2022年01月20日
【アドラー流?】『もしアドラーが上司だったら』小倉 広
もしアドラーが上司だったら
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、今日が最終日となる「Kindle本 目標応援セール」における人気作。昨日のプレジデント社の「終了前日ランキング」で2位になっていたので、あわてて読み始めた次第です。
アマゾンの内容紹介から。
広告代理店で営業マンとして働く「ボク」は、仕事がうまく行かず、毎日モヤモヤしている。そんなボクの前に、アメリカの大学院でアドラー心理学を修めたドラさんが、上司の課長としてやってきた―。「働く理由」「仕事の楽しさ」を見つける、アドラー心理学の実践ストーリー!
送料を足した中古よりも、このKindle版が500円弱お買い得です!
Empathy Quotes feeling with the heart of another / praba_tuty
【ポイント】
■1.やらされ仕事なんかない「いいかい。ハヤト君、リョウ君。アドラー心理学では『やりたいけどできない』を人生の嘘と呼ぶんだ。それは単に『やりたくない』だけだ。『痩せたいけど食べたい』んじゃない。単に『食べたい』んだ。人間は一つだ。意識と無意識が葛藤することはない。これをアドラー心理学では『全体論』と呼ぶんだよ」
「キミたちが葛藤していた『山盛りの仕事はしたくない』けれど『今の仕事は続けたい』なんていうのは葛藤じゃないんだ。『やりたくないからやらない』『今の仕事を続けたいから山盛りの仕事も片付けたい』そのどちらかなんだ」(中略)
嫌ならばやらなければいい。やるのなら、自分で決めたことだ、決して誰からもやらされているわけじゃない。
そう思ったら、何だかエネルギーが湧いてきた。やらされていると思っていた辛かった仕事は全部、自分で決めていたことなんだ。嫌ならばやめればいいんだ。
そうか。「やめる、という選択肢」が常にあるんだな。自分で決めていいんだ。そうとわかると、不思議とやる気が湧いてきたのだ。
■2.「自己肯定」ではなく「自己受容」する
「『自己肯定』には理由が必要だ。そして多くの場合、その理由は『機能価値』から引っ張ってくる。売上ランキング上位という『機能価値』を発揮している。だから『自己肯定』する」
「つまり『自己肯定』とは条件付き肯定だ。だから売上ランキング上位から滑り落ちて条件がなくなってしまうと『自己肯定』ができなくなる。まさに『機能価値』と『存在価値』をごちゃ混ぜにしてしまう考え方、それが『自己肯定』という考え方だ」(中略)
「一方で『自己受容』に条件は不要だ。弱さや不足がある、不完全な自分をありのまま受け容れる。それが『自己受容』だ。『人間だもの。弱さもあるさ。できないこともあるさ。失敗もする。でも、そんな自分をそのまま抱きしめよう』そうやって、飾らず自分を受け容れる。それこそがつまり『存在価値』を認めるということにつながるんだ」
■3.相手を勇気づけると自分も勇気づけられる
「リョウ君。いいかい。このことをよぉく覚えておくといい。相手を勇気づける。すると、自分も勇気づけられるんだ。これはね、自分で自分を勇気づける以上に大きな勇気づけになるんだ」
「勇気とは困難を克服する活力だ。それはね『自分は相手に貢献でき、誰かの役に立つことができる。自分には価値があり、能力がある』そう思える状態だ」
「キミが誰かを勇気づけているとき。おそらく相手はこう思うだろう。『自分には能力があり、価値がある』。そして表情がパッと明るく輝くだろう。すると、それに連られてリョウ君、キミまでも表情が輝くだろう。なぜならばキミは『自分は相手の役に立っている』と強く実感できるからだ。相手を勇気づけたとき、その瞬間に、実はキミも勇気づけられているんだ。相手を勇気づけると自分も勇気づけられる。勇気は循環するんだよ」
■4.相手からの見返りを求めず、自分からやる
「アドラー心理学では『それは誰の課題か?』という問いを大切にするんだ。リカに代わってみんなのマグカップを洗うか、洗わないか? その結末を引き受けるのはキミ。だから、カップを洗うか洗わないかは、リョウ君の課題だ」
「でもね、リョウ君がしたことに対してリカやイチローやツヨシ君がどのように反応するか? キミに感謝するか、点数稼ぎだと非難するか。それを決め、結末を引き受けるのはキミではなく彼らだ。だから、それは彼らの課題なんだよ」
「カップを洗うか洗わないかはリョウ君の課題。それにどう反応するかは、彼らの課題。こんな風に『それは誰の課題か?』を明らかにして、自分の課題だけに集中する、他人の課題を解決しない。アドラー心理学ではそれを『課題の分離』と呼ぶんだ」
「他人の課題に踏み込むから対人関係がうまくいかない。そして、他人の課題を背負うから苦しくなる。できないことをやろうとするから苦しいんだ。キミはキミの課題だけを考えればいいんだよ!」
■5.部下を信じて任せる
ユウの部下たちはとても嬉しそうだった。それは、ねぎらいの言葉をかけてもらった喜びだけではない。おそらく彼らは、自分がチームに貢献していることが嬉しいのだ。野菜を切ってチームの誰かを喜ばせる。それが嬉しい。人は貢献することで「自分は人を喜ばせることができる、能力がある」「自分は人から必要とされている、居場所があり、自分には価値がある」と思えるようになる。(中略)
そうか、わかったぞ。だからユウはわざと作業をしないんだ。課長自身は作業をせずに部下を信じて任せる。いや、部下を頼る、と言ってもいいかもしれない。あえて部下が活躍する余地を残す。課長が部下の仕事を奪わないようにしているんだ。そして、活躍した部下を勇気づける。感謝して、ありがとうと言う。
そうか! これだ! これが「任せる」ということか。これが課長の仕事なのか!
