2022年09月22日
【オススメ!】『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』荒木博行

藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室 (文春e-book)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、本日が最終日となる「文藝春秋 ポイント還元キャンペーン」でも人気の高い1冊。昨日のランキングで2位につけていたのを見て、慌てて読んでみたところ、「目からウロコ」の連続でした。
アマゾンの内容紹介から。
キャリア、転職、学び方、業界変化、働く意味―「働き方のモヤモヤ」に答えを出す!『ビジネス書図鑑』『世界「倒産」図鑑』著者が物語で贈る、「幸せ」と「仕事」を巡る12の講義。
セール最終日である今日中ならば、送料を加算した中古よりは、こちらのKindle版が600円弱お得な計算です!

【ポイント】
■1.「論理」と「空気」と『裸の王様』「いざという場面で、いきなり空気に負けない『論理的な判断基準』で意思決定ができる人なんていません。常にその判断を問い返しているからこそ、いざという時に正しい判断ができるんです。野球選手が素振りを欠かさないのと一緒。素振りをしていないのに、緊張感のある決勝戦9回裏代打のバッターボックスで、まともなスイングができる人なんていないでしょ?」(中略)
「忘れないでね。皆さんの脳内には、『空気』に負けた苦々しい過去の事例がたくさん残っているはず。それは言わば、かけがえのない教材なんです。『裸の王様』で『生地が見えた』と言ってしまった大臣も、この苦々しい失敗の経験を客観的に振り返り、もう一度自分だったら何ができたか、と考えなくてはなりませんね。もし彼がまだ王様から処刑されていなければ、の話ですが」
石川さんはいたずらっぽい表情で笑った。
■2.働く意味と『桃太郎』
石川さんはホワイトボードに大きく『世界観』という言葉を書いた。
「つまり、どういう世界を実現したいか、ということ。鬼だって姿格好は怖いだけで、平和に暮らしたいと思っているかもしれない。だからこそ、どんな世の中にしたいか、という対話が必要になるんです。そして、そこでもし共通認識が出来上がれば──分断のワナから逃れることができます」
確かに、細かい違いとかにこだわらず、大きな方向性さえ揃えることができれば、そのための手段をフェアに議論することができるだろう。
「対話というものは地味です。鬼を退治した方がニュースとしては華々しくなる。桃太郎の名前も一躍広がる。でも、繰り返しになるけど、その分断地獄から逃れられなくなるんです」
■3.『わらしべ長者』とキャリアプラン
石川さんは一呼吸置いてから話し始める。
「この『わらしべ長者』のストーリーは、全て『自分』にとって価値がないものに対して、『相手』が価値を見出していくことによって構成されているんです。(中略)」
「たとえば、ミカンをあげたらお返しに反物をくれる場面があるのだけど、喉が渇いて死にそうな人にとって、ミカンは何よりも価値があったのです。通常の価値では反物とは交換できないほど安いミカンのはずが、このシチュエーションにおいては価値が異なります。だから、価値というのは、自分で決めちゃダメ。自分には価値がないって落ち込む人がよくいるんだけど、視野が狭すぎるだけ。びっくりするくらいの価値がつく場所やタイミングだってあるんです。世の中広いから、常にマーケットを見ないとダメなんです」
■4.「偏差値教」と『花咲か爺さん』
「で、ここで大事なことは、欲張り爺さんと優しい爺さんの生き方の違いということ。言わずもがな、欲張り爺さんは、『金』という単一の記号的なルールで生きている。一方で、優しい爺さんには、『周囲の人たちの幸せ』というような、非常に抽象度の高い自分が定めたルールで生きている、ということなんですね」
石川さんはゆっくり嚙み締めるように語る。
「ルールが異なれば、見えるものも全く異なる。欲張り爺さんには、目に映るものが『金』にしか変換されない。全ては金という単一の記号に換算される対象になる。小判を掘り出さないイヌには『金』としての価値はないから、簡単に殺せちゃうんです」
■5.「ストック型人材」と『おおきなかぶ』
「まず最初に、今の自分にとって出すべき成果を最上位に明記すること。ヤマダさんの場合は、営業成績を上げることですね。そして、そのために必要な項目、つまり勝負のポイントの三つから最大五つくらいまでを要素分解するの。この要素分解がどれだけ精度の良い形でできるかが、このストック化のポイントです。いきなりうまくはできないから、先輩とかにもアドバイスを受けたり、先輩の所作を観察することなどが重要。最終的には、『この仕事で成果を出すためにはこの三つを押さえれば大丈夫!』って言い切れる状態まで磨き上げること」(中略)
「そして、今度はその要素分解した項目をさらに要素分解していく。この繰り返しですね。あんまり細かくしても、分解が目的になっちゃうので、3段目くらい要素分解すればまずは十分。ヤマダさんとやったみたいにね。でも、この3段階の要素分解を、経験を踏まえて徹底的に言語化できたら、多分その仕事では無敵。仕事のクオリティは一気に高まると思います」
【感想】
◆本書のタイトルと装丁を見て、これが「キャリアデザイン」や「働き方」の本だと思う方がどれくらいいらっしゃるでしょうか?もちろん、アマゾン等のネット上ではサブタイトルである「"伝説の人事部長"による『働き方』の教室」とありますから、ほうほう、そういう本なのね、とアタリはつけられますけど、私はリアル書店でメインタイトルである「藁を手に旅に出よう」と、実際に男性が藁を手に取ったイラストだけ見たら、実用書(旅エッセイ?)だと勘違いしていた可能性大。
ところがどっこい、この本、従来のこの手の作品と比較しても、かなり「キテ」ます。
まず、物語形式にしたことで、主人公の「サカモト」君と同じ低めの目線から、学びを得られるのが1点。
実際、サカモト君は右も左も分からない状態で新人研修に来たものの、そこで「物語系成功本」にはお約束の、いわゆる「メンター」的な存在である、人事部の女性講師「石川さん」に出会い、気づきを得ていきます(上記ポイント内の発言のすべてが、石川さんによるもの)。
なお他にも、お調子者の「ヤマダ」君(上記ポイントの5番目に登場)や、優等生の「ミズノ」さんといった同期の面々も登場して、設定どおりの言動をしますが、とりあえず詳細は割愛で。
◆ここまでは、まぁ今までの作品でも似たような設定はありましたが、もう1点、本書がユニークなのは、この石川さんが毎回「寓話」を駆使して話を進めること。
正直な話、最初に石川さんが寓話を持ち出したときには、私はこの本を思い浮かべました。

