2022年07月26日
【オススメ!】『防災アプリ 特務機関NERV』川口 穣
防災アプリ 特務機関NERV
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、今月の「Kindle月替わりセール」における注目作。地震や大雨等の災害の際には頼りになると評判の、防災アプリ「特務機関NERV」の裏側に、『AERA』記者の川口 穣さんが迫った1冊です。
アマゾンの内容紹介から。
利用者180万人、「NHKよりも早く正確」と評判の防災アプリ&ツイッターアカウント「特務機関NERV」開発秘話が明らかに。
中古があまり値崩れしていませんから、このKindle版が700円以上お買い得となります!
Evangelion Doritos / MShades
【ポイント】
■1.節電を呼びかけた「ヤシマ作戦」3月12日15時11分、石森はNERVアカウントのその後を大きく変える投稿をする。〈【ヤシマ作戦】午後6時から電力が著しく不足します。(中略)店に並ぶ機器類の電源を止めてください。需要は午後6時〜7時がピークだとか。特にその時間帯には、極力電力の消費を避けて下さい。炊飯時間をずらすだけでも、救える命があります。〉(中略)
「いいね」や「リツイート」を知らせるツイッターの通知が止まらなくなった。経験したことのない拡散のされ方だった。フォロワーわずか300人ほどのアカウントが発した3つのツイートは合わせて1万5000回以上リツイートされ、この発信がきっかけとなって「ヤシマ作戦」に言及したツイートが爆発的に増えていく。その数は、1週間で60万回とも言われる。
■2.情報を自動的に収集・集約する
まず自動化したのは緊急地震速報だ。11年11月25日、石森は特務機関NERVアカウントでこんなツイートをしている。〈本日より、緊急地震速報を自動ツイート運用にしました。気象庁の緊急地震速報第7報以上でマグニチュード4.5以上、もしくは震度4以上と推定される地震について自動的に速報ツイートを行います。引き続き宜しくお願い致します。〉NTTコミュニケーションズが個人向けサービスとして配信していた「OCN緊急地震速報」を情報源とし、大型地震の速報が出ると自動で解析・投稿するプログラムを組んだのだ。
■3.公共情報コモンズの接続許可を得る
実際に公共情報コモンズから配信されるデータを使い、作画・投稿の様子を見せると会議室がざわついた。この日会場にいたのはマルチメディア振興センターの職員のほか、放送事業者やヤフーなど公共情報コモンズに接続している「情報伝達者」の担当者たち。
なかでも放送局の職員はまさに度肝を抜かれた様子だった。
中部地方の地方局の職員がつぶやくように言った。
「我々が1000万円かけてハードを買っているシステムを、20歳そこそこの若者がパソコン1台で……」(中略)
当時を知る防災関係者のひとりは、特務機関NERVが自動作画を始めたときの衝撃をこう表現する。
「『革命的』でした。防災の現場では『避難の判断を他人にゆだねてはいけない』と常に言われます。自分で決めなければならない『判断』を助けるのはこういったツールでしょう。テレビが防災・災害報道をリードしてきた時代は間もなく終わると実感しました。
■4.「地震動予報業務許可」を受ける
全国一律に情報を発信するツイッターとは異なり、プッシュ通知の場合は揺れが予想される地域の端末のみに通知を配信する。気象庁が発する緊急地震速報の内容を解析し、「どこの地域が揺れるのか」を演算によってはじき出すのは特務機関NERVの独自のシステムだ。つまり、特務機関NERVが揺れる地域を「予報」していることになる。この機能を搭載するには予報の精度を磨き上げるのと同時に、法律上「地震動予報業務許可」を気象庁から受ける必要があった。(中略)
予報業務許可はいわば、災害の可能性などを民間事業者が自由に予報し、通知することを認めるものだ。「誤報」が場合によっては重大な結果につながるのは想像に難くない。その分、許可を得るための申請書類も膨大だった。
なかでも難関なのは予報業務計画書に添付する「地震動の予想の方法」だろう。気象庁発表の緊急地震速報をもとに、どのように揺れる地域や震度を予想するか計算式を作り出し、気象庁に示すものだ。
■5.「防災のプロ」たちからも支持されるアプリに
ある気象庁職員もこう話す。
「仕事柄あらゆる防災アプリを入れているけれど、『使う』のは特務機関NERVです。起動のスムーズさ、情報の速さは言うに及ばず、全国の状況をタイムライン的にみられる画面や、アメダスのデータ、解析積雪深など情報の質と見せ方が素晴らしい。立場上ひとつのアプリには肩入れできないけれど、ここまで使える防災アプリはほかにありません」
そして、一民間企業にこれだけのことをやらせているのが申し訳ないとも言う。
石森が小学校時代から積み重ねてきた知識、ゲヒルンに集った稀代のエンジニアたち、そして、石森とメンバーの熱意。
それらが混ざり合い、特務機関NERV防災アプリへと昇華した。
【感想】
◆私はプログラミング等は素人ですが、本書で記されているアプリやシステムの開発の物語は非常に楽しめました。さすがアマゾンの評価平均が「4.6」と極めて高いだけのことはあります。
また上記では、特務機関NERV(以下「NERV」と略す)の開発におけるターニングポイントに絞りましたが、主人公である開発者の石森大貴さん(ゲヒルン株式会社代表取締役)のエピソードも興味深いものでした。
