言葉で書かれていて、理系ではない人でも読みやすいと思います。
この本では、どんな種類の問題についても当てはまる普遍的な質問が3つ挙げられています。・未知のものは何か。これは不動の問いであり、数学や科学に携わる人にとってはある意味では当たり前の、問いの「お作法」です。でも、時々思い返した方がいいぐらい、忘れてはいけない本質的なことでもあります。
・与えられているものは何か。
・条件は何か。
いかにして問題をとくか
■4.『日本教の社会学』と『攻殻機動隊 S.A.C.』はSNS時代を照らす
「日本と空気」を知る入門編として挙げられるのが、先に述べた、小室直樹と山本七平による『日本教の社会学』。小室直樹は社会学者であり、山本七平は在野の評論家です。大まかにまとめると、2人の主張はこうです。〈日本は、本当のところ民主主義でも自由でもない。日本人は「空気」に支配されている〉この本が最初に出版されたのは1981年。本書について考えると、アニメ『攻殻機動隊 S.A.C.(STAND ALONE COMPLEX)』(神山健治監督、2002〜2003年)へと思考が接続されます。どちらも古典の域に入りつつありますが、ネット空間における集団行動の現況を 鑑みると、少しも古びていません。
『攻殻機動隊 S.A.C.』はインターネットが一般に認知され始めた頃の作品で、高度なネットワークが張り巡らされる社会の未来予想図でもありました。電脳空間においてもなお、独立した個人が「結果的に」集団的総意に基づく行動を見せるという皮肉を描いています。小室・山本両氏のエッセンスたっぷりの挿話もあり、神山健治は恐らく、『日本教の社会学』をはじめ、両氏の本を読み込んでいるのではないかと推察します。
日本教の社会学
■5.SF小説は音楽を聴くノリで読む
私のSF小説の読み方は、かなり音楽的です。「このフレーズいいね」とか、「このリズム感が最高」といった感覚で読んでいます。しかも、文章が映像的かつ多層的でもあるから、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を聴いているようなノリで読むことが多いのです。
とりわけ「読むVR」ともいえそうな作品、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』は、EDMのリズム感がしっくりきます。ビジュアルイメージを想起させるような言葉遣いを駆使しているから、まるで映像を観ているような感覚になります。
書き出しから、こんな風に始まります。〈港の空の色は、空あきチャンネルに合わせたTVの色だった〉とてもVR感に満ちています。舞台の一つが「千葉市(チバシティ)」だったり、ハッカーが「コンピュータ・カウボーイ」と呼ばれている設定だったりする点も面白いと思います。モニタのナレーションが突然前触れもなく人間の会話に挟まってきたりするのですが、そのしゃべり(機械だからナレーション)の中身自体が、やはり映像のようで、イメージが、すぐ頭に浮かんできます。
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
【感想】
◆予想以上に引用部分がボリューミーになってしまい恐縮です。というのも、冒頭で「あまり類を見ない」と申し上げたように、本書はユニークな読書スタイルをあれこれ提唱しており、特に今回は、その本(ないしはジャンル)に沿ったパターンを抜き出したから。
つまり、通常のガイドブックなら「本の紹介」が、読書術本なら「読書術」が、紹介されているところ、本書の場合、その組み合わせになっているケースが結構多いワケです。
たとえば第1章から抜き出した、上記ポイントの1番目では、自著である『日本再興戦略』を俎上に載せて、読み解き方を指南。
もっとも、この「3つの点」という視点は、必ずしもこの本だけに限るわけではないでしょうから、1冊の本を俯瞰する際に、取り入れてみたいと思います。
◆続く第2章の章題は、本書のテーマとも関連する「忘れるために、本を読む」というもの。
実際この章で落合さんは、自身が本を1度読んでもほぼ忘れる旨語られているのですが、本書を読む限り、それはむしろ「潜在意識」レベルまで落とし込んでいるような(詳細は本書を)。
また「目次を読まない」というのも、通常の読書術本とはひと味違います。
さらに紹介されているのが、上記ポイントの2番目にあるような「ザッピング読み」なるもの。
「『枕草子』がザッピング集である」という指摘は、なるほど確かに、と私も思いました。
ちなみに落合さんによると、「『荘子』や『老子』などの中国の古典、それに『聖書』も、ザッピング読みに向いている本」だと感じるのだそうです。
ただ、こういう芸当(?)も、大学1年のときに教授に言われて、「岩波文庫100冊読破」した落合さんだからこそできる気がしないでもなく……。
◆一方、第3章のテーマは「思考」ということで、上記ポイントの3番目にて『いかにして問題をとくか』をご紹介。
今まで何度も、書店の棚で見かけたことのあるこの本、お恥ずかしながら私は未読でした。
ただ落合さんが「私はこの本を読んで「問題解決のセンス」が身についたと思っています」とまで言うのなら、一度は読んでみなくては。
さらにこの章の後半では、あの『21世紀の資本』が登場。
21世紀の資本
この本は、落合さんによると「遠いまなざし」(俯瞰する読み方)で読むのだそうです。
……分厚すぎて、当ブログでは手に負えないのですが。
◆また、第4章にて登場するのが、章題にもある「比べ読み」。
たとえば、落合さんは以下の3冊を比べ読みされています。
テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?
ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来 (河出文庫 ハ 15-2)
ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)
さらに別のパートでは、一気に4冊比べてるのですが(書影は割愛します)、当然それなりに引用文も増えますから、とてもここではご紹介できず。
そこで……と言ってはなんですが、上記ポイントの4番目として、第5章から1冊と1本を関連付けた例を抜き出してみました。
両方とも、読んだり観たりはしたことがないものの、まさかこの2つを結び付けられるとは、落合さんがどれだけバックボーンが豊かで、かつ、抽象化もされているのやら。
◆そして最後のポイントの5番目は、第6章の「感性の読書」から引用しました。
『ニューロマンサー』は読んだことがないのですが、ここで触れられている舞台設定からしても、なるほどEDMがハマりそうです。
また、落合さんは村上春樹さんの作品はほぼすべて読んでいるそうで、村上さんの作品を読むと「言葉の出」が良くなるとのこと。
ちなみに「読むと一番言葉が出やすくなる作品」は、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』なのだとか。
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
なお、本書は各章の終わりに、その章で紹介した書籍の内容紹介もまとめられており、ここだけでもブックガイドの価値アリ。
「また読書術本かよー」と思われた方も、ぜひお手に取っていただきたいと思います。
読書好きならマストな1冊!
忘れる読書 (PHP新書)
第1章 持続可能な教養――新しい時代の読書法
第2章 忘れるために、本を読む
第3章 本で思考のフレームを磨け
第4章 「較べ読み」で捉えるテクノロジーと世界
第5章 「日本」と我々を更新(アップデート)する読書
第6章 感性を磨く読書
第7章 読書で自分の「熱」を探せ
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)
今日の落合さんの本を読んだ後だと、こういう本も読まねば、と思わせられる西洋美術史本は、Kindle版が300円弱お買い得。
興亡の世界史 ロシア・ロマノフ王朝の大地 (講談社学術文庫)
場所的に微妙な地域の世界史本は、Kindle版が600円弱お得。
眠れなくなるほど面白い 図解 心理学の話
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