2021年11月03日
【生産性向上?】『サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事』梅本 哲
サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事投稿日に、実は一番お求めいただいている作品。サブタイトルに「人事」とありますが、人事部以外の方がお読みになっても得るところがある内容でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
本書では、ストレスチェックから得られたデータについて、どのように活用すれば企業の生産性が向上するのかを解き明かします。
その方法は、科学的なものであり、どの企業でも再現することができます。
人事担当者の経験やスキルに頼らなくても、科学的で適材適所な人材配置が可能になり、結果として企業の生産性向上につながります。
なお、中古が値下がりしていませんから、「20%OFF」のKindle版がお買い得です!
Stress can increase or decrease anxiety / Functional Neurogenesis
【ポイント】
■1.生産性の3つの要素生産性の要素は次の計算式から導きます。生産性 = 能力 × 時間 × パフォーマンス(中略)
この3つは掛け算ですので、どれか1つがゼロならば何も付加価値を生みだしません。まったく能力が及ばない仕事を無理に任せても何も生まれません。時間がゼロならいうまでもないでしょう。そしてパフォーマンスがゼロでも何も生まれません。
また、パフォーマンスはメンタルに大きく左右されることが分かっています。わが子がなんらかの災難に巻き込まれて安否が分からなくなったら、普通の人は仕事どころではなくなります。何件も連続して失注し、自信を失っているセールスパーソンに難しい案件の受注は期待できません。残業続きでうつ病の一歩手前になっている人は、そのままではほとんど戦力にならないので、すぐに休ませて、治療に専念させるべきです。このようにストレス等が原因でパフォーマンスが落ちている人は、生産性も極端に落ちることになります。
■2.ストレスの増強要因と緩和要因
仕事のストレス増強要因には、仕事量の多さ(量的負荷)、仕事の難しさ(質的負荷)、人間関係の難しさが含まれています。また緩和要因には、業務の決定権(裁量権)、業務の達成感、周囲(上司や部下)の支援があります。
増強要因によるストレスが強いからといって、そう簡単に仕事を減らしたり、人を増やしたりすることはできません。それでは、人を増やさず、仕事を減らさず、ストレスを減らすためにはどうすればよいでしょうか。その答えは緩和要因にあります。緩和要因が強ければ、結果としてストレスは小さくなります。
例えば、部下に業務を与えるときに、決定権や裁量権を与えること、すなわち仕事の進め方や仕事のペースをある程度本人に任せることで、やらされ感(主観的なストレス)がぐっと下がります。また、仕事を嫌々やらせるのではなく、目の前の仕事に興味がもてるように、意味や意義についてあらかじめよく理解させたうえで取り組ませることで、やりがいや達成感が得られ、その結果、ストレス感は減ります。
■3.「メンタルヘルス軸」と「人材育成軸」の2軸で4象限に分類する
まずメンタルヘルス対策の軸については、事後と予防の方向性が考えられます。また人材育成については、配慮と成長の方向性が考えられます。これらを組み合わせたマトリクス表を作ると、予防成長型、予防配慮型、事後成長型、事後配慮型の4つの象限ができます。(中略)
予防成長型の職場では、メンタルの事例が発生する前に、ストレスを成長の糧として前向きにとらえられる人材を育成できる職場です。このような職場では、個人の成長と職場の生産性向上が両立されます。
事後配慮型の職場では、職場で起こってしまったメンタルの事例に対して、勤務時間や業務内容に配慮してストレスを軽減することで、従業員の再適応を促進します。
事後成長型の職場では、職場で発生してしまったメンタルの事例の振り返りをすることで、次に発生したときに適切な対処ができる人材を育成します。
予防配慮型の職場では、職場でメンタルの事例が発生する前に、適切な労務管理や本人の能力・特性に合わせた仕事のアサインなどを工夫して、とにかくメンタルヘルスの問題発生の予防に努めます。
(詳細は本書を)
■4.ハイパフォーマーを積極的に戦略的な仕事に配置する
ビジネス適応力を判定した結果、誰がハイパフォーマーか分かれば適材適所の配置が可能となり、それだけで会社全体の生産性が高まります。