なにせ小学6年生にしてレンタルサーバーサービスを始めたり(ただし無料で)、高2にしてセキュリティキャンプに参加したり(翌年は講師補助として参加)、高校生にして「CNET Japan」のオフィシャルブロガーになったりしており、業界では「知る人ぞ知る」という存在だったそうです。
ちなみにその「CNET Japan」で書いたこの記事がバズったことにより、その後セキュリティ診断のバイトを手掛けたり、のちに自分の会社でもセキュリティが大きな収益の柱になったりしたそうなのですが。
私はブクマはしていませんでしたが(読んでも分からなかったため)、確かにこんな記事がホッテントリに入っていたな、という記憶はありました。
◆さて、その石森さんは東京にお住まいだったものの実家が仙台にあり、あの東日本大震災の時には、お母さんと妹さんと連絡がつかなくなってしまいます。
しかし実家に戻らず(二人の無事は諦めたのだそう)石森さんが行ったのは、上記ポイントの1番目の「ヤシマ作戦」でした。
……エヴァの元ネタをご存じない方もいらっしゃると思いますので、その辺も含めてこちらをご覧いただきたく。
ヤシマ作戦とは - コトバンク
実は石森さんには、エヴァンゲリオンファンとして立ち上げていた「NERV」のなりきりアカウントがあり、かつては台風や津波を使徒になぞらえて警報ツイートをしていたのだとか。
それを活用し、上記引用したもののほか2つのツイートをしたところ、大きな話題になったようです。
その後、お母さんと妹さんの無事は確認できたものの、可愛がってくれた伯母さんを被災で失った石森さんは、TwitterアカウントNERVを「災害情報を『早く』『正確に』把握できる」よう改善していくことにしたのでした。
◆その際に大きな転機となったのが、上記ポイントの2番目の「緊急地震情報の自動的収集・集約化」。
さらに2012年1月からは、首都圏の鉄道運行情報も自動化しました。
ほかにも東京電力管内の停電情報や、NHKニュース速報等にも対応し、NERVは防災情報アカウントとして、その地位を築いていきます。
そんな中、次の大きな転機と言えるのが、上記ポイントの3番目にある公共情報コモンズとの接続でしょう。
しかし当初そのハードルは高く、そもそも接続できるのは法人格を持った団体のみ、ということで「ゲヒルン株式会社」を立ち上げ、許可を得るべく面談に臨むことになります。
その際に武器になったのが、上記で「放送局の局員が度肝を抜かれた」という作画システムであり、その開発を担ったのは、石森さんとはTwitterの相互フォロワーだった河原木政宏さんでした。
また、出来上がったデザインは色覚異常でもあった石森さんでも見やすいよう工夫されており、まさに「カラーバリアフリー」とも言える素晴らしいもの。
こうしてNERVは見事、接続が認められることになったのでした。
◆さらなる転機として間違いないのが、現在も運用されているアプリの開発。
たまたま19年6月にTwitterのNERVアカウントが凍結された(「津波注意報」というツイートが他を含め同時多発したためらしく)こともあって、自分たちで他のサービスを挟まず情報を届けよう、という動きが加速していきます。
その際の「武器」として用意したのが、ユーザーの現在地に応じて予想震度や主要動の到達予想時刻を演算・表示する「現在地予想」機能でした。
そのためには上記ポイントの4番目にある「地震動予報業務許可」を気象庁から受ける必要があり、これはコンピューターの知識のみならず数学や物理学の知識をも必要とするらしく。
総計で50ページに及ぶ申請書類を書き上げ、気象庁の審査を経て、無事、地震動の予報業務許可を得たのだそうです。
◆他にも割愛した機能やらエピソードやらが沢山あるのですが、ボリュームの関係で割愛させていただきました(すいません)。
ただ、いずれにせよ、NERVは今や防災アプリで最も信頼がおけ、かつ情報が速いものとなっている模様。
実際、上記ポイントの5番目にもあるように、気象庁職員さんもお墨付きです。
また、2021年9月からは、英語対応もしているとのこと。
これも単純に英訳すればいいわけではなくて、英語だと文が長くなってしまうため、レイアウトの微調整まで必要なのだとか。
ここまで至れり尽くせりのシステム〜アプリの開発秘話が、面白くないワケないじゃないですか。
これはオススメせざるを得ません!
防災アプリ 特務機関NERV
序 章:最速の防災アカウント
第1章:3月11日
第2章:熱意と技術
第3章:Lアラートと作画システム
第4章:起業と経営
第5章:防災アカウントとして
第6章:災害と、新たな挑戦
第7章:「情報では命を救えない」
第8章:哲学と実装
第9章:特務機関NERV防災アプリ
終 章:反省とは、未来を考えること
[寄稿] 『防災アプリ 特務機関NERV』刊行によせて/石森大貴
[年表] 特務機関NERVの歩み
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【編集後記】
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ご声援ありがとうございました!
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