2022年03月07日
【アイデア】『妄想する頭 思考する手』暦本純一

妄想する頭 思考する手 (ノンフィクション単行本)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本コンピュータ・ITキャンペーン」の中でも注目されている1冊。『イシューからはじめよ』でおなじみの安宅和人さんご推薦ということで、実は発売当時から気になっていた作品でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
「新しいことを生み出す」には、思考のフレームを意識して外したり、新しいアイデアを形にし、伝えたりするためのちょっとしたコツが必要だ。
この本では、そういった思考の方法や発想のコツなどを、自分の経験を踏まえながら具体的に紹介する。
中古があまり値下がりしていないため、送料を踏まえるとこのKindle版が700円以上お買い得です!

Ghost in the Shell Kinect / Danny Choo
【ポイント】
■1.「不真面目」ではなく「非真面目」を目指す「非真面目」は「不真面目」とは違う。私が考える違いはこうだ。
たとえば学校で教科書をしっかり勉強し、先生が与える課題をきちんとこなす生き方。これが「真面目」なのは言うまでもない。一方、教科書を落書きで埋めたり、先生に反発して授業をサボったりするのは何かというと、これは単なる「不真面目」だ。
不真面目は、いわば「真面目度」を計る価値軸の上に乗っている。そこでプラス点が多ければ真面目度が高く、マイナス点が多ければ不真面目度が高い。(中略)
しかし「非真面目」は、その「真面目度」を計る価値軸の上に乗っていない。非真面目な人は、そもそも真面目路線が眼中にない点で、不真面目な人とは違う。学校の授業や先生の命令があろうがなかろうが関係なく、自分がやりたいことに集中しているのが非真面目な態度だ。
■2.高名で年配の科学者ができないと言うときはたいてい間違い
自分で「無理だ」と諦めなくても、上司や教員に「そんなものできるわけないだろう」と否定されることは多い。他人の感想は、ネガティブになりがちなものだ。(中略)
しかし、妄想の段階でそんなことを気にする必要はないだろう。かつてSF作家のアーサー・C・クラークはこんなことを言った。「高名で年配の科学者ができると言うときは正しい。でもできないと言うときはたいてい間違い」長い経験を積んできた学者ほど新奇なアイデアを否定的に受け止め、「そんなことはできるわけがない」と言いたがる傾向はたしかにあるだろう。でも、できるかどうかはやってみなければわからない。「私も昔それを試したことがあるが、うまくいかなかったよ」と言われるかもしれないが、昔と今では背景にある技術の前提条件が違っているかもしれない。
■3.ブレストからはイノベーティブなアイデアは生まれにくい
ブレストでは、他人の意見を「つまらない」と評してはいけないのが基本ルールだ。だからあまり優劣はつけずに、どのアイデアも同列に扱われる。でも、いわば民主主義的なこの「平等感覚」は、アイデアに関しては弊害のほうが大きいだろう。
新しいアイデアには、何かしら世の中のバランスを崩すようなところに価値がある。みんなが「こういうものだ」と思っていた常識が、あるアイデアの出現によって突如としてひっくり返る。それがイノベーティブなアイデアだ。
「あれもいいけど、これもいいよね」というバランス感覚(平等意識)からは、そういうアイデアは生まれにくい。ところがブレストのような集団発想法だと、どうしてもバランスを取ろうとしてしまう。
だから、たとえ組織として仕事をしている場合でも、新しいアイデアを生む作業は個人フェーズのプロセスを重視する場合が多い。
■4.ピボットから生まれた光学マウス
マウスといえば、昔は裏側にコロコロと回るローラーがついていて、それによって移動を感知していた。若い世代には伝わらないかもしれないが、その部分にホコリなどが溜まるとうまく動かなくなってしまうので、よく仕事の手を止めてローラーのお掃除に精を出したものだ。
そんな作業から人類を解放してくれたのが、「光学マウス」だった。その裏側には、「カメラ」がついている。原理は紙送りセンサーと同じだ。マウスが動いた方向を、それによって感知できる。
しかし、そう言われてみればそうだが、紙送りセンサーの原理がマウスに転用できることに気づいたエンジニアはすごい。プリンターとマウスに同じものが使えるとは、なかなか思えないだろう。
それに、紙送りセンサーは自分は止まった状態で動く紙を見ているのに対して、マウスは自分が動く。相対的には同じこととはいえ、動くほうが自分にセンサーを搭載するというのは、いわゆる「逆転の発想」だ。
■5.妄想で「キョトン」とする空気をつくれるか?
人に自分のアイデアを話すと、さまざまな反応がある。(中略)
そういう反応の中で私がいちばん好きなのは、話を聞いた相手が「キョトン」とすることだ。否定するわけではなく、だからといって肯定するわけでもなく、私の言葉にキョトン、とする。「えーっと、いったい何を言ってらっしゃるんですか?」と顔に書いてあるのがわかって、なんだか面白い。
