2021年10月29日
【学び?】『知ってるつもり 「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方』西林克彦
知ってるつもり 「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方 (光文社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて、一番人気だった思考術本。当ブログでは以前、勉強本をレビューしたことのある、西林克彦さんの最新作です。
アマゾンの内容紹介から。
世の中には「知ってるつもり」があふれている。「知ってるつもり」はなぜまずいのか? 認知科学・認知心理学の知見によると、我々は手持ちの知識を使うことでしか対象を見ることができない。システム化されていない断片的な“知識”だけでは、きちんとした疑問や推測が起きないのだ――ロングセラー『わかったつもり』刊行から16年。今最も求められる「問題発見力」を身につけるための方法を解説。
なお、中古が定価の2倍以上の高値となっているので、値引きはなくともKindle版を検討する価値はあるかと。
Knowledge / EpicTop10.com
【ポイント】
■1.知識は問題解決に使えればいいから「知ってるつもり」になりやすいミシンを使うのにその縫うメカニズムはまず考慮されないでしょう。布をカットするのに構造や工夫を気にすることなくハサミを使うでしょう。右利き用の「通常のハサミ」を左手で使うとうまくカットできませんが、なぜそうなのか気にすることなく使っています。頭の中の地図が相当にいい加減でも、日常生活の中で取り立てて問題になるほど違っていなければいいのです。交差点は直角と意識されやすいですし、緩やかなカーブは無視されるのが普通です。目的地にたどり着ける程度のラフさで十分なのです。
われわれは日常生活で問題を次々とスムーズに解決したいわけで、その志向の中で知識は問題を起こさない限り、問い直されることなく使われます。「知ってるつもり」になりやすいのはこういう理由からなのです。
■2.フェライト磁石の鉄のカバーの秘密
安いフェライト磁石には、鉄の入れ物というかカバーがついていませんが、少し値段の高いフェライト磁石は鉄の入れ物に入って、カバーされているはずです。そして、2種類あれば、そのくっつく強さを比較してみて下さい。できればカバーありのフェライト磁石を、カバーから取り出す前と後を比較するのがよいかと思います。カバーのある方が圧倒的に強くくっつきます。(中略)
フェライト磁石のカバーに多くの人は気づいていません。少数の気づいていた人も、保護用のアルミだと思っていることが多いのです。しかしこれは、鉄のカバーによって磁場のありさまを変化させ、ホワイトボードに強力にくっつけるための工夫なのです。
余計なことを言うと、フェライト磁石の面ではなく、逆の鉄のカバーの面をホワイトボードにくっつけてみて下さい。まずくっつかないと思いますが、くっついても弱いです。それは磁力線が鉄を通って反対の面に行ってしまっているからです。
■3.孤立した知識もシステム化できる
たとえば、歴史の分野を取り上げて見ましょう。厩戸皇子が冠位十二階や十七条憲法を制定したと知ったとしましょう。これだけでは孤立した知識です。せいぜい「厩戸皇子は人材登用や国の形を考えた素晴らしい人だ」くらいのことで終わりかねません。
そこで「その前はどうなっていたのか」と考えることを勧めたいと思います。調べればすぐに「氏姓制度」が出てきます。そして、以前の制度の何が不都合で冠位十二階を制定したのかという問題になるでしょう。氏姓制度を調べそれらが大王による豪族の緩やかな支配とか各種職能集団の固定といったものであることを知れば、冠位十二階が大王のもとの官僚機構の整備を目指したものであることが了解できるでしょうし、「憲法」が現在のようなものではなく、むしろ官僚の服務規範的側面を多く持つのも不思議ではなくなるでしょう。
これらの作業は、それ以前の同種のものを探し、それぞれの「個別特性」をはっきりさせているのです。そして、この作業は「支配の仕方」という「共通性」を前提としていることは言うまでもありません。
■4.「共通性」に基づいたシステムの強さ
百数十人に三角関数のそれほど難しくない応用問題の予備調査をし、よくできた人から4人、あまりできないけれどちょっとだけできる人から4人を選んで、彼らに事細かな面接をしました。(中略)
さて、そのできるグループと成績の良くないグループの何を見たかったかと言うと、彼らの受験勉強のやり方に違いがあるかどうかということでした。その違いはまったく歴然としたものでした。
予備調査で成績の良くなかった人たちは、三角関数を学習するのに、それらの公式を全部丸暗記したというのです。そして、この時期の予備調査で、言葉は悪いですが、馬脚を現してきているのです。
一方、成績の良かった人たちは、丸暗記はしなかったと言います。(中略)
成績の良かった人たちは、中心の加法定理だけを憶えて他の公式はそこから導出できるように学習したと報告し、実際に1年後期の段階でもそれができることを面接で示しました。中の1人は中心の加法定理そのものも作ることができたくらいです。
■5.単純化で不整合を洗い出す
ここで注意しておいて欲しいのは、単純化と不整合についてです。単純化して規則を作るとそれに沿わない不整合も起きてきます。単純化は複雑なものに較べてより存在しにくく、したがって、原理的に単純化は不整合を起こしやすいのです。その不整合をただの不整合と見なして、単純にはいかないのだといったりしますが、この「仙台−宮古の降水量の不整合」に見られるように不整合の中に綺麗に合理的な筋が通ることも少なくないのです。単純にはいかない、と最初から投げるのではなく、単純化で積極的に不整合を洗い出し、そこでより精緻な知識システムを構築していくことも可能ですし、システム構築の有力な手段なのです。
