2022年09月08日
【親ガチャ?】『生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』安藤寿康
生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋 (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、以前当ブログで『日本人の9割が知らない遺伝の真実』を取り上げたことのある安藤寿康さんの新刊。本書は前作の延長線上にあり、いわゆる「生まれ」が人生のさまざまなテーマに対して、どう影響を与えているかを論じた1冊です。
アマゾンの内容紹介から。
遺伝がもたらす不平等な社会をいかに幸せに生きるか
子どもに親は選べない、どんな環境に生まれるかは運任せ。最近話題になっている「親ガチャ」という言葉があらわすのは、遺伝と環境要因がすべてを決めるので、努力することに意味はないと言った若者の諦念である。
確かに遺伝が、あらゆる要素に影響するのは事実である。しかし、遺伝についての最新の知見は常に更新されている。専門家ではない人間が過去の研究結果を軸に、あたかもそれが唯一の真理のように語るのは非常に危険である。
本書では、行動遺伝学の専門家が、一般読者の遺伝についての素朴な疑問に答えるとともに、遺伝における不平等を前提にしたうえで、「いかに自分らしく生きていくか」、「幸福に生きるのか」。そのための方法を論じていく。
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【ポイント】
■1.知能の高い親からは、知能の高い子が生まれる?先の相加的遺伝の説明にもあったように、同じ両親からさまざまな表現型の子どもが生まれるのは確かです。ただ、相加的遺伝の場合、子の表現型は、両親の形質の中間くらいになる確率が最も高くはなります。それに加えて、「平均への回帰」という統計的な現象も、子の表現型に影響してきます。
例えば、両親共に知能が平均よりもずっと高かった場合、子どもの知能の平均は両親の中間より、集団全体の平均に近づく確率が高くなります。これは逆もしかりで、両親ともに知能が平均よりもずっと低い場合にも、子どもの知能は両親の中間より平均に近づきます(中略)。
要するに、ものすごく出来のよい両親から生まれる子どもは、両親ほどには出来がよくない(それでも平均よりは出来がよい)確率が高くなります。出来がよい両親ほど、「なんでこの子はあんまり出来がよくないんだろう」と悩む確率が高くなると言えるかもしれません。
■2.遺伝子を調べると、将来の学歴がわかる?
研究対象となったのは、1994年および1995年から4年間、アメリカの高校に在学していたヨーロッパ系の生徒3635人。アメリカの高校では難易度によって数学のコースが分かれているのですが、ハーデンらは学歴に関するポリジェニックスコアが最終的な学歴にどう関係しているのかを調べました。9年生(日本の中学3年生に相当)の時点で、学歴ポリジェニックスコアが高い生徒ほど難易度の高い数学コースから始めており、高校卒業後にはカレッジ、さらには大学院に進みます。途中で脱落する人もあまりいません。
これに対して、学歴ポリジェニックスコアが低い生徒は、9年生時点で難易度の低いコースから始めて、途中で脱落することが多くなります。一番下のグレードから始めた生徒で、最終的な学歴がカレッジ以上の生徒はいません。
これは私もさすがになかなか怖い研究結果だと感じています。
■3.得意でないことは、ちょっとだけ取り組む
これはエビデンスがあるわけではありませんが、理論的に思いつくことは、苦手であること、やる気の出ないことを素直に受け入れた上で、心が壊れない程度に、ちょっとだけそれに取り組むことを生活のルーチンの中に入れることから始めるのがいいのではないでしょうか。朝起きたら10分間、そのことに取り組む。それを1週間、1ヶ月、1年と続けると、さすがに少しはできるようになります。
この時、第1章の能力についての質問で出てきた「能力は階層構造を持っている」という話を思い出してください。人間の能力は、「数学」、「音楽」といったカテゴリーだけでなく、無数の小さな得意がぼんやりとした階層やネットワーク構造でつながって作られています。いままでやる気になれず脳の中に育っていなかったような新しい知識の使い方がちょっとでもなされるようになると、それがこれまで自分が好きでつい没頭してしまっていたことと、どこかでつながることがありえます。すると苦手だった課題の見え方、捉え方が変わってきます。
■4.大事なのは「本物」に触れること
伝統的な習いごとや裾野の広いスポーツ、文化活動は、習いごとのための単なるプログラムでなく、その先に本物の社会があります。サッカーであれば、プレイでお金を稼ぐプロ選手やコーチがいて、試合をプロモートする人たちがいて、関連する仕事をしている人たちがいて、草の根でサッカーを楽しんでいる人たちがいます。バレエやピアノにしても、プロ/アマの演奏者から、指導する人たち、コンサートや音楽配信を手がけている人たちもいます。
素質を最大限に活用して、その世界で生きている人たちがいる。子どもたちがその姿を見る、実際にその世界の一端に触れるということは、単なる教育用プログラム以上の意味があります。(中略)
逆に、記憶力や自制心のトレーニングプログラムのような習いごともありますが、こうしたものはだいたいが本物の社会につながっておらず、能力の発現という観点からしてもあまり意味がないように思います。
■5.子どもの知能に効果がある要因