私は日頃から、そういう「キョトン」にわりと出合う。自分がキョトンとした瞬間もよく覚えている。この「キョトン」は大事だ。自分の妄想やアイデアが、他人の価値軸とは違う価値軸の上にあることを、表わしている。誰でも考えるようなことなら、いくらか飛躍や説明不足があっても、キョトンとはされない。相手は自分の知識で話の中身を補って「ああ、なるほど」と納得するからだ。そんな反応をされる妄想は、面白くない。人をキョトンとさせるのが、妄想を形にする上での第一フェーズだと言ってもいいぐらいだ。
【感想】
◆アイデア本好きの私にとっては非常に楽しめた作品でした。そもそも著者の暦本さんのアイデアが実現した中で、私たちにとってもっとも馴染み深いのが、「スマホの画面を指2本で広げたり狭めたりする」技術である「マルチタッチシステムSmartSkin」でしょうか。
SmartSkin
てっきりこちら、スマホが生まれてから必要に応じて開発されたのかと思いきや、iPhoneが発売される6年も前に論文として発表していたのだとか。
でも私は、何にどう使うかは、あまり具体的にイメージできていなかった。しかし、指先でコンピュータの画面を拡大できたら、そのほうがマウスよりも自然だろうという感覚は持っていた。いや、現実世界ではものを一本指で操作することのほうがめずらしいのに、なぜマウスでは常に一本指ですべてを操作するような「不自然さ」を当たり前のように受け入れているのだろうか。そういう自分自身の素朴な疑問から始まったのが、スマートスキンの開発だったのである。そして問題解決を目指すアイデアが「真面目」なものなら、こうした「やりたいからやる」アイデアを、暦本さんは上記ポイントの1番目にあるように「非真面目」なアイデアと称し、これを推奨しています。
◆ただし、その際注意したいのが「実現可能性」。
非真面目でやりたいようなアイデアは、たいてい実現が難しかったりします。
実際、上記ポイントの2番目でも言われているように、「長い経験を積んできた学者ほど新奇なアイデアを否定的に受け止め、『そんなことはできるわけがない』と言いたがる」のも当然のことでしょう。
そこでSF作家のアーサー・C・クラークに学んで、こうしたアドバイスはスルーすべし!
もちろん、いざ始めてみたら、ダメなこともあるでしょうけど、その時はいさぎよく諦めればいい話で、いずれにせよ始める前から断念していては、たとえ卓越したアイデアであっても実ることはありません。
◆また本書を読んでなるほど、と思ったのが、上記ポイントの3番目のブレストのお話です。
ブレストについては、そのテーマだけで本が出ているほど一般的ですが、当ブログで紹介してきた作品の中でも賛否両論といったところでしょうか。
もちろん「否」の中には、やり方が間違ってたり、テーマが問題だったりする指摘もあるものの、こと「非真面目なアイデア」という観点からすると、暦本さんは否定的。
なお、同じ第3章のほかの節でもブレストについて「『良いアイデア』より『その場でウケるアイデア』が出されがち」「数が求められるから生煮えだったり、不本意な案でも出してしまう」といった指摘をされていました。
いずれにせよ、引用部分の最後にあるように「新しいアイデアを生む作業は個人フェーズのプロセスを重視する場合が多い」ということは、留意しておきたいところです。
◆一方、上記ポイントの4番目の「光学マウス」のお話は、第5章からのもの。
……と言いますか、今の若い人は、昔のボール式のマウスを知らないんじゃないでしょうか(トラックボールなら知ってる?)?
実はこのお話の前に、プリンターやコピー機が、連続して何枚もの紙を処理できるのは「紙送りセンサー」という「低画質カメラ」にある、という説明があって、カメラをセンサーに使う、という転用がまずアイデアの1つ(詳細は本書を)。
そしてさらに、「紙送りセンサー」と同じ原理をマウスに用いたのが、光学マウスという次第です。
それにしても、この光学マウスは、プリンターやコピー機の本体が動いているようなものですから、よく転用を思いついたな、と個人的には脱帽モノでした。
◆ちなみに、今の光学マウスは暦本さんのアイデアではありませんが、本書には、最初の「SmartSkin」以外にも、暦本さんが関与された興味深いアイデアや製品がいくつか登場します。
その1つが、下記の「カメレオンマウス」。
東大が開発、自分の分身を作る「カメレオンマスク」が海外で話題に - ロボスタ
記事内に「暦本研究室」とあるように、これは暦本さんのところの学生さんの「ちょっとしたアイデア」から生まれたものでした。
なお、実際に区役所に行って、仮面をつけた「代理人」が、仮面に映った人の住民票の写しを申請して、実際に取得できたのだそうです。
ただし、代理人役の人が仮面を取り外して自分の素顔を見せると、窓口の係員は「ええっ!」と動揺した。実験であることを説明してから聞いてみると、「画面の中にいる本人がディスプレイをかぶっていると思った」とのこと。人間の存在感は、顔や声に大きく左右されるということかもしれない。これなどは、まさに上記ポイントの5番目にあるような「キョトン」そのもの!
実際本書は、こうした事例を読むだけでも楽しめることウケアイだと思います。
アイデア本好きなら、一読の価値アリ!