ボクはバーベキューでのユウの振る舞いに「任せる技術」、勇気づけの神髄を見た思いがした。
【感想】
◆冒頭の内容紹介で概略に触れたように、主人公である僕・リョウが、アメリカ帰りの新任課長、通称ドラさん(本名登場せず)に、アドラー心理学の教えを学ぶ、という作品でした。古くは『夢をかなえるゾウ』等でおなじみの、「メンター&弟子」形式と言いますか。
物語形式である以上、会話文が多く、上記各ポイントでもややボリューミーになってしまった点はお許しを。
また、今まで何冊かアドラー心理学をテーマにした作品を読んだことがありましたが、ここまで実際のビジネスシーンに適応させたものは初めてでした。
この辺は著者の小倉広さんが、組織人事コンサルタントという肩書であることにも関係しているのではないでしょうか。
◆さて、本書は下記目次にもあるように、全12章にプロローグとエピローグを加えた14のパートを通じて、リョウが成長していきます。
各章ごとに大抵1つ以上の「教え」がある関係上、当ブログの形式的に割愛しまくりになるのは致し方ないのですが、たとえば上記ポイントの1番目は、いきなり飛んで第4章からのもの。
私たちはどうしても「いやいややっている仕事」があるものですが、ドラさんに言わせるとそれは「嘘」であり、やるかやらないかは、自分で決めたことである、と。
アドラー心理学の特徴的な考え方の一つに「自己決定性」というものがあります。問題の原因を他者や環境のせいにして自己正当化することをアドラー心理学では認めません。すべて自分が決めたこと。すべて自分が決められる。そのように考えるのです。つまり、山盛りの仕事がイヤなら辞めればいいし、辞めたくないのであれば、それは自ら望んで片づけよ、ということになるワケです。
同調圧力の強い日本では、なかなかなじみにくいロジックかもしれませんが、そう考えて吹っ切れるのであれば、それに越したことはありませぬ。
◆また、1つ飛んだ第6章から抜き出したのが、上記ポイントの2番目。
ここに出てくる「機能価値」「存在価値」という言葉はアドラー心理学の用語ではないものの、「機能価値」とは営利企業の論理である能力や実績による価値を意味し、「存在価値」とは営利は関係のない存在自体の価値を意味しています。
そして、比較的なじみのある「自己肯定」という考え方は、「機能価値」に依存しているため、まさに「条件付き肯定」である、と。
それに対して、「自己受容」は無条件で存在を肯定するものであり、「自己肯定」ではなく「自己受容」を目指せ、とドラさんは諭します。
……ただし、これはある種の「フラグ」になっており、後半のストーリー展開で「回収」されるんですけどね(ネタバレ自重)。
◆一方、リョウとドラさんだけでなく、本書の展開には他にもさまざまな登場人物が絡んできます。
なかでも重要な立ち回りをするのが、リョウの同期でありながら、すでにアドラー心理学をマスターしているユウ。
第7章から引用した上記ポイントの3番目でドラさんが指摘しているように、彼に励まされて、勇気づけられたと気づいたリョウは、自らも他人を勇気づける人になろうと誓います。
そして第8章では、見返りを求めずに、他人の役に立とうと給湯室の皆のカップを洗うのですが、やはり同期でライバルのツヨシから「得点稼ぎのエエカッコしい」と揶揄されることに。
心が折れて、カップを洗わなくなったリョウに、ドラさんが語っているのが、上記ポイントの4番目になります。
これは他人の反応に「支配」されず、自らの人生を生きよ、ということ。
それでも迷うリョウに、ドラさんは「誰かがやらねばならないけど、誰もやろうとしないことをやるのがリーダーだ」と説くのでした。
◆その後物語は展開し、リョウはドラさんに託されたように第2章では課長になります。
それは同期のユウも同じであり、そのユウの課長ぶりを描写しているのが、上記ポイントの5番目。
皆でバーベキューパーティを行った際、リョウは自らが率先して働いてしまいます。
課長であるリョウが熱心に働いてしまったため、部下たちも無言で作業をすることに。
それをまたもやドラさんに指摘されて、リョウは「課長」がどうあるべきかに気が付いたのでした。
……と、話がきれいにまとまったところで、さらに話が飛ぶのですが、そちらは本書にてご確認を。
アドラー心理学は一見冷たく感じる部分が多いのですが、本書ではそれをドラさんというなごみ系キャラで中和して、うまく物語に落とし込んでいると感じました。
アドラー心理学を実践するために読むべし!
もしアドラーが上司だったら
プロローグ ドラさん、皇居に現れる
第1章 自分を追い込んでも、やる気が続かないんです
第2章 失敗から目をそらすなんて、できません
第3章 カラ元気を出すのに疲れちゃいました……
第4章 やらなくちゃならない仕事が山積み
第5章 成績の悪い僕は劣っている。負けている
第6章 自分を追い込んで、やっとできるようになったんです
第7章 自分を勇気づける、次のステップとはなんだろう?
第8章 誰かを喜ばせようとしても、無視されたりバカにされるんです
第9章 自分の意見だけでなく、存在までも否定された……
第10章 目の前の人のため、が共同体感覚なんですか?
第11章 あなたを信じていたのに……
第12章 課長なのに、頑張らなくてもいいの?
エピローグ ドラさん、チャレンジを続ける
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す
当ブログでもレビュー済みのデザイン思考本は、Kindle版が400円弱お買い得。
参考記事:【デザイン思考?】『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』中野明(2017年08月21日)
生き恥ダイアリー
ユニークなエッセイでおなじみであるカレー沢薫さんのこちらの作品は、中古が値崩れしていますが、送料を加味するとKindle版に軍配が上がります!
ご声援ありがとうございました!
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