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2022年10月26日

【思考術?】『科学的思考トレーニング 意思決定力が飛躍的にアップする25問』牧 兼充


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科学的思考トレーニング 意思決定力が飛躍的にアップする25問 (PHPビジネス新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、昨日ではなく月中の「未読本・気になる本」の記事で一番人気だった思考術本。

その時は用意のなかったKindle版も、新書が発売された時点ではリリースされていたので、さっそく読んでみました。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
世界の急成長企業は当たり前にやっている
意思決定の質を高め、「正解のないイノベーション」を起こすための思考法

出たばかりとはいえ、中古が定価を大きく上回っていますから、「22%OFF」のKindle版が大変お得です!





testability-bubbles-overview / JAWspeak


【ポイント】

■1.科学的な意思決定はアントレプレナーにとって効果的か?
 論文のテーマは「科学的な意思決定はアントレプレナーにとって効果的か?」で、イタリアで仮説検証が行われました。(中略)
 その結果、科学的な意思決定の手法を教えたグループ(後者) は、教えていないグループ(前者) に比べて、「収益」「撤退」「事業転換」が増加しました。これは新事業創造(=イノベーション) の成功確率が上がったことを示しています。
「撤退や事業転換が増えたことは、成功確率が上がったとは言えないのでは?」と思うかもしれませんが、新しい事業で成功を目指すなら、見込みのないプロジェクトはできるだけ早くやめることが重要です。
 科学的思考法を学んだ人は、仮説検証によって、事業をやめるべきかどうかを判断できるので、早い段階で撤退や事業転換を決断し、次の会社や事業を立ち上げることができます。つまり、撤退や事業転換は先ほど説明した「仮説の棄却」に当たるものであり、たくさん失敗を繰り返すことで、イノベーションを生み出す確率が上がっていくのです。


■2.見せかけの相関
図2−1は、各国の「1人当たりの年間のチョコレートの消費量」と「人口1000万人当たりのノーベル賞の受賞者数」を示しています。この2つに因果関係はあるでしょうか。

参考:チョコレートの消費量が増えるとノーベル賞受賞者が増える?:ORICON NEWS

チョコレート消費量とノーベル賞受賞者の関係
 図2−1を見ると、チョコレートの消費量の多い国ほど、ノーベル賞の受賞者も多くなっており、見事な相関関係が成り立っています。 しかし、「チョコレートを多く食べると、ノーベル賞の受賞者が増える」という因果関係が成り立つかと言えば、極めて怪しいことは皆さんもすぐに判断がつくのではないかと思います。 このように、 まったくの偶然から相関関係が生じることを「見せかけの相関」と呼びます。


■3.フィールド実験を積極活用するハラーズ・エンターテインメント
【ハラーズ・エンターテインメントが行った実験の例】
「州外の客に足繁く来店してもらうにはどうすればいいか?」⇒ランダムに選んだグループにカジノホテルの料金割引を提供し、そうでないグループと反応を比較する(中略)
 日本企業でも、料金を割引したり、無料のクーポン券を配ったりといった施策を試すことがよくあります。しかし、ハラーズとの大きな違いは、比較対照するコントロール群を作っていないことです。よって、客数が増えたとしても、それが本当に割引やクーポン券の効果なのかがわかりません。「たまたま夏休みに入った時期だったから客数が増えただけだった」といった可能性もあるでしょう。


■4.普段の仕事における科学的実験
テーマ:「どうすれば営業でアポイントの成約率が上がるか?」
応募者:金融機関の営業担当者
(1)どんな課題を解決しようとしているのか。
 → 銀行の営業で、顧客へのアポイントの成約率を上げたい。
(2)どんな施策を講じ、その結果どんなアウトカムが期待されるのか。仮説は何か。
 → 顧客に電話する前に、自筆の手紙を送る。自筆の手紙が届いた顧客は、アポイントの成約率が上がる。(中略)
(5)どのようにしてトリートメント群とコントロール群をランダムに分けるのか。
 → 顧客リストを活用し、ランダムに50%をトリートメント群、 50%をコントロール群に分ける(300人の顧客リストなら、150人ずつに分ける)。
いかがでしょうか。こうして問いの答えを順に考えていけば、必要な基本要素を押さえながら実験をデザインできます。
 このアイデアは、課題としてはよくあるものですし、実践する手法も非常にシンプルですが、実験のデザインとしてパーフェクトだと高く評価されました。しかも自筆の手紙を送るだけならコストもさほどかからず、上司の許可を取らなくても自分の裁量で実験できる会社も少なくないでしょう。


■5.失敗を前提に行動するブッキング・ドットコム
 科学的思考法が組織文化として根付いている企業と言えば、第3章でも取り上げたブッキング・ドットコムが挙げられます。
 同社のCPO(最高製品責任者) であるデイビッド・ビシュマンズはこう語っています。
「CEOの皆さんに助言するとしたら、こう言います。大規模なテストの肝は技術ではありません。文化的な問題であり、それを丸ごと受け入れる必要があります」(中略)
 同社にとって実験は単なる戦術ではなく、もはや文化と呼べるほどに浸透し、組織のアイデンティティを構成する一要素になっていることが 窺えます。
 実はブッキング・ドットコムで行われる実験のうち、ポジティブな結果が出る確率は、わずか10%です。つまり残りの90%は失敗するのです。たくさん失敗しながらイノベーションを生み出し続ける同社は、「失敗」をマネジメントできる組織であると言えます。


