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2022年08月11日

【失敗録?】『なぜ倒産 令和・粉飾編 ― 破綻18社に学ぶ失敗の法則』日経トップリーダー(編)


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なぜ倒産 令和・粉飾編 ― 破綻18社に学ぶ失敗の法則


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、本日が最終日となる「Kindle本夏のキャンペーン」からの経営本。

昨日のセール終了前日ランキングで上位に付けていたので、あわてて読んでみました。

アマゾンの内容紹介から。
◆最悪の失敗を避ける方法を学ぶ最高の1冊 ◆
潰れる会社は驚くほど似ていて、会社が駄目になるときには、お決まりのパターンがあります。幸運なヒットで実力を過信する。リサーチが甘くて暴走を止められない。失敗を隠ぺいする。苦し紛れに打った一手が、裏目に出る ―― 倒産した有力企業18社の実例に、失敗の法則を学びます。

中古価格が定価を大きく上回っていますから、このKindle版が800円以上お買い得です!





Bankruptcy / natloans


【ポイント】

■1.失敗の定石を学ぶ
 連載を愛読する経営者の方々は、口々にこうおっしゃいます。 「成功事例より、失敗事例を知りたい。成功に学ぶより、失敗に学びたい」  
 私たちは、成功している企業も取材しています。一般に名前は知られていない中小企業でも、ある分野で世界トップシェアを握っていたり、コアなファンに支持されていたりして、高収益を誇る企業は多くあります。こうした企業の経営者や経営方針、ビジネスモデルはそれぞれにユニークで、取材する私たちを魅了しますが、ほかの企業がそのまま真似しようとしても、なかなか難しいというのも事実です。
 一方で、駄目になっていく会社というのは驚くほど似ています。30年にわたって倒産を取材していると、いくつかの類型があることにおのずと気づかされます。そんな失敗の定石を学べば、最悪の事態だけは避けられるはず。そういう絶対に踏んではならない地雷こそ知りたい。そう願う人は経営者だけでなく、一般のビジネスパーソンにも多くいると思います。


■2.打つ手がことごとく裏目に
 日本円の対ドル相場はその後の1年で20円以上も下落。中国の人件費上昇も加わり、3割未満だった製造原価が5割を超えた。
「円安も人件費の上昇も予測せず、3年先まで1ドル90円前後の想定で発注していたため、取り返しがつかなくなった」(松本社長)。
 14年、松本社長は利益率の回復を目指して2つの方針を打ち出した。
 1つは、商品価格を平均10〜15%値上げしたこと。
 2つ目は、顧客ターゲットを拡大したことだ。もともとマザウェイズが対象にしていた「身長130センチ」までのサイズを、「身長160センチ」までに拡大した。(中略)
 だが、値上げによって客離れが進み、プロパー消化率は65%まで下落。しかも、サイズ展開がこれまでの倍に当たる10種類にもなった上、新たなユーザーも取り切れずに店舗の在庫は増え続けた。


■3.再生計画でも補助金が障害に
 スポンサー候補が手を引き、破産に至った理由はいくつかありそうだ。まず、水産物の不漁がいつ収束するか見通しがはっきりしない。「水産加工の将来像が見えないと、働き手も定着しない。水産加工の今後をどう描くかは、太洋産業に限らず皆の共通の課題だ。地域で連携して前進していこうとしている」(前出の水産加工会社)。
 もう1つの事情として、太洋産業が復興庁などの補助金を受けて工場を再建したことがある。補助金を受けた際の目的を達成できずに工場を譲渡する場合は、補助金の一部返納を求められる。こうした負担増もスポンサー候補が踏みとどまる要因となったようだ。


■4.1件の外注先のトラブルで倒産に
 しかし、21年の初めにトラブルが起きる。ある外注先の工事の大幅な遅れが発覚した。この会社は複数の工事を任せている主要外注先だった。交渉するも遅れを取り戻すことができず、最終的に契約を解除した。結局、この外注先は4月に自己破産した。さらに、次に契約した外注先とも条件や支払いでもめて工事は進まず、3社目を探すことになった。
 資金繰りに余裕のないエンゼルホームは当然、物件を顧客に引き渡して得る代金でさまざまな支払いをする計画で、この時期、2億〜3億円程度の支払い予定があったという。
 しかし、引き渡しができないことで現金が得られないことに加え、引き渡し予定者に対する損害遅延金まで背負う事態となり、資金繰りが一気に悪化する。


■5.倒産後の打ち上げで語られたこと
 後片づけが一通り終わった後、事業譲渡を仲介してくれたY社の人が、焼肉をご馳走してくださいました。打ち上げみたいな感じで、ちょっと変な気もしましたが、こんなことをおっしゃっていました。
「こうやって経営破綻で事業譲渡する場面では、逃げる経営者が多いんだ。資産を隠そうとする人もすごく多い。だから、仲介する僕らは毎回苦労するし、人間の嫌なところも見てしまう。けれど、たち吉の岡田家に関してはそういうことが一切なくて、僕らも頑張って相手先を探して、気持ちよく仕事できた」
 だから、打ち上げをしようと思ったんだよ、と。
 出来の悪い14代目でした。それでも金融機関さん、従業員の皆さん、そして仕入先の方々との信頼関係を破綻させずに会社を畳めたことで、最低限の役割を果たせたのかもしれないと感じました。


【感想】

◆本書は、雑誌『トップリーダー』で1992年から連載されている「破綻の真相」(連載開始当時は「破綻の研究」)をベースに、令和以降を中心に、編集陣が取材してきた近年の経営破綻の事例から、普遍的な失敗の法則を探ったもの。

