2021年09月09日
【考え方】『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』佐渡島庸平

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でもベスト3に入る人気だった1冊。かつては講談社の名物編集者として知られ、現在は株式会社コルク代表取締役社長である佐渡島庸平さんの思考術本です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
データや論理的思考だけではクリエイティビティは上がらない。
だが、センスや直感・感性はどうやって磨けばいいか、わからない。
そこで注目すべき力が、観察力だ。
多くの人の感情を動かす作品も、大衆に愛される商品も、すべては「観察する力」から生まれているーー。
「宇宙兄弟」「ドラゴン桜」「マチネの終わりに」を仕掛け、新人マンガ家の育成に携わる著者が、その頭の中をすべてさらけ出したビジネス・クリエイティブで最重要となる画期的思考。
中古価格が定価を上回っていますから、値引きはないとはいえKindle版もご検討ください!

Observation / quinn.anya
【ポイント】
■1.「観察」とは何かについての暫定解僕はこの本の執筆も兼ねて、2年近く、観察とは何かを考え続けていた。
そして、今、観察に対する僕なりの仮説が見つかった。
まず先に、僕がたどり着いている暫定解を共有する。いい観察は、ある主体が、物事に対して仮説をもちながら、客観的に物事を観て、仮説とその物事の状態のズレに気づき、仮説の更新を促す。観察は、問いと仮説の無限ループを生み出すもので、その無限ループ自体が楽しいものであるため、マンガをはじめとする様々な創作の源になりえる。
一方、悪い観察は、仮説と物事の状態に差がないと感じ、わかった状態になり、仮説の更新が止まる。
「観測」は、観測自体が目的になるが、「観察」は自分で見つけてしまったがゆえに解きたくなる「問い」とセットでモチベーションになりえるのだ。
■2.見たものを言葉に落とし込む
多くの人は、見たいという欲望をもつ。雑誌の袋とじは、なぜか中身を見たくなる。でもそれを買って、家でじっくり見る人はほとんどいない。少し見るだけで、もう「知っている」「わかっている」とそれ以上の欲望をもつことをやめてしまうのだ。
そのような「見ているようで見ていない」から脱却し、観察力を上げるための第一歩。それは、まず「言葉にしてみる」こと。見ているものを言葉に置き換えることで、仮説が思い浮かびやすくなるだろう。
頭に浮かぶ漠然とした印象という「抽象」的なものを、言葉という「具体」に一度、落とし込もう。そして、その具体の集合から、作者の意図などの「抽象」を推測する。こうした「抽象→具体→抽象」の作業を繰り返すことで、観察の質は上がる。言葉を使うことで、自分の観察のいい加減さを自覚できる。自覚すると、人は次の一手を打つことができる。
■3.「確証バイアス」で思い込みを利用する
たとえば、「宇宙」に興味をもつようになると、書店でもネットでも、それに関連する情報ばかりが目につくことになるように。実際には、書店やネット上に宇宙の情報が急に増えたわけではない。自らの関心がそこに集中しただけだ。
僕が小山宙哉と『宇宙兄弟』の連載を考え始めた2008年頃は、一般の人たちの宇宙への関心は今ほど高くなかった。宇宙は、限られた特別な人たちだけの遠いものだと思われていたし、宇宙産業や有人宇宙開発なんてもう終わりだ、といったネガティブな情報もたくさんあった。
しかし、僕は宇宙産業が日本でも一般的になり、多くの人が興味をもつようになることに賭けた。すると、自然とそれを後押ししてくれる情報が目に入るようになり、絶対に大丈夫だ、と確信をもちながら、宇宙をテーマにした作品をつくることを提案した。
確証バイアスと聞くと、一見悪いもののように思えるかもしれない。だが、必ずしもそうではない。むしろ僕は、確証バイアスが人一倍強かったためにヒット作を生み出せたのだ。
■4.感情とは、今何に注意を向けているかを自覚するツール
たとえば、あなたが「怒り」を感じているとする。
そんなときは、自分の大切なものへの攻撃に注目している状態と言える。
バイアスのときも、問いの力を使って、バイアスを武器に変えた。同じことが感情でも有効だ。怒りを感じているときに、自分にこう問うてみる。
「自分は何を大切と思っているのだろう」
すると、自分で無意識に大切にしていたことに気づけるかもしれない。
また、暴力や言葉ではない何かを攻撃と解釈して、怒りを感じる場合もある。
ここで「自分は何を攻撃と受け取ったのだろう」と問うと、自分が他者の言動の何に反応しているかに気づける。ここで感情に支配された状態のままだと、攻撃を仕返したりして、相手を変えようとしてしまう。自分に矢印を向けられれば、自分の中で注目しているところを変えることができる。怒りを感じたときに、自分が変えられるものだけ考えるほうがずっと健全だ。
■5.あいまいな状態になって、世の中を観察する
人は、わかりたい。本当の正解などないとしても、正解の側に立ちたい。あいまいさから抜け出したい。バイアスにしても、感情にしても、意思決定を無意識で行うようにする行為だ。できるだけ無意識で動きたいというのが人の本能なのだ。本能は、人が無意識の自動操縦で生きられるように導いてくる。
観察とは、それらの無意識で行っている行為を、すべて意識下にあげること。
つまり観察とは、本能に抗おうとする行為だ。
既知のことを観察して、手放していくと、あいまいな世界になる。正解などない世界になる。あいまいな世界は、不安だ。その状態で居続けるのは勇気がいる。しかし、あいまいな状態になって、世の中を観察する。自分の感情を観察する。そして、自分の感情に従う。それが、僕の目指している生き方で、世界をあいまいなまま味わうことにどうやったら慣れるのか、ということを考えている。
【感想】
◆本書のタイトルにある「観察力」の「観察」。私は漠然と、子どもの頃、理科の時間に昆虫を虫眼鏡で覗いた際の「観察」程度の考えでいました。
ところが、著者の佐渡島さんによると、そんな単純な話ではない模様。
第1章から抜き出した、上記ポイントの1番目によると、「この本の執筆も兼ねて、2年近く、観察とは何かを考え続けていた」のだそうです。
そしてたどり着いたのが、上記で引用した暫定解であり、「問い」と「仮説」がループになっているとのこと。
◆このループには具体的なアクションが5つあり、続く第2章ではそれが解説されています。
列挙すると以下のとおり。
1.まずは愚直なディスクリプションそれぞれが結構深くて、ハイライトも引きまくっているのですが、上記ポイントの2番目は、このうち最初の「まずは愚直なディスクリプション」から抜き出してみました。
2.外部の「評価」を参照軸にする
3.記憶は信用せず、データに当たる
4.徹底的に真似る 型に気づく
5.自分だけのモノサシを育む
ここにある「『抽象→具体→抽象』の作業を繰り返す」というのは、細谷 功さんの一連の本でもおなじみでしたね。
たとえばこんなのとか。

