2022年02月25日
【経営】『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』平井一夫
ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 (日本経済新聞出版)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、「冬のKindle本ポイントキャンペーン」でも人気を集めている1冊。低迷していたソニーの復活の立役者である、元CEO・平井一夫さんが自らとソニーについて語った作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
ソニー元経営トップによる初めての著書!
異端のキャリアから生まれた経営哲学を語る!
かつて世界にその名をとどろかせたソニーは、未曽有の危機に見舞われていた――。
2012年3月期、5000億円を超える大赤字の中でソニー社長の重責を引き受けた著者は、なにから手をつけ、復活を果たしたのか。
本書では、ソニー再生という難題に挑んだ「異端社長」の知られざる歩みを振り返る。
中古が値下がり気味ですが、送料を加味するとこちらのKindle版が400円以上お得となります!
CES 2011 - Sony / Tech.Co (formerly Tech Cocktail)
【ポイント】
■1.方向性を決め、その責任を取る「おまえに任せたからな」
丸山さんはそう言って、本当にSCEA(ソニー・コンピュータエンタテインメント アメリカ)の経営を私に任せてしまった。その度量の大きさを見せられると、誰だって期待に応えたいと思ってしまうものだ。丸山さんは私の心のスイッチを押したのだ。私はニューヨークの自宅を引き払い、フォスターシティへと移り住むことを決意した。
私はリーダーに必要な資質に「方向性を決めること。そして決めたことに責任を取ること」があると考えている。これはソニーの社長になってからも常に腹の中で持ち続けた信念である。まさにこの時、丸山さんに教えられたことだ。
仕事を丸投げにするわけではない。私もよく意見、いや異見を丸山さんにも求めた。時には「俺はそりゃ、違うと思うけどねぇ、平井さんよぉ」なんて言い方でアドバイスをくれるのだが、私が決めたことには一切、口出しをしなかった。
■2.リーダーは自らメッセージを伝えなければならない
経営者になると日々、様々な判断を迫られる。ほとんどルーティン化したような決裁もあれば、非常に厳しい判断、痛みを伴う決断を下さなければならないことも多い。
私の場合、大きく言えば、このSCEAを振り出しに、この後には東京のSCE本社、そしてソニーと3つのステージで「経営再建」という課題に取り組み、そのたびにいくつものつらい決断を下してきた。
SCEAの頃はまだまだ手探りだったが、この時の経験からも後々まで絶対に変えることがなかった経営者としての大原則がある。それは、難しい判断になればなるほど、特に心が痛むような判断であればそれだけ、経営者は自らメッセージを伝えなければならないということだ。リーダーはそういうシーンで、逃げてはならない。
■3.臨場感が危機感を生む
品企画やエンジニア、資材担当がコストダウンを議論する会議には私も自ら参加した。
「臨場感が危機感を生む」
これはターンアラウンドに挑むリーダーの鉄則だと思っている。ここで「コストカットをやれ」と命令だけで終わってしまってはダメなのだ。それでは「このままでは会社は潰れる」という危機感が現場には伝わらない。これは社長が本気で取り組もうとしていることなのだと、伝える必要があるのだ。
私はエンジニアではないし調達担当の経験もないので、正直に言えば会議中には分からないことが満載だ。いつもナゾな単語が飛び交うのだが、分からなければ分からないと正直に言えばいいのだ。ここで「俺は分からないから、後は任せた」では絶対に危機感は伝わらない。
■4.「異見」を求める
異見とは読んで字のごとく、異なる意見のことだ。どんなに優秀な人でも、あるビジネスのすべてを知り尽くすことなど不可能だ。たとえ何かの分野に精通している人でも、思いもしなかった新しい発想が、他の人の発言をヒントに浮かんでくるということは往々にしてあるのではないだろうか。
「異見を言ってくれるプロ」を探し出して自分の周囲に置くことは、リーダーとして不可欠な素養ではないかと思う。そのためには自分自身が周囲から「この人はちゃんと異見に耳を傾けてくれる」と思われるような信頼関係を築く必要がある。それと同時にリーダーが責任を取る覚悟があることを言葉に表して、また行動で示す必要がある。そうでなければ「異見」は集まらない。
■5.ソニーを去る決断を下す
実は、それに気づいたのが3度目のこの時だった。いつだったか、CEO室の皆さんたちと飲んでいる時にスタッフの一人にずばりと指摘された。
「平井さんって、クライシスになると自分で火の中に飛び込もうとするのに、平時になっちゃうと人に任せるのが好きなんですね」
グサッときたが、その通りかもしれないと思うようになった。思い返せば、危機モードの時にこそ、私は心の中に灯がともるタイプなのかもしれない。ターンアラウンドの時にこそ、力を発揮できるタイプなのだろう。
だが、成長モードに入った会社をドライブさせる仕事についてはどうだろうか──。それなりに経営していく自信もある。だが、私は自分の能力と性格を客観的に見ようとするタイプだ。私よりもずっと上手に組織を導ける人は、たくさんいるはずだ。実際、ソニーにはそういう優秀な人たちがそろっている。
ソニーの成長戦略を描き、それを実行するという次のステージの仕事を担うべきは、私ではない。そう考えるようになったのだ。
【感想】
◆今まで、メディアで名前を目にする程度の知識でしかなかった「平井一夫」さん、という方について、ご自身の口からとはいえ、かなり掘り下げた作品でした。そもそもタイトルにある「異端」というフレーズも、その再生手法というよりも、ソニーの経営陣における平井さんそのもの。
