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2022年10月17日

【無知の知?】『見えないものを見る「抽象の目」 「具体の谷」からの脱出』細谷功


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見えないものを見る「抽象の目」-「具体の谷」からの脱出 (中公新書ラクレ 775)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気が高かった思考術本。

当ブログでは安定した人気を誇る、細谷功さんの最新刊です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
私たちの生きる世界は、VUCAと言われる不確実で先の見えない時代に突入したと言われています。2020年初頭からコロナやウクライナ紛争など思いもよらない事態を招き、日常生活ではスマホの普及やGAFAMと呼ばれるプラットフォーマーの台頭等により、デジタルを中心とした「見えないもの」に支配されているのです。これまで、日本では「見えるもの」を作る技術を強みにしてきた企業も多く存在してきましたが、これからの時代を生き残るには、「見えないもの」をいかに見えるようにするかが鍵となります。
本書では、著者が思考力を鍛えるために用いる「具体と抽象」のテーマに当てはめながら、この「見えないもの」を見えるようにするための考え方を提供します。

中古価格が定価を上回っていますから、値引はなくともKindle版もご検討ください!







【ポイント】

■1.モノからコトへ
 また、近年急速に発展してきた「サブスクリプション」、いわゆる「サブスク」というビジネスモデルの1つの側面は、「商品やサービス」といったものを売るのではなく、そこから得られる便益を利用料という形で徴収するという点で、「所有」から「利用」へ、あるいは「名詞」から「動詞」へという観点からも価値がモノからコトへ転換したととらえることもできます。(中略)
従来の技術主導、機能主導で「すごいものを作ったから売れるはずだ」というスタンスから、「その製品やサービスをどんな顧客がどんな場面でどのように使ってどのように行動や生活が変わっていくのか?」という、いわゆるユーザのユースケースまで考えなければ、ヒット商品を生み出すのが難しくなってきているのです。
 それが「モノからコトへの変化」ですが、モノづくり時代の発想からなかなか抜け切れていない企業も多く、特に「モノづくり」を売りにした製造業を競争力の源泉としてきた日本は、その転換が難しいように思います。


■2.知識と思考の違い
 見える 見えないという構図は、人間の知的能力に関しても当てはめることができます。知的能力の両輪とも言えるのが、知識力と思考力です。料理にたとえると、食材に相当するものが知識で、それらを組み合わせて調理して新たなものを生み出すのが思考という関係です。
 これらで言うと、知識というのは見えやすいもので、思考が見えにくいものであるという関係になります。ここで言う「見える・見えない」というのは、知識力というのは比較的測定が簡単で可視化しやすいということです。
 例えば「英単語力」や「漢字力」というのは、試験で測定することが比較的容易です。(中略)
 これに反して、本書における「見えない力を見る力」とでもいうべき思考力は、可視化するのが知識力に比べて圧倒的に難しくなります。日本でも、近年の社会やビジネスの環境変化によって思考力の重要性が叫ばれ、入試制度等も思考力重視へと舵を切ろうとしていますが、なかなかスムーズにいかない根本的な原因の1つがここにあります。そもそもが「見えない力」を測るためには、見える力の測定とは根本的に発想を変える必要があることに、意外に多くの人が気づいていません。


■3.次元による世界観の違い
 まず0次元的世界観では、人を表現するにも「いる/いない」「良い人/悪い人」といった形で白か黒かと二値的にします。世にいう「レッテルを貼る」という表現の仕方もこのレベルのものの見方です。(中略)
 そして大抵の場合、そこには「正しいか間違いか」という非対称な基準が存在します。
 1次元的世界観では、対象となる人をなんらかの指標で判断し、時には人間同士を比較することに焦点を当て、評価して優劣を判断するということになります。
 N次元的世界観では、「比較」からさらに別の見方が追加され、身体的な特徴や好み、性格、特性等といった複数の指標により、ある個人の特性を多角的に見る視点が備わり、「多様性」の価値観をもって物事を見ることができるようになります。さらに無限次元的世界観では、その人物の様々な面をとらえることで、「ありのまま」の価値観をもって接することになるでしょう。