最も効果が高いのは、戦略的なプロジェクトにハイパフォーマーを配置することです。戦略的プロジェクトはやり遂げたときの達成感も高いですが、それゆえに数々の課題や困難を解決する必要があります。特に今のような変化の激しい時代においては、今までの経験だけでは解決できない課題が次々と出てきます。また戦略的プロジェクトには多くの関係者が関わることが普通で、人間関係のストレスも非常に大きくなります。このようなプロジェクトを推進していくには、高いビジネス適応力をもったハイパフォーマーが必要です。一方、ビジネス適応力の低いローパフォーマーではストレスに負けてしまい、能力を発揮することは難しいでしょう。しかし、ストレスがゼロでは成長につながりません。ローパフォーマーには大きな目標をもたせつつ、スモールステップ(Big picture, Small win)で成長評価を行うことで、徐々にビジネス適応力を引き上げていくことが求められます。
■5.ハイパフォーマーを育成する3つの方法
1つ目は、ハイパフォーマーには努力しないと届かない目標、すなわちストレッチゴールを与えることです。全社員にストレッチゴールを与えることを推奨する人もいます。そうだとしてもハイパフォーマーとアベレージパフォーマーではストレッチの大きさを変えないと意味がありません。(中略)
2つ目は、比較対象を変えることです。アベレージパフォーマーと比較する機会ばかり与えていれば目線が下がります。まずは1年前の自分と比較させる習慣を身につけさせることです。そして社内のほかのハイパフォーマーや社外の同世代のハイパフォーマーに目を向けさせるようにすることです。(中略)
3つ目は、圧倒的なライバルの姿を見せつけることです。30代前半までに海外企業との共同プロジェクトに参加した経験のある社員には、決断力、リーダーシップ、洞察力などの面において年齢不相応な成長が顕著に見られることが分かっています。
【感想】
◆従来の生産性のお話とは、ひと味違う内容の作品でした。まず第1章から抜き出した、上記ポイントの1番目の生産性の要素のお話。
最初の2つである「能力」と「時間」についてはおなじみですけど、最後の「パフォーマンス」については、従来あまり言及されてこなかったと思います。
とはいえ、メンタルの状況によってパフォーマンスが左右されることは、以前ご紹介したこの本でも触れられていましたし、確かに悩みごとがあったら、普通は仕事どころではないでしょう。
いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
参考記事:【オススメ!】『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』センディル・ムッライナタン,エルダー・シャフィール(2015年03月01日)
ところが「能力」を高める研修なら、新人研修に始まり、その後も一定の社員研修が行われていますが、「パフォーマンス」は、測定する術がなかったため、研修の仕様がなかったわけです。
◆そこで本書が注目したのが「ストレス」。
著者の梅本さんが代表取締役を務める、株式会社医療産業研究所会社はストレスチェックの開発と運用に携わっているだけに、その測定はお手の物です。
第3章では、そのストレスチェックの内容についての言及が。
ストレスチェックの質問には、大きく分けて「(1)仕事のストレス要因」「(2)個人のストレス対処能力」「(3)心身のストレス反応」の3つがあり、上記ポイントの2番目にあるストレスの増強要因と緩和要因のお話は、「(1)仕事のストレス要因」からになります。
なるほど、ストレスの増強要因が強い場合には、緩和要因を工夫すれば良い、と。
このように、緩和要因を上手にマネジメントに組み込むことで、部下や職場のストレスをコントロールすることができます。同じような量で、同じような難しさの仕事をしていながら、職場の活気が違う場合には、緩和要因によってストレスを上手にマネジメントしていることが考えられます。ちなみに「仕事のストレス要因の種類と強さが同じでありながら、職場の活気に違いが出る場合」は、(2)の「個人のストレス対処能力」の違いが影響していることがよくあるのだそうです(詳細は本書を)。
◆さらに、このストレスチェックを行い、「仕事のストレス要因」と「個人のストレス対処能力」が明らかになると、会社や職場の状態を改善することが可能に。
上記ポイントの3番目の「メンタルヘルス軸」と「人材育成軸」の2軸で4象限に切るお話は、本書だともちろん図解されているのですが、何もないと少々分かりにくいですよね(すいません)。