では、児童期の学力や知能に影響がある共有環境の具体的な中身、どんな子育てをすると、子どもの知能を高めることができるのかについては、正確なところはわかりません。これは研究されていないのではなく、数ある要因一つ一つの効果量が小さいため、「○○をしたら、決定的に知能を高める効果がある」と言えるほどのものがないということです。例えば、「朝食をきちんと食べさせる」という習慣が影響があるという研究結果をわれわれは出したことがありますが、その効果量はせいぜい1パーセント程度でした。
しかしこれまでの研究で、子どもの知能や学力に効果がありそうな要因を2つ挙げることができます。それは「静かで落ち着いた雰囲気の中で、きちんとした生活をさせること」と「本の読み聞かせをすること」です。
【感想】
◆いやはや、新書なのにハイライトを引きまくりました。冒頭でも触れたように、安藤さんの前作に当たるこの本も読んではいましたが、より「教育・子育て」面に掘り下げられた感じです。
日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)
参考記事:【行動遺伝学】『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康(2018年02月10日)
一部本書とかぶっている部分もありましたが、4年以上前なので、結構忘れていたワタクシ。
たとえば上記記事に「子どもを『いい学校』に行かせても生涯賃金は変わらない」というポイントがあって、その知識だけはありつつも、どの本だか忘れていたのですが、この本でした。
なお本件は、本書ではより詳しく書かれていますから、改めてご確認いただけたら、と。
◆もちろん、本書にて新たに知った情報も多々ありました。
たとえば上記ポイントの1番目などは、まさに「親ガチャ」的なものだと思うのですが、なんと「平均への回帰」が起こるとのこと。
ヘタに両親ともに突出していると、その子どもは二人を下回る可能性が大きいわけです。
……もちろん、普通は間に収まるのは上記でも触れたとおりですが。
ちなみにここでいう「相加的遺伝」とは、知能や学力のように効果量の足し合わせで遺伝子的素質が決まるタイプのものであり、足し合わせではない「非相加的遺伝」なるものもアリ(血液型等)。
本書では、表やグラフで解説がなされているので、お求めになられたら、そちらもぜひご覧ください。、
◆また、用語の話で恐縮なのですが、上記ポイントの2番目に出てくる「ポリジェニックスコア」なるものも、唐突に出てきて面食らったかもしれません。
詳しく抜き出すとオーバーしてしまうので、改めてこちらにて。
2000年代初頭には、ゲノムワイド関連解析(GWAS:Genome Wide Association Study)という手法が登場しました。そしてこのポイントの2番目で登場しているのは、アメリカの行動遺伝学者キャサリン・ハーデンらが2020年に発表した研究です。
GWASは、異なる個人間のゲノム全域について、遺伝的な変異のある場所と表現型との関係を調べるというもの。それを使って「こういう遺伝的変異があると、表現型にこれくらいの影響がありそう」ということを、 ポリジェニックスコア という点数で表します。
要は遺伝子を調べることで、ある程度将来の学歴が予測できてしまうわけですね。
……確かにこれはちょっと怖いというか、倫理面を含めて色々と問題が出てくるのかもしれません。
◆さらに本書の特徴としては、単に研究結果等を紹介するだけでなく、そこから私たちにできることを提案していること。
たとえば上記ポイントの3番目では、自己啓発書でおなじみの「苦手なことへの取り組み方」がテーマになっています。
「小さなことから始める」というおなじみのTIPSと、結果的に似たような感じになりましたが、こちらは遺伝子的な観点からのお話なのでご留意を。
また、上記ポイントの5番目の2つの要因も、よく言われている「キチンとした生活態度」「本の読み聞かせ」なのですが、こちらもエビデンスベースのお話なので、説得力があります。
と言いますか、部屋を片づけさせることが、やはり重要だったようで、我が家のしつけの失敗はそこにあったのかと(手遅れ)。
いずれにせよ本書は、ベースにある「身も蓋もない」真理は置いといて、できることをしっかりアドバイスしてくれるのが良かったと思います。
子育て世代なら要チェックな1冊!
生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋 (SB新書)
第1章 遺伝とは何か──行動遺伝学の知見
第2章 学歴社会をどう攻略する?
第3章 才能を育てることはできるか?
第4章「優生社会」を乗り越える
【関連記事】
【行動遺伝学】『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康(2018年02月10日)【教育経済学!?】『「学力」の経済学』中室牧子(2015年06月30日)
【教育格差】『教育格差の経済学 何が子どもの将来を決めるのか』橘木俊詔(2021年01月18日)
【遺伝の真実?】『もっと言ってはいけない』橘玲(2019年01月28日)
【R指定?】『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘 玲(2016年04月17日)
【編集後記】
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ご声援ありがとうございました!
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