妄想する頭 思考する手 (ノンフィクション単行本)
序 章 妄想とは何か
第1章 妄想から始まる
第2章 言語化は最強の思考ツールである
第3章 アイデアは「既知×既知」
第4章 試行錯誤は神との対話
第5章 ピボットが生む意外性
第6章 「人間拡張」という妄想
終 章 イノベーションの源泉を枯らさない社会へ
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はじめて『アイデア・ハンター』を使う人が知っておきたい6つのルール(2012年08月31日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
【新装版】一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書 (SPA!BOOKS)
旧版をレビュー済みである鈴木祐さんのダイエット本は、Kindle版が300円以上お得。
参考記事:【ダイエット】『一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』鈴木祐(2018年08月03日)

即興型ディベートの教科書 〜東大で培った瞬時に考えて伝えるテクニック (スーパー・ラーニング)
同じくレビュー済みのディベート本は、中古があまり値下がりしていないため、Kindle版が1000円超お買い得となっています!
参考記事:【知的生産】『即興型ディベートの教科書 〜東大で培った瞬時に考えて伝えるテクニック』加藤彰(2021年03月29日)
【編集後記2】
◆一昨日の「国際女性デー2022セール」のプレジデント社分の記事で人気が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。
出光佐三 人を動かす100の言葉

「目標」を「現実」に変えるたった3つのルール

もしアドラーが上司だったら
参考記事:【アドラー流?】『もしアドラーが上司だったら』小倉 広(2022年01月20日)

コーチング・アクロス・カルチャーズ 国籍、業種、価値観の違いを超えて結果を出すための7つの枠組み
ご覧のように、正直「国際女性デー」とは関係ない内容のセールの気がするので、あまり気にせずご検討ください!

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