「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問 (PHPビジネス新書)
参考記事:【具体⇔抽象】『「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』細谷 功(2020年03月26日)
◆一方、佐渡島さんによると、こうした「観察」を歪ませるものの1つが「認知バイアス」とのこと。
そこで本書の第3章では、「観察」という視点から見た「認知バイアス」について解説がなされています。
具体的には「確証バイアス」「ネガティビティバイアス」「同調バイアス」「ハロー効果」「生存者バイアス」「根本的な帰属の誤り」「後知恵バイアス」「正常性バイアス」等々。
この辺は、行動経済学本を多数ご紹介してきた当ブログの読者さんなら、ひととおりご存知だと思います。
とはいえ、必ずしもこうした「認知バイアス」が悪いモノでもない、という点に触れているのが、上記ポイントの3番目であり、なるほどこういった形で活用できるなら「確証バイアス」も悪くはないでしょう。
……もっとも逆に、この「確証バイアス」によって、マンガの形式が従来の「見開き・モノクロ」から、韓国発の「縦スクロール・オールカラー」のフォーマットになかなか移れなかったそうなのですが(詳細は本書を)。
◆また、第4章の「見えないものまで観察する」で興味深かったのが、「感情」というファクターでした。
何でもハーバード大学の意思決定センターによると、「感情」とは12に分けられており、それらは、勝手に自分のところにやってくるのではなく、自ら選んでいるとのこと。
ちなみにネガティブな感情が、「怒り」「イライラ」「悲しみ」「恥」「罪」「不安(恐怖)」の6つであり、ポジティブな感情が「幸せ」「誇り」「安心」「感謝」「希望」「驚き」の6つ。
そして上記ポイントの4番目にあるように、これらは「自分が今、何に注意を向けているかを自覚するツール」となります。
ここでは「怒り」について述べられていますが、他にもたとえば「不安」であれば、「自分ではとらえきれない、わからないもの」に対して注意が向いている状態ですから、「わからないものが何か」をはっきりさせれば不安は消えるのだそう。
◆なお、最後の第5章では、今までよりややレイヤーが上がって(?)、「あいまい」さが推奨されています。
「観察」すること自体、そもそも「あいまい」なことを「ハッキリ」させるような行動だと思うのですが、意識的に「あいまい」になれ、と言われて戸惑うワタクシ。
上記ポイントの5番目にあるように、佐渡島さんは
あいまいな状態になって、世の中を観察する。自分の感情を観察する。そして、自分の感情に従うことを目指しているのだそうです。
さらにこの章では、「あいまい」を2軸4象限で分析されているのですが、図がないとますます分かりにくそうなので、ここでは割愛。
私自身の読解力の限界もあって、1回読んだだけでは、ストーンとは腑に落ちなかったのですが、ここは非常に気になったので、後で熟読して取り込みたいと思っています。
クリエイターでなくとも読んでおきたい1冊!

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか (SB新書)
第1章 観察力とは何か? 観察をめぐる旅への誘い
第2章「仮説」を起点に観察サイクルを回せ 5つの具体的アクション
第3章 観察は、いかに歪むか (認知バイアス)
第4章 見えないものまで観察する (感情類型と関係性)
第5章 あいまいのすすめ (正解を手放し 判断を保留する)
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【編集後記】
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◆一昨日の「Kindle本 ビジネス書キャンペーン」のプレジデント社分の記事で人気が高かったのは、こういった作品でした(順不同)。
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