何せ入社したのもソニー本体ではなく、旧CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックレコーズ)だというのですから、それはトップとしてやることに対して、会社内部からあれこれ言われるのも不思議ではありません。
ちなみに、あのジョン・カビラさんとは、高校(アメリカンスクール)から大学(ICU)、CBS・ソニーまで一緒(年はカビラさんが2つ上)で、大学時代は一緒に学園祭でディスコを開いたりしていたのだとか。
また、CBS・ソニー時代は、外国部で外タレのアテンドをこなし、「アイ・ライク・ショパン」のヒットで知られるガゼボが、初アテンドのアーチストだったのだそうです。
……若い方にとっては「知らんがな」と言われそうですが、他にも、私自身は平井さんのちょっとだけ下の世代なので、子どもの頃に、ソニーの「スカイセンサー」が宝物だった、と聞いて「持ってた持ってた!」と懐かしく思ってみたりw
◆こういった経営とは全然関係ない話はさておき、そのCBS・ソニーで出会ったのが丸山茂雄さん。
丸山茂雄 - Wikipedia
丸山さんご自身は、音楽畑での功績が大きいものの、平井さんをニューヨークに送り込んだり、またプレイステーションの生みの親である久夛良木健さんを、敵の多かったソニーでかくまったり、とソニーや平井さんの人生において大きな役割を果たします。
そもそも平井さん自身もソニーにおけるプレステの開発には反対だったそうで、ゲーム自体にも興味がなかったとか。
それが初代プレステで、試しに「リッジレーサー」をプレイしたところ、そのゲーム体験に圧倒されます。
そしてそのプレステをアメリカでプレステを販売するSCEA(ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ)の会長を、丸山さんが兼任することとなり、平井さんもそれをサポート。
しかし、当時50代半ばの丸山さんにとっても、毎週日本とアメリカを往復するのは酷で、その後丸山さんに任された平井さんが、35歳にして社長を任された……というお話が上記ポイントの1番目になります。
◆ところがこのSCEAが、プレステという商品は良いものの会社としてはボロボロで、平井さんは立て直しに奔走することに。
中でも神経を使ったのがリストラ(平井さんは「卒業」と言われてます)なのですが、その「卒業宣告」を平井さんはご自身で相手に告げることを自分に課されてました。
その件に触れているのが上記ポイントの2番目。
その理由について平井さんいわく
理由は大きく言ってふたつある。第一に、やはり会社に貢献していただいた人に対する敬意を示すためだ。とのことです。
そして第二に、こんな気乗りしないつらい仕事を人任せにするようなリーダーに、人はついてこないと考えるからだ。
なお、後年ソニーの社長としてVAIOを切り捨てたのち、その発表後の厚木テクノロジーセンターの夏祭りで、「記念写真」に応じた一家が、VAIOのバッテリー開発者とその家族だった、という一件には「こたえた」そう。
それでも同じように、これまでの貢献に感謝しつつ、なぜそういう判断にいたったのか、その経緯をじかに説明した、というのはさすがだと思いました。
◆また、やはり平井さんの経営スタンスがあらわされているのが、上記ポイントの3番目にある現場に立ち会うこと。
これは製品価格が高くて、そっぽを向かれたプレステ3のコストカットの現場で平井さんが実践されていたことです。
技術的な工夫はさておき、3年で2万円も安くできたのは、ソニー開発陣の努力の結果でしょう。
ちなみに、重さも1.8キロ、本体の厚みも3割近く薄くできたのだとか。
同じく上記ポイントの4番目の「『異見を求める」も、平井さんの一貫した考え方で、実は本書内でも何度か登場しています。
この辺は「イエスマン」で周りを固めて、現状が見えなくなっている経営者も、ぜひ真似していただきたいのですが、できるくらいなら「イエスマン」を重用しないかと。
◆そんな平井さんも、ソニーの復活を成功させた後は、自ら奔走する必要もなくなり、過去の再生成功後と同様に、自分があれこれしなくてもいい「オートパイロット状態」になります。
そんな自分を、平井さんは「リーダー失格」と判断。
上記ポイントの5番目にあるように、経営から降りることを決めたのでした。
もちろんそれができるのも、優秀な後任を育てていたからにほかならず、その後任こそが現社長の吉田憲一郎さん(年齢は吉田さんの方が1つ上ですが)。
この辺のいきさつを含め、本書は「なぜソニーは再生できたのか」について、その最大の当事者である平井さんの口から語られているのが非常に良かったです。
ただ、グループとしての再生の一端を担ったであろうソニー銀行に触れられていないのが、ちょっと気になりましたが、それはまた別の作品で知ることができるかと。
これはビジネスパーソンとして読んで損のない1冊です!
ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 (日本経済新聞出版)
プロローグ 約束
第1章 異邦人
第2章 プレイステーションとの出会い
第3章「ソニーを潰す気か! 」
第4章 嵐の中で
第5章 痛みを伴う改革
第6章 新たな息吹
エピローグ 卒業
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【編集後記】
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当ブログでもレビュー済みの仕事術本は、中古が値崩れしていますが、送料を考えるとKindle版がお買い得。
参考記事:【仕事術】『「仕事ができるやつ」になる最短の道』安達裕哉(2015年08月01日)
超リテラシー大全
以前、未読本記事で取り上げている大全本は、Kindle版が600円以上お得な計算です!
ご声援ありがとうございました!
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