実はこの「なぜ倒産」シリーズは本書が3冊目で、過去にはこのような作品が出されています。

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なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則

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なぜ倒産 平成倒産史編

ちなみに上の本は「2013〜 17年の破綻事例を分析」し、下の本では、「およそ四半世紀の日本経済史を経営破綻の事例研究で振り返った」ものとのこと。

そして本書は、サブタイトルに「令和・粉飾編」とありますが、実は必ずしも「粉飾」がメインではありません。

本書は下記目次にもあるように、倒産の原因ごとに章が分かれているのですが、第1章がその「粉飾」でして、社名や本名等の固有名詞を伏せた状態で、社長2人がそれぞれの会社が破綻するまでのいきさつを告白。

確かに生々しくはあるのですが、上記ポイントの1番目の「失敗の定石」という観点から見ると、ぶっちゃけ「経営者が粉飾したから」という結論になってしまうので、あまり参考にはならない気がします。


◆逆に第2章以降の事例は、なるほど、と思うものもあれば、意外なものもあり、実に勉強になりました。

たとえば、上記ポイントの2番目は有名子供服チェーンの「マザウェイズ・ジャパン」の事例なのですが、ここは我が家もムスメの服を結構買っており、倒産にショックを受けたクチ。

その原因は引用されているように、「円安」による利益率の悪化が大きかったようです。

さらにはそれを回復すべく、「値上げ」と「顧客ターゲットの拡大」を図ったものの、これがまさに裏目になって、客離れが進み、在庫を大量に抱えることに。

そして上記では割愛したのですが、少しでも在庫をさばこうと、従来2か月ごとだったセールを毎月実施するようにしたため「いつでもセールをしている」というイメージが定着してしまいます。

結果、定価で買わない客が増えて、新作を出してもすぐには売れず、まさに泥沼化。

加えて、従来独壇場であった格安店と高級店の間の価格帯に、百貨店の子供服ブランドのセカンドラインが進出してきて、万事休すとなったようです。


◆また、第3章では「ビジネスモデルの陳腐化」がテーマで、ユニフォーム会社やビニール壁紙といった、やや地味目な企業が登場。

加えて、スキーブーツの製造会社のように、スキー人口が減少したことで経営が苦しくなったケースも紹介されています。

ちなみに上記ポイントの3番目は、水産物加工を行う太洋産業という会社の事例で、こちらは東日本大震災で大船渡にあった工場がほぼ全壊したのが大きなきっかけでした。

複数の補助金を受けて工場を再建したものの、直後に水産物が記録的な不漁となり、売上が激減。

7期連続の経常赤字が続き、しかたなく私的整理による再建を目指した際に、スポンサー探しの障害となったのが、引用でも触れた補助金でした。

なるほど、サラッとググってもこんなお達しが……。

補助金を受けて整備された施設及び設備の財産処分について - 高知市公式ホームページ


◆一方第4章では、イレギュラーな原因での倒産を紹介。

経営立て直しに疲れて、社長がお金を持ち逃げしたケースは、ある意味自業自得なのですが、エースと見込んだ社員が不正をしていたケースなどは、泣くに泣けません。

そんな中、上記ポイントの4番目は、不動産売買や建築を行っていたエンゼルホームの例になります。

外注先で工事が遅れると、物件の引き渡しもできませんから、資金繰りの悪化に加えて、損害遅延金まで負担するという「泣きっ面に蜂」状態になり、結局自己破産に。

下請けの倒産に伴う連鎖倒産でもない、ちょっとした想定外の事態で破綻する「脆弱な財務状態」が原因ではあるのですが、こういうのは「中小企業あるある」なんですよね……。

特に最近はコロナ禍の上海で物流が停止して、部品調達がままならないことがありましたから、建築業はどうなっていたのやら。


◆そして最後の第5章では、和食器販売のたち吉一社だけにページが割かれています。

ここでは14代目の社長となった岡田高幸氏が、自らの口から破綻までの詳細について言及。

もっとも、一族が立ち上げた会社に岡田氏が入社した時点で、すでに会社の業績不振は傍目にも明白だったそうです。

社長になったのも、金融機関からの要望によるもの(支援を継続するには代表交代が必要)ですし、本書でのお話もほぼほぼ敗戦処理一色。

ただし、その手際があまりに見事過ぎて、「ここまで綺麗に会社が畳めるものか」と正直驚きました。

なにせ最初の方で、従業員説明会の様子に触れられているのですが、投資ファンドの人が
「こういう説明会にはよく出ているが、必ずと言っていいほど紛糾する。紛糾しない従業員説明会なんて、初めて見た」
と驚いたくらい。

もちろん、こういう状態にはなりたくないものの、この岡田氏のパートだけでも本書を読んだ甲斐があったと思います。


企業経営に関心のある方なら、必読の1冊!

B0B3WS88RT
なぜ倒産 令和・粉飾編 ― 破綻18社に学ぶ失敗の法則
Chapter1.粉飾で会社を潰した社長の告白 ―― 倒産最前線
Chapter2.倒産の成長期 ―― 脚光を浴びた「あの会社」の舞台裏
Chapter3.停滞期の倒産 ―― ビジネスモデルの陳腐化にどう抗うか
Chapter4.突然の倒産 ―― 驚きの破綻劇に隠された必然
Chapter5.老舗を潰した社長の告白 ―― そして人生は続く


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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