ものの見方が変わる 座右の寓話
参考記事:【寓話?】『ものの見方が変わる 座右の寓話』戸田智弘(2020年04月22日)
ところがどっこい(本日2回目)、この石川さんの個々の寓話に対する解釈は、一筋縄ではいきません。
たとえば最初のLesson 1の講義で登場する『うさぎと亀』の教訓といえば、一般的に言われているのが「油断大敵」「最後まで諦めない」辺りでしょうか。
しかし石川さんによると「この話はそんな風に片づけてしまってはもったいない」と喝破。
「この『うさぎと亀』のような話を、愚直に努力する美徳として受け入れてしまってはダメ。むしろ、今のみんなはこの亀を『フィールドを選ばずうさぎに勝負を挑んだ愚かな姿』として覚えておくべきかもしれません」ΩΩΩ<ナ,ナンダッテー!!!
◆続くLesson 2の『裸の王様』の教訓も、石川さんの手にかかれば、これまたユニークなことに。
周りが皆「綺麗な布」と言って、反論しにくい「空気」の中でも、上記ポイントの1番目にあるように論理的に抗うよう推奨しています。
ちなみにここで紹介されているのが、おなじみのこの本でした(この本も「50%ポイント還元」です)。

「空気」の研究 (文春文庫)
さらにLesson 4では、『桃太郎』に登場するイヌ、サル、キジがたかがキビダンゴごときで鬼の征伐に行く不自然さを指摘。
そこから話は「ハーズバーグのモチベーション理論」を経て、上記ポイントの2番目にある「世界観」へと発展します。
なお、そこにもある「分断」は、今や世界中のいたるところに散見されますから、まさに私たちも留意しておかねばならないかと。
◆一方、Lesson 6の『わらしべ長者』は、本書のタイトルにもつながる寓話です。
私は本書を読むまで、この寓話には特に教訓はない(しいて言えば「縁」「運」を大事にするとか?)と思っていましたが、これまた石川さんによると、上記ポイントの3番目のとおり。
相手目線で価値は決まりますから、藁でもなんでも持って旅に出なくてはなりません。
そしてこの藁のような些細な能力を、石川さんは「マイクロスキル」と呼び、それらを組み合わせることを勧めています。
この辺は、よくある「スキル(キャリア)の掛け算」に近いかもしれませんね。
こうして、サカモト君は、石川さんの指導に従い、自分の気持ちを固めて、配属面談をクリアしたのでした。
◆ところがそこで、「めでたしめでたし」では終わらないのが本書らしいところ。
その研修から2年後の「3年目研修」で再びサカモト君は石川さんと再会することになります。
ただしその時点でサカモト君は、会社に失望し、辞める気満々で、この研修も仮病をつかって休もうとしていたくらいでした。
しかしサカモト君はこの研修で、上記ポイントの4番目にあるように「記号的な価値」に引きずられている自分に気づいたり、上記ポイントの5番目の「ストック型」の仕事術を学びます。
それぞれ『花咲か爺さん』や『おおきなかぶ』が根底にあるんですが、まさかそう斬るか、とうなずかされることしきり。
もちろん、こうした「目からウロコ」なお話は、今回取り上げた部分だけでなく、本書のいたるところにありましたから、新入社員から3年目、はたまたベテランの方でも、一読の価値があると思います。
これはオススメせざるを得ません!

藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室 (文春e-book)
プロローグ
Lesson 1 亀が戦略的にうさぎに勝つ日
Lesson 2 裸の王様が生み出す空気に勝てるか?
Lesson 3 オオカミ少年に罪はない
Lesson 4 桃太郎に大義はあるのか?
Lesson 5 北風は相手への憑依が足りない
Lesson 6 藁を手に旅に出よう
Lesson 7 浦島太郎はなぜ竜宮城に行ったのか?
Lesson 8 アリがキリギリスに嫉妬する理由
Lesson 9 花咲か爺さんの人生の尺度
Lesson 10 大きな蕪を分解する方法
Lesson 11 ティファニーちゃんが問いかけるあなたにしか見えない未来
Lesson 12 君はレンガの先に何を見るのか?
エピローグ
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【編集後記】
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