■4.具体になるほど視野が狭くなる
「専門家はいろいろなことを知っている人なんだから視野は広いはずだ」と思う人もいるかもしれません。しかし、これはある意味で正しいのですが、一度に見るものの視野という点では、視点が具体的である分、狭まった結果細かいものがよく見えてしまうのです。視野が広いというのは「一度に見る」わけではなく、様々な領域を細かく見ることができるという意味において、視点を動かしながら様々なところを見ることが(一度ではないが)できるという解釈が、より正確ではないかと思います。つまり、専門家というのは、具体抽象ピラミッドでいう「横軸方向」は限りなく広いのですが、その分、抽象度が下がった解像度の高いものの見方をしてしまうことが往々にしてあるということです。
 結果として「専門家」は自分の専門領域に属する多くの事象を「ざっくりと一般化」(抽象化)することを嫌う傾向にあり、それらの一般化に対して具体的な違いを指摘して「○○と××を一緒にするのは乱暴すぎる」という結論に傾きがちです。


■5.ビジネスにおける「顧客の声」の3段階
最もわかりやすく気づかない人がいない問題はクレームです。先の3つの輪の定義にもどれば、クレームに関しては、「本来できているべきことができていない」ことから、くることが多い点を考えれば「対処の仕方(=問題に対する答え)」もある意味で明確です。(中略)
 続いて「改善要望」です。例えばハードウェアとしての製品であれば、軽くしてほしい、小さくしてほしい、安くしてほしい、速くしてほしいといったような、「いまある機能」をさらに良くしてほしいという顧客の声のことです。これは何が問題かに関しては明確です。ところが、どうすればできるかについては必ずしもすぐにわかるわけではありません。(中略)
 そして第3の輪というのが「心の声」です。よく「潜在ニーズ」と言われるものがこれです。要は、顧客が口にして言ってはいないが、潜在的に思っていることです。新開発のヒット商品や新たなイノベーションと言われるような製品というのは、このような潜在的な顧客ニーズに応えたものが多いのです。


【感想】

◆相変わらずの「細谷節」が満喫できる作品でした。

当初、タイトルに「抽象」「具体」とあったので、お得意の「具体⇔抽象」がテーマなのかと思いましたが、それは半分正解で、残り半分はこちらの本にあった「無知の知」「無知の無知」という概念を中心としたお話だったという。

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自己矛盾劇場 ―「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する

参考記事:【自己矛盾?】『自己矛盾劇場: 「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する』細谷 功(2021年06月19日)

上記の本を読んだ時点でも、一応理屈としては理解していたものの、実際に現実世界に落とし込んでいる本書を読んで、改めて納得した次第です。

さて、そもそも何でこのような考え方が重要となってきたかというと、下記目次の第1章の章題にもあるように「VUCAの時代」になってきたから。

上記ポイントの1番目でも「モノからコトへ」と言ってますが、日本が長らく停滞しているのも、こうした流れについていけず、製造業での成功体験に固執しているからかもしれません。


◆続く第2章では、本書のタイトルでも触れられている「見えないもの」がテーマ。

上記ポイントの2番目では「知識と思考の違い」について触れられていますが、まさに「知識」が「見えるもの」で、「思考」が「見えないもの」になります。

そして従来の学校では、主に「知識」を問うことが多く、実際、入学試験や資格試験でも知識量を問うところがほとんどでした。

それを最近では「思考力」を問おうとしているものの、なかなかうまくいってないのは皆さんご存じのとおり。

ある意味「見えるもの」とは、具体的であり、試験ならバイトでも○×がつけられますが、「見えないもの」とは抽象的で、マニュアルがあってもバイトには荷が重いでしょう。

この話をもうちょっと広げると、私も本を読んでいて気にすることがある「データとエビデンス」も、細谷さんいわく「あくまでもこれが通用するのは『データやエビデンスが存在するような世界において』」であるとバッサリ。
これはつまり、「既に起こったこと、あるいは過去について語る場合」さらには、「過去の延長上に未来が確実にあるような場合」に限定してのことなのです。
つまりVUCAの時代に通用するとは限らないワケです。