そこでExcelでちゃちゃっと作ったのがこちら。
なお、日本の職場で最も多いのが、左下の「事後配慮型」の職場なのだそう。
要は、この左下から、右上の「予防成長型」を目指すことで、パフォーマンス向上、ひいては生産性の向上につながるわけです。
◆続く第4章では、この結果をもとにした人材配置について。
理論上は、上記ポイントの4番目にあるように、「ハイパフォーマーを積極的に戦略的な仕事に配置する」のが正解になります。
ただし「ビジネス適応力が高いハイパフォーマー・リーダーのチームには活気があり、逆は活気がないことが分かっている」としても、年功序列やら何やらを無視して、人材を抜擢するのが難しいのは、皆さまご存じのところかと。
実はこの4章では、海外と比較した日本の社内教育(育成)の問題点がイヤというほど出てきて、耳イタイことこの上ありません。
実際私も、会社にいた頃の研修と言ったら、「同期で同じもの」が粛々と行われていた記憶が。
さらには昇進で差がつくのも、ある程度の年齢になってから、というのが日本の会社のお約束です。
そもそも採用の時点から、給料に差をつけるなんてのも、ごく最近になってからのお話ですし、それもプログラマー等、極めて職種を限ってでのことかと。
◆そこで今からでも変えられること、として列挙されていたのが、上記ポイントの5番目です。
これらは、もちろん育成制度のお話なのですが、自分自身の個人目標として掲げることも可能ではないでしょうか。
特に1つ目の「目標」に関しては、いわゆる「ムーンショット」と呼ばれるような、遠大な目標を掲げるのが吉。
また3番目の「ライバルの姿」も、ほかの業界の若手ハイパフォーマーを呼んで講演してもらうと、聴講したハイパフォーマーに大きなインパクトを与えることができるのだそうです。
なお、逆にローパフォーマーを引き上げる手法についても言及されていますから、イマイチな部下がいる方も要チェックで。
パフォーマンスの向上により、生産性を上げたい方なら、一読の価値ある1冊!
サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事
第1章 勘や経験に基づいた“非科学的な人事"がもたらす生産性の低下
第2章 人事担当の能力に左右されない“科学的"な人事とは──
第3章 人事を科学する──ストレス値をもとに社員の能力を分析せよ
第4章 人事を科学する──ストレス評価による人材配置が生産性向上をもたらす
第5章 サイエンスドリブン──属人的人事から脱し、科学的人事で会社を成長に導け
【関連記事】
【オススメ!】『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』センディル・ムッライナタン,エルダー・シャフィール(2015年03月01日)【超生産性?】『反常識の生産性向上マネジメント』小林裕亨(2019年10月17日)
【生産性?】『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』熊野英生(2019年01月21日)
【生産性向上?】『チームの生産性をあげる。―――業務改善士が教える68の具体策』沢渡あまね(2017年07月20日)
【生産性】『仕事の「生産性」はドイツ人に学べ 「効率」が上がる、「休日」が増える』隅田 貫(2017年12月08日)
【編集後記】
◆昨日の11月分の「Kindle月替わりセール」の記事で人気の高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。英語類義語活用辞典 (ちくま学芸文庫)
世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた
参考記事:【名著満載!】『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』永井孝尚(2019年04月25日)
Process Visionary――デジタル時代のプロセス変革リーダー
憲法で読むアメリカ史(全) (ちくま学芸文庫)
よろしければご参考まで!
ご声援ありがとうございました!
この記事のカテゴリー:「ビジネススキル」へ
この記事のカテゴリー:「企業経営」へ
「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
スポンサーリンク
当ブログの一番人気!
1月23日まで
Kindle月替わりセール
年間売上ランキング
月別アーカイブ
最近のオススメ
最近の記事
このブログはリンクフリーです