【感想】
◆最初に申し上げておきたいのですが、本書は上記ポイントの1番目や5番目のような、ある種の「まとめ部分」は、本当は多くありません。どちらかというと、上記ポイントの2番目のフェライト磁石のような具体的な事例が中心。
しかもその対象も、他には、飛行機雲から海岸線、消化器官、クジラの潮吹き、ウミガメの産卵、コケと水草、イモを作る植物の範囲、順列と組み合わせ、日食・月食、etc...と多彩です。
上記の対象を聞いて、それぞれ「知ってる?」と問われたら、普通の方なら「はいはい、知ってる」となると思いますが、それこそが上記ポイントの1番目で言うところの「知ってるつもり」。
これは第1章から引用したのですが、その問題が解決される(目的が果たされる)のであれば、深くは知らなくても良いワケです。
◆たとえば第2章から抜き出した、上記ポイントの2番目に登場するフェライト磁石。
正式な名前は知らなくても、ホワイドボード等にくっついて、書類を留めたりしているこの磁石を見たことがあると思います。
この磁石は「くっつく」という目的を果たしていれば、それ以上は深く考えていないかと。
ところが、この製品のようにカバーがあると「圧倒的に強くくっつく」(カバーがない場合のおよそ倍の力で)とのこと。
アマゾンの商品の説明にも
キャップ付のため、磁力が片面に集中し吸着力が増します。とあるのですが、本書を読んでいなかったら、その意味が理解できなかったと思います。
なぜ強くくっつくのかというと、キャップ(鉄のカバー)を通じて、背面側の磁力が、吸着面に伝わるから。
本書では分かりやすく図解化されているのですが、図は引用できないので、他のサイトの図を貼っておきます。
63-1531-86 ネオジウムマグネットヨーク付 丸 サイズ5mm NMG-023 【AXEL】 アズワン
◆比較的分かりやすい(と私は感じました)フェライト磁石のお話でさえ、説明するのにこれだけボリュームが必要でしたから、ぶっちゃけ他のお話を紹介するのは、読んでいる時点であきらめていました。
そこで上記で述べたように、その結論的な部分を断片的にご紹介している次第。
上記ポイントの3番目の「冠位十二階」は、第3章からのものですが、具体例を挙げながらも、比較的シンプルにまとまっている方だと思います。
ただしこの章で中心となっているのは、具体的にはさまざまな植物のお話で、本書でいうところの「共通性」とは「光合成」を行うところ。
それらが「海中」だったり「陸上」だったりすることで、浮力や塩分濃度(海中)、重力や乾燥(陸上)といった条件が異なってきます。
その結果、海中の海藻には「浮袋」があったり、陸上の植物には「根、茎、葉」といった「個別特性」が生じている……というお話を踏まえた上で、「孤立した知識もシステム化できる」例が、上記ポイントの3番目ということ。
少々分かりにくいかもしれませんが、この辺は章全体を通して読んでいただけると、腑に落ちると思います。
◆続く第4章では、こうした諸問題を前提とした上での「教育」がテーマ。
ここにある三角関数のお話を読んで、私は脳ネタ本で知られる池谷裕二先生が、「九九を『ニ二が四、二三が六、二四が八』までしか覚えていない」という逸話を思い出しました。
池谷先生はその代わりに、全ての数字を「10倍すること」「倍にすること」「半分にすること」の3つの方法だけ頭に入っているそうで、たとえば「23×16」であれば
=23×(10+6)と暗算するとのこと(『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』より)。
=23×(10+10÷2+1)
=23×10+23×10÷2+23
=230+115+23
=368
池谷先生の例は極端であるにせよ、このように「基本となる定理だけ覚えて、他はその応用」というやり方は、強く記憶には残るようです。
ちなみに、この第4章では、中学受験ではおなじみの「四角形の面積の求め方」が多々出てきますので、小学校4〜5年生のお子さんがいらっしゃる方は、ご参考になさってください。
◆なお最後の第5章では、これまでの章を踏まえて、改めて知識システムを構築する上での留意点を確認しています。
具体例として、上記でも触れた、日食・月食や日本海側と太平洋側の気候の違い等々。
思えばこうしたテーマは、中学受験でまさに問われていた内容でした、
……すいません、我が家では理科と社会はヨメに任せきりだったので、ピンときませんでしたが、本書は全体を通じて中学受験をなさるご家庭なら、読んでおくと良さげかも。
特に地名と気温や雨量の表を見ながら、その違いを考える、なんて辺りは、数年前にムスコの中学受験の際の過去問で目にしたものでした。
こうした例を踏まえた上で、上記ポイントの5番目のような結論に至るわけですので、やはり前提となる各種具体例から、ぜひご確認いただきたいところです。
「知ってるつもり」を本当に「知ってる」にするために読むべし!
知ってるつもり 「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方 (光文社新書)
第1章 「知ってるつもり」をなぜ問題にするのか
第2章 「共通性」と「個別特性」によるものごとの捉え方
第3章 孤立した知識への対応
第4章 知識システムと教育
第5章 知識システム構築に関する留意点
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【編集後記】
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