◆さて、こうした具体と抽象の話は細谷さんの過去の著作とも一部重なってくるのですが、本書で初めて(私が読んだ限りでは)登場するのが、抽象の次元のお話。

今まで「具体⇔抽象」感覚的にグラデーションのようだったのが、少しとんだ第5章では、レベルによりある程度線引きをした「0〜∞次元」に分けられています。

実はこの章では丁寧な解説と、分かりやすい比較表が収録されているのですが、いずれも引用できないので、上記ポイントの3番目にて結論部分のみご紹介しました。

ちなみに、この引用だけだと「N次元」と「∞次元」の違いが分かりにくいと思いますが、本書から引用すると
 N次元と無限次元の違いのビジネスにおける例を挙げると、新しい製品やサービスの開発で「既存の変数の最適化」を狙うのがN次元で、「新たな変数の創出」を狙うのが無限次元の発想です。
とのこと。

つまり「N次元」はあくまで既存の変数が複数あるのに対して、「∞次元」になるとまったく違う要素で考えることになります。


◆一方第6章の冒頭では、抽象化における「認知バイアス」について言及。

当ブログではその手の本ではおなじみの「確証バイアス」「生存者バイアス」「サンクコスト」といったバイアスが並ぶ中、本書の「見えないものを見る」というテーマと密接な関係を持つ、2つのバイアスが紹介されていました。

それが「非対称性のバイアス」と「部分と全体のバイアス(「無知の無知」バイアス)」。

どちらも細谷さんの造語らしく、ググっても適切なサイトがヒットしないのですが、前者は「他人は一般化するのに自分は特別な存在だと思う」、後者は「自分の見えている世界を世界の全てだと思ってしまう」バイアスとのことです(詳細は本書を)。

特に後者の「部分と全体のバイアス」ゆえに、ネットでの不毛な論争が起こりうるのだとか。

結局物事を深く知る、ということは、その分具体化が進んで、逆に抽象度が低くなってしまうのは、上記ポイントの4番目に触れたとおりです。

また、私たちは皆「自分自身に関しての専門家」であるがゆえ、上記の「非対称性のバイアス」が起こりうる、という指摘にも個人的に深く納得しました。


◆なお、上記ポイントの5番目は、第7章の見えない世界を見るための『無知の知』」からのもの。

いきなり「3つの輪」とあっても図や表が引用できないので分かりにくいと思いますが、内側から「第1の輪」「第2の輪」「第3の輪」と囲むように円があると思ってください。

そしてそれぞれ名前は「既知」「既知の未知」「未知の未知」となっています。

上記ポイントの5番目に照らし合わせると、「既知」は「問い」も「答え」もあり、「既知の未知」は「問い」があっても「答え」がまだなく、「未知の未知」はそもそも「問い」すらもないという。

確かにガラケー時代にスマホが欲しい、と言った人はいませんし、「ポケモンGO」が出る前に「ポケモンGO」が欲しいと言った人もいませんしね。

このように「知らないことがある」と知っているのが「無知の知」なわけですが、本書では「自分の知っている範囲が正しい」と思った時点で、既に「無知の知」を実践できていないと警告していますからご注意を。

本書を読んで、改めて自分が「無知の知」ならぬ「無知の無知」になりがちなことを痛感しました。


「見えないもの」を見るために読むべし!

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見えないものを見る「抽象の目」-「具体の谷」からの脱出 (中公新書ラクレ 775)
第1章 加速するVUCAの時代と見えない世界の拡大
第2章 人は見えるものばかりを追いかける
第3章「見えないもの」としての抽象
第4章 抽象化とは線を引くこと
第5章 見えない抽象の次元
第6章 視野狭窄と「具体の谷」
第7章 見えない世界を見るための「無知の知」


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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【編集後記2】

◆一昨日ので人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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