【感想】

◆なかなか個人的には楽しく読めた作品でした。

ただいかんせん、本書内に掲載されている図やらグラフが引用できないのがツライところ。

2×2マトリックス程度の表なら、Excelで再現してもいいのですが、それ以上となると、上記ポイントの2番目のように他のサイトにある同一研究のグラフを探してもってくるのが精いっぱいでした(すいません)。

それはさておき、まず第1章では本書のテーマとなる「科学的思考法」についての言及されています。

結論的なものを抜き出すなら
 何が原因となって、どんな結果が生じるのか。その因果関係を推論する手法が、「科学的思考法」です
とのこと。

そして他社の事例をそのまま安易に自社に当てはめることなく、具体と抽象を行き来し、因果関係を理解する必要があるようです。

その効果の1つとして挙げられていたのが、上記ポイントの1番目の新規事業の成功確率の件。

ここで「撤退」や「事業転換」に切り替えられる発想こそ、科学的思考のなせるワザなのでしょう。


◆続く第2章では「因果関係」について掘り下げられています。

よく「因果関係」と間違えられやすい「相関関係」には
・見せかけの相関
・第3の変数バイアス
・逆の因果関係
があるそうなのですが、上記ポイントの2番目はこのうちの「見せかけの相関」について解説したもの。

この「見せかけの相関」の例は他にも色々あるそうで、「米国メイン州での離婚率とマーガリンの消費量」「モッツァレラチーズの消費量と土木工学の博士号取得者数」なんてものも該当するのだとか。

また「第3の変数バイアス」でおなじみなのは、「アイスクリームの生産量と溺死者数の関係」でしょうか。

これは「季節(気温)」が関係するので、「季節バイアス」と呼ばれるのだそうです。

そして最後の「逆の因果関係」の分かりやすい例が、「太った人はダイエットコーラを飲んでいるから、ダイエットコーラは人を太らせる」。

もちろん、思いっきり因果関係が逆ですよね。


◆一方第3章では、いよいよ「科学的実験」を実際に行っていきます。

代表的なものが「ランダム化比較実験」で、これはネットマーケティング等では「A/Bテスト」としておなじみのもの。

思えば17年前に読んで衝撃を受けた金森重樹さんの下記の本で、私はこのテストのことを知ったのでした(遠い目)。

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そしてこの章では実際に「ランダム化比較実験」を行う企業とその事例が登場。

上記ポイントの3番目のハラーズ・エンターテインメント(現シーザーズ・エンターテインメント)では、ここで抜き出しているように比較対照する群を設けることが重要であり、CEOのゲイリー・ラブマン曰く、ハラーズには「戒めるべき3つの大罪」があるのだそうです。
「女性にハラスメントをしてはいけない、ものやお金を盗んではいけない、そして対照群のない調査をしてはいけない。これを破ればハラーズでは失職の可能性がある。対照群は必ず必要だ」
そこまで強調するとはビックリの巻。


◆さて、「大企業の話は分かったが、自分には関係ない」と思われた方は、第4章をお読みください。

ここでは実際のビジネスにおける科学的実験のアプローチ法を指南。

特に興味深かったのが、著者の牧さんがカリフォルニア大学のビジネススクールの研究者と連携して行っている「ビジネスの現場で活用する『フィールド実験』のデザインコンテスト」のお話でした。

たとえば上記ポイントの4番目は、その過去のコンテストの優秀事例の中の1つで、途中を端折っていますが、やりたいことはお分かりいただけると思います。

……自筆の手紙に効果がありそうなことは、過去の営業本でも何となくわかりますが、キチンとトリートメント群(実践群)コントロール群(不介入群)を設けている点がポイントですね。

確かにこういうものであれば、大きな権限を持たない若手や新人でも、 日々の業務の中で実験を繰り返し、より良い意思決定へつなげていくことができるかと。


◆なお、上記ポイントの5番目のブッキング・ドットコムのお話は、本書の第5章からのもの。

章題が「『失敗』できる組織が科学的思考法を育てる」というだけあって、いきなり「90%は失敗する」お話が出てきて面食らいました。

さらにこのブッキング・ドットコムでは、CEOすら戸惑うチャレンジングな提案が、デザイン担当のディレクターから上層部に提案されます。

どんな提案かは本書でご確認いただくとして、旅行業界が書き入れ時の年末にそんな実験を行って爆死したらどうするのか?

しかし最終的にCEOを含む経営陣は「どれだけ悲観的な予測があったとしても、提案された実験を却下しない」と強行したのだそうです。

なぜなら同社の経営理念は「同社に所属する者は誰でも、経営陣の許可を得ることなく、何でも試すことができる」というものだから(結果は本書にて)。

……アメリカ企業の懐の深さと、それがゆえの「強さ」を垣間見た気がしましたよ。


意思決定力を高めたい方ならオススメの1冊!

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科学的思考トレーニング 意思決定力が飛躍的にアップする25問 (PHPビジネス新書)
第1章 「科学的思考法」とは何か
第2章 それは本当に「因果関係」?
第3章 真の因果関係を発見するための「科学的実験」の方法
第4章 「科学的実験」をデザインする
第5章 「失敗」できる組織が科学的思